第3章 26_取り換え子と転生者
どうしても解せない俺は、キッと、天と大巨木の影とを睨んだ。
「ねえ、なんで? さっきの話からすると、ユノは、ヒロインと取り換え子するために、アンタが造ったんでしょ。ユノも、アンタに言われたから、リシャールんトコに来たって。契約するんだって。そう……」
[簡単ナコトデス。ソノ時、私ニハ、ソレヲ【実行】スルコトガ出来ナカッタ]
「つーか、実行できない、って何よ? アンタ、カミじゃないの?? アンタ、削除されたデータから、新しい人間造れるだけの力は持ってんのに。俺的には、もっと早い段階でそうしてくれた方が、ありがたかったんだけど??」
[…………]
カミは、ただ、無機質に、悪びれることなんてない。
これじゃ、文句たれてる俺のが、ハラスメント野郎に見えるじゃん。
なんて、俺はちょっと不満だったが、「感情が無いカミには、俺の怒りが理解できないから仕方ないのかも」って考えると、ソコ、あんまりツッコむことも出来なかった。
[私ガ1カラ造ッタ訳デハアリマセン。あなたがたノ世界ノ人間――この世界ノ創造主ノ痕跡ガアッタカラ、出来タダケノコト。ソシテ、ゆのハ、こーどねーむ【Bianca】ハ、【続編でーた】ノ残骸。旧作キャラトハ、元カラ有スル【規格】ガ異ナリマス]
「続編データ? 規格って……??」
もうゲームじゃなくなってるのに【規格】って何なん!?
だが、付喪神が宿った物体が、妖怪に変質しても元の性質を維持しているのは、よくあることだ。
実際、この世界自体、ソレに囚われてる訳だから、この世界に在る、攻略対象者や、ユノ個人も、同様に、その辺の自由度は低いのかもしれない。
だから、とりあえず、俺は、「くそっ」と、ガリガリ頭を掻いて、苛立ちを紛らわせた。
「なら、無印のじゃなくて、最初から続編のメインヒーロ―に転生させてくれれば……」
そんな俺をガン無視して、カミは淡々と語り始める。
[続編ノひーろーでーたハ、私ガ拾エル場所ニハ、見ツカリマセンデシタ]
[ソレニ、私ニハ、新シイばーじょんノでーたヲ、一カラ作り上ゲルコトハ不可能ダッタ]
[新シイ規格ノ残骸ヲ、古イ規格ニ組ミ換エ、書キ換エルコト――即チ、既存でーたヲ、下位互換、だうんぐれーど、スルコトハ出来タノデス。ソレデ、私ハ、ゆのヲ作リ、ひーろーニいせかいどヲ召喚スル技術ヲ、確立シタ]
[デスガ、こーどねーむ【Bianca】ガ破棄サレタ後、しすてむノ仕様ガ、大幅ニ変更サレテシマッタ。故ニ、ソノ時、旧しすてむデ動イテイタ私ハ、その場所ニ、接触スルコトサエ、困難ニナッタ]
[以降ハ、しすてむノ一部デアル私モ、あっぷぐれーどスル必要ガアッタノデス。タダ、私ノあっぷぐれーどモ、新作ガ稼働シナイコトニハ、更新サレナイ]
[シカシテ、私ハ【運命神の影】――【輪廻維持者】ノ役割ヲ担ウモノ]
[私ハ、あのものニ、厳シク見張ラレテ、行動制限サレテイル。元ヨリ、私ニハ、ふぁいあー・うぉーるガ適応サレタ、正規完成でーたヲ、改変スルコトガ出来ナイ。えらー・こーどニ阻マレ、新旧、イズレノでーたニモ、割ッテ入ル余地ガ見出セナイ]
[ソシテ、あのものニトッテハ、でふぉるとデハ、ゆのモ、アナタガタいせかいどモ、まるうぇあト判定サレルノデス。それらヲ、あのものらノ監視ヲ欺イテ組ミ込ムニハ、マズハ、正規でーたノまーきんぐヲ付ケタ後、それト誤認サセルコトガ必要]
[私ハ、えんでぃんぐ後ノ、でーた引継機能ニ、介入スルコトハ可能ナノデ]
[1つの終わり、1つの始まり。その間。そこハ、ぷれいやーノ選択ニ委ネラレル最後ノ空白地帯。ぷれいやーゴトノ再始動ニ合ワセテ、しすてむガ最モ脆弱ニナル、その瞬間ニ]
[私ハ、ゆのト、いせかいどヲ、引キ合ワセルコトニシタノデス。ソノ後、新タナ物語ノ開始ニヨッテ、2人ガ変革ノ風ヲ吹カセテクレタラ。キット、この世界ハ変ワル。それコソガ、私ガ、ゆのト、あなたがた、いせかいどニ、託シタ願イ]
いや、一気に言われすぎて、俺も目を丸くせずにいられなかったけど。
早い話、まだ非正規のヒロイン候補にすぎないユノは、最初から、正規ヒロインのアンジェルを出し抜いて攻略対象者に接触することはできない。
言い換えれば、ユノは「強くてニューゲーム」専用ヒロイン(候補)で、隠しキャラ属性に擬態しなきゃいけない。
だから、転生者ともども異端物判定されないように潜入させるには、結局、エンディングまでいかないと無理だった、ってこと??
「マジか……」
俺はトホホとうなだれてしまう。
一方、レオナールはじっと黙りこくっていた。
俺とカミの会話の内容を、自分なりにうんうんと噛み砕いて、頭ン中で整理してたみたい。
果たして、カミは静かに言った。
[ソウシテ、りしゃーる。あなたハ、しすてむ・あっぷぐれーどノ前ニ、私ガ呼ンダ最後ノひーろーデス]
俺は「えっ」とドキリとした。
[あなたハ、ゆのト【契約】シマシタガ、ソノ互換ノ関係デ、オソラク、何カ、まいなす反応ガ出テイルハズ。シカシ、ソレハ、ゆのト、正シク、関係ヲ育ムコトデ、充分、りたーんガアルノデ、今ハ、耐エ忍ブ時ト、オ考エナサイ]
(それって、つまり、『ループでペナルティ』のコト!?)
俺は呆気にとられた。
後々リターンあるっつっても、【規格】違いで問答無用にソレって、なんか無性に悲しいわ。最初からNG認定されたみたい。
なんて、思ったけど。
そっか。アップグレード前、って。
マサトがトラック事故死したのは、『エトラリ2』の発売日より1ヶ月くらい前だ。あの時、姉貴は、あの年の「6月に新作が出る」って言ってたんだから。
だから、あの時点の俺には、続編ヒーローに転生するの、時系列的に無理だったわ。
俺が独り納得したところで、レオナールは別のところに食いついた。
「つーことは、何? レオナールは、リッシーの次だから、アンタのアップグレード後に初めて呼ばれたヤツってコトか?」
[ソノ通リデス]
カミも事務的に解説する。
[ゆのガ【契約】出来ルノハ、1人ダケデスガ。私ガ、1度ニ召喚デキル人間モ、1人ダケデス。ナノデ、先ニ召喚シタいせかいどガ、【契約】シナイ場合モ、視野ニ入レテ、動カナケレバナラナイ。その周期ガ来ルタビ、私ハ、【次】ヲ呼バネバナラナカッタ]
「てか、新作出てんのに、わざわざ旧作縛りで、って。アンタも物好きだなァ」
レオナールがちょっと意地悪くからかうみたいに言うと、カミも平然と告げる。
[ソレハ、今トナッテハ、せきゅりてぃ・あっぷシタ新作ヨリモ、旧作べーすデ事ヲ行ウ方ガ、有利ダト悟ッタカラデス。コウシテ、あなたがたト対峙シテイル以上、私ノ判断ハ間違ッテイナカッタ]
「ほーん? ま。着々と時間かけて準備してきたモンと、急ごしらえのハリボテじゃ、話になんねえ、ってのは俺も分かるけどよ」
レオナールが苦笑いしたところで、俺も「ん?」と思い直した。
「え。ちょっと待って。その理屈で言ったら、リシャールより前にも、カミが呼んだ攻略対象者がいたってことになるよね?」
少なくとも、1周目のリシャールは、「っぽい」人を見てない気がする。
「で、リシャールの方にお鉢が回ってきたってことは、その人はユノと【契約】しなかった、ってコトで。……じゃあ、その人、今は、どーしてんの?」
[…………]
カミは少し考えるように間を置いた。
[そのものハ、モウ、イマセン]
意味深な答えが返ってきた。
(……いない?)
俺も当惑する。
そうして、ふと、あの白の世界で、ユノに言われた言葉を思い出した。
<キミ、見ドこロ、あル。ユノ、ココに来テ、正解だッタ>
あれって、俺個人に言ってるってよりは、これまで同じような比較対象があった中で、「リシャールが1番マシだった」って言ってる風に聞こえないか?
だって、初見で、ろくに【人間】を見たことない子が、何の基準もなしに、「見どころ」とかの有無が分かる訳ない。
(……もしかして、マサトより前に転生した攻略対象者は、みんな、俺みたいにシナリオに逆らう意志を見せなかった?)
俺は違ったけど、ヒロインみたいな女子が好みどストライクな奴にしてみれば、シナリオ通り、アンジェルと、キャッキャウフフする方が、だんぜん楽で、天国みたいなもんだよな。
[今、あなたがたガイルノハ、【おーる・りせっと】サレタ世界。【ばっくあっぷ】ガ無イものハ、それヲ維持スルコトハ出来ナイ]
とかって、カミはさらっと告げるけど。
(それって、つまり、みんな、エンディング後に、その存在ごと、まるっと消された――アンインストールされた、ってことっ??)
現状、リシャールとレオナール以外の攻略対象者は、NPCというか、元から『エトラリ』住人のヤツばっかっぽいし。
カミの口ぶりでは、転生者だけが削除されて、攻略対象者そのものはデフォルト状態に戻ってる、って意味で。
これは、リアル地球で似た現象を指すなら、さしずめ、「幽霊に憑依された人間を除霊する」状況に近い。
でも、この異世界転生そのものは、現地人の攻略対象者が前世の記憶を思い出して、今世と融合してるから、その【魂】というか、【存在】の所属先は、生を受けた時点で「地球→ネオ・アモリオン」に替わってるよーな……。
(……つーか、ソレって、実はかなりヤバくない?)
いや、転生の時点で、既に現実では1度死んでるんだけど。
神仏習合の日本人的価値観で、その事態をよくよく考えてみると。
アンインストールされた魂は、普通の輪廻転生――地球の【六道輪廻】からも外れて、かといって、解脱して悟りの世界へ辿り着くなんて絶対無理で。
この異世界の枠組みに戻ることもできないから。
削除された時点で、完全、「The End」。
来世なんて2度と訪れないようになるんじゃないか?
その結論に至って、俺は、ちょっと怖くなってしまった。




