第3章 22_リモート・コントロールな俺(2) - 忌み数じゃん!
「……これ、召喚術か? なあ、リッシー、アンタ、いったい……」
動揺するレオナールに、天の声な俺もまごつかずにはいられない。
(てか、【カミ】はいったい何をやろうとして――)
訊きたくても訊けない状況に惑っていると、天の声な俺は、この時、ふと目に入ってきたカリヨン時計塔の文字盤に、「え」となった。
(あの時間……。俺の止まった懐中時計と同じじゃね?)
間違いない。
あれは、真暗でホラーすぎる、あの螺旋階段で、地味に俺の心を折ったヤツだ。
2時13分13秒――。
だが、その数字を見た時、俺は改めて「あれ?」と思った。
日本で不吉な時間とされる丑の刻――それは、言わずもがな、午前2時~2時半の間で、この止まった針の時間も、ばっちりそれに当たっているのだが。
(午前2時って、24時の延長でいうなら、26時だよな。ってことは、つまり――)
26時(=13+13時)13分13秒――。
(13のオンパレードだな!?)
そうして、西洋で不吉な数字とされるのは、【13】だ。
西洋で13が忌み嫌われるのには、色々な説があるが、よく言われるのは、
「暦など60進法で計算されるものは、みな12が約数であり、それを基準の数とするが、その次の数である13は、素数であって、その計算規則に当てはまらないから、調和を乱して不吉」なんだとか。
また、宗教的には、「イエス・キリストを裏切ったユダが最後の晩餐で、13番目の席だった」なんて話もあり。童話『いばら姫』で、呪いの魔女が13番目なのも、それが関係してるとか、していないとか。
しかして、それを目撃してから後、俺は、初めて部品コビトの大群に遭遇した。
(じゃあ、何か? ひょっとして、俺、和洋ダブルで不吉な数字に見舞われてたから、こんなヤバい状況に陥ったワケッ……?)
思い起こせば、この懲罰塔で起きたことは、本当におかしなことばかりだった。
俺は、不運にも、その忌み数の時間に、超えてはならない境界を越えて、この奇妙な世界に引き込まれてしまった、ってことなんだろうか。
だが、俺が愕然としたのは、これだけではなかった。
すっかり【カミ】の制御下にあるリシャールは、小声でブツブツと、カリヨン時計塔に向かって、
Σκιã της Μοĩραι:
「……Cm1?ニ亜テ:メナ〇纏ヲ%ン螺ア?イ\変ミ時ス世キゑ樹▼白ハ摩w+:サ-lk羅ヰンヲ□ケ→y;m/Xfカ線……」
と、呪文というか、機械語というのか、なんだか人間には正確に聞き取れない、なんとも機械的な音声コードっぽいのを唱えていた。
なんかもう、人間業じゃなさすぎる。
ソレを受けて、カリヨン時計塔は、いきなり、
グルグルグルグル……
と、狂ったように針が回り出した。
「ゲッ! コワッ」
レオナールが隣で蒼い顔でドン引きしていたものの、リシャールはまばゆい光に包まれながら、謎の詠唱を続け、何か指揮者みたいにシャッシャッと手を動かしていた。
「てか、リッシー! アンタ、マジで何してんのっ!?」
(そんなん、俺の方が訊きたいよっ!)
でも、リモート・コントロール中だから、こっちからは、【カミ】に接触できないっぽいし。
やがて、猛然と回転し続けていた針は、
カチリ
と、或る一点で止まる。その針が指したのは――。
4時44分44秒――。
(うわ。何だよ。次から次と! これって、『四次元ババア』の時間じゃね!?)
なんて、頓に、前世で聞いた、学校の怪談を思い出した。
これは、だいたい、「4月4日、□□□□で、4時44分44秒に、〇〇〇を覘くと、四次元ババアが現れて、異世界へ連れていかれる」とかいう都市伝説だ。
その場所は、4階の階段の4段目だったり、4階のトイレの4番目だったり、果ては、4年4組の教室だったりする。覗く対象も、黒板に書いた丸(時計?)だとか、鏡だとか、パソコンの画面だとか。
とかく、いろんなバリエーションがあるけど、やたら【4】の羅列が条件になるんだ。
とはいえ、「四次元」「異世界」だなんて。
なんてシュミ悪い……いや、奇跡的な符合だ。
俺的には、既に異世界転生した上での「異世界」って何だよ、って感じだが、【カミ】は、ここではない「安全な場所」へ移動したい、と言っていた。
それに、「4」は四角。
安定を示す数字であるし、また、同音異義語で、死角にもなるから、何か関係があるのかもしれない。
やがて、カリヨンが、
♪リリリンゴン、リンゴン、リンゴンッ、リリリンゴン、リンゴォーーーーンッ
と、けたたましく鳴った。
併せて、カリヨン時計塔が聳える足元から、マジカルキラキラな光の帯が、
しゅるるるるる――
と、螺旋状に昇っていく。とうとう最後には、
しゅぽんっ!
と、煙突からケムリ吐くみたいに、光の環が飛び出した。
けれど、これに、亀みたいにコケさせられていた、メカ・デュラハンも、いよいよ、いきりたったらしい。
あのガチむちサイコロ巨人の時を思わす、大カエル跳びで、俺等に斬りかかってきたんだ。
びよーーーーんっ!
「うおっ! 来るぞっ、リッシーッ……」
レオナールは、戦慄して、無意識に両手で自分の頭部を庇う。
リシャールは、神懸ったサファイアの眼光で、カリヨン時計塔に向かって呪文(機械語?)を発し続けていて、神秘的な暴風に、バタバタと髪も衣類も煽られていた。
ゴォォォォッ!
と、ほどなく、メカ・デュラハンの巨体と、メガ・ファルシオンが降りてくる。
しかし――。
巨剣の切先が俺等に届く、その前に。
ぎゅいんっっっ
と、光の環は、超拡大しつつも、迫る巨敵に光速アタックかまして、
シュパッ!
と、メガ・ファルシオンの刃をあっさりスライス切断した。
メカ・デュラハンは、そのまま、胸部のドーム飾りまで真っ二つに切られ、
ゴオッッッ!
と、起こった霊波の追い風で、戦闘空間の端まで吹っ飛ばされた。
その後、
ちゅどーんっ!!
と、ダイナミックに大爆発した。
かたや、超拡大していた光の環は、しゅううと元の大きさに戻り、
ふよふよ、ふよふよ
と、まもなく、リシャールとレオナールの頭上まで移動してくる。そして、
しゅるんっ!!!
と、一気に、俺等を輪くぐりさせた。
それは、あたかも、マジシャンがカバー被せて人を消す手品みたいに。
果たして、光の環が地面に落下接地するのとほぼほぼ同時に、
シュンッ――!!
と、リシャールとレオナールは、その場から、跡形もなく消えてしまった。




