第4章 03_カタブツな攻略対象
本日は生徒会も部活もなかったから、「そろそろ帰ろうかな」と支度し始めた時だった。
矢庭に、王太子の元に意外な訪問者がやって来た。
「……殿下。来週の2組合同の校外演習について、打ち合わせ、構わないだろうか?」
廊下先から話しかけてきたのは、同級生・攻略対象者の1人、伯爵令息オクタヴィアン=エクフイユだった。
コイツが割と砕けた話し方になっているのは、シナリオ・スイッチ入ってない時の俺が、そう許可したからだ。
とりま、同学年の攻略対象者らの顔を1通り見てやろうと、前にちょろっと順に他クラスを覗き見していった時に、B組の学級委員だったコイツの方から、王太子に「何か御用ですか?」って話しかけてきたんだ。
「ああ。大丈夫だよ」
俺はにっこりと王太子スマイルで応える。
すぐ近くに並ぶと、オクタヴィアンも、身長180cmくらいはある。そして、全体的に、線がガッシリしてるっていうか。これがリアル地球の高校生なら、なんか柔道部にいそうな感じの体格だ。
灰汁色の髪は、ソフトモヒカンっぽい感じで、瞳は山鳩色。
もっと派手なツンツン頭のレオナールは、どっちかっていうと、ちょこっとヤンキー入ってる感じだから、オクタヴィアンの方が、まだ、幾らか爽やかだ。まあ、ちょい古風めのスポーツマン的なイケメンだな。
廊下で立ち話するのもなんなので、俺は、オクタヴィアンを教室の俺の席の方へと招いた。
ニルスがオクタヴィアンに自分の席を譲ったところ、気さくな坊ちゃん刈りモブのピエールが、
「僕はもう帰るから。どうぞ、僕の席も使って」
と、ニルスに勧めてくれたので、ニルスがピエールの席に座った。
「じゃあ、ぼく、書記やります!」
ニルスは、筆記用具片手に、ハイッと手を挙げた。
「ああ。ありがとう」
俺も笑顔で頷いた。
俺は、正面向かい合って畏まるオクタヴィアンを見ながら、どう話そうか考え、
「えっと、演習は、当日、出題された魔道具を再現するのに必要な素材を、自分達で解明した後、街で調達してきて、実習室で、各自、その分析が正しいか、魔術合成をおこなうんだよね?」
と、確認交じりに切り出した。
このお題、学園内で完結させずにわざわざ街へ行くのは、社会見学と、その自主性を育むためだ。
だって、学園の生徒は、上流階級の子女が大半だから、市井に疎いというか、庶民感覚がズレてるヤツが一定多数はいる。
中等部までは、生徒の身の安全を考えて、ほとんど学園から出ることが無く、座学の割合が多かったのに対して、高等部は、実戦課題が増えるから、状況が全然異なるっていうか。
なんでも学園が御膳立てしてたら、魔物の襲撃とかに悩まされている地方に、いざ見習い魔術師として派遣された時に、右往左往しかねないから、っていう、鍛錬目的がある。
「素材は、きちんと指定された店舗で手に入れないといけないから、必ず、毎回、承認印を店員さんにもらわなればならない、で合ってたかな?」
「ああ。1班あたりの人数は、4~5名。我がB組は、38名いるから、全部で9班になるかな。それぞれ出されるお題も、班ごとで異なる。ただ、住民に迷惑がかかるといけないから、各調達エリアは分散している。A組とB組は、西部エリアになったらしい」
オクタヴィアンはぎこちなく笑う。
緊張してるっていうか、たぶん、こいつは、元から笑顔作るのが苦手なんだ。
でも、まあ、清潔感はあるし、きっと、不器用なタイプなんだろうな。
「西部か。へえ。じゃ、マルシャレドブリュー地区になるのかな。フィアフィロッテ通りの辺りとか、有名な魔石のお店とか、霊魔草みたいな魔ハーブ類、売ってるお店あるよね」
「ああ。あの辺りは、同業店舗が密集している方だから、各店を巡るのにも移動距離が短くて、時間短縮になって便利だ。なかなか良いところが当たったと思う」
俺とオクタヴィアンは、にこやかに談笑して、雑談も交えながら、あれこれ、当日、必要な項目について話し合う。その俺等の隣で、ニルスは、必死にメモを取っていた。
「当日は、学園側で、班ごとに1台、幌馬車を用意してもらえるんだよね」
「徒歩で全部回ると授業時間内に終わらないからな。調達した素材も運ばないといけないし。とはいえ、馬繋駐車場の問題もあるから、班ごとの出発時間、順番など、事前に決めておいた方がいいんじゃないか、と思うんだが」
オクタヴィアンが顎を触りながら物思いに耽るように言うと、
「うわあ! なんだかワクワクしますね」
と、ニルスは無邪気にはしゃぐ。
俺はフフッと笑った。
「ニルスは、こういう学級活動自体初めてだもんね。街の人との交渉は、君の方が慣れてるから頼りにしているよ。変な揉め事とかおこらないよう、僕等も細心に気を配るつもりだけど、やっぱり、そういうの不慣れな生徒もいるからね」
「はい! お任せくださいっ。王子っ!!」
ニルスは、喜色満面でビシッと敬礼を決める。
ホント素直だなあ、ニルスは。癒されるわ。
けど、この演習、今は1年生だから、素材調達先が市街地限定になっているんだけど、これが2年生になったら、その手の魔物を狩ったり、山野や洞窟とかに存在してるのを、自分達で獲ってこないといけなくなるから、結構大変なんだ。
「ジブン、ひとまず、この班決めが、なかなか苦労したんだが」
オクタヴィアンは恥ずかしそうにカリコリと頬を掻く。
一人称「自分」て。
相変わらず、なかなかのパワー・ワードだな。
前世の人生も含めて、10代でそういう奴、俺、初めて見たんだが。
オクタヴィアン、口数は少なめだけど実直だし、なんか、ガチで昭和の銀幕スターみたいだよな。
でも、俺は、こういう感じ、嫌いじゃない。
レオナールのがアクが強すぎるから、むしろ、こいつは、真面目に学生やってる感あって、まあ、良いんじゃないだろうか。
「皆の身分との兼ね合いもあるし、気に入らないものは、こちらの苦労などお構いなしに、大きな声で不平不満を言ってくる。かといって、それに迎合しすぎると偏ってしまうし。あまり実力差が出ないよう、平等に分けるのって、なかなか難しいものだな」
「そうだね! 僕は、クジ引きで決めたけど」
アハハと笑って俺が言うと、オクタヴィアンは、「え」と目を白黒させた。
「そ……それは、優秀な者と、そうでない者が偏ったりしないのか?」
「あー。まあ、その心配はゼロじゃないけれど。とりあえず、うちのクラスは、全部で31人だから、まずは、クラスの成績順で5人ごとに区切りを入れて、上位6名が、各班のリーダーとして、その区切りごとでクジを引く役にしたんだ。それなら、極端に差は出ないと思うし」
「成績順ごとの、クジ……?」
「それと、31だと割り切れないけれど、王太子は、お目付け役として、このニルスを常時伴わければならないから。ニルスは、最初から、僕と同じ班となるように、クジの対象から外したんだ」
そう俺が言うと、ニルスは、「てへ」とはにかんで、
「面目ないですけど、ぼくには、成績がどうとかより、まずは王子をお守りすることの方が第一なんで」
と、オクタヴィアンに軽く会釈しつつ、頭を掻いた。
俺もクスと苦笑する。
「だから、とりあえずは、班決めも揉めるってよりは、皆、結果見て一喜一憂して、盛り上がってた感じかなあ。僕も結構楽しかったし」
「しかし、それでは、ハズレクジというか、仲間割れが起きたり、身分差を気にする者がいるのでは――?」
「そうかもしれないけれど。だからって、代わり映えしない面子で固まるのは、どうなのかな。むしろ、天運に任せた結果だからこそ、誰が悪い訳でもないし。その辺、お互い折り合いをつけて、協力する大切さが分かると思うし」
「はあ」
「僕は、出来れば、同じクラスの中で、そういう派閥的なもの、なるべく出来ないようにしたくてね。それに、この演習がきっかけで、以前は避けていた人とも親しくなれたら。クラス全体の雰囲気も良くなるんじゃないかな、って、ちょっと期待してるんだ」
それは俺の本音だった。
だって、俺は王太子だから、油断すると変にすり寄ってくる奴がいるし、王太子や身分をだしに他者にマウント取りたがる連中ってのが、そこそこいる。
悲しいことだけど。階級社会って、やっぱ、そういうトコあるんだ。
俺はそんな連中にコロッと騙されたくないし、できれば、弱い立場の生徒が不利益を被るようなことはしたくない。
前世、陰キャ底辺モブだった俺には、そのツラさ、痛いほど分かるから。
クジは、成績順位ごとで人数区切ってるから、上位と下位で密かに交換して、希望の班に入ろうとズルする奴がいても、それはオカシイって、すぐ分かる。
それどころか、同レベルでも交換とかできないよう、全リーダーが、引いた直後に、一斉に、そのクジを黒板に磁石で貼り出し、全員に結果を見せることを義務付けて、不正が無いようにした。
(あとは、まァ、悪役令嬢とヒロインとの適切な距離を取りたいっつーか。ここで、攻略対象者の俺がなんとか気張らないと、1周目みたいになっちゃうからな)
それで、このクジは、シナリオ・スイッチに邪魔されないよう、放課後とかに、直接ルコック先生に、「こんなのどうでしょう?」と学級委員として提案した。
各班のレベル調整を全面にプッシュしたおかげか、先生も好意的に承認してくれて、システム側もそこまで妨害してくる感じはなかった。
とかって、やっぱり、攻略対象者な王太子がヒロインと同班で、悪役令嬢は別班に、みたいにはなっちゃったんだけど。
ただ、1周目は、王太子と悪役令嬢とヒロインが全員一緒っていう、少女漫画にありがちな、完全リスキー三角関係な班構成になっちゃってたから、せめて、1人離れてくれるだけでも御の字とするしかない。
「…………」
オクタヴィアンは驚いたように、まじまじと俺を見る。
俺は首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや……、なんというか、その……、殿下は、王族であるのに、意外に民主的なのだな、と」
俺はギックゥとする。
そりゃまあ、元日本人ですから!
前世でも、親ガチャ、外見至上主義で、マウント取ったり取られたりな鬱空気は幾らかあって、マサトみたいなゲーオタ陰キャなモブは、万年底辺にいたけども。
流石に、法律で決められた、ゴリゴリ身分社会に深く根差した、筋金入りの差別意識にどっぷり浸りきった連中とは、育つ土壌が違いますわ。
っていうか、そういう意味では、今世の俺、前世に比べると王族チートが過ぎて、ちょっと厭な奴になっちゃったかな、って気がしないでもないんだが。
(自分は、この国の王太子なんだって自覚を持たなきゃいけないと同時に、その地位や権力に溺れてもいけないよな、って感じるから、その上手い落としどころを見つけるのが難しいんだけど。それに、シナリオ・スイッチ入ると、もう俺の手には負えなくなるし)
そうかと思うと、ニルスが、エヘンエヘンと随分と得意げに咳ばらいをして、
「すごいですよね! ぼく、王子みたいな寛大なご主君にお仕えできて本当に光栄です!!」
と、鼻高々に胸を張った。
それがどうにも滑稽に見えたのか、オクタヴィアンもプッと噴き出して、くすくすと、ごくごく自然に笑った。
どこかイカツイ雰囲気も、普通に年相応の少年の顔つきになる。
「まったくだ。ジブンも、殿下のような御方が造られる御代が、今から楽しみになった」
これは誉め言葉と受け取って良いんだろうか。
俺なんか、国王陛下に比べたら全然だと思うけど。
ちょっとでも、そんな風に思ってくれる奴がいるなんて、すごくこそばゆいけど、素直に嬉しいな。




