第3章 25_変革をもたらすもの
じゃあ、現在、俺等がいるココって、いったい……??
って、ついつい、声が出そうになったけど。
だからこそ、ココは「ゲームのようでゲームではない並行世界」なのか。
(うわあ。俺等、ホントにヤベェのに捕まっちゃった、って感じするな)
ドン引きしかけたところ、頓に、カミがぽつりと告げる。
[デスカラ、私ハ、ゆのヲ作りマシタ。――あんじぇるニ替ワル、新シイひろいん候補トシテ]
「!」
俺の耳がピクと動いた。
(そうだ。あの残骸がどーの、ってヤツ!?)
カミは静かに語った。
[あなたがたノ世界ノ人間ガ、創リ、中断、廃棄シタ。ソノ残骸ヲ、私ハ、幸運ニモ、あの場所ニ、発見スルコトガ出来タノデ]
[おりじなるニ存在シナイひろいん――それガ、コノねお・あもりおんヲ統ベルナラ。【その時】ガ来テモ、おりじなるヲ、ナゾレナイ]
[おりじなるトノ完全分離。それコソガ、あのものニ対抗出来ル、唯一ノ手段ト考エタノデス]
たまらず、俺は胸がざわめいて、怪訝に眉をひそめる。
「残骸」だなんて、およそ人間に対して使うフレーズじゃないと思ってたけど。
要するに、リアル地球の、トキメテック社のデータ蓄積所にあるゲームのデータ管理プログラムに侵入して、削除されたデータをコピペしてきて復旧した、みたいなことかな?
このカミより上層にいるヤツ、システムツリーの大本が、ソコとずっと繋がってるんなら。きっと、それぐらいの芸当はできるんだろう。
「だったら、もしかして、転生者いらなかったんじゃない?」
俺は純粋にそう思った。
そもそも、こんなヒロイン上位の世界で、新しいヒロイン候補がいるなら。
完全外野の転生者を呼ぶ意味が見いだせないというか。
それなのに。
「イエ……」
カミはおよそ人工物らしからぬ沈んだ声で答えた。
[私ハ、浅慮ダッタノデス。すべてヲ変エタイナラ、コノ世界ノ構造、ソレヲ支エルトコロカラ、変エナケレバナラナカッタ。コノ世界ハ、ひろいんダケデハ、完成シ得ナイ……!!]
「ヒロインだけでは……!?」
言われ、俺も「ああ、そうか」と目が醒める思いだった。
【乙女ゲーム】とは、ヒロインとヒーローが恋愛することで、プレイヤーがそれを追体験というか、疑似恋愛して、楽しむのを是とする世界
――その「根幹」があることで、「初めて成立する」世界だ。
それが崩れると世界そのものが崩壊する(?)から、おそらく、カミの上位存在は、「ゲームと連動→自動バックアップ→強制修正」のコンボで、ずっと、この世界を維持し続けてる。
でも、ココは、実質、ゲームとは別物の世界だから。
本当は、わざわざ、そんなコトしなくて良いはずなんだ。
なら、もはや、ヒロインとヒーロー、両方そっくり別物に入れ替えて、連動不可な状態にしなければ、まったく異なる世界にはなってはくれない、
――ってコト?
俺がそう結論づけたように、レオナールも認めたらしかった。
――が、同時に、これに疑問も抱いたらしかった。
「だったら、システム外の攻略対象者もアンタが造れば良かったんじゃねーの?」
レオナールの問い掛けに、存外、カミは淡泊に打ち明ける。
[私ハ、人間デハアリマセン。私ニ、人間ノ【恋愛】トイウ感情ハ、理解デキナイ]
(そりゃそうだ。元がプログラムなら、単に学習したことを『っぽく』マネることしかできないはずだ)
って、納得したところで、俺もハッとする。
(それはつまり、ユノもそうってコト!?)
確かに、ユノには、人間として、少し足りないものがあった。
(あの子には、感情が無い――っていうか、完全に未発達なカンジっていうか)
だから、最初会った時は不安だったんだけど、契約してからは、庇護欲っていうのかな? 俺があの子の力になってあげたい、って思っちゃったんだ。
まあ、俺みたいな、元ゲーオタ陰キャな童貞の脇役じゃ、全然、役不足かもしれないけれど。
カミは厳かに告げる。
[ソウ。私ダケデハ。――人間ニ造ラレタ私ガ、人間ガ心血注イデ造リ上ゲタ【この世界】ニ、変革ヲモタラスものハ、造レナイノデス。私ニハ、ソレダケノ熱量、ツマリ、感情ガアリマセンカラ]
[デスカラ、私達ノ代ワリニ、それヲ成シ遂ゲテクレル、生命アルモノ――血ノ通ッタ人間ガ、必要ダッタ]
俺は、ごくんと唾を飲み込んで、緊張でドックンドックンと抑えられない鼓動に惑った。
「……だから、俺、リシャールだったんだ? 王太子は、このゲームのメインヒーローで、イージー・モードなら、ほぼほぼ100%攻略できるヤツだし。なんなら、ヒロイン以外の中では、1番、この世界に波及効果をもたらす、影響力持ったキャラだったから」
[…………]
その沈黙に、俺も少し不安になる。ただ、引き下がることはできなかった。
「でも、オカシイね。俺、覚醒したの、5歳だったんだけど? それに、ゲーム開始は、エスカロワイユ魔導学園に入学してからだし。ヒロインもそうしないと出てこないし? いや、子供の頃の、運命の出会い的な? ヒロインとの街角イベントは、なんか、ちょろっとあった気はするけど」
正直、その辺は、うろ覚えだ。
前世のプレイでも、1周目でも、なんかそれっぽいコト、遭遇した覚えがあるのに。どういう訳か、そこの記憶がすっぽり抜け落ちている。
「でも、実際、俺がユノに初めて会ったのは、エンディング直前だった。アンジェルに攻略された後だったんだ。俺は、あのシナリオに、いい加減、うんざりしてたのに。なんで、もっと早く、リシャールとユノを出逢わせてくれなかったの??」
苛立ち交じりに声を荒げる俺の姿に、レオが目を剥いた。
「えっ? エンディングって!? もしかして、お前、もう2周目なワケ? マジかよ!」
そこ、俺も言ってなかったし、反射的に気になるのは仕方ないけど。
俺は、頭を抱え、ハーと溜息をついた。
「ゴメン……。レオ。そういうの、後にしてくれる? 話、進まなくなるから」
「お、おう……。そか。うん。そだな。ワリィ」
レオは面目なさそうに、すごすご引っ込んだ。




