第3章 19_バトル漫画な俺等(3)- 黒い靄
その時――。
ギュンッ!
と、何かが風を切ったかと思うと、
パシッ
と、俺はその何かに攫われる。
急に俺の身体が、
ふわあっ
と、浮かび上がるや、脇や腹に、逞しい腕の力を感じた。
「えっ」
俺は驚き、おそるおそる目を開けると、レオナールがいつの間にか俺をがっしり抱きかかえて、あの極大レーザー砲をギリギリのところで躱していた。
「どっ……どうしてっ? 君、端っこまで飛ばされてたじゃんっ!」
「おー。そうだけど? つか、『ボサッとすんな』っつったの、アンタのくせして、なんで、アンタのがガチで殺られそうになってんだよっ」
レオナールは呆れ顔で口を尖らせる。
(うわ。言われてみれば、そうかも。すんげえ面目ない)
俺は、「たはは」と、ばつの悪い顔をしつつも、ふと、レオナールに抱えられたまま飛び続けているのが、どうにも不思議でならなかった。
ので、ちら、と下の方に目を遣ると、レオナールの足の裏から、物凄い炎の噴射が見えた。
たぶん、原理的には、本来、掌で発動する魔法を、足の裏から発してるんだろうけど。
(ジェット機かよっ!)
って、驚き通り越して、規格外の魔法の使い方する、レオナールの発想力と実現力に、感服した。――というか、なんか、色んな意味で、ちょっとヒいてしまった。
(……まあ、リシャールもレオナールも、現在のレベル的に浮遊魔法は使えないから、『苦肉の策』とも言えるけど)
そのうち、炎はだんだん弱まって、最後は、
ぶすぶすぶす
と、微妙に焦げ臭さが残る感じの臭気が鼻を突いた。
しかも、綺麗に着地するんじゃなくて、明らかにガス欠みたいに、
ズサササササササッ――
と、俺等は地面に滑り込んでしまう。
ってか。
摩擦熱ハンパねェ!
「痛い! 熱い! 踵から火花出てるぅっ!!」
「うっせぇっ! ピーピー喚くなっ。漢だろっ」
クワッと八重歯を牙みたいに光らせ、まさに獅子の眼で、レオナールはパニクる王太子を叱り飛ばす。
「だってェ……」
注意されたけど、ヘタレな俺は、ぐすっと半泣きで、イジイジイジ。
なんかもう、お互いズタボロだ。
メカ・デュラハンの攻撃受けた箇所とか特に酷いけど、とにかく、2人とも、服があちこち擦り切れて、めっさ血とか滲んでる。
今、反撃きたらガチやべェ。
つーか、今度こそ本気で死ねる。
悟るや、焦った俺は、ギクッと、
(そういや、メカ・デュラハンッ、今、どうしてるッ……!?)
と、慌てふためき振り返る。
したら、思いのほか、あの憎き巨敵は、パワーダウンしていた。
おそらく、メカ・デュラハンも、あの極大レーザー砲には、かなりのエネルギーを使ってしまったんじゃないだろうか。
それで、メカ・デュラハンは自動で自分の周りに、
シュパッ
と、バリアを張って、甲冑の宝玉が、充填中みたいな点滅を繰り返していた。
俺は、とりあえず、レオナールと自分に、順にフォォと治癒魔法をかける。
「あ、ありがとう……」
俺はそっぽ向きながら、ぽつりと言う。
なんか照れくさくて直視できない。
レオナールは、一瞬、きょとんとしながらも、
「おう!」
と、ニカッと笑って、グッドサインした。
俺は苦い笑いで応え、しゅんとする。
「……けど、まさか、僕の魔法があんな風に利用されるなんて」
「つか、魔法なのにソーラー電池の動力になるなんて、むしろ、そっちのがスゲえじゃん」
それは、確かに、レオナールの言う通りで、なんか「サンクレール王家の【太陽】守護能力の神髄を見た」みたいに、俺も驚いたんだけど。
「そんなんで褒められても。ってか、アイツ、いつの間に、あんな――――」
「あー。それなら、アンタが光の矢放った瞬間に、あのドーム飾りがルービックキューブみたいに碁盤目に割れてクルクル回転して、ソーラー電池に切り替わってたぜ?」
あっけらかんとレオナールは言う。
曰く、例のジェット噴射な【火】魔法で飛行している時に、目撃したらしい。
俺は目を白黒させた。
「そうなのっ!?」
そういえば、俺自身は、自分の【光】魔法のまばゆいオーラで、標的の細かい変化なんて見えなかった。
「けど、どーするよ? 王子様。メカ・デュラハン、充填終わったら、また襲って来んじゃね?」
「うーん……」
レオナールも俺も打つ手なしで途方に暮れる。
揃って、じっと、メカ・デュラハンと、周囲の状況を見る。
辺り一帯、メカ・デュラハンが攻撃乱射しまくった所為で、もはや、塔の部屋の痕跡なんて、ほぼほぼ無くなっていた。8割がたマーブルキラキラな光で満たされているのが、なんとも不気味というか、「異様な世界に迷い込みました」感バリバリだった。
果たして。
「!」
俺は、ドキリと、我が目を疑った。
さっき、極大レーザー砲が当たったマーブルキラキラの一部に、謎の真黒な穴が開いている。
いったい何がどうなって、そうなったのか、まったく分からない。――が、光なのに物質感あるマーブルキラキラを穿ったソレが、どうにも異質すぎて、まったく不思議でならなかった。
「あの穴……、外に繋がってたりしないかな?」
俺が指差すと、レオナールも「ん?」と首を傾げる。
「穴ってどれよ??」
レオナールは、手を額の前で傘のようにして目を凝らす。
すっげえ顰めっ面。
俺は「えっ」と冷や汗を覚えた。
「あるじゃん! あそこっ。ほらっ、さっきのレーザー当たった所っ」
「えー? 俺には、なんかキラキラな光の壁に、不気味な黒い靄が、うっすら掛かってるくらいにしか見えんけど??」
困惑するレオナールの顔は、とても嘘をついてる感じではなかった。
(黒い靄っ……!? 確かに、穴から靄っぽいのが出て、なんかどんより渦巻いてる感じはあるけど……)
正直、俺は、最初それを見つけた時、「ブラックホールが出来た」くらいに思えて、ゾッとしたんだ。
いや、ブラックホールは、実際は「光さえ脱出できない真黒の球体」らしいから、たぶん「穴」じゃないし、アレと同一視するのもどうかと思うけど。
(けど、なんで、レオには見えないんだ? いや、靄は見えてるから、そこが他とは違う、くらいには認識できてる??)
ドキドキと厭な緊張を感じながら、俺は、ふと、自分の右手薬指の【混沌の盟約】が、また、フォォと妖しく光っているのに気づく。
(……コレ!)
やがて、その歯車がカチリカチリと回り出した。
瞬間、
ドッッックンッ……!
と、奇妙な重力を感じ、時間が恐ろしくゆっくり変質した気がした。




