第4章 07_調子こきすぎじゃね?
ヒロインは、さっきまでとは打って変わって――というか、明らかに、なんか別の緊張がMAXになって、おろおろ、ドキドキ、そわそわ。
リシャールは、そのおぼこいヒロインを密着する後ろから見下ろしながら、「フフッ」と嬉しそうに笑って、自分の魔力とアンジェルの魔力を共鳴させて、誘導をする。
S・R:
「ほら。また変に力んでしまっているよ? もっと肩の力を抜いて。難しければ、僕に身を委ねてくれて構わないから。とにかく、魔法は、イメージを明確にすることが大切なんだ」
「ハ、ハイ……」
アンジェルは、ごくりと息を呑んだ。
「これは軽い、これは軽い……」
と、念仏のようにブツブツ言う。
それに伴って、また、10個くらい、石のピースが
ふわっ、ふわっ、ふわっ
と、浮き上がる。
S・R:
「そうそう。良いね! でも……そうだな、君は、まだ制御に慣れてないから、一度に魔力を複数に注いで分散させるんじゃなく、一点集中してみよう? その方が、ずっとコントロールが上手くいくから」
「ハ、ハイ! ひ、1つだけ……、1つだけ……」
アンジェルが必死に念じると、浮いていたうち9個が、一斉に、
ガランガランガランッ
と、落下した。
S・R:
「じゃあ、今度は、これを向こうへ飛ばしてみよう」
「飛ばす?」
S・R:
「そう。君、円盤で遊んだことはある?」
「え? あ、は、はい……。じ、実家の弟達と……、飼っていた犬の遊び相手をしてあげている時に、少しだけ……。猟犬なんですけど」
S・R:
「へえ。猟犬を。僕もそういう犬達と遊んだことがあるよ。王宮の行事では、親善交流で狩りをすることも多いからね。じゃあ、思い浮かべてみて。これは、石のピースじゃない。円盤なんだって」
「フ、円盤ですね……? よ、よォーしっ。これは円盤、これは円盤……」
アンジェルは、またまた素直にリシャールに従う。
S・R:
「そう……。そう、そう。うん。いい感じ!」
しゅいんっ!
と、瞬く間に盤上へ飛ぶ石のピースを見て、リシャールは満足そうに頷く。
S・R:
「でも、今度は、アレを下ろさないといけないから……。そうだなぁ……、君、シャボン玉は作ったことある?」
「は、はい! 実家で……お洗濯のお手伝いをしている時に、泡立った石鹸液に風が当たって、ふわあって、キラキラしながら飛んでいくのを見るのが、わたし、ちっちゃい頃、とっても大好きで……。それはもう夢中になって、空に向かって息を吹きかけて遊んだりしていました」
S・R:
「いいね! きっと、とっても無邪気で可愛かったんだろうなあ」
「そんな……っ、わたし……っ。わたしなんて、ただの芋娘で……っ」
S・R:
「いいじゃない。僕は好きだよ。そういうの。とにかく、今度は、シャボン玉の、あの軽やかな雰囲気を当てはめてみて。目的の場所へ落ちるように、そうっと優しく吹き下ろす感じで。イメージを対象に伝えるのが難しければ、実際に吹いてみるといい」
そう真面目にリシャールは説明していたかと思いきや、
S・R:
「こんな風に」
と、ふぅーっと息を吹きかけた。
それが、故意か偶然か(つーか、絶対ワザとだろ)、アンジェルの耳に当たる。
「アッ――♡」
アンジェルは、瞼を伏せ、ゾクゾクッと身をすくませた。
後ろから見ても、悩ましげにのぼせていて、プルプル震え、自然にのけ反る感じが異様にセクシーだった。
(うわあー……。このコ、ホント、耳弱いんだな)
天の声化している俺は、ゲンナリと、1周目の、挙式前の淫らな睦み合いを思い出す。
あれは、どうにか最後まで致さずに済んだけど、正直、童貞な俺には、若干、トラウマになっている。
恥じらうアンジェルは、指先が震えるのを必死で抑えながらも、
「えいっ!」
と、魔力を前面に押し出して、まもなく、
カシャンッ!
と、いともたやすく成功させた。
盤とピースは共鳴したように、ブォン、と青く光る。
アンジェルは、ぱああっと顔を輝かせた。
「で、出来ましたっ!」
S・R:
「ああ。とっても素敵だ。流石だね、アンジェ♡」
うっとりするように称賛したリシャールは、ご褒美のつもりなのか、
チュッ♡
と、アンジェルの髪にキスをした。
(これ、フツーならセクハラ案件じゃね?)
天の声な俺の意見とは裏腹に、アンジェルはポポポッと真赤になる。
「ア、アリガトウ、ゴザイマス……」
完全にカチンコチンとして、ヒロインは一気に照れまくる。
(いや。婚約者の前で何やってんのよ、リシャール!)
髪へのキスだから、恋人ってよりは、子供とか幼い弟妹にするのと同じような位置だけどッ――。
(イケメン無罪、とかいうフレーズまんまというか……。ちょっと、コレ、調子こきすぎだよな?)
天の声な俺は、再び、ドン引きした。
しかして、案の定、悪役令嬢からは、ガンガン殺気めいた眼光と威圧感が発せられるし、ベレニスからも、冷ややかな軽蔑の視線がグサグサくる。
なのに、ニルスや、他のクラスメイトからは、「きゃーあっ♡」って感じの興奮したような歓声が沸き起こる。
先生は、完全に見て見ぬふりだ。
ピエールは、意外にも「ははは……」と乾いた笑いをするだけで、別段、冷やかしもしなければ、そう呆れている訳でもなく、ただただ「どうぞご勝手に」って感じだった。
(誰でもいいから、早く止めてほしい……)
天の声な俺はクスンと泣きたくなった。
そんな俺を嘲笑うように、この「王太子×聖女」の魔術指南にかこつけたイチャイチャは延々と続き――。
「じゃあ、わたし、今度は1人でやってみます!」
S・R:
「うん。頑張って♡」
リシャールも1歩下がり、すっかりデレた顔でヒロインに軽く手を振って声援を送る。
すると、アンジェルは、攻略対象者に褒められると本領発揮するのか、さっきまで、あんなに苦戦していた魔法の大パズルを、悪役令嬢ばりに、
カシャンッ、カシャンッ、カシャンッ
と、次々成功させていく。
(マジか……。これ、ゲーム的には、好感度ゲージの付加効果っぽい)
とか、呆気にとられてるうちに、アンジェルは、さっき動かし損じた他のピースもあっという間に片付けてしまっていた。
S・R:
「すごいすごいっ! やっぱり、君、才能あるよっ」
満面の笑みでパチパチと拍手するリシャールに、アンジェルは、
「ほ、本当ですかっ……!?」
と、目をキラキラさせて振り返る。
よっぽどテンション上がったのか、リシャールは1歩踏み出して、
パチンッ!
と、ヒロインとハイタッチした。
そこまでは、天の声な俺にも許容範囲だったんだが。
S・R:
「なんて素晴らしいんだ。可愛いアンジェ♡」
まもなく、そのまま、コツン☆、と額を突き合わせて、きゅっ、と恋人繋ぎをする。
これにドキン♡ とトキメいたらしいアンジェルは、顔を真赤に染めながら、
「リシャール様のおかげです……。わたし……、とっても嬉しくってたまりません……っ」
と、上目遣いで囁いてくる。
リシャールとアンジェルは、もはや、カップルみたいな甘い雰囲気で見つめ合っていた。
S・R:
「そう? 良かった」
リシャールは、また、アンジェルの耳近くの髪に、ちゅっ、とキスをする。
「アッ♡」
ヒロインはビクッと震え、慌ててパッと、両手恋人つなぎを離した。はにかみながら、ふいっと顔を背けて、両手で熱くなった両頬を押さえる。
「ひ、人前で……。恥ずかしいです……」
S・R:
「どうして? キスなんて、ただの挨拶だよ」
リシャールは、切なそうに首を傾げながら、ヒロインを宥めた。
(いやいや。ただの挨拶レベル越えてるって!)
ホント、何なんっ?
天の声な俺ばっかがツッコまなきゃいけない、ラブラブごり押し地獄って。




