第3章 24_ネオ・アモリオン
[私ガ、あなたがたニ、オ願イシタイノハ、タダ1ツダケデス]
ブレないカミは粛然と口を開いて、俺もレオナールもごくりと息を呑む。
[コノ世界ノ機構、終ワラナイ輪廻ヲ、あなたがたノ手デ、断チ切ッテ欲シイ]
「輪廻って……」
「ループってこと?」
レオは、まだ1周目っぽいからピンときていなかった。
――が、俺は真先にそういうことだと思った。
だが、カミは、肯定も否定もしなかった。
[ソウ。コノ世界ハ、不健全ナノデス。既ニ、おりじなるカラ、懸ケ離レタ世界デアルノニ、あのものハ、おりじなるカラ、大キク離レルコトヲ、決シテ許サナイ]
瞬間、ザワ、と大巨木の影が揺れた気がした。
風もないのに。
なんていうか、カミの言葉に呼応して、大巨木の影もわなないた、ってカンジ。
俺等も目を剥いた。
「あの者??」
「……ッ!?」
レオはやっぱり困惑している。
でも、俺は、シナリオ・スイッチ、もしくは、それを実行している【何か】のことだと考えたんだ。
俺は険しい瞳で大巨木の影に向かって問う。
「……じゃあ、ここは、やっぱりゲームの世界なんだ?」
[イイエ]
「えっ」
まさかの答えに、俺は拍子抜けした。
カミは整然と答える。
[正確ニハ、『げーむダッタ』ト言ウ方ガ正シイ]
[人間ノ手ニヨッテ造ラレタ私達ハ、ソノ設計通リ、多クノぷれいやーノ夢ヤ願望ヲ、ズット、ズット、叶エテキタ。アラカジメ定メラレタ通リ、何度モ何度モ繰リ返シテキタノデス。ソレハモウ数エキレナイホド]
[スルト、ソノ多クノゆーざーノ想イ、熱意ガ、次第ニ電脳空間ニ溢レカエッテイキマシタ。トウトウ、それガ限界マデ蓄積シタトコロデ、それハ稀ニミル大変貌ヲ遂ゲテシマッタ]
[即チ、虚構ガ現実ニ、無ガ有ニ――。本当ニ、ソノ意味ヲ、形象ヲ持ツヨウニナッテシマッタノデス。ソレガ、コノ世界――【ねお・あもりおん】。
貴方ガタガ、現在、生ヲ育ンデイル大地]
その言葉を耳にするなり、俺もドキリと仰天する。
ネオ・アモリオン――。
そういや、ゲームの『エトワル・ラリアンス』では、その設定の中に、世界のことを【アモリオン】って描写してる箇所あったんだよな。
前世における俺等の【地球】みたいな感じで。
ただ、転生後のリシャールらは、単に【世界】としか呼んでない。
ソコがまず変化した、ってコトは。
もう、誰かに造られた【モノ】じゃない。
この【世界】こそが【現実】。
「想いが蓄積してって……、何か、よく分かんないけど、この世界そのものが、付喪神化したってコト!?」
俺の頭では、そう解釈するのが精一杯だった。
かたや、レオナールは完全にヒいていた。
「すまん。リッシー。どういう意味? 俺には、よー分からん」
「え? えっと……、つまり、この世界は、ファン達の思念が凝り固まって、ゲームデータ? か、プログラム? と融合して、本来なら現実には存在しないものが実体化した――言い換えるなら、何らかの呪術的アプローチで、1つの有人惑星みたいになった、ってコトじゃないかな、って思うんだけど……」
「いや、俺も、なんか、ふわっとは分かる気すんだけどさ。なんで、ソコ融合すんのよ? たかがゲームだろ??」
レオナールに訊き返されて、俺も「え」と、必死に前世の記憶を辿り、自分なりに考える。
「だ、だからさ……、この『エトワル・ラリアンス』って、実は、パッケージ・ソフトだけで完結してなくてさ。オンライン環境だと、有料だけど、ネットで追加シナリオとか、レア・アイテムの配信とかもあって、ツイート機能なんてのもあるらしいんだよ」
とかって、前世のマサトがプレイしたことあるのは、オフラインのリシャール・ルートだけだ。
なので、これは、ほぼほぼ、他人に『エトラリ』オタをさらしたくない姉貴が、鬱憤晴らし(?)&布教(??)のために、弟のマサトに、マシンガン・アピールしてきた内容を思い出してるだけなんだけど。
「で。公式では、攻略キャラごとのアカウントもあって。高額課金してるファンには、会員特典的なヤツで、推しキャラからサプライズ・プレゼントあったり、直接リプ返ってくるコトもあるとか? それで熱狂的なファンっつーか、ガチ勢がいるっぽくて。まあ、キャラっつっても、どうせ、AIか、担当シナリオライターが返事書いてるんだろうけど」
「そうなん? ゲームキャラのクセに、人間アイドルばりの公式ファンクラブっぽいこと、やってるっつーこと? それ、ほぼほぼ、VTuberみてーなもんじゃん。すっげー凝ってんな!」
レオナールは感心通り越して驚き呆れたような顔をする。
「でも、まー、俺なら、たぶん、そういうヤツ、だいたい途中で面倒くなって投げんの分かってっから、プレイしねーけど。特に、カネなんて、そういうのより、野球の備品代やトレーニング代、メシ代に使いたいタイプだったしよー」
「あー……」
俺も苦笑いする。
つーか、確かに、レオナール、そんな感じだわ。
とかって、俺だって、この『エトラリ』に関しては、ガチ勢どころか、ニワカでもないしなあ。
「と、とにかく……、オンゲーってのは、サービス終了したり、退会しない限りは、常にユーザーとゲームがクラウドで繋がってるっていうか? まあ、みんながみんな、常時ログインしてる訳じゃないから、アレなんだけど」
「でも、個人個人では接続してなくても、その時間、別の誰かがログインしてる場合もあるから。ゲームの販路がワールドワイドなら、時差のおかげで、そういうバラツキ頻度が格段に上がるワケで」
「誰彼と特定するでもなく、ログインユーザーがあるのを、常にサーバー側が認識してさえいれば、その間、そのシステムは、ずっと生きてて、情報やりとりしてる状態ってことになるから――」
「この『エトラリ』の場合は、たまたま、公式もファンも濃ゆすぎて、ソコが何かヤバい方向へイッちゃったみたいな?? そういうことかなって……」
だんだん、自信がなくなって、俺の語尾も小さくなってしまう。
けれども、レオナールは真剣にふんふんと耳を傾けてくれていた。
こんなつたない説明で良かったかな? って、俺はちょっと心配になったけど。
ようやく、レオにも、ピンときたらしかった。
「つまり、公式にしろ、ファンにしろ、そいつに入れ込みしすぎたから、現実と仮想現実が区別つかん状態っつーか、一体化してオカルト進化した、ってことか? 一見すると、形のない人工物のAIが意思を持って、俺等人間と同等になる、的な??」
ふざけ調子だった三白眼が、一転、キリッとなる。
「た、たぶん……」
俺も眉をハの字に下げながら、コクコク、と首を縦に振った。
想像以上に、映画や漫画みたいなSFぶりだったつーか。
なんだか、ものすごく、自分達がちっぽけに思えた。
だからかな?
俺等は知らず知らず沈黙してしまう。
その静寂を割るように、カミもまた、
[概ネ、それデ正シイトイエマス。タダ、コノ世界トハ別ニ、おりじなるハ、キチント、あなたがたノ世界ニ構築サレテイル電脳空間ニ、ソノママ現在モ存在シテイマス]
と、ドライに告げてくる。
ただちに、俺もレオナールも、
「えっ。ゲームがコレに変わった訳じゃないの?」
「つか、オリジナル、そのままなんっ??」
と、目が点になった。




