第4章 04_タテロールな攻略対象 (挿絵_11)
打ち合わせも大筋終わったところで、不意に、
「やっほー」
と、能天気な声が聞こえて、再び、1人の学生が王太子を訪ねてきた。
現れたのは、またまた身長180cm越えの男子学生。
1周目終わりのリシャール(※約183cm)とおんなじか、ちょい高いくらい?
キャラメル・ブロンドのタテロール髪に、ヘーゼルの瞳。
制服のブレザーとスラックスは、俺等と同じなんだけど、シャツが女子みたいなヒラヒラ飾りが付いていて、ネクタイの結び方が、俺等は標準結びなのに、彼は、リボン結びといった、かなり攻めた華やかな結び方をしている。
めっちゃ派手というか、リシャールより薔薇が似合う、大昔の王宮ロマンス系少女漫画に出てきそうなイケメンだ。
この明らかにクセ強ないでたちにも、俺とニルスは、「あ」って感じで動じなかった。―‐が、オクタヴィアンは、一気に緊張して、ガタッと席を立つ。
「カ……カリカンネサ公爵令息っ……先輩っ……!?」
「あっれー? 君、誰だっけ??」
きらきらタテロール男子は、ころころと上品に笑ってみせる。
俺は、「はあーっ……」と溜息をついて問うた。
「何しに来たの? ウース。ここ1年生の教室だよ。君、3年生でしょ」
「えー? ひっどいなー。リカってば。僕は、入学ほやほやのカワイイ再従兄弟に会いに来ちゃいけないのかい?」
きらきらタテロール男子は、半眼になる俺をむぎゅっと抱き締めて、ウザいくらい頬擦りする。
このちょい空気読めない感じのきらきらタテロール男子、ウースこと、エウスタキオ=マテオ=アランサバル公爵令息は、3年生で、サンクレール王国の西の隣国、ティエラスカーナ王国から来た留学生だ。
そして、俺、王太子リシャールの再従兄弟でもある。
「っていうかあ、僕のことは、『タッキョ』って呼んで、って、いつも言ってるでしょ?」
「じゃ、僕も、『リカ』より『リシュ』のがいいんだけど?」
俺は、ちょっとムスッとしながら、この派手々々ハトコを押し退けて抗議する。
ティエラスカーナ王国は、強いて言えば、リアル地球のスペインっぽい国だ。
だから、彼の国の公用語もスペイン語になる。
なので、フランスっぽい我が国では、俺の名前は、Richardなんだけど、スペインっぽい彼の国では、Ricardoって読みになってしまう。
とはいえ、日本人的には、「リカ」って女子の名前って思っちゃうし。
それぞれの母国語の発音問題とはいえ、やっぱ嫌なんだよな。
それに、オクタヴィアンは、気後れしながらも「なるほど」と心得る。
「……そ、そうか。お2人は、ご親戚――なのでしたね?」
「そう! 僕のyaya(=お祖母ちゃん)アンヌ・マリー様が、リカのyayo(=お祖父ちゃん)、今は亡き大シャルル様の妹君なんだ」
ニコニコと満面の笑顔で、派手々々ハトコは自慢する。
「ところで、君は誰かな? リカのお友達かい??」
問われ、オクタヴィアンは、ぴんと背筋を伸ばして、カチンコチンになる。
「あっ……いえ、そのっ……、ジ、ジブンは、1年B組の学級委員を務めている、オクタヴィアン=エクフイユという者でありましてっ……!!」
「エクフイユ? トゥール・マン・スィニョル伯の??」
「え? ええ……」
「いいとこだよねえ! あそこ。シャンパンがすごく美味しいんだ♪」
「! よくご存じで。あれらは、我が伯爵領の特産品で」
お? なんか、オクタヴィアンの目の色が変わったぞ。恥ずかしそうにしながらも、オクタヴィアンは、自分ン家の領地のセールスマンみたいに、思いっきり地元PRをしている。
「是非とも、今度いらして下さい! 我がエクフイユ家は、領内のシャンパン組合を後援しておりましてっ……、よしなにしている工房の見学なども出来ますから……っ」
「いいね! それ。工房に行ったら、試飲とかもさせてくれたりする?」
「勿論ですとも! 様々な種類がございますから、是非、dégustation(=利き酒)して頂いて、お好みのものがございましたら、ティエラスカーナ王国の皆さんへご紹介頂ければ……」
「うん。僕のお父様やご友人方にも、シャンパン好きは多いから、検討してみるよ」
派手々々ハトコは、屈託のない笑みで答えた。
オクタヴィアンもすごく誇らしげな顔をしている。
そうして、派手々々ハトコは、上機嫌になって、ぐいっと俺の肩を引き寄せる。
「そうだ! リカも一緒に行こうよ。色々飲ませてくれるってさ♪」
「あのさ。ウース。僕、まだ、15歳だから」
「でも、今年で16歳になるんでしょ」
我がサンクレール王国の飲酒可能な年齢は、16歳からだ。
日本人的には、ちょっと早いけど、ここは、20代前半までに結婚しないと男女ともに行き遅れ認定されるみたいな国だから、まあ、仕方ないのかもしれない。
でも――。
「僕、遅生まれだから、16歳になるの、来年の1月だよ」
「そうだっけ? あ。じゃあ、Zumo(=ジュース)は? 樽に仕込む前のやつ、飲ませてもらうとか――」
めっちゃ嬉々として、エウスタキオは俺を見る。
前世、日本で家族旅行した時に寄ったワイナリーでは、工場見学の後、確かに、子供は、ジュースの方、試飲させてくれたことあるけど。
ただ、そこで話合わせちゃうと、エウスタキオ、調子乗っちゃうからな。
「それって意味あるの? だって、最初からle jus(=ジュース)専用で作ってる訳でもないし。発酵して完成するものでしょ? ワインも、シャンパンも」
俺が口を尖らせると、この派手々々ハトコも同じように口を尖らせる。
「でも、君、王太子なんだからさ。いっそ、こっそり呑んじゃえば――」
「王太子だからこそ、法律は守らなきゃ、でしょ!」
俺は怒鳴ったものの、至ってマイペースな派手々々ハトコは、「はあ」とわざとらしい大きな溜息をついて、肩をすくめた。
「お堅いなあ、リカってば。君、そういうトコ、もっと融通利かそうよ」
この顔は、ジョークじゃなくて、完全に「そう思ってる」って表情だ。
「あのね。君こそ、言ってる事めちゃくちゃだよ。タッキョは、僕等より2歳も年上なんだから。もう少し、良い大人の見本になってくれないと」
敢えて、向こうの望む愛称で、俺が苛立ち交じりに注意すると、さしもの、派手々々イトコも、
「ちぇー」
と、ふてくされながら、俺から離れて黙る。
(……もう。ウースのやつ。ホント人前でやめて欲しい。下手すると、我が王家の恥晒しみたいになるから)
今度は、俺の方が頭を抱え、嘆息を漏らしたくなった。
この底抜けに明るくチャランポランな派手々々ハトコは、
前世を引き摺って人見知りムーブしがちだった1周目の俺にも、
窮屈で退屈な優等生演じがちだった2周目のデフォルト・リシャールにも、
こっちの都合なんてお構いなしに、フランクにずかずかクる系だったので、
「ウゼェ」反面「こいつ優しいな」ってのがあって。
俺もそんなに嫌いじゃなかったんだけど。
実は、エウスタキオも、攻略対象者なんだ。
それも、【射手座】守護【音】属性。
正直、属性【音】とか、意味分かんないんだけど。
ビジュアル・能力ともに、こいつは、ニッチすぎるから、たぶん、攻略難易度が高いんだと思う。
――何で、そう言い切れるかって?
だって、エウスタキオは、リシャールの親戚なだけあって、1周目も、わりかし俺に絡んできたんだけど、その時は、ヒロインは、彼に見向きもしなかった。
ガチでリシャールにゾッコンだったんだ。
それだけ聞くと、なんか思春期男子ドリームむふふな香りがプンプンするけど、俺は、シナリオ・スイッチ地獄だったので、全然、青春してる感じもなくて、まったく嬉しくなかった、っていう。
(他人に作られたトキメキなんて冗談じゃねーや。自分でマジ好きだって思える女の子と、キャッキャウフフするからこそ、ガチでドキドキして、アオハル全開、めっちゃルンルン気分になる訳で――)
俺は、色々モヤりながら、はあ、と深い溜息1つ、頭をがりがりと掻く。
「で? 何? タッキョってば、本当に、リシャールに会いに来たワケ??」
「半分はね♪」
エウスタキオは、きらりん☆彡と星振りまくように、ウインクする。
「君のクラス、入って来たんでしょ? ほら、伝説の――」
「星辰の乙女?」
「そう! どんな女の子なのか、俄然、興味湧いちゃってさあ」
フフフと、タッキョは乙女チックに両手添える頬をちょっと赤らめる。
(これは、恋愛的なアレとかじゃなくて、完全にミーハーなヤツだ)
攻略対象者だけど、エウスタキオ、「女の子より絶対自分大好きすぎるだろ」ってな感じのアイタタさっつーか、地味にナルシストっぽいトコあるから、ヒロインもそんな心惹かれないんだろうな、ってカンジ。
実際、リシャールの方が分かりやすい典型的な少女漫画ヒーローだし。
同い年だし。
(とかって、俺も、シナリオで動いてなきゃ、全然ヒーローじゃないけど。外見はそうでも、俺みたいな元ゲーマー陰キャなガキんちょは、フツー、お呼びじゃないよな)
なんて、内心、自分自身に悪態をつきながら、
「そうなんだ?」
と、愛想笑いで応えていると、
「あ! それっ。ジブンも興味ありますっ!!」
と、オクタヴィアンも、照れ気味に、しゅたっと手を挙げる。
俺はオクタヴィアンの顔をじっと窺った。
(……こいつは、どっちだろう? 普通に、異性として、ヒロインに興味あるのかな??)
こういう生真面目なタイプほど、ヒロインみたいなロールキャベツ系女子にメロメロにされる傾向にあるよな。あの娘、本気出すと、アダルト判定スレスレのエロカワ痴女だから。
「聖女様、王子のお隣のお席なんですよ」
ニルスがほくほくと笑う。
「そうなんですかっ!?」
「ねえねえっ? どんな子っ? すっごくカワイイッ??」
2人の攻略対象者らに詰め寄られて、俺はビクッと腰が引ける。
「べ、別に。普通の子だよ。すごく素朴な感じの」
アハハと、僅かに引き攣った笑みで俺は答える。
そうして、当たり障りなく、俺は、言葉を選びながらヒロインについて語ったんだけれども――。
なんだか、俺も、ついつい、今度の校外演習でヒロインと同じ班になったことまで喋っちゃって、ますます、話題は妙な方向にヒートアップしていった。
「いいよねェ。そういう時こそ、普段、学園では起こりえないロマンティックな出来事に遭遇しがちなもんだし。僕等3年生は、皆、卒業に向けて仕上げの時期だから、その手の授業、減ってきてて、最近は愉しみが少ないんだよね」
そう苦笑するエウスタキオの感想はともかくとして。
「いや、まったくお羨ましい! A組の学級委員ということで、かの聖女様のお世話係を任命されるなど!!」
なんて、ナチュラルに興奮気味にはしゃぐ伯爵令息なオクタヴィアンの姿に、俺はあんぐりとして、
(いや、それって、普通、王太子な俺が『お世話される』側じゃねーの?)
って、思ってしまった。
でも、実質、先生からすりゃ、学級委員が「お世話係」だから、班分けクジ、やり直さずに、王太子の班にヒロイン捻じ込んできたんだよな。
ヒロイン入学前のクジ方式だと、クラス成績1位のリシャールと、2位の悪役令嬢は、それぞれ別班リーダーになるの確定だから。
(クジ『やり直し』だと、たぶん、入試とか諸々の成績的には、ヒロインもリーダー側になる気がするし。だから、システムから妨害こなかったのかもな)
結局、この日は、下校時間のリミットまで、この2人に、ヒロインについて根掘り葉掘り訊かれてしまった。
なので、俺も、なんとなく、そわそわ、ヒヤヒヤ。
(ゲーム的には、攻略対象者同士って、ヒロインめぐってバトルするカンジのはずだから、俺、この2人とも、いつか揉めることになるのかな?)
なんて、言い知れぬ不安を抱えて、俺は、終業の鐘の音の後、ニルスと一緒に、王宮へ帰っていったのだった。




