第4章 14_おピンクあたまちゃん?(2)- 帳尻合わせ?
せっかく、俺が恥をしのんで、打ち明けたっていうのに。
「フーン……」
レオナールは、エラソーにソファーにもたれかかりながら、めちゃくちゃ他人事のように、小指で片耳をほじくりながら、さらっと聞き流す。
ので、俺もムッとする。
「ちょっと! ちゃんと聞いてる!? 言っとくけど、俺っ、あン時、ガチでヘコんだんだけど――」
ブチギレる俺をよそに、レオは小指に着いた耳垢をふっと吹き飛ばした。
「別にいいんじゃね?」
「は?」
「だって、ただの事故チューだろ。そんなん、どー考えてもノーカンっしょ」
「そんなこと言ったって……」
俺は、納得がいかなくて、文句を言いたかったが、
「つーかさ。そんなん、いちいち気にしてんの、おまえだけじゃね?」
と、レオにジロと睨まれる。そして、半眼で窘められた。
「ええと……、なんっつったっけ?? そのユノ? ってコ。別にリシャールのことが好きな訳じゃねーんだろ? ただ、カミに頼まれたから、エンゲージ? してるだけで。おまえも、別に、初端から、あのおピンクあたまと×××した訳じゃねーし」
「ちょっと! 今、めっちゃ放送禁止用語、聞こえたよっ!? てかっ、カミ、俺に『ユノと両想いになれ』っつったんだよ? なのに、他の女子とキスとか……っ」
俺は真赤になって怒鳴る。
けど、レオは「ウゼェ」って鼻で笑うばかりだった。
「あー……ったく! これだから、ドーテイはよォ」
「ウッセーよっ! おまえだって似たようなもんのクセにっ!! だいたいっ! なんで、リシャールが、レオナールのイベント肩代わりさせられなきゃなんないワケ!? ホントなら、アレッ、おまえがアンジェルとやらなきゃだったんだよっ??」
それに痛いところ突かれたのか、レオナールは、チッと舌打ちした。
「しゃーねーじゃん! だって、あン時、ちょうど、贔屓の職人から連絡入ったんだからっ」
「……職人からの連絡? 何それ??」
俺が困惑したように聞き返すと、レオナールはちょっとばつの悪い顔をした。
「頼んでた例のモンが出来た、って、言われてよ!」
「……例のモンって?」
「バットと、ミットと、グローブ、18人分っ! それと、ボール、10ダース!!」
俺はげんなりした。
(また野球! つか、コイツの異常な野球愛がシナリオ吹っ飛ばしたってコト!?)
そう頭を抱えたものの、レオナールは堂々と開き直った。
「そういう訳で。リシャールがあのオンナと会ってた時、俺、もう街ン中だったんだよ!」
「え。学園敷地の外に居たってコト?」
俺が目を丸くすると、レオは「おう」とこくりと頷いた。
そういえば、俺は、王太子で新入生代表ってこともあって、あの日、どの学生よりも帰宅が最後になったんだ。
そして、俺の前世の記憶が正しければ、確か、ゲームのレオナールは、毒イタチ退治がきっかけで、左足? がビッコになってて、荒れてる不良、みたいな。
そんで、入学式も在校生席にじっと座ってるのがウザくて、途中でフケて、裏庭でくさくさしてるトコロを、編入試験に来たヒロインと遭遇する、みたいな展開じゃなかったっけ??
あれは、最初のクラス分け(要するに1番好感度高い同級生攻略対象者が決まるヤツ)とか関係なしに起こるイベントだったから、マサトもかろうじて見てた訳だけど。
(……てか、なんだ。単純に、イベントが起こる舞台――学園の敷地外にいたから、すぐ指令が出せる位置にいた攻略対象者が、代わりやらされたのか)
けど、そういや、レオナール、現在、五体満足だよな。
でも、前に、「大怪我して左足切断になりそうになったけど、治療とリハビリめっちゃ頑張った」的なこと、こぼしてたっけ?
つまり、転生者になって、本来のルートから外れるような行動したから、別ンとこで帳尻合わせが必要になったのか??
カミは、この世界は「ゲームじゃなくなった」っつってたけど、ソレ、不足な事態が起こっても、そういう臨機応変な修正が利く、ってことの証明でもあるのか。
そして、結局は、ヒロインのためのストーリーが実行される、――と。
そう考えると、「攻略対象者は、いくらでも替えの利くヒロインのための駒」なんじゃないかと思って、改めて、俺は、ゾワと怖くなった。
身震いしそうになるのを、両手で我が身抱くようにして抑える。
そんな空気をレオナールも感じ取ったのだろうか。
「……だから、その……。も、も、申し訳ねえ、って思ってるよ」
レオは、照れ臭そうにガリガリと頭を掻いて、目を背けながら、ぽつりと言った。
「俺の所為で、本当なら、王太子が被るはずなかった役やらされて、嫌な思いさせちまったてんならよ!」
その謝罪には心が籠っていた。
レオナールは、きまり悪そうに、しゅんと身を小さくしている。
俺は目をぱちくりさせた。
「レオでも普通に謝れんだ……」
「ンだとォッ! コラァッ!!」
レオは茹蛸みたいになりながら、ガン飛ばす。
でも、俺は、それがかえって滑稽に見えてしまって、プッと笑う。
「じゃあ、今度、なんか奢ってよ」
「ハァ!?」
勢い衰えず、赤い顔でレオは俺を睨むけど、俺は気にしない。
「ほら。ユノ探し。今度、一緒に行ってくれるっつったじゃん」
「お? おぉう……」
「そん時に。ジェラートのお店! ガラシェニアの有名店の、ええと……、なんつったかな? ラマルシャン通りに、この間、1号店が出来たらしいんだけど……」
これにレオは、口をへの字に曲げた。
「ジェラートて。ホント、女子みてーだな。おまえ」
俺はカッと赤くなるも、ここは譲れない。
グッと拳を握って力説する。
「だって! ジェラートだよ!? サンクレールにあるの、Glace(=アイスクリーム)か、Sorbet(=シャーベット)か、Granité(=かき氷)じゃん。どれも美味しいけど、その中間のヤツ、たまに食べたくなんない? ほら、日本だったら、ご当地ソフトとか、色々あったし!」
レオは、妙にすとんと心得たように頷いた。
「あー。ご当地ソフトはなァ。そりゃ、観光地行ったら食いたくなるけどさ」
「でしょでしょ!? ほら、やっぱ、おまえだって、そういうの食うんじゃん!」
「つか、ソフトとジェラートじゃ、食感も形状も全然違うじゃん」
「そうだけどさー」
的を射た指摘だったけど、俺もぶうたれて言い返す。
「あのビジュアルと、もったり滑らかな感じは、やっぱテンション上がるじゃん! 味だって、あっさり系から濃厚系まで、種類、たくさんあるしっ」
「ハ! バッカみてえっ。男爵令息より王太子のがカネ持ってるクセに!」
ケッとレオナールは口を尖らせる。
まあ、それは、その通りなんだけど。
「ザンネン! レオと行く時は、俺、王太子って分からないよう変装するから!!」
あかんべえをして、俺が反論すると、レオはまた「ウゼェ」と不貞腐れる。
「じゃあ、奢ってやっから、あんま高いヤツ選ぶなよ!」
溜息交じりにレオは言う。
それに、俺も、ぱあっと笑顔の花を咲かせた。
「分かってるよー。俺、そこまで非常識じゃねーもん。あ。でも、ハーフ&ハーフ的なの出来たら、やってもいいかな?」
なんて、調子こいて、にへら顔で頼んだら、
「バカか! おまえはっ!! ジェラート屋のは、ハーフ&ハーフじゃなくて、ダブルだろがっ! 普通に2倍の金額するじゃんっ」
と、本気で怒鳴られた。
言われてみれば、そうかもだけど。
あの独特な四角コーンに、2種類盛ってスプーン挿した絵面のパンチの強さは、普通のアイスじゃ味わえない特別感が甚だしいのだ。「あ。俺、今、めっちゃ贅沢してる」みたいな。
「でも、お互い、スプーンで1口ずつ交換したら、4種類の味、食えるよ?」
「味の問題じゃねーよっ! 金額だっつってんだろがっ!! これだから、王子様ってのはよォ!」
レオナールは完全に半ギレ顔だったが、俺は、「ちぇー」と可愛らしく拗ねてみる。
「じゃあ、1/3は、俺が出すよ」
「ハァ!? ワリカンじゃねえのかよ!」
「だって、コレ、おまえのお詫び代わりなんだよ? おまえのが、全額か、多めに払ってくれないと意味ねーじゃん」
それには、ぐうの音も出なかったのか、レオナールは、チッと舌打ちしながらも、ソファーから立ち上がって、俺の頭をわしゃっとつかんだ。
俺の金の前髪をぐりっと親指で押し上げる。
「わァーったよ! このオコチャマ王子が!!」
バチンッ!
「痛っ!?」
かなり強めの当たりでデコピンされた。
クッソー。ちったぁ、手加減しろっつの!
とはいえ、1個、ずっとモヤッてたのが晴れたのは良かった。
あの「Beaux cheveux roses」は、紛れもなく、獅子座の騎士のイベントの台詞、「おピンクあたま」だ。それを王太子風にしたから、ああなった。
でも、俺、なんで、こんな大事なこと、まるっと忘れてたんだろう。
(アレ。前世で見た時は、確か、ヒロインのイラストでなく、ほぼほぼ、攻略対象者のキメキメ顔の一枚絵だ。台詞と一緒に画面に表示されるし、それなりに記憶に残っててもいいはずなのに)
そうして、そのまま、俺等は、生徒会室で時間を食いすぎて、学生食堂へ行けなかったので、まんまとランチを食い損ねてしまった。
残り2時限を、空腹でやり過ごさないといけないのは仕方なかったけれど、俺は、王太子として、inélégant(=優雅でない)になってはいけないと、授業中ずっと、腹の虫が鳴るのを抑え続けるのが、この日、1番キツかった。




