第4章 13_おピンクあたまちゃん?(1)- アレ、絶対、おまえだよ!
正直、いくら友達でも、自分のそういう話題、セキララに話すの嫌だったんだけど。
ただ、レオも、シナリオ・スイッチ被害で、そのうち似たような展開に見舞われちゃうかも、と心配だったので、そこそこ内容ぼかしながら、あらまし話した。
「うっわ。何、それ。まじウッゼ。つーか、カオスじゃん。自分から誘っといて、最後ソレって。『王子様に求められる私ステキ!』みたいな? あの女、そんなヤベェの??」
レオの顔は、まるきりヒいていた。
そりゃ、そーだ。俺だって、そう思うもん。
「つーか、だいたいよ。男爵令息も王太子もって、アンジェル、マジでヤバくね? おとなしそうな顔して、どんなビッチだよ!」
レオはぷりぷり怒るけど。
そもそも、乙女ゲームって、そんなモンじゃね?
てか、そうか。ここは、乙女ゲームがベースの世界なんだ。
(じゃあ、今回は、王太子オンリーって訳じゃなく、マジで逆ハー展開になるかもなんだ?)
けど、それも、どーなんよ?
アンジェルが複数の男と付き合ってたら、その間、俺は、確かにシナリオ・スイッチから解放されるかもだけど、また、どっかで王太子ターンは必ず来ちゃう訳だし。
俺、他の男と、1人の女の子、共有するってのが、まず、生理的に無理。
まあ、娼婦とか、そういう職業の人は仕方ないし、それは一時的な関係だから、まだ割り切れるんだけど。
自分のカノジョとか奥さんに、普通にソレやられたら、絶対冷めるし萎えるわ。
しかも、それで、アンジェルが王太子妃になったら、とんでもない托卵妃が爆誕してしまう。
(だって、攻略対象者の中には、よその国から来た留学生も交じってるんだし。それって、ガチで国滅ぼしかねんっつーか。リアルだったら絶対ありえねーっ!!)
俺は、ハアと溜息交じりに暗い影しょいながら、ソファーでメンタル・ダウンする。とはいえ。
「……し、仕方ないよ。てか、攻略対象者にシナリオ・スイッチ働くみたいに、ヒロインや悪役令嬢も、システム? に操られてるっぽいし??」
生理的に無理なのに、なんで、俺、ヒロインのフォローしてるんだろ?
ついでに言うと、悪役令嬢は、幼馴染みだから、ホントはあんなコじゃないって、俺、知ってるけど。ヒロインは、元々、どんな感じのコだったのか、それ自体、知らんし。
でも、悪役令嬢だけが操られるはずないから、ヒロインもきっとそうだろな、ってカンジで、俺もあんまり深くは考えないようにしている。
「それに、ヒロインって、基本、口説かれる側なんだよね。ゲーム的に攻略されるのは、俺等、男子だから、なんか矛盾してるっぽいけど」
「いや、まじウゼェ。どーにかならんの? アンジェル。確かに顔はカワイイし、イイカラダしてっけど、なんか隠れメンヘラっぽいっつーか。アザとさMAXすぎてよォッ!!」
隠れメンヘラて。
でも、分かる気がする。
だって、この世界では、一応、「純真可憐な聖女様」みたいな周囲の評価得てる感じだけど、ゲームでは、「ヒロイン」って「プレイヤー」だから、十人十色で、そっちから性格の断定は無理だし。
だけど、単純に「ゲーム」として考えたら、「〇〇をしたら□□になる」みたいな攻略法が存在している訳で。システムに乗っかってソレを実行し続けるなら、まさに「ヒロイン様」無双な、自己愛アザト女が完成するってことで。
ただ、仮にそうだとしても、元ゲームは全年齢対象じゃないといけないから、むしろ、1周目の謎のエロゲー・シフトのが、どーしたよ!? ってカンジ。
(なのに、あれ……操られてるってよりは、ずっと隠してたのサラシましたみたいな? そんな感じに見えたのが、ちょっとヤバかったよな)
実際、1周目、悪役令嬢処刑回避のために、クロードとかに陰で協力してもらってた時の報告でも、俺、ずっと、そんな気がしてた。
なんか、ヒロイン様を満足させるためだけに攻略対象者がいる、みたいな?
だから、俺、本能的に危機感おぼえて、どうしても、アンジェルのことが好きになれなかったんだ。
でもって、もしも、現状が逆ハーに傾いているなら。
(それって、ヒロインがタラシ通り越してビッチすぎるのか、単に攻略対象者があの娘にサカリまくってるだけなのか、の二者択一みたいな? うわ。そう考えると、マジでヤダわー)
まあ、少なくとも転生者な攻略対象者は、そんな娘口説くのに躍起になるのをもれなく強制されてるだけ、って自覚あるから、たぶん、可愛さ余って憎さ百倍になっちゃうんだろうけど。
かと思いきや、レオナールは、ぐび、とお茶を飲み干し、ガチャンッ! と荒々しくカップをソーサーに置いた。
「てか、俺の前世のカノジョ、清純派黒髪美少女で、おっとり癒し系だったし! そもそも、あんな発情ゆるゆる女お呼びじゃねーっての!」
めっちゃムカついたようにレオは口を尖らせる。
(えっ……)
俺はピシッと固まった。
「レオ、前世でカノジョいたのっ!?」
「ァン? いちゃ悪いかよ。現役高校生なら、カノジョの1人くらい、いたって別にいいだろ!」
(イヤイヤイヤ……底辺モブだったマサトは、そんなの無縁だったけど!?)
「俺等なんて、いたって、古き良き清き男女交際で、初デートすら、まだだったのに!! だもんで、俺、こんなんで、アンジェルに攻略されたくねえ、つーか。転生した今でも、そのカノジョのコト、忘れらんねえんだよっ!! 文句あっか、こんにゃろーっ!」
ケッとツッパリながら、恥ずかしそうにするレオは、完全に、アオハル全開、リア充まっしぐらだった。
(何、その、バリ一途なカンジ……)
つーか、レオの中の人も、ガチで高校生だったのか。
嬉しい反面、この格差、まじキツい。
だって、根本的には、ユノと契約した俺も、同じ感覚のはずなのに。
何? この、とてつもない敗北感。
(やっぱ、俺のは、一方通行っつーか、俺だけが好きな感じだから!?)
内心、俺は、両手両膝を床につき、ガガンと落ち込みたい気分だった。
そんな俺のことなんて「知ったこっちゃねえ」って感じに、レオはソファーでふんぞり返る。
「つーか。俺、あのおスイーツなおピンクあたま見るだけで、なんかムカツクんだけど」
「レオ、それ、半分、八つ当たりじゃない? 頭の色はカンケーないっしょ。いくら、大和撫子っぽい、前世のカノジョが恋しいからって」
「ウッセーよ! いちいち前世言うな。余計、地味に惨めになっちまうじゃん。ほっとけよっ!!」
レオは顔を赤くしてフンッとそっぽ向く。
「あ。ご、ごめん……」
ついつい俺は謝ったけれど。
冷静に考えてみれば、「先に自分で言い出したくせに!」と呆れてしまった。
にしても、レオのやつ、すっげぇ、苦虫噛み潰したっぽい表情。
「八つ当たり」っての、どうやら、図星だったらしい。
よっぽど、その前世のカノジョのこと、好きだったんだな。
しかし――。
「ん? おピンクあたま??」
俺は、ふと、また何か引っ掛かった。
「ア? どうしたよ、リッシー。まだ、文句あんのかよ!」
レオにガン飛ばされて、俺の脳裏で、1つのスチルが像を結んだ。
▽[おもしれーオンナ。そのツラ、覚えたぜ? おピンクあたまちゃんっ♡]
その台詞が、ややイジワルな顔つきをした時のレオナールと重なる。
「……あぁああぁぁぁあ――――――ッッッ!!」
絶叫して立ち上がる俺に、レオはビクッと座り姿勢のまま後ずさりしかけた。
「そうだ! レオ! おまえだってばっ!!」
「は!?」
レオナールは怪訝な顔でビクビクする。
俺は、ビシッとレオの顔を指差した。
「だから! 入学式の日の! アレ、絶対、おまえだよっ!!」
「にゅ、入学式の日ィ? いや、意味ワカんね……」
レオが怖気づくのもガン無視で、俺は、ツカツカとその前に行き、鬼の形相になって、ガッといきなりその胸倉をつかんだ。ギリギリとブレザーの襟を締め上げ、ソファーから持ち上げる。
「だからっ! あン時!! おまえ、どこ行ってたのっ!? おまえの所為で、俺っ、ヒロインと――」
「ア、アンジェルと――?」
訊き返されて、俺は、事故チューのことを言いかけ、ボッと顔から火が出てしまう。思わず、「あっ」とつかんでいた手の力が緩み、レオのブレザーの襟が、ぽろっと、俺の両手から滑り落ちた。
ドサッ!
「いてっ!」
ソファー座面に落下したレオは、尻をぶつけて、反射的にうめく。
ここのは、アンティークなタイプのソファーで、現代日本で見るようなスプリング入ってる系じゃなかったから、それなりに固くて痛いかもしれない。
「何すんだよっ!」
「ナ、ナンデモナイ……」
俺が照れながらスゴスゴ引き下がると、レオは「ァーん?」と訝る眼差しを向けてきた。
「まさか、俺の代わりに、あのおピンクあたまとイチャコラさせられた、とか、変なイチャモンつける気じゃねーだろーなァ?」
半眼でレオナールは吐き捨てたものの、俺は、バッと蒼い顔で振り返り、
「なんで、分かったのっ!?」
と、つい言い返してしまった。
レオは「は?」とガチで仰天していた。
「あ。いや……」
俺は手で口元を塞いで、照れながら目を逸らす。
(どうしよう。めっちゃ、気まずい)
途端に、レオナールは、「へっ!」と勝ち誇ったように、ニヤニヤ笑う。そして、立ち上がって、ガッと肩組むように俺を引き寄せた。
「マジかよ? ウケる! おいおい。何やらされたんだよ? リシャールちゃーんっ??」
意地悪く訊いてくる。俺は両手で自分の口を押えて、「絶対、言うもんか」って堪えてたんだけど、レオのヤツ、拳で、ぐりゅぐりゅと俺の脇腹を小突いてきやがった。
「いたいイタイ痛い……っ!!」
「オラ! いいから、吐けよってば」
レオは脅してくるけど、俺が必死に黙っていると、
「なら、こうだっ!」
と、今度は、コチョコチョコチョ……と、俺のブレザーの内側に手を突っ込んで、俺の両脇腹をくすぐってきた。
「ぁひゃあっ!」
うわ。なんか、めっちゃ、裏返った変な声出た。
「ちょ……っ、待っ……、ソレ、俺、ホント無理…………っ」
「ほっほーうっ? おらっ! さっさと吐かねーと、今度はそのシャツひっぺがして直でやんぞっ、コラァッ」
チョク!? いや、ムリ無理っ! シャツ越しでもゾワゾワしてくすぐったいのに!!
それでも、俺がぐぬぬと歯を食い縛って我慢しているので、レオナールは、ますます面白がって、イジリをエスカレートする。
(くっそー!! 覚えてろよっ……。絶対、今度、仕返ししてやる……っ!)
なんて思っても、その絶妙なくすぐり加減で、俺は、「ひゃひゃひゃひゃ」って笑けてしまう。あまりにもしつこいので、泣き笑った顔を赤面させて、
「わ、分かったよっ! 言うっ! 言うってばぁっ……!!」
と、叫ぶと、ようやく、「っしゃ!」とレオがくすぐるのをやめた。
けど、俺は、笑いすぎて顔が引き攣り、若干、呼吸困難ぎみになったのと、依然こそばゆくて、めっちゃムズムズするのとで、ヘナヘナッと腰砕けみたいになってしまった。
これに、レオナールは、ファーンと虚無面で呆れた。
「……おまえ、女子みてーだな。そんなんやってっと、アッチ系のおねぇさま――いや、おにぃさまに後ろから狙われんぞ」
(ハァ!? こいつ、何言っちゃってんの!)
俺はカッとなって、へたりこんだまま振り返った。
「俺、BLじゃないしっ! なんで、王太子の俺が男にヤられなきゃなんないんだよ!!」
「ハァ? おまえバカなの?? むしろ、王子とかいう最強のブランド持ちのがBLホイホイじゃん! しかも、おまえ、王子のクセにガキっぽいっつーか、マジ、お稚児さんな感じ。なんで、ガチムチおにぃさんは、きっと、おまえみてーなショタくせえオトコが好みだと思うぞ。知らんけど」
ちょっと面倒くさそうな顔をしながらツッコむレオに、俺も「そうかも……!!」とショックを受けた。そして、「どーせ、俺なんて……、俺なんて……」と床を人差し指でぐりぐりしながらいじけていると、「まじウッゼ!」と、また馬鹿にされる。
ともあれ、こんなことでずっとフザケていても仕方がないので、俺は、腹をくくって、入学式の日の出来事を白状した。




