第4章 05_でっかいパズル
さてさて、あの日、悪役令嬢によるヒロインの学園案内は、どんな塩梅に終わったのだろうか。
とかく、俺は気になって気になって仕方がなかった。
だけど、2人は、特に何も語らない。
かといって、円満に終わったようにも見えないし。
悪役令嬢は、いつにも増して虫の居所が悪い感じだし、ヒロインは、無理してる感じがありながらも、意外に飄々として、気丈で健気なヒロイン姿をリシャールに見せていた。
ので、正直、俺もすごく戸惑った。
――が、やっぱり、俺は、シナリオ・スイッチ全開なワケで。
(俺から『どうだった?』って訊きたくとも、こういう時、シナリオ・リシャールのヤツ、ガチでスルーするし。あんなに、アンジェ、アンジェって言って、所構わず発情というか、デレデレしてるクセに。何なんだろうな? この温度差は)
そんな不満と怒りがフツフツ沸いて堪らないんだけれども。
あの時、王太子の周りに2人の攻略対象者が留まっていたとはいえ、それ以外の攻略対象者は、どっかしらには居たとは思うので、そのうちの誰かが、悪役令嬢の嫌がらせからヒロイン助けるイベントとか起こったんだろうか、なんて、希望観測的に考えてみる。
(今んトコ、リシャール・ルートっぽいんだけど、2周目は、俺と同じ、転生ヒーローなレオナールもいるし。ゲームだって、クラス分けで決まる攻略対象者は、単に『他より好感度がちょっと高い』ってだけのスタートダッシュ的なヤツで、確定とも言い切れないしな)
そうして、本日も、なかなかジャンキーでリスキーなトキメキ(?)学園生活の始まりだ。
今日の1時限目から3時限目は、主に座学で、ファンタジー・ナイズされた現文、生物、歴史って感じだったかな。つまりは、魔法言語学、幻魔獣学、魔法歴史学、なんだけど。
しかして、4時限目はというと、ファンタジーな物理、魔法力学の講義だ。
これは、教科書だけでは、いまいち分かりにくいところがあるから、実技を交えて学ぶことが多い。
だから、今日は、教室でなく演習場で、「精神集中がもたらす実現性」という内容で、簡単な魔力流動を作り出す授業をおこなうことになった。
無属性で、魔法ってよりは、むしろ、念動力っぽい感じだが――。
そこで、俺等、A組の生徒らの前に、ずらりと、1升餅ぐらいの大きさの石のパズル・ピースが広げられる。その向こうには、江戸間2畳分くらいの岩のパズル盤が置かれていた。
皆は、先生に言われて、まずは自分の手で石のピースを持って、その実際の重さを確認させられる。
ソレがどのくらいの重量があって、ソレを動かすためには、どのくらいの魔力が必要なのか、イメージを膨らませて、魔力の放出量を上手く調節しないといけないからだ。
魔法だけど、そういうのは、どこか熱量を求める計算に似ているかもしれない。
ただ、AからBに位置を動かすだけなら、おはじきみたいに、単純に対象に魔力をぶつければいいんだけど、これは、パズルだから、ピースを浮かせて、決められた配置で盤に嵌めていって、完成させなければならない。
つまり、「浮かす」と「移動」と「設置」という、3つの異なる動きが必要だから、その操作には、研ぎ澄まされたような集中力が必要なんだ。
そして、これは魔法だから、手で持って動かすのとは違うアプローチで、どうしたいのか、作用の結果を明確に想像しないといけない。
とはいえ、ばらばらのパズル・ピースは、あっちこっち向いてるし、中には、裏返っているものもある。これらの完成図に目星つけながら、魔力で制御しないといけないので、なかなか大変なんだ。
けど、この魔法、完全にダンジョン・トラップ攻略用で、実は戦闘で使えないんだよな。
それは、単純に「使い勝手が悪い」という意味じゃない。
ゲームでそう位置付けされているから、戦闘では、原則使用禁止みたいになっていて、無理に使おうとすると、不発だったり暴発したり、使った側が散々な目に遭うので、自然と、皆、使わなくなっていった、っていう。
じゃあ、なんで学ぶのか。
それは、やっぱり、ダンジョン踏破のため――と言いたいところだが、対物にはきちんと使えるので、日常生活においては、土木工事における重機の役割を果たすといえるかもしれない。
でも、それなら、戦闘中、大きな岩とか、丸太とか、鉄球とか、巧いこと操作すれば、敵にぶつけられんじゃね? って思うんだけれども。
しかしながら、先生がた曰く、そういう芸当ができるのは、特別な能力者限定らしい。
つまりは、該当属性を持つ攻略対象者だけ、ってことになるんだが。
(俺調べでは、それ、たぶん、2年の留学生。北の隣国ラウムスブルク王国出身の、【天秤座】守護【重力】属性のウルリッヒって奴だと思う。まだ会ったことないけど)
かくして、授業課題は、やっぱり5~6人くらいずつのグループ制で挑む。
本日の実技は、普通に教室の席順で分けられた。
だから、王太子が振り分けられたグループは、ニルス、ヒロイン、悪役令嬢、ベレニス、ピエール、っていう、ホントに教室の席まんまのメンバーだった。
「ホーホッホッホッ! これぐらい楽勝ですわっ」
悪役令嬢が、魔力でひょいひょいと石のピースを浮かせては、くるくると向きを直して、パズル盤に、カチリカチリと嵌めていく。ピースが合うと、ブォンと鈍い音と共に青白く光るので、正解が分かりやすい。
「流石です! マリー様!!」
ベレニスも腰巾着っぽく嬉々とヨイショして、
「では、私も……っ」
と、スッと両掌を前に目を閉じて、小声でぶつぶつと呪文を唱える。
すると、ベレニスの魔力を受けたピースもフワァッと浮き上がって、ひゅんっと瞬く間に盤上に飛び、カチリと綺麗にパズル盤の中に収まる。
魔力が豊富でコントロールの良い悪役令嬢は、タイムラグのほとんど無い連射ぶりで操作できていたが、ベレニスは、1つ動かすと、次を動かすまで少し間が空く。けれど、1回の移動はすごくスムーズで、向きもきちんと合っているので、成功率が非常に高かった。
ピエールもモブの割には、なかなか筋が良いみたいだ。
ベレニスより時間がかかるけれども、ちゃんと石のピースは持ち上がって、よたよたしながらも、きちんと盤まで届いて、カチリと嵌まる。
魔力の乏しいニルスはというと、先生に教えられた通りにするものの、
「わっ! 全然持ち上がらないっ」
と、石のピースがうんともすんとも言わない残念ぶり。
見かねた坊ちゃん刈りモブのピエールが、
「そんな慌てなくたって大丈夫だよ、モラン君。ほら、ゆっくりで良いから。もっと気を落ち着かせて、集中してみよう? そして、image(=イメージ)しながら、魔力を開放するんだ。これは石じゃない。僕らがいつも使ってる、紙や木で出来たpuzzle(=パズル)と同じなんだって」
と、親切にアドバイスしていた。
それは、傍観者な天の声な俺には、なかなか適格な解説だったんだけど。
ニルスはギクッと身をすくめて、
「えええっ……? ぼ、ぼくっ……、puzzleなんてやったことない……っ」
と、慌てふためいた。
ピエールは「えっ?」と困り顔になる。
そういや、ニルスは、フットマンとしての実務経験はあるけど、その手の一般教養っつーか知育玩具的なのに触れる機会なんて、ほぼほぼ無かったんだよな。
兄貴のクロードは、王太子の侍従だから、勉強も遊びも俺に付き合って何でもやってたけど、弟のニルスは、基本、アウトドア専門の御供って感じ。ニルス自身、インドアでアレコレちまちまするの、性に合わないみたいだし。
だから、強いて言うなら、チェスとかトランプとか? 基本、誰かと一緒にやる系のヤツで、天気が悪いだとか、何かのちょっとした空き時間みたいな、外に行けない時に、「誘われたから、たまたまやる」っぽいのじゃなきゃ、見向きもしなかった、っていうか。
一方、リシャールは、その2人の隣で、一気に3ピースくらい浮かせて、宙で合体させ、大きめの塊にして、一気にドドンと盤に嵌めていた。
だけれど、あんまりニルスがわたわたするので、スッとその腕を取り、
S・R:
「だったら、君は、biscotte(=クラッカー、ラスク)を思い浮かべたら良いんじゃないかな? ほら、静かに目を閉じて。想像してごらん。今、君は、厨房でplancha(=調理用鉄板)に山積みになっているソレの目の前に居る。君は、ソレを1枚を取り上げるんだ」
と、自分の魔力をニルスに伝わらせて操作誘導する。
「ビ、ビスコット……ですか? ええっと……、はい……」
ニルスは目を閉じて、「う~んう~ん」と、顰め面みたいになりながらも、懸命にイメージを膨らませる。それに反応して、たちまち、ニルスが手を向けていた石のピースが微かに浮く。
「わっ!」
ニルスは歓声を上げた。
リシャールはクスと微笑む。
S・R:
「良いね。じゃあ、次は……そうだな。君は、あれに、fromage(=チーズ)を載せて食すのが好きだろう? けれど、canapé(=クラッカーなどに好みの食材を盛りつけた料理)にするなら、まずは、お皿にビスコットを並べなければならない。君は、いつも、どうやっているの?」
訊かれ、ハッとしたニルスは、意気揚々と答える。
「それはもう! きちんと方向を揃えて、お皿の形に合うよう、こう、一列にして……」
ニルスは、じっくりイメージしながら、ふらりふらりと心許ない動きながら、浮かせた石のピースの向きを合わせる。パズル盤の該当箇所の上に持っていたところで、じわりじわりと下ろし、カチリと収めた。
途端に、ピースと盤は、ブォンと青く光って反応する。
ニルスは「わあっ」と目を輝かせて、隣で補助するリシャールに向かってはしゃいだ。
「すごい、すごい! 入りましたっ、入りましたよっ! 王子っ……」
S・R:
「うん。良い感じだね。初めてにしては上出来だよ」
にっこりとリシャールは極上の笑みを見せる。
それに、ニルスはもちろん、周りにいた、グループの皆もポーッとリシャールに見惚れてしまう。
天の声な俺も驚いた。
(シナリオ・リシャール……、普通にヒロイン以外にも優しいじゃん!)
そうかと思っていると、ヒロインが、頬を林檎のように染めながら、リシャールの前に来て、
「あ、あの……、王子様に、こんなこと、申し訳ないんですけれど……」
と、もじもじ、ソワソワしながら、
「わ、わたしにも、魔法……っ、お、お、教えて下さいませんかっ!!」
と、ぺこり! と、ほぼ90度のお辞儀をして、半ば絶叫気味に懇願した。
その声の裏返りぶりときたら、傍から見ても、めっちゃ緊張しまくりで、天の声な俺も流石にちょっと同情しかけたが、よくよく見ると、そのヒロインの遥か後方で、チッと舌打ちする悪役令嬢の姿が目に入った。
S・R:
「…………」
リシャールは冷めた瞳で悪役令嬢を認め、瞬間、天の声な俺までゾクッとするほどの「あいつウゼェ」なマイナス感情が伝わる。
反面、きゅるんと小動物みたいなヒロインには、「この娘カワイイ」トゥンク♡なトキメキが起こって、ソッコー、恋愛脳男子なデレデレが伝わってきた。
(うわー……相変わらずだな)
一転、リシャールは、ヒロインに喜色満面の笑みを向ける。
S・R:
「いいよ」
天の声な俺は、ズガンと衝撃を受けた。
(えっ? じゃあ、さっきのって――、実はニルスのためじゃなくって……、ただ、ヒロインにアピるためだけの行動……っ!?)
S・R:
「ごめん、ニルス。構わないかな?」
そう一言、気遣うような素振りで、リシャールはニルスの顔を覗き込む。
「は、はい……」
ニルスも目をぱちくりさせて当惑していた。
S・R:
「Merci !(=ありがとう!)」
とかって、リシャールは、いそいそと、ヒロインの元へ歩み寄る。
(マジか……。そういや、ニルスの面倒みてやるの、本来なら、主人である王太子の役目だと思うのに、最初、クラスメイトに丸投げしてたもんな)
果たして、ものすっごく嬉しそうに、フンフン♪ と鼻歌うたうリシャールの姿を実感して、天の声な俺は、ほとほとドン引きした。




