第4章 12_ちょーセレブな生徒会室
生徒会室へ着いた俺とレオナールは、落ち着いて話をするために、とりあえず、誰も入ってこないよう、カチリと鍵を閉めた。
何度もこの部屋に出入りしたことのある俺は、レオに、「どうぞ、座って」と、応接室みたいになっているエリアのソファーに座るよう勧めた。
っていうか、この学園、流石は、貴族も王族も通うトコっていうか。
たかが生徒会室と侮ることなかれ。室内は、シンプルだけど、なんとなんと、その設備や調度品は、ビルの一角に入る個人事務所ばりにきちんと揃っているんだ。
その間取りときたら、理科室と理科準備室、みたいな単純な造りじゃなくて。
応接ラウンジ・会議室、事務室、資料室、給湯室、ロッカー室ってな感じで、1室の中で、さらに間仕切り壁と扉で隔てられた個室が幾つもあるから、びっくりする。加えて、何故か、仮眠室と、シャワー室と、トイレまで併設されているのには、フいた。
学校の設備なのに、何? このラグジュアリーな超高級ホテルのロイヤル・スイ―ト感。完全にココで暮らせるじゃん! ってカンジ。
「スゲーな……。俺、この部屋、初めて入ったわ」
レオは、物珍しそうに、きょろきょろしながら感嘆を漏らす。
「そうなん? なんか、皆に、レオが生徒会入ろうとしてたの聞いてたから、前に入ったことあるのかと思った」
「いやー。そんなん、入る前に門前払いよ。俺、底辺貴族だし」
「ここ、IHヒーター的な魔道具あるから、お湯はすぐに沸くと思うけど……。レオ、何飲む?」
何気なく尋ねると、レオは、ソファーに腰を下ろすところで、ギョッと目を丸くした。
「え! そんなんまで、あんのかよっ!?」
「あ。やっぱ、そう思う?」
俺は立ったまま、にへらっと笑う。
「俺も、最初、めっちゃ驚いた。なんか、俺等よりちょっと前の世代の先輩がたの中に、発明オタクみたいな人がいて、ソレ作ったんだって。でも、まあ、貴族って、お茶会が社交の基本だし? 使用人いなくても、ちゃちゃっと沸かせる方が会議に支障も出なくていいよね」
「あー。そういや、淑女会の連中とか、しょっちゅう、お茶会やってるよなー。そんで、下級生とか平民出身とかのヤツがいいようにアゴで使われて準備させられてるっつーか」
「あれはちょっと不憫だよね。完全にスクール・カーストの縮図っつーか。働かされるだけ働かされて、何か意見するとテキトーにあしらわれてさ」
「そーそー。俺、もし、女子だったら、ぜってー淑女会には入ってねーわ。上位のマウント連中、ウザすぎっからよ。で。紳士会の方は、茶ってより、芸術だの文学だの材に取った、なんか弁論大会的なヤツ? 一口にサロンっつっても、男子と女子で、えれェ違いだわって思ったけど」
「言えてる。でも、なんか女子のが2倍楽しんでるカンジ。ああいうの、ちょいフクザツだよね。とりあえず、俺、お茶淹れてくる」
そう告げて、俺が給湯室へ行こうとすると、レオは申し訳なさそうに席を立った。
「なんか手伝おうか?」
「あ。いや、大丈夫。俺のがどこに何があるか分かってるし、慣れてるから」
俺は苦笑して、レオにそのまま座るよう勧めた。
そうして、レオがソファーに腰掛けるのを横目に、俺は、開けっ放しの給湯室で、せかせかとコップやら何やらの支度をする。
「てか、コレ、マジで。会議してると喉渇くからさァ。けど、生徒会役員もいろんな奴がいるし。なんで、一応、飲みもん、1通りの種類は揃ってるんだ。とりあえず、今、ここにあるのは、紅茶と、ハーブティーと、コーヒーと、ココアかな? 牛乳は置いてないから、ホット・ショコラはたぶん難しいかもだけど……」
って、何気なく言ったら、レオは、またまたガタッと席を立って、叫んだ。
「すっげえな、ソレ! マジでセレブじゃんっ!!」
レオナールが嬉々として興奮を見せると、俺もきょとんとして、
「だよね。俺もびっくりした」
と、アハハと笑う。
「で? 何にする??」
「うん? 飲みモンのコト?」
「うん。でも、残念ながら、緑茶はないんだよね。あ。だけど、なんか、中国茶っぽいの? 烏龍茶とか、ジャスミンティーとかなら、戸棚の奥にあったかも。リアル地球でも、オランダ以外のヨーロッパは、近代以降にならないと日本と貿易してないからかなァ。たぶん、その辺の世界観、擦り合わされてるっぽい。てか、そもそも、この『エトラリ』世界に日本っぽい国があるかも不明だし」
考えてみれば、俺、この世界の、正確な世界地図、見たことないかも。
サンクレール王国としては、近隣国さえ分かってりゃ充分だし。ゲームでも、太平洋みたいなでっかい海域、描かれたワールド・ワイドな世界地図、作られてないんじゃないかな?
「じゃあー。俺、紅茶―っ!」
レオは陽気に手を挙げる。
俺は目を大きく見開いた。
「えっ。意外! レオ、コーヒーって言うかと思った」
「ああー、うん。俺、確かにコーヒー飲めんだけどさァ。あんまブラックって得意じゃねーんだわ。牛乳置いてねーってコトは、コーヒーもブラックだけだろ?」
「あー。うんうん。そうだね」
俺もブラックは苦手だから、ちょっと親近感が沸いた。
「じゃ、レオも紅茶ならさ。シトラス・フレーバーのでもいい? レモングラスとか、オレンジピールとか混ざったアールグレイっぽいヤツ。それだと気分的にさっぱりしそうだから、俺、最初っから、そっちで考えてたんだ。けど、レオがそういうの苦手なら、別のにするし」
「俺は何でもいーぜ! てか、なんなら一緒のヤツ飲んだ方がいっぺんで済むんじゃね? あ。でも、砂糖とかは欲しいかなー? いや、ストレートでもいいんだけど、俺もなんか色々疲れちゃったからさ。今は、ちょい甘いくらいのが飲みてーんだわ。糖分足んなさすぎて、もう、脳みそ全然回らんっつーか。マジでフラフラなワケよ」
「分かる! 疲れるよね。シナリオ・スイッチ。だって、普通に考えたら、あれ、2人分の、脳みそフル回転してるようなもんだもん。あ。ハチミツあるや。これも付けようか?」
「おう! いいな、ソレ」
ノリノリでレオも答えたので、俺は、お湯が沸いたのを見て、手早く1式揃える。そして、レオが待つソファーへと運んで行った。
席に着くなり、2人分、トポポとフレーバー・ティーを淹れる。
「さんきゅ」
「どういたしまして」
俺等は笑い合って、ズズとお茶を飲む。
たちまち、爽やかな柑橘の香りと、ベルガモットの洗練されたあっさりフローラルな奥ゆかしい渋みが、砂糖と蜂蜜でさらにまろやかになり、清涼感あるも富貴なコクが口に広がった。
「つーかさ。レオとアンジェル、保健室ン中にいる時、めっちゃスゲー物音してたけど、何があったん? まさか、おまえ、あの娘とヤッちゃったりしてないよね??」
何気なく俺が尋ねると、レオナールは、ブッとお茶を噴き出した。
俺は「うっわ。汚っ!」とドン引きしながらも、布ナプキンで拭くよう勧める。
レオは濡れた場所を拭きながら、ちょっと苛立ったように怒鳴った。
「おま……っ! 聞き耳たててたんかよっ!?」
「あ。ごめん。でも、気になっちゃってさ」
俺は、てへ、と茶目っ気たっぷりにはにかむと、レオナールは、ボッと顔から火が出たように、口を鯉みたいにパクパクさせ、物凄く変な百面相になりながら、激しくうろたえた。
「……………………………………た」
レオは、赤い顔でモジモジ、口元を押さえて、気まずそうにしながら、俺から目線を逸らす。
「え。何?」
「ヤリそうになったけど、あのバリキャリっぽい女医先生が入ってきたから、セーフだった」
レオナールは、めっちゃ照れてたけど、俺は、ガチで瞬時に固まった。
(早くね!? ヒロイン、まだ、入学して間もねーじゃんっ……)
いや、レオナールは留年してるから、もう16歳で、一応、成人みたいなもんかもだけど。
そうして、レオは、俺とバチッと目が合うなり、
「かっ……、勘違いすんなよっ! 俺は、あんなオンナ、全然好きでもねーしっ、あくまでも未遂だかんなっ。てか、たぶん、シナリオ・スイッチ? のレオナールも、本気で襲う気は無かったんだよっ……!! ただ、あの女が、婚約者いる王太子のコトめっちゃかばうから、それがムカツいて、なんか勢いで脅した、みてーなカンジ?」
と、必死になって弁明する。
俺は目をぱちくりとさせた。
「お、脅した、って……。いや。おまえ、何した訳?」
「何って、おま……、そ、そ、そりゃ、アレだろ……。あの娘ベッドに押し倒して、無理矢理、制服ン中まさぐりながら、キス迫ったっつーか……」
(なんですと!?)
俺はギョギョッと目を剥いた。
「それ、ほぼほぼアウトなヤツじゃんっ!」
「だから、ヤッてねえってば! ナマで触ったの太腿くらいだし、ちょっとふにふにしただけでナカまでいじってねえから!!」
(え。ナカって、どこまで? ふにふにって、いったいドコを!? てか、太腿は触ったんだ? それって、リシャールがヒロインの手当にかこつけて、あのコに足チューしてたから!? てゆーか、スカートじゃなくって制服っつったってコトは、レオナール、上の方も、キワドいトコまで触ったってコト??)
途端に、R-18指定な妄想が、ぷわんと思い浮かんで、なんかこっちまで恥ずかしくなってきた。
自分がその手の被害に遭うのもアレだが、友達のヤツ想像するのも、割にエグい。
「で? し、したの? キスは……」
「し、し、してねーよっ! 口には……っ」
「ってコトは、口以外にはしたんだ?」
俺の一言に、レオナールはカッと赤くしながら言った。
「首筋と耳の裏だけだって!」
俺は、ズガァーンッ! と鈍器で頭ぶん殴られたぐらい、ショックを受けた。
思わず手で目を覆ってしまう。
だって、ソレ、まんま、1周目のリシャールだし。
「それ、ガチでヤバいヤツだって! 完全にヤる前のだからっ……」
俺は、ガタッと席を立って、顔を真赤にして叫ぶと、レオは「え」と首を傾げた。
「ってコトは。何? ひょっとして、おまえ、経験あるワケ? なんか、あの時も、めっちゃ『っぽく』ヒロイン口説いてたし? 王太子、どんだけチョロいんだよ!?」
痛いトコ突かれた俺も、ギャフンと言わされた感じで、がっくぅと肩を落とす。
「そーだよ……。俺、どーせ、チョロメンだもん。いや、俺っつーか、メインヒーローのシナリオ・リシャールが、だけど…………」
俺はハハハと泣き笑いする。
「けど、それ、こんな序盤じゃなくて1周目のラスト目前だったし。リシャールだって、元々、そこまでガツガツしてた訳じゃあ…………」
「んじゃ、1周目、どんな感じだったんだよ?」
責められるはずだったレオのが、逆に俺を責め立てる感じになって、王者みたいに足組んで肩肘をつく。そのペリドットの三白眼の視線が痛かった。




