第3話 仲間
カイとマナは、魔導書そのものが魔王を倒しうる鍵であると推測した。
そして、ヨボヨボのおじいさんとなったアルトを献身的に介護し、なんとか魔王のもとへと連れて行こうと協力しあった。
道中はカイがアルトをおぶった。
「寝てていいぞ。オレが連れて行ってやる」
「おおっ、あそこに川が見える。誰かが手を振っているような……」
「じゃ、そっちの道は駄目だな」
食事を取るときは、マナが食材をやわらかく食べやすいように調理してくれた。
「熱くないですよ。ゆっくり、よく噛んで食べてくださいね」
「うっ!」
口を押さえるアルトに、血の気が引くマナ。
「アルトさま! しっかり! 吐き出してください!」
「これ、苦いんじゃが……」
アルトはスープに入っていた野菜を吐き出す。
「……ビックリしました。詰まらせたのかと」
マナはほっとした。
「体にいい野菜ですよ。元気になりますから」
そう言って、笑ってみせた。
三人の絆は、確実に強くなっていった。
「悪いなあ。ありがとう。こんな、見ず知らずの老人に……。ええと、どちらさんだったかな?」
「見ず知らずじゃねえだろ! カイだよカイ! こっちはマナだ! んで、おまえはアルト」
「おお、そうかそうか、そうだったな。ありがとう」
アルトの記憶力はどんどん弱っていった。魔王の倒し方だけでなく、それ以外のことも、忘れるようになっていった。
ただ一つ覚えているのは、魔王を倒さなくてはならないということだけ。
こんなどうしようもない自分を見捨てず、力を貸してくれる二人の若者がいる。
なぜこんなに良くしてくれる彼らを、危険に晒しているのか。自分が巻き込んでいるのではないかという罪悪感に苛まれながらも、アルトは魔王のもとへと近づいていった。
魔王が住み着く古城。
魔王まであと一歩というところで、強力な魔物たちと遭遇した。その数およそ百。
この前と同じ、カイとマナだけでは太刀打ちできない強さだった。だが、いまここでアルトに力を使わせるわけにはいかない。魔王を倒すまえに、力尽きてしまう。
カイはアルトを守るため、心を決めた。
荷物から魔導書を取り出し、アルトに持たせる。
「これ、しっかり持っとけよ。大事なやつだからな」
「……だいじ?」
アルトが首をかしげると、カイはニッと笑った。
「一緒に旅ができて、幸せだったぜ」
カイの笑顔が、アルトの胸を締め付けた。なぜこんな気持ちになるのか、アルトはわかっていなかった。
「ここはオレが食い止める。マナ! あとは頼んだぜ!」
そう叫ぶと、斧を持ち単身で特攻した。
「アルトさま、いまのうちに」
魔物の群れに突っ込んでいくカイを見つめるアルトの手を、マナはそっと引く。
「歩けますか? あと少しですので」
「あるけるさ。あるけるが、あの子は、一緒には行かないのか?」
アルトは血だらけのカイから目が離せない。
魔物の大群がカイに覆いかぶさる。カイは懸命に斧を振り続けるも、動きは徐々に鈍くなっていた。
「あんなにケガをして……、いったい、だれとケンカをしているんだ?」
アルトは、この薄暗い場所では黒い魔物はもうよく見えないようだ。
「大丈夫です。少し用があるだけです。きっと、すぐに、追いかけてきますよ」
マナの目から涙がこぼれた。それをアルトに見られまいと、急いでローブで涙をぬぐう。
「さあ、アルトさま。行きましょう」
「まだ、もう少し……」
アルトはたどたどしい足取りで、カイのもとへと行こうとする。
「駄目です! アルトさま!」
そのとき、ものすごい音がして、地面が揺れた。
「おおっ」
倒れそうになるアルトを、マナは慌てて支える。
地響きが収まると、あたりは不気味なほどシーンと静まり返った。
「何が、起こったのでしょうか」
マナはカイがいたほうに目を凝らす。
「あの子が……」
「なんですか?」
「カイが……」
小刻みに震える指で、アルトが前を指差す。そこにいたのは、血だらけで立っているカイだった。
「カイっ!」
マナはすぐさま駆け寄りたい気持ちをおさえ、アルトを支えながらカイのもとへと歩く。
「カイっ! あなた、よく無事で……」
だが、カイは二人の目の前で、バタリと倒れた。
カイは、死んでいた――。




