第3章 28_7人目のオトコ
そもそも、世界を平和にするために、聖女と魔王討伐に向かうべき聖騎王の末裔のリシャールが、世界征服どころか、「世界を終末に」だなんて。
本末転倒もいいところだ。
(そ、それは……流石にヤバい気がする……、よな? だって、俺、王太子だし。こんなの、親どころか、ご先祖様にも申し訳なくて、国民にも顔向けできねーっ)
世界征服を企む魔王は、そういうゲーム設定で存在してるけど、このカミの依頼は、そこもまるっと含めて全部壊せ――だから、達成できれば、それは、この世界の人間どころか、この世界そのものが消える――って意味だ。
カミはそこから「再創生しろ」っつってるけど、むしろ、「カミが再創生するための下地作りをしろ」って言われてる方な気がするから、それを実行して、俺等がこの存在をそのまま維持できるかどうかの保証まではされてない気がする。
ってコトはつまり――、
すべてが終わったら、自由になるどころか、俺等まで無に帰ったりしないの!?
(強制削除か、無理心中しろ、って言われてるみたい)
なのに、レオナールは、
「良かったじゃん! 神殺しなんて、ガチで、お前の望んでた、ちょー胸熱RPG展開じゃね?」
と、バンッ! と俺の背中を叩いて、ワハハとバカ笑いする。
俺は、真白になった頭を抱え、ますます脳ミソが爆発しそうになった。
「か、かかかか神殺し……!? マジで?? それって、めっちゃ大罪じゃんっ!」
「は? んじゃ、なんつったらいいワケ? カミの上位存在っつーことは、【カミの神】以外、言いようがねーじゃん」
レオナールも悪びれるでもなく言った。
しかも、半眼で、ビビる俺のが「空気読メ」な感じの圧をかけてくる。
つーか、これ、完全に他人事なノリ。
レオナールだって転生者で、リシャールが失敗した時のスペア要員のくせに!
まったくレオナールの神経の図太さには、呆れるを通り越して、頭が下がってしまう。
「それに、コレ、ガチでクリアしたら、お前、本気で【勇者】になれるかもよ? 筋金入りの『ドラサガ』ファンなんだろっ」
レオナールがグッドサインして、片目をつむる。
俺は「ヒッ!」と短い悲鳴が出て、竦み上がった。
ぎゃーっ。バカタレッ!
ココで『ドラサガ』言うなァーッ!
それ、俺にとって、ガチで最強のプレッシャーだからァーっ!!
だいたい「勇者」は「魔王」を倒してナンボで、世界を平和にするのが使命なんだよっ。それを「神」を殺して世界ブッ壊せ、なんて、そんなん、もう「魔王」の所業だわっ。
果たして、カミも、俺に追い打ちをかける。
[コノ世界ハ、間違ッテイマス。人間ノ病ニハ、切除シナケレバ、回復ガ難シイ、癌トイウモノガ、アルソウデスネ。サアラバ、あのものハ、コノ世界ヲ蝕ム、忌々シイ【癌】デス]
「世界の、癌……?」
そのフレーズに俺も引っ掛かりを覚える。
(でも、そうか。カミの、神――)
俺は、うーんと腕を組み、整理できない頭で悶々と悩む。
一口に【神殺し】っていうと大それたコトに聞こえるけど。
それが、悪神とか、破壊神とか、そういう類なら、そっちのが【魔王】みたいなもんだ。
RPGでも、神と信じていたものが、実はラスボスだった、ってのはザラにある。
魚も、組織も。頭が腐れば、全体まで腐るんだから。
っていうか、カミの上にいる奴ってことは――。
シナリオもしくはシステムの支配者で、この世界的には、創造主に近い奴だよな……?
(いやいや、真の創造主は、リアル地球の、トキメテック社で働くクリエイターの皆さんだけどっ……)
そうかと思うと、カミは、
[早期ニ切除デキレバ、回復ノ見込ミモ大キイ。デスガ、私ノ召喚術ガ有効ナノハ、1人ノ攻略対象者ニツキ、1回ノミデス。スベテノ弾ガ無クナル前ニ、手ヲ打タナケレバ。ソシテ、りしゃーる。貴方ホド、私ノ願イヲ叶エラレル場所ニ、辿リ着イタ者ハ、無イ]
と、さらっと爆弾発言する。
「えっ」
「1人の攻略対象者につき、1回……?」
まさかの制限アリに、俺もレオナールもぎょっと目ン玉飛び出してしまう。
それにこの感じ……。やっぱ、マサト以前の歴代転生者(何人いたかは知らんけど)は、カミの(いや、ユノの?)誘い、断ったって事かな??
「つーことは、俺とリッシーと、リッシーの前のヤツで、既に3人は終わってて、1人が脱落してるってコトだよな?」
レオナールの言葉に俺はギクッとなった。
[…………]
沈黙を守るカミとは対照的に、レオナールは眉をひそめて、
「で? 全部で何人だっけ。その攻略対象者っての」
と、俺の顔を覗き込んできた。
そっか、レオの中の人は、元ゲームの『エトラリ』知らんから。
(たぶん、『異能持ち=攻略対象者』の図式が成立してないっつーか)
俺もおずおずと答える。
「えっと……。じゅ、14人……?」
厳密には、2周目以降の隠しキャラも含めて、「14人以上」と答えるべきなんだけど。俺も、それがどいつで何人いるか、知らないんだよな。
(前世の姉貴が喋ってただけで)
果たして、カミがズバリと言った。
[――りしゃーるハ7人目デス]
全体の人数じゃなくて、おそらく、召喚者数。
「えっ」
「マジか! じゃ、リッシーの前に、もう6人も脱落してんのかよ!?」
俺は即座にピシッと固まり、レオナールは驚き呆れた顔でドン引きする。
つーか、6人て!(半分くらい、終わってんじゃんっ!!)
そんなコト言われちゃうと、ますます俺がやらなきゃ、ユノにも、カミにも、ものすっごく悪い気がする……。
(で、でででっ出来るのかっ? お、俺に……)
なんかもう物凄く不安でしかない。
リシャールは、ゲーム的には、チートなオールラウンダ―だけど、実際、天下無双なのかって言われると、それほどじゃない。
1周目も、魔王にトドメを刺したのは、当然、ヒロインで【星辰の乙女】のアンジェルだった。
攻略対象者は、あくまでも、ヒロインのサポート役で。
そして、俺のSFでデジタルな知識なんて、所詮、薄っぺらで、完全にド素人だ。
なんなら、前世で工業高校入ってれば良かったのに、ってレベル。
あ、でも、マサト、結局(普通科だけど)高校入学して1ヶ月くらいで、交通事故死したから、どっちみち意味ないな。
(たられば、言い出したらキリがないけど、こんなコトなら、契約しなきゃよかったかな……?)
思うや、ふと、
<ユノとリシュは、コレで一蓮托生>
と、あのオトナ・ユノの儚げな微笑が浮かんで、心が揺らぐ。
俺はワッと頬が茹蛸のようになった。
これまで6人の男が袖にしたちんちくりん――否、人形ロリッ娘が、まさか、リシャールとの契約であんなナイスバディなクール・ビューティーになるなんて。
(あのカワイさは反則だって! 俺、女のコは中身で選ぶタイプなのに。なんで、俺、あの娘にドキンコしちゃったんだろう)
はわわわと、俺が独り百面相してると、カミは冷ややかに言った。
[良イデスカ。りしゃーる。スベテハ、ひーろーデアル貴方ニ、懸カッテイルノデス。ナゼナラ、終ワラヌ世界輪廻ノ中デ、ゆのハ、多クヲ失イ、彼等ニ、目ヲ付ケラレテシマイマシタ。コノ次、失敗スレバ、ゆのハ、キット、あんち・ういるすニ、削除サレテシマウデショウ]
「えっ」
彼等? アンチ・ウイルスって、何??
ココ、もうゲームじゃなくなってるのに。
リアル地球では、それ、セキュリティ・ソフトとかのプログラム・データになる訳だけど。この実体化した異世界では、マルウェア――システム外の異端者にのみ、有効な病気か、毒か、暗殺者になるんだろうか。
[賽ハ投ゲラレタノデス。ゆのノヨウナ、アカラサマナまるうぇあヲ、駆除スルモノハ、既ニあっぷでーとヲ終エテ、動キ始メテイマス]
[デスガ、正規ノぷろぐらむ構造ヲ持チ、柔軟ナ対応ガ出来ル、転生者ナラ、機転ヲ利カセテ、しすてむノ一部トシテ、ドウニカ溶ケ込メル。上手ク立チ回レバ、まるうぇあヨリ、まーくガ緩和サレマスカラ]
[シタガッテ、りしゃーる。ゼヒ、貴方ガ、ゆのヲ、正シク【承認】シテアゲテ下サイ。あんじぇるニ後レヲ取ラヌホドノ、ひろいんニ。貴方ハ、ゆのヲ、【昇格】サセナケレバナラナイ――!]
カミの喋り方は単調なんだけど、その声音というか、雰囲気には、どこか慈母のいたわりが含まれているような気がした。
ユノはカミが「作った」って言ってるから、元はプログラムの半機械ながら、母が娘を案じるみたいな感覚、芽生えてるのかな?
「は、はあ……」
俺は戸惑いながらも頷いた。
結局、転生者って、SFなアレなのか、スピリチュアルなアレなのか。
どうにもハッキリしないし、釈然としない気持ちはあったんだけど。
ただ、ユノが【消滅】させられるのは嫌だって思うから、やっぱ、俺がやるしかないのか。
とはいえ――。
「つーかさァ。それ全部、王太子がやるんなら、レオナール、ココにいる意味なくね?」
レオナールは不満そうに口をへ文字に曲げる。
あ。やっぱ、レオ、気にしてた!?
それ、ナチュラルに俺も思ったけど!
「フ、フツーに考えて、とばっちりだよねっ……?」
俺が苦笑すると、レオナールはケッと拗ねる。
「ウゼッ!」
「だよねえ……」
俺は、フォローの言葉が見つからない。
レオは、自分が主人公みたいに思ってたっぽいトコあるから、きっと面白くないに違いない。まあ、「常にスペアがいないと心配」っていう、カミ側の事情も分かるんだけどさ。
てか、エンディング周期でヒーロー(転生者)交代なら、7人×3年=21年で、このネオ・アモリオンは、既に、最低21年以上、経ってる計算になるけど。
(ループしてるとはいえ)
だからといって、ゲームの『エトワル・ラリアンス』は、マサトの2歳年上の姉貴がガチオタだったから、そんな昔のソフトじゃないハズ。
(やっぱ、ココ……、並行世界だから、時間軸、リアル地球とはズレてんのかな?)
かの『浦島太郎』だって、「竜宮城で3年遊んで暮らして、地上に戻ってきたら、300年後の世界だった」とかなってるし。
レオナールの中の人は、口調や価値観を見るに、マサトと同じ、現代(昭和後期~令和)日本人っぽいから、流石に、100年も離れてないとは思うけど。
「まー。でも、リシャール、ヘタレっぽいし。仕方ねえから、俺も協力してやるよ。俺等、友達だかんな」
レオナールは、ふてくされながらも、ちょっと頬を赤らめて言った。
「レオ……」
俺もじーんと素直に感動した。




