10 欠けた短剣
「やっぱりレイン君でした」
リリアはほっとしたように笑った。レインは少し意外に思いながら、「買い物ですか?」と尋ねる。
「いえ、修理をお願いしていて」
そう言いながら、リリアは腰に下げていた短い杖を取り出した。先端には淡い青色の魔石が埋め込まれていたが、細かな傷がいくつも走っており、木製の柄にも使い込まれた跡が残っている。
「最近、少し魔力の通りが悪くて……。教会のお手伝いでも使うことがありますし、このままだと困るんです」
「教会の手伝い?」
「はい。掃除をしたり、洗濯をしたり、薬の準備をしたり……。大したことじゃないですよ」
そう言って微笑むリリアだったが、レインは手入れを繰り返された杖を見つめた。新品を買える余裕があるなら、わざわざ修理など頼まないはずだ。教会に所属しているとはいえ、リリア自身は決して裕福ではないのだろう。その事実に、レインは少しだけ親近感を覚えた。
「レイン君は?」
「ああ、俺は短剣を見に来ました」
鞘から短剣を抜いて見せると、リリアは目を丸くした。
「かなり使ってますね……」
刃には細かな欠けがあり、何度も研がれたことで幅もわずかに細くなっている。
「これ危なくないですか?」
「危ないですよ」
淡々と返すと、リリアは眉を寄せた。
「なら買い替えた方が……」
「金が無いんです」
短く答えると、場が少し重くなる。それでもリリアはそれを馬鹿にすることなく、むしろ申し訳なさそうに謝った。
「すみません」
「なんで謝るんですか」
レインは短剣を鞘に戻しながら返す。その直後、武器屋から冒険者たちの声が響いた。
「またネズミ連れだ」
「テイマーは後ろで隠れてるだけだろ」
レインは慣れているため反応しなかった。だが隣のリリアは青い瞳を曇らせる。
「失礼な人たちですね」
小さく呟く声に、レインは軽く返した。
「気にしなくていいですよ」
それでも、リリアは納得できない様子だった。やがてリリアが口を開いた。
「私は必要だと思います」
「え?」
「武器です」
真剣な表情で続ける。
「薬草採取の時、自分で戦ってましたよね」
「だったら必要です」
その言葉に慰めではない本心があることを、レインは感じ取った。視線を逸らして照れ臭さを隠すと、リリアは嬉しそうに笑った。だがその直後、「ぐぅぅ」という音が響いた。リリアは一気に顔を赤くしながら慌てて否定しようとし、レインは堪えきれず吹き出しかける。チビが「キュッ」と鳴いたことでさらに場の空気が緩み、レインは久しぶりに自然な笑いを漏らした。リリアといると不思議と肩の力が抜けることに、改めて気付いていた。




