第4章 15_貴族、面倒くせぇ- ネクラとネアカ、どっちがマシ?
ようやく本日の授業もすべてが終わり、下校時間がやってきた。
野球部に関しては、昼休みの時に、レオナールと、「今日は休みにしよう」という話になっていた。
シナリオ・スイッチの所為とはいえ、王太子と男爵令息が揉めたから、「俺等、一緒にいたら、またどっかでヒロインが乱入してくるんじゃないか?」って、恐くなったんだ。
それで、放課後、生徒会にだけはちょろっと顔を出す用事があったから、そっちの方は先に済ませてきたんだけど。その間、紳士会へ行ってたニルスが、戻ってくるなり、主君に不満をぶちまけた。
「聞いて下さいよ、王子!」
教室で帰り支度する傍ら、ニルスが口を尖らせる。
「ぼく、とんでもない人に絡まれたんです」
「とんでもない人?」
「はい! ダミアン=エティエヴァンって伯爵令息なんですけど」
「……エティエヴァン?」
俺は「ん?」と首を傾げた。
なんか聞き覚えのある名前だな、と思ったら。
「C組の! ほら、前に、王子とぼくが、フイヤードさんの落とし物、届けに行った時に。代わりに言づかってくれた」
「ああ! アベル?」
ニルスの言葉に、俺も、レオと同じクラスにいた同級生攻略対象者を思い出した。戦隊ヒーローのレッドやってそうな顔のヤツ。
ニルスもこくりと頷いた。
「はい。どうやら、その人のご兄弟だそうで」
「兄弟? 双子??」
俺はナチュラルにそう考えたんだけど、ニルスはふるふると首を横に振って、渋い顔をした。
「いえ。それが、年子みたいで。それも、ダミアンさんの方が数ヶ月年上の兄で、アベルさんの方が弟だっていうんです」
「へえ……年子……」
現代日本でも珍しいのに、この中世~近世おフランス風異世界で、「それって、2人のお母さん、大変だな」と、見ず知らずの相手に同情してたら。
ニルスが眉をハの字に下げて言った。
「それで、『どうして、殿下は、僕の方にお会いして下さらなかったんだ! あんな泥棒猫の息子なんかを先に!!』って、詰め寄られてしまって」
「え」
俺は困惑した。
ニルスも溜息をつきながら話す。
「王子がアベルさんにお会いしたの、たまたまなのに。なんか酷いですよね! ぼくも訳がわからなくて困っていたら、紳士会でも顔見知りの皆さんが教えて下さったんです」
「曰く、『ダミアン君は、伯爵のお亡くなりになったご先妻の末子で、アベル君は、後添えの奥方の長子だからだよ』って」
俺もあんぐりとしてしまう。
「マジで? じゃ、つまり、異母兄弟ってこと!?」
「はい」
ニルスも深く頷いた。
異母兄弟なら、同学年にいるの、全然おかしくはないんだけど。
ただ、これは、言い換えれば、一夫一婦制が常識な我が国で、奥さんと愛人、両方が同じ年に妊娠したってことになる。早い話、明確に不貞を犯したってことで。
「ご容姿もご成績も、アベルさんの方が上だから、ダミアンさんはいつもひがんでいて、上のお兄さんがたと、ご兄弟そろって異母弟であるアベルさんを虐げているとか、なんとか……」
(うわぁ……。ドロドロ愛憎劇なドラマでありそうなヤツじゃん!)
「でも、紳士会の皆さんも、割と、淡泊に捉えていて。その辺、遠巻きに見てる感じというか。今後、王子が『どっちとご親交を深める気でいらっしゃるか、分かったら、僕等にも教えて』って、言われちゃいましたよ」
うんざりしたように肩をすくめるニルスに、俺も、「なんかゴメン」と思いつつ、「やっぱ、貴族って面倒くせえな」と感じてしまった。
陰湿系と冷笑系は、一概にネクラ認定するのは、早計過ぎるかもだけど。少なくとも、ネアカとは言い難いよな。だって、そいつら、どっちかっつーと、自分から前に出て戦うタイプじゃねーし。
で、そういうヤツほど、自分より明らかに弱そうな相手とか、軽蔑対象には、やたら強く出て、明らかに敵いそうにない相手には、「ハハーッ」って服従するか、「ぼく、カンケーありません」って最初から逃げるかの2択。
だから、「王太子」なんて最強スペック持ちの俺には、そういうのと遭遇する率が高すぎるっつーか。俺の従僕のニルスも、その被害受けやすいっつーか。王太子に直接文句言えないのの、スケープゴートになるの、本当に申し訳ない。
(なら、こういう厄介な連中とつるむよりは、オラオラ系のレオが暴走する方がまだマシかもなァ……。それでも、ガチでウザい時あるから、これはこれで考えもんなんだけど)
なんて、「それなりにスクール・カーストあっても、基本、フラットな前世日本の学校生活のが気楽かもな」って、俺が「うーん」と羨んでしまっていると、
「あっ! やっと戻ってきたーっ!!」
と、底抜けに明るい声がした。
つまりは、ネアカすぎるヤツが、ここにも1人いたんだけど。
俺とニルスが「えっ」と振り返ると、廊下の先には、金髪タテロールな派手々々ハトコが、満面の笑顔で手を振っていた。
「タッキョ!? どうしたのっ」
「どうしたの、じゃないよ。せっかく君達と帰ろうと思ったのに、教室にいなかったから。でも、まあ、僕も歌劇部の後輩達に『ちょっと練習見てくださいませんか』って頼まれたから、ちょうど良かったんだけど」
エウスタキオはにこやかに笑う。
タッキョは、【音】属性に優れた攻略対象者だからか、歌劇部の部員なんだ。
現代日本だと、「演劇部」でたまにミュージカルっぽいのやるかやらないかレベルのトコが多いのに対して、この世界では、演劇部と歌劇部がしっかり分かれてるのがすごい、というか。
オペラって、音楽学校や楽団で専門的に学んだ歌手とか、ダンサーにはプロのバレリーナとかが使われるから、当然っちゃ、当然だけど。
でもって、当校の歌劇部は、なかなか優秀だから、卒業後は、本当にプロのオペラ歌手になったり、舞台美術職人の道へ進む人もあるとか。魔法を学ぶ学校だから、最近は、舞台演出に魔法を取り入れたい劇団もあったりするんだって。
それはさておき。
俺は当惑の眼差しで訊いた。
「なんで、わざわざ、僕等と?」
「え。だって。お呼ばれしたからだよ♪」
タッキョは朗らかに笑う。
「今日のお昼休み、僕のところに王宮から使いが来てね。久々に親族で親睦を深めたいから晩餐会をします。ご一緒にどうですか、って」
「あー」
俺も頷いた。
そういえば、国王陛下達も、このところ忙しかったのが落ち着いてきて、学園入学まもない息子と、卒業が近い従甥と、一緒に食事したい、的なことを言っていた気がする。
「卒業したら、タッキョ、母国へ帰るから? 今のうちにって感じなのかな」
「え。僕、帰らないよ?」
あっけらかんとタッキョは告げる。
「僕も最初はそのつもりだったんだけど。ほら、聖女様が現れたから。母国からは、そのまま、外交官として、在エルセイユのティエラスカーナ大使館に勤めて、大使の補佐をしてほしい、ってさ。双方王家の親族として、良い橋渡し役になってほしいみたい」
これに俺は「え」と目を丸くした。
だって、1周目は、エウスタキオは、卒業後、母国へ帰っていた。それから後は、OBとして、ちょいちょい学園に顔出すことはあっても、サンクレール国内には住んでなくて、徐々にフェードアウトしていったと思う。
(1周目は、リシャール・ルートが確定してたから、他の攻略対象者ガンガン振り落とされてたけど。2周目は違うから、攻略対象者として、タッキョもとどまるよう、システムが変更したのかな?)
エウスタキオは、リシャールの祖父・大シャルルの実妹、アンヌ・マリーの孫な訳だけど。
同時に、父方の大伯父にあたる御方が、現在のティエラスカーナ国王セサール6世なんだ。なので、「両国の橋渡し」っていうのは、妥当な役割だと思う。
「それよりさぁ。リカ。ちょっと寄り道していいかな?」
「寄り道?」
俺が訊き返すと、タッキョはこくりと頷いた。
「王立図書館で借りたい本があるんだ。そんな時間はとらないから――」
「いいよ。君が探してる本、見つけるの大変そうだったら、僕等も手伝うし」
俺も柔和に答えると、タッキョは「Gracias !(=ありがとう!)」と目を細めた。
そうして、俺とニルスとエウスタキオは連れ立って、学園の大正門前ロータリーへ向かった。箱馬車で迎えに来たクロードは、若干、驚いていたけど、流石は王太子の侍従、快く対応していた。
「よし。じゃあ、出発しようか」
王太子が号令をかけると、その意を受けたクロードが、御者台に繋がる小窓から御者に伝え、王家の箱馬車は、ゆっくり走り出した。
学園のあるモン・ノワールを下山した馬車は、カララララと軽快に繁華街を通り過ぎ、夕暮れの街は、仕事帰りの人々と、これから酒場や社交場に繰り出そうとしている人々が行き交っていた。
劇場の近くの通りなんかは、特に、夜公演のために、セレブな送迎馬車が列を成している。
やがて、重厚で壮麗な歴史ある王立図書館の建物が見えてきた。
王立図書館は、書籍の収蔵数が半端ないので、本館と別館が並んでいて、一旦、外に出なくても、渡り廊下で、互いの建物を行き来できるようになっている。
「着いたーっ」
嬉しそうに顔を綻ばせるエウスタキオに、
「今日は、図書館、20:00まで開いてる曜日だったから、まだ良かったよね。でも、皆、待ってるだろうし。さっ、早く探そう!」
と、俺は少し急かす。
馬車は、王立図書館の専用駐車場に置き、ニルスが御者と馬車の番をする。
入館手続きとかもそうだけど、本探しとか、侍従のクロードの方が得意だから。
閲覧席がずらりと並ぶ本館ラウンジの前で、俺等は、目的の書籍の確認をする。
タッキョが借りたがっている本は、1冊じゃなかったから、「やっぱ手分けして探した方が良い」ってなった。
「じゃ、僕、こっち見てみるね」
「では、私が、あちらをお探しいたしましょう」
俺とクロードが声を掛けると、タッキョも申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんねーっ。2人とも。じゃ、30分後に、またここで!」
言うや、エウスタキオも速やかに目的の本が並んでいそうなエリアへ向かっていった。




