第4章 01_乙女ゲーム(バトル?)開始!
あの日、カミとのファースト・コンタクトを終えた俺等は、それを境に、いくらか運命が変わった気がしたんだ。
それから、シナリオ・リシャールが仕掛けた、悪役令嬢を利用した「レオナール排除作戦」は、伝説の聖女の出現にともなう洗礼祝典に際して、国が恩赦を実施したことで、合わせて不問に処されて、うやむやになった。
そもそも、不敬罪っていう割には、レオナールも、そこまでたいしたことしてなくて、グレー判定な訳だし。ヒロインがいよいよ入学するのに、攻略対象者の離脱は困る、ってことで、システム側から、そういう軌道修正が反映されたんだろう。
レオナールは、筋金入りの野球バカだし、やっぱり俺の苦手なスポ根オラオラ系っぽさは相変わらずだったので、本音でいえば、あんまり関わりたくない気がしたんだけど。
ただ、あいつ、意外に機転が利くというか、割に賢いというか、いうほど脳筋でもなくて。実は俺より知能高い気がしたんだよな。
あと、やっぱり転生仲間ってのも地味に心強い。
――ので、俺も「まあ、あんな奴が友達に1人いても良いかな」って。
それに、この騒動がきっかけというか、なんかなりゆきで、国王陛下と王妃殿下に、王太子が友達?(※レオ)と新しいスポーツ(※野球)を広めようとしてるって、オカシな形で伝わっちゃって、俺も何気に引くに引けなくなってしまった。
だから、俺もどうしようかなと思ったんだけど、その後、学校でレオに会ったところで、これまた、その場の雰囲気で、ついつい、俺も「君が勝ったら入部してあげる」って言っちゃったんだよな。
これに、レオを毛嫌いするニルスは難色を示したけど、そこはレオというよりは、俺の方がゴリ押しして、俺等は、そのまま、野球対決をすることになった。
つまりは、俺が投げたボールに対して、レオがホームラン打てるかどうか、って、一発勝負だったんだけど――。
あいつ、前世は、ガチですんげえ強打者だったみたいで、本当に特大アーチ打ちやがった。
それが校舎の窓を突き破っちゃって、あわや学園長に当たりかけたのは、流石にヤバかった。案の定、生活指導もしてる体育教師(※武術指南担当)のギラマン先生から、二人揃って大目玉を食らってしまって、俺等はすんごくばつが悪かったんだけど。
とはいえ、これのおかげ(?)で、王太子と男爵令息の和解が皆に伝わったから、システム側の転生者同士の潰し合いフラグもへし折れたかな? ってカンジ。
この先、ヒロインが参戦したら、また、思ってもみない諍い(イベント?)起こるかもだし、ヤバい展開に進む恐れも、無きにしも非ずなんだけど。
ひとまず、俺等は、平凡な日常に戻り、束の間の安堵さえ覚えていたんだ。
けれども、とうとう、ヒロインが学園に編入してくる日がやって来た。
ヒロインは、やっぱり、リシャールと同じクラスで、しかも、初日の学級挨拶の時に、俺の顔を見るなり、
「……あっ! 貴方は、あの時の王子様……!!」
って、人目もはばかることなく、恋愛ハート♡MAXな感じで、モジモジした。
ので、ルコック先生は、俺の隣の席の悪役令嬢に向かって、
「ラグランジュ嬢は、宰相様のご息女として、淑女の鏡でなければなりませんから、寛大な御心で、聖女様に譲って差し上げてね」
と、悪役令嬢を別の席に換えて、ヒロインをリシャールの隣の席にした。
かくして、席順としては、リシャールの席は、最後列、窓際の隅で、右隣にヒロインが座り、そのさらに右隣、アンジェルの横に悪役令嬢が座るっていう、めっちゃ当てつけ・鬼モードなカンジになった。
でも、これ、普通に考えたら、結構ヒドいよな。
だって、悪役令嬢、宰相の娘なだけでなく、王太子の婚約者なのに。
ルコック先生が、ヒロインをリシャールの隣にしたのは、俺が学級委員で面識がある相手だったから、その方が安心できて良いだろう、って感じだった。
てか、漫画とかで、転校生とかに勧められるの、むしろ、現在、リシャールが座ってる、いわゆる【青春席】で、「位置、逆じゃね?」って思ったんだが――。
実際、1周目は、リシャールの席、最後列の窓から2番目の席で、右隣が悪役令嬢、左隣が空席だったから、そこにヒロインが座ったんだ。
それだと、傍目的には、リシャールは「両手に花」状態になって、一応、ヒロインと悪役令嬢が平等な感じにはなる。
まあ、この2人に挟まれたら、俺がシナリオ・スイッチ地獄になるから、それはそれで、アレなんだけど。
だから、1周目は、席決めの時点で、こんなあからさまな火種投下する感じじゃなかったのに。
今回のこの流れだと、徐々に王太子の心がヒロインに傾いているのを察して、悪役令嬢がイジメ開始に至るスピードが、めっちゃ巻きになるんじゃないか?
(俺が仲裁に入れれば一番いいんだけど、たぶん、シナリオ・リシャール、ヒロインの味方しかしないし。偽ヒロインより正ヒロインの方が強い、って、カミ言ってたから、この【混沌の盟約】も当てに出来ないな)
元より、セキュリティ的なアレコレとか考えると、いくら学級委員で顔見知りだからって、次期王位継承者な王太子の隣に、そんなよく知らん子、ホイホイ傍に置く? ちょっと危なくね?? って、俺は思うんだけれども。
併せて言えば、悪役令嬢の前の席には、青藍ポニーテールの碧眼クールビューティーな伯爵令嬢、ベレニス=クララックが座っているのが、気になるところ――。
この子は、マリーの懐刀で親衛隊のリーダーだから、一瞬、(精神安定的には)唯一の救いかもしれないとも思ったが、取り巻きだからこそ、2人でつるんでヒロインに嫌がらせとかしだしたら、目も当てられないというか。
ゲームでは、この子、悪役令嬢のために悪事に手を染めるのに、バレたら「全部ベレニスの所為」みたいになって、悪役令嬢からトカゲの尻尾切りされちゃうから、最後は裏切って、ヒロイン側に付く。
ベレニスの証言が決定打となって、一気に、悪役令嬢の断罪が進むんだ。
しかして、それは、まだまだ、当分先のこと。
かなり終盤の展開だ。
だからこそ、この序盤では、完全に悪役令嬢側というか。
(このベレニス、マリーへの忠誠心が厚い上、クールな見た目通り、冗談が通じないというか。ガチでちょい恐バリキャリ系女子だから、俺、ちょっと苦手なんだよなぁ……)
いや、OLさんじゃあるまいし、学生にバリキャリもアレなんだけど。
でも、クララック家は、貴族の割に商魂逞しいというか、色々な事業を手広くやっていて、あの家の子供はみんな、13歳くらいから本格的な家業の手伝いをする、って聞く。
ベレニスは、その中でも、ヤリ手で、現在、香水だか衛生用品だかの事業でメキメキ頭角を表しているらしい。
ちなみに、王太子の前の席には、従僕のニルスが座っている。
そして、王太子の右斜め前の席――つまりは、ヒロインの前の席になるが、こっちは、なんか初めて見る顔だ。
ピエール=バスティエという名前のモブ伯爵令息で、鉄紺色の昭和な坊っちゃん刈りをしていて、灰色の瞳をしている。ゲームのスチルにも、攻略本にもいない。ってゆーか、元々、公式設定すら無い奴っぽい。
(つーか。マジで、2周目、色々変わりまくってるな)
1周目は、ニルスも入学してなかったし、このピエールも存在してたかどうか、よく分からない。
乙女ゲームの世界だから、全体的に女子受けしやすいルックスの男子が多い中、これだけ特徴的な髪形してるのに――。とりあえず、俺には、見覚えがなかった。
とかって、ピエールは、隣席のニルスとも気さくに話しているし、良識ある男子っぽいから、そんな悪い奴でもなさそうだ。
ひょろガリでちょい猫背気味だし、おとなしいっつーか、社交的な雰囲気はありそうなのに、陰キャに片足突っ込んでる感じだから、王太子の俺には、気後れして、あんまり直接話しかけてはこないんだけれども。
「あ……、あの、これからよろしくお願いします。殿下」
アンジェルは、頬を真赤に染めて、ポーッとリシャールに見惚れつつも、恥じらうように言う。やっぱ、「ヒロイン様」らしく、ちょい上目遣い気味。
(本人にそのつもりあるかどうか謎だけど)
シナリオ・スイッチの入ったリシャールは、もちろん、凄いキラキラ王太子スマイルだ。
S・R:
「ああ。よろしく、サヴァティエ嬢。でも、僕等は、Camarade de classe(=クラスメイト)なんだから、もう少し、砕けた呼び方をしてくれると嬉しいな」
「え? く、砕けた呼び方……??」
S・R:
「そう。僕も君のこと、アンジェ、って呼んで構わない?」
余裕綽々のようで、その実、全身が火照って、眦が上気している。
(早っえ! いきなり、愛称呼びかよっ)
ウットリしてんのか、ロックオンしてんのか。
(しかも、おんなじ理由、他のクラスメイトにも当てはまるクセに、ソレ、ヒロインにしか言わねーし。シナリオ・リシャール、マジで飛ばしすぎだな)
天の声化した俺は、ガチでチャラいリシャールにドン引きした。
「は……、はい。リシャール様……」
かああっ、とアンジェルは照れながらうつむく。
ヒロインは、一足飛びに愛称にならないだけ、まだ謙虚といえるか。
しかしながら、我が国の上流階級マナー的には、一旦は、「恐れ多いことです。殿下」的なことを言って辞退したうえで、2度目の許可を得てから、改めて「リシャール様」になると思うんだけれども。
まあ、ついこの間まで平民だった子だからな。
いきなり、自分の国の王太子にそんなこと言われたら、訳も分からず「ははーっ!」って感じになるわ。
そうして、横で聞き耳立ててる悪役令嬢の、針の筵のような視線の痛いこと、痛いこと。
「まああ! 流石は、元平民ですわ。なんて礼儀のなっていないこと!!」
「……えっ?」
アンジェルはドキリとして身を竦めた。
悪役令嬢は目を吊り上げて辛辣に叱り飛ばす。
「殿下におっしゃられたからといって、すぐにそのままお返事するのは、inélégant(=優雅でない)ですことよ? 1度目は、慇懃に、且つ、恐縮にお断り申し上げた後で、改めて、殿下からご許可を頂いてから、左様にお呼び致しますの」
あーあ。俺が思った事と同じこと言ってら。
流石は公爵令嬢だな。
それなのに、リシャールときたら、怒った目つきで、
S・R:
「ああ。なんと、心の狭いことだろう。我が婚約者殿は」
「アンジェは、僕等のように、そういった家系に生まれた訳でもなければ、その手の学校に通ったことがある訳でもない。いや、学びたくとも学べず、一途に家業を手伝って、その作法に触れる機会さえ与えられなかったんだよ?」
「だったら、知らないことが沢山あって当然だ。そうして、貴族等は、彼女等のような民衆があって、初めて生かされているというのに」
「至らぬならば、教えてあげればいい。そうやって、清く正しく美しく、彼等を優しく導くのが、我々、人の上に立つ者の役目だとは思わないのかい?」
と、軽く、マリエッタを叱責する。
つーか、貴族的には、マリーの言い分のが正しいし、ただの厳重注意レベルだと思うのに。
けど、ここまで定期。
別視点で考えれば、シナリオ・リシャールのも正論だし、「王侯貴族が生きられるのは民衆のおかげ」は俺もまるっと同意。
だけど、リシャールの台詞、正直、悪役令嬢へのディスり入れるために民衆を利用してるよな?
(完全に民衆の肩持つならまだしも、マリー口撃するためだけに言ってるのが、何だかなァ……。リシャール、王太子のくせに、チンケっつーか、みみっちいよな)
なのに、悲しいことに、天の声なままの俺には、謝れないんだ。
もし、仮に、この場に取り換え子がいてくれたら、こんな状況も変わるんだろーか。
果たして、宰相の娘で王太子妃候補である悪役令嬢には、これが効果覿面というか、ぐうの音も出ない感じなので、クッと悔しそうに歯噛みして、プイッとそっぽ向く。
ヒロインもおずおずとして、詫びるように頭を下げた。
「い、いえ。わたしがいけなかったのです。ラグランジュ嬢のおっしゃる通り、わたし、殿下になんてご無礼なことを! もう遅いかもしれませんが。改めまして、わたし、あなた様のこと『リシャール様』とお呼び申し上げて、よろしいでしょうか?」
リシャールは、一瞬、目をぱちくりさせた後、頬杖をついて、フフッと微笑んだ。
S・R:
「もちろんだよ。Mademoiselle mignonne!(=可愛いお嬢さん!)」
うわー。婚約者いるクセに(しかも目の前に)!!
もろに色目使ってるな、リシャール。
天の声化している俺は、またまたドン引きしたけれど、これも、お決まりのコースだ。
だって、ヒロインは、ただの女の子じゃない。
1000年ぶりに現れた伝説の【星辰の乙女】様なんだ。




