第4章 09_保健室へ行っちゃったじゃん!
電光石火な疾走ぶりで保健室に辿り着いた、リシャールらは、ガラッと荒々しく「失礼します!」と、その扉を開けた。
しかし、中はがらんとして、誰もいなかった。
ベッドの間仕切りカーテンも閉じていて、しん、と静まり返っている。
S・R:
「おかしいな……。パストゥール先生は、どちらへ行かれたのかな?」
リシャールはつぶやきながら、俺の腕の中で、負傷の痛みに耐えながらも真赤に照れているヒロインに、目線を下ろした。
S・R:
「ごめんね。どうやら、先生はお出かけのようだ」
そう言って、ヒロインを診療椅子に座らせる。
S・R:
「代わりに、僕が手当しても良いかな?」
いたわる瞳でヒロインに告げると、アンジェルも、
「は、はい……」
と、モジモジしながら頷く。
リシャールは、慣れたように、薬棚の引き出しから、消毒薬と湿布と包帯を取ってくる。
薬品置き場には、もちろん、先生でないと開けられない鍵が掛かっていたが、こういう簡易の治療道具は、生徒でも勝手に出して使えるようになっていた。
また、リシャールは、保健室にある洗い場の水道から、手桶に水を汲んでくる。
市井は中世ヨーロッパな感じが強くて、井戸水が主流だけど、王宮や、上流階級のお屋敷、国家機関の建物には、ちゃんと上水道があるんだ。
それは、この国立エスカロワイユ魔導学園の校舎も例外でなく、魔道具も随所で使われている所為か、学校設備は、現代日本と遜色ない。
リシャールは、保健室に備えられているタオルも取ってくる。そうして、シャツの両袖を腕まくりして、ネクタイは邪魔にならないよう肩から背中にぐるりと回した。
診療椅子で畏まって座るヒロインの前で跪き、上目遣いに訊いた。
S・R:
「このままだと手当できないから、君の右の靴下、取ってしまって構わない?」
「ど、どうぞ……」
ヒロインは遠慮がちながら答える。
とはいえ――。
(この子、腿丈靴下、ガーターベルトで留めてるんだよな……)
つまり、このニーハイを脱がすには、ガーターベルトの留め金を外さないといけない訳で。
その目と鼻の先に、プリーツスカートの裾がある。
(タイツ脱がせるよりはハードル低いけど、位置がキワドすぎる……っ)
正直、俺だったら、あまりに恥ずかしくて、「自分で脱いで」って、アンジェルに言ったと思う。だけれど、物怖じしないシナリオ・リシャールがためらうはずもなかった。
リシャールは、あっという間にアンジェルの右足のローファーを脱がしたかと思うと、その柔らかい太腿に触れた。
「アッ♡」
アンジェルは敏感に恥じらう。
瞼を伏せて、頬を染めながら、ビクビク震える姿が、すごく色っぽい。
(イヤ。ちょっと触られただけでコレって。やっぱ、このコ、なんか痴女くさくね?)
それとも、これが、ヒロイン的攻略対象者オトし技術ってコトか??
つーか、1周目、序盤からこんなフルスロットルかけてる感じじゃなかったと思うんだけど。
でも、リシャールは顔色を変えずに、片手でアンジェルの右腿をぐっと押さえ込みながら、ガーターベルトの留め具をパチンパチンと外し、患部に巻いていた自分のブレザーを取って、ニーハイもするりと脱がしてしまう。
象牙色の生足は、弾けるような絹の柔肌をしていたが、石のピースが直撃した足首は、饅頭みたいにパンパンに、真赤に腫れ上がっていた。
(わー……。見るだけで、いたいイタイ痛い……。これ、ヤバい!)
リシャールは、手桶の水で濡らしたタオルを固く絞り、
S・R:
「ごめん。たぶん、滲みるよ?」
と、アンジェルの腫れた足に冷たいソレを当てた。
「アッ……ン!!」
アンジェルは痛そうに顔を歪め、ビクッと反射的に身じろいだ。
その右足が持ち上がった瞬間、
(えっ……!?)
と、状況を見守っていた、天の声な俺はギョッとする。
なぜなら、一瞬だけど、暗くなったスカートの陰に、物凄くファンシーでラブリーな、ピンクのレースが見えた。
しかも、透けそうなくらいに吸いつくレースには、エロティックなラインが薄っすら目立ってしまっている。
(い、いいいいい今のって、パ、パ、パン×××…………ッッッ!?)
そう。女子的には見えてはいけないものが、俺の目の前にあったんだ。
いや、そんだけ短いスカートなんだから、そんなキケン予想つくだろ、って言われそうだが。
でも、とりわけ、貴族の女子は、そういう露出しないように、学校の制服でも、スカートの下に、タイツなりペチコートなり穿いて、きっちり隠すのが普通だった。だけれど、ヒロインは、完全に直でスカートを穿いていた。
(そりゃ、日本の高校なら、校則とかで、学校が決めたの以外のオプション禁止みたいなトコもあるしっ。それが普通なのも知ってるよっ。けど、このファンタジーな貴族社会でっ……、こ、こ、これって、どーなんっ??)
俺的には、アワワワと白目向きそうだったんだけど、今現在、この身体の主導権を握っているのは、シナリオ・リシャールだ。
だから、リシャールは、ヒロインのおパ〇ツが見えてもうろたえないばかりか、むしろ、「はあ……」と、うっとりして、ヒロインの生足に見蕩れ、タオルで患部を冷やすのを続けていた。そして、タオルが温もってきたら、また濡らして絞って、患部にあてがい直すの繰り返し。
ヒロインは、激痛にますます足を開いて、ピクピクと震えていた。
「うう……」
見るからにすっごく痛がって、頭に血が上るくらい顰め面だ。傍目には気の毒なはずなのに、やたら、ちらちら下着が見えてしまうし、何故か、悶える仕草もめっちゃエロい。
そうして、うるうると涙目で、ヒロインは俺を見下ろす。
「す……すみませんっ、リシャール様っ……」
リシャールは、いとおしげにヒロインを仰いで、くすりと苦笑した。
S・R:
「大丈夫。気にしないで。さ。もうしばらく頑張って。僕がついてるから」
「はい……!!」
ずくんずくんと続く痛みに、アンジェルは必死に耐えている。打撲の応急処置って、患部を20~30分冷やさないといけないはず……。
(――ってことは、それまで、俺、ずっとコレやり続けんの? いや! とっとと治癒魔法かけろって!!)
そう天の声な俺は思うのに、シナリオ・リシャールは、頑として、アナログな応急処置に徹している。
アンジェルが今にも泣き出してしまいそうなのを見て、タオルを変える段で、チュと、ぼってり腫れ上がった右足首にキスをした。これに、アンジェルは「!」とドキリとする。
「リ、リシャール様……?」
S・R:
「おまじない♡」
リシャールはクスと微笑むと、
S・R:
「君の足が、早く良くなりますように」
と、また、チュと、今度は足の甲にキスをした後、濡らし直した冷たいタオルを当てた。
(足の甲、カンケーねーじゃんっ!)
天の声な俺はゲンナリしたが、これがヒロインにはツボったのか、ポポポッと顔から火が出たみたいに、両手で自分の顔を隠し、
「ありがとうございます……」
と、めちゃめちゃ照れていた。
リシャールとヒロインは、そんなことをひたすら繰り返しながら、ずっと保健室にとどまっていた。
およそ30分近くが経ったっていうのに、相変わらず、校医のマルク=パストゥール先生は保健室に戻ってこない。
ってゆーか、これもシナリオ・スイッチの波及効果っつーか、わざと、王太子とヒロインが2人きりになる状態に持っていってる??
S・R:
「ああ……良かった! 少し腫れが収まってきたかな?」
そう言って、リシャールが、ツンと人差し指で、うっすら赤いアンジェルの右足首をつつくと、
「はぅんっ……!!」
と、甘ったるい猫なで声で、ヒロインは身を竦めた。
リシャールは、碧い眼を剥いて、一瞬、固まった。
(えっ? は……、はうん……っ??)
なんか、ガチで漫画やアニメでしか聞かないような悲鳴聞こえたんだけど――。
(――ってか、これには、流石に、シナリオ・リシャールもヒいてんのか??)
デレデレが一旦収束して、「何? このコ」みたいな顔になっている。
(なら、王太子の好感度ゲージ、このまま下がってくれ!)
天の声な俺は、ちょっと期待したものの、この世(システム?)はそう甘くはなかった。
「あ。あ。も、申し訳ありません……っ」
ヒロインは、恥ずかしそうに指先をモジモジさせながら、膝も擦り合わせる。なんだか、すっげーぶりっコくさいが、こういうの、刺さるヤツには、ホント刺さりまくるんだよな。
そして、まんまとソレが刺さっちゃったアホが、ここに1人――。
リシャールはにっこりと笑った。
S・R:
「気にしないで。とても可愛らしいよ」
(ハハハ……。ですよねー……。ホント、シナリオ・リシャール、チョロメンすぎだわ)
天の声な俺は、しくしく、泣いた。
これにドキンコするヒロインに、リシャールもまた、デレデレがONになったっぽい。いや、たちどころに爽やかに戻ったから、今はクーデレか。
リシャールは、鼻の下のばすどころか、普通にキリリと眉目を整えたまま、アンジェルの患部に冷湿布を貼り、せっせと手際よく包帯を巻いた。
S・R:
「よし! 完成だ」
リシャールが顔を綻ばせると、ヒロインは「わっ」と感動する。
「ホントにホントに……っ、何から何まで……っ。ありがとうございますっ……!!」
アンジェルは、座ったまま、ペコペコと俺に頭を下げた。
リシャールは、すっくと立ち上がり、
S・R:
「いいよ。君が無事で良かった」
と、今度は、アンジェルのピンクの前髪を掻き分け、その額に、チュッ、とスマートにキスをした。
「きゃっ……」
アンジェルは、バッと自分の額を利き手で押さえ、わざとらしいほど初々しく照れる。そして、その顔は、明らかにまんざらでもなさそうな喜びが滲んでいた。
(うわ。4回目かよ。いったい何回するんだよ!?)
天の声な俺は一気に鬱になった。
1周目もだけど、なんという強制力。このままじゃ、王太子、ユノと再会するまでに、2周目も、また、アンジェルに喰われそう。
そんなん、もうウンザリなんですケド。
しかして、シナリオ・リシャールは、フンフンと上機嫌で、ネクタイと腕まくりを直し、皺だらけになったブレザーを拾い上げ、さっと羽織る。ヒロインは、両手を下ろして、女の子座りをして、ずっとリシャールに見惚れたままだった。
S・R:
「……さてと。君は、先生が保健室に帰ってくるまで、無理に歩かない方が良いだろうね。そこで座って待っていて」
リシャールが指示すると、ヒロインは、「あ。はい……」とうつむいて、
「リ、リシャール様は……、もう、お戻りになられるんですよね……?」
と、両手で口元を隠して、わざと目線を逸らし、もじもじしながら尋ねてくる。
S・R:
「僕がいなくなると寂しい?」
「あ。はい」
さらっとこぼした直後、ヒロインはボッと赤面して、
「あ、いいいいいいえっ……、あのっ……、その……っ」
と、バツ印をするように両手をぶんぶん振って、激しくうろたえた。
リシャールは、きょとんとした後、フッと目を細ませた。
そして、スッとヒロインの頬に手で触れる。
S・R:
「本当に可愛いね。君は」
頬を触っていた手が、徐々に顎に移動し、クイと持ち上げた後、陶酔する瞳で、指先でヒロインの桃の花弁のような唇をなぞった。
S・R:
「それじゃあ、もう1つ。寂しくなくなるおまじない、しちゃおうかな?」
その言葉に、ヒロインも、「あ……」と、ドキンドキンと火照った顔で、じっとリシャールの顔を見つめる。
「リ、リシャール様……」
S・R:
「アンジェ。ああ。可愛い、僕のアンジェ……」
或る1点で、お互いの視線が絡み合って、気づいた時には、リシャールは、両手をヒロインの肩に、腰を屈めて、顔をアンジェルの顔に近づけていた。リシャールもヒロインも静かに目を閉じて、ぐっと首を傾け、互いの唇が迫る。
(え。ちょっと! 今度は事故チューじゃなくて、ガチでキスすんのっ……!?)
天の声な俺だけが、とかくパニクって、地獄のカウントダウンを感じた時だった。
「……へえ? 品行方正な王子様が、こんなトコで堂々と新参者と浮気かい??」
ドスのきいた、なんか聞き覚えのある声がした。




