第3章 27_このミッション激ムズじゃね?
俺が勝手にビビッて身震いしていると、
「つーかさァ、その【契約】っての、俺、いまいち、よく分かってねーんだけど。結局、それ、いったい何なワケ?」
と、レオナールが痺れ切らしたように声を上げた。
カミもだけど、そういや、俺も、ソコ、まるっとスルーして話してたわ。
[【契約】トハ、私ガ作リシひろいん、ゆのト、転生者デアルひーろーノ縁ヲ結ブモノ。私ガ、ゆのニ授ケタ指輪、【混沌の盟約】ト、ひーろーガ持ツ、それニ準ズル物トヲ交換シ、互イニ誓イヲ立テル事デ成立スル]
「か、かおす、ぱくとぅむ……?」
レオナールは眉をしかめて困惑する。
なので、俺も、「あっ!」と慌てて、さっと右手を出した。
「ほら! ココ! 見えるっ? 俺の右薬指っ。黒っぽくてキラキラしてて、飾りんトコは、なんかスケルトン時計っぽい見た目の、厨二くさい指輪なんだけど……」
「ちゅうに……?」
レオナールもまじまじと俺の右手を見た。しかし。
「いや……、すまん。俺には、全然、見えんわ」
眉をハの字に下げて、レオも困っていた。
俺は、やっぱり地味に、ガーンッとなった。
[見エナクテ当然デス。それハ、ソウイウ仕様デスカラ]
あっさりとカミは言う。
[それハ、表ニ出テハナラヌもの]
俺もレオナールも「え?」と怪訝に固まった。
[それハ、1つノりせっとノタビニ、ソノ周期ニオケル役割ヲ終エタ、【星の結婚指輪】カラ除外サレタ、不用でーた片ヲ、私ガ拾イ集メテ、再構築シタもの]
[変質シテイテモ、それガ表ニ出レバ、あのものハ、それヲ【贋作】――ツマリ、しすてむヲ乱ス、模倣ウイルスト、見做シマス。故ニ、私ハ、【契約】シタ当事者ニシカ認識デキナイヨウ、しーくれっと・もーどガ自動デ適応サレルヨウニ、設定シマシタ]
カミの告白に、レオはきょとんとしていたが、俺はさらにガガンッとなった。
「【星の結婚指輪】のっ……!?」
まさか、ここへきて、タイトル冠するアイテムから出た剥離データ片だなんて。
それって、もしかして、各プレイヤーごとのセーブデータ、攻略完了な推しとの「愛のメモリー」的な奴になるんじゃね?
(うわ。マジか。なんか嫌ダわー、それ。断捨離だ何だとかで、付き合ってる彼女に、全然知らん、赤の他人の元カレとの思い出の品系のガラクタ、無理矢理、押し付けられたみたい)
とかって、前世と今世、まともに女子と付き合ったことない俺には、そんなの、所詮、妄想彼女になっちゃうんだけど。
俺は、グスッとちょい涙ぐみながら、ゲンナリする。
しかして、カミは、抑揚の乏しいデジタルな語調のまま告げる。
[りしゃーるハ、ゆのニ、くろんね・ぐりふぉんノりんぐ、ヲ与エルコトデ、ソノでーたヲ維持シマシタ。デスガ、【契約】ハ始マリデアリ、終ワリデハナイ]
俺は、ぴた、と涙が止まり、ハッとする。
(じゃあ、あのタイ・リング、ただの指輪の代わりじゃなくて、リシャールのバックアップになったってコト!?)
飾りも王家の紋章【王冠を戴いた鷲獅子】のヤツだし。
1周目のリシャールは、公務の時とか、ほぼほぼアレ着けてたし。
そういう意味じゃ、道理にかなっている。
(あの時、ユノが人形ロリッ娘すぎたから、『ママゴトかよ!』って思ったけど、アレ、実はかなり重要なヤツだったのか……)
俺は、口元が引き攣りながら、「あん時、ウザがってた俺、ダメダメだな」と思うのと同時に、「ちゃんと言われる通りにした俺、グッジョブ!」と、なんだか複雑な気持ちになった。
かたや、レオナールは、むむぅと腕組みしながら、どうにかして【混沌の盟約】が見えないか、必死に目を凝らしている感じだった。
が、やっぱり視えないので、ほどなくして諦めたようだ。
「まー。よー分からんけど、その位置で、男女で交換っつーことは、【婚約指輪】みたいなコトでOK?」
「う、うん……。たぶん、俺もそういうコトだと思う」
訊かれ、俺もコクコク頷いた。
すると、レオナールはあっけらかんと言う。
「つーか、王太子、宰相のお嬢様と婚約してんじゃなかったっけ?」
さすが男爵令息。レオもそれぐらいの認識はあったか。
(つーか、学園内でソレ知らん人のが少ないと思うケド)
「そーだけど。むしろ、そういうのが乙女ゲームっつーか。婚約者いる攻略対象者までオトせちゃう『ヒロイン様』最強、みたいな?」
「最強っつーか、それ、普通にビッチじゃね? だって、俺もおまえも攻略対象者で、俺等以外のオトコもいるんだろ??」
レオナールは半眼で呆れていた。
その冷ややかな視線は、なんか王太子まで同類認定されてるみたいで、ちょみっとイラッとした。
「正規ヒロインのアンジェルはそうかもだけどっ! カミの言う通りなら、ユノが【契約】できるの、1人だけだからっ!! それに、悪役令嬢だって、俺みたいな、惰弱で顔と身分ぐらいしか取り柄のないヤツと結婚するより、他にぴったりなイイ男、絶対いるって!!」
「ぅわーおっ。婚約破棄前提なのかよ。スゲーな、オウジサマ」
なんて、レオナールは茶化してくるけれど、
「だって、俺、もうユノと【契約】しちゃったし。それに、今は無理かもだけど、いつかシナリオに振り回されない状況になれたら、その辺、ちゃんと悪役令嬢にも話して、円満解消、目指すから!」
と、俺は、拳を固く握って、ふんすと主張した。
かくして、カミも冷然と語る。
[コノ世界ハ、ひろいんガ、自ラ能動的ニ動イテ、ひーろーノ心ヲ、ツカムノガ、基本ノ世界デス]
[シカシ、人間デナイ私ガ造ッタゆのデハ、ひろいんトシテ、正規ノ存在デアル、あんじぇるガ振リ撒ク影響力ニ、遠ク及バナイ]
[えんげーじガアッテモ、スグニ、あんじぇるニ負ケテシマイマス。ナラバ、ドウスレバ良イカ? 簡単ナコトデス。ひろいんト、ひーろーノ役割ヲ、逆転スレバ良イ]
俺は目を丸くした。
「それって――!!」
[ソウデス。りしゃーる。今度ハ、ひろいんニ攻略サレルノデナク、えんげーじシタ貴方ガ、ゆのヲ、自ラ求メテ、あの子ヲ攻略スルノデス。あんじぇるデハナク、ゆのヲ、貴方ノ唯一ノつがいトシテ。ソウシテ、あの子ト強固ニ絆ヲ結ビ、ゆのヲ、本当ノひろいんニスル]
うわ。攻略、て。その言い方、なんか嫌だなあ。
っていうか、それじゃあ、まさかまさかの、乙女ゲームからのギャルゲー、ムーブじゃん!
(そりゃ、オトナ・ユノは、マサトの好み、どストライクですけども)
カミに要請されたからじゃない。
本気で、そういう妄想が一気に広がって、俺は、微妙に浮かれ、恥ずかしくなってしまう。
「分かったよ。じゃあ、俺、ユノと、さくっと両想いになればイイんだね?」
俺はふてくされながら頭を掻いて、でも、まんざらでもない、ヤレヤレ風を装ったものの、
[ソウデスネ。タダ、ソレハ、第1段階――]
と、カミはズバッと言い切った。
思わず、俺はズコーッとなる。
「リッシーッ!?」
レオはびっくぅとしたが、ここは俺もアホみたいにズッこけてる場合じゃなかった。
俺はガバッとすぐに立ち直って、眉根を寄せてカミに問うた。
「だ、第1って……?」
[コノ世界デハ、ひろいんトひーろーガ結バレルコトデ、目覚メル特別ナ神聖力ガアリマス。あんじぇるガ持ッテイルノハ、邪悪ナルモノヲ浄化シテ、世ヲ安定ニ導ク【銀河】ノ神聖力。デスガ、私ガ、ゆのニ与エタノハ、破壊ト終焉ヲモタラス――【混沌】ノ黄泉力]
破壊と終焉って。
随分と、また物騒だな!?
[ソウシテ、第2段階ハ、貴方ガ、ゆのノ【生命の鍵】ヲ開ケ、それヲ【霊命の剣】トスル。ソノ剣デ、あのものヲ斬ルノデス。ソウ。貴方トゆのガ、コノ世界ヲ、終末ニ導イテ、ソノ時コソ、新タナル正シキ再創生ヲ果タスノデス!]
「世界を終末に導いて再創生――」
俺は、ひゅっと魂が抜けそうになった。
急に、ワケワカラン固有名詞、羅列された上に、とんでもない要求されてる。
(てか、ちょっと待って! なんか、めちゃめちゃ大事になってないか!?)
ユノと結ばれるのだって激難ミッションかもなのに。
むしろ、ソレ利用して、この世界を裏側から支配してる、システムツリーのトップを斬れ、とか。正直、意味不明すぎる。
(つーか、システムって、普通、形なんか無くね? それとも、あのメカ・デュラハンみたいに、なんかバカでっかい機械みたいなヤツが、どっかにいるワケ?? 俺、最終的に、ソイツと戦うの!?)
これに、俺は、アワワと、アホみたいにガクブルした。




