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第1章 05_間に合うか?

 俺は、目的のものを求めて、カッカッと足早に執務室へと向かった。


 その時、それは、俺の私室でなく、執務室の金庫にしまっていたからだ。


 ガチャガチャと金庫を開けて、淡く虹色に光る金晶珠が埋め込まれた腕輪を取り出すなり、


「あった……!!」


 と、俺は、ほっと胸を撫で下ろして、ニッと笑む。


 コレ系の魔道具は、おいそれと、そんじょそこらに転がっているものでもない。


 この世界では、既に人々の記憶から忘れ去られてしまった、名も亡き超古代魔法文明の【奇蹟の遺物】として、特定のダンジョンをクリアしなければ手に入らない、レア・アイテムらしかった。


(いやー。こんなの有るの、すっかり忘れてた。まさかの『星辰の乙女(アストロ・メイデン)(さま)サマだな。だって、あのコが王太子(メイン)ルート完走してなきゃ、今、コレ、ここに無いもんな)


 なぜなら、この【転移バングル】は、魔王ダルケシウスの居城へ向かう手前にある、【終焉の祠】にて課せられる【最後の試練】を、条件MAX完遂(コンプ)すると手に入る。


 その【最後の試練】こそ、「ヒロインとヒーローが運命の(つがい)である」と、祠の主である【永遠の司祭】に証明しなければならない。


 ようは、乙女ゲームらしい、攻略対象者の好感度を測るイベントだった。


 この判定が、後々のエンディング分岐にも影響を及ぼすので、プレイヤーとしても、ゲームを有利に進められるレア・アイテムGetだけが目的でなくて、モチベーションが上がるイベントの一つと言えた。


 前世の姉貴は、

王太子(リシャール)ルートって、基本Fランなんだけど、このイベントだけは、この時点での好感度95(パー)以上キープしたまま、ミッションall(ぜん) clear(クリ)しなきゃ、このアイテム、もらえんくてさー。悪役令嬢(マリエッタ)ギロチン処刑されちゃうから、ちょっと可哀想なんだよねーっ」

 とかって言ってたハズ。 


 なので、ゲーム通りだと、悪役令嬢が首チョンパまっしぐらになってしまうので、俺は、その記憶を頼りに、シナリオ・スイッチきてない時にしたためた書面を、事前にクロードに託しておいたんだ。


「大罪を犯したとはいえ、哀れな幼馴染みの命を奪うのは心苦しい。せめて、命だけは助ける代わりに、国外への永久追放にしてほしい」


 ってヤツ。


 それを国王陛下(ちちうえ)ヒロイン(アンジェル)の手に渡るようにした。


 つまりは、リシャール(おれ)・ルートのみで発生する「追放」エンドに賭けた訳だが――。


 これに我が国王陛下(ちちうえ)は難色を示したが(というより、実娘(マリエッタ)の罪が実家に降りかかるのを警戒した宰相に押し切られそうになった)、心優しい()()()()()なアンジェルは呼応してくれた。


「愛しいリシャール様(あなたさま)が左様に願われますならば」って――。


 とはいえ、そのためにシナリオ・リシャール(もうひとりのオレ)が高潔で慈愛に満ちたアンジェル(ヒロイン)に感激して惚れ直す、みたいな超・溺愛パートが発動しちゃったんだけどさ。


(つーか、アレはさすがにヤバかった……。もはや、溺愛(ラブ)通り越して、リシャール(おれ)含めた周囲全員が聖女崇拝(カルト)っぽくなるという、ヒロイン・アゲ展開が凄まじかったから)


 ふと思い出して、内心、「うーん……」とモヤりながらも、


(でも、そう考えると、終盤、いよいよウザくなりかけたアンジェル(ヒロイン)との遣り取りも、まあまあ意味あったよな? だって、アンジェルがリシャール(おれ)本気(マジ)で惚れてなきゃ、

『大罪を犯したからこそ、安易に情に流されてはなりません』とかって反対して、

悪役令嬢(マリエッタ)極刑になってたかも)


 と、考えを改め、俺は「ふいー」と溜息をついた。


(――いや、それもどうなのよ? って思わなくもないが。

愛してるから『赦す』のか、愛してるからこそ『毅然と正す』のか。なんとも判断の難しいところ。

まあ、ケース・バイ・ケースだよな)


 俺は、そのまま、まじまじと【転移バングル】を見返した。


 これは、対で一組になっているアイテムなので、その嵌め込まれている金晶珠は、ペアで同じ。

 けれど、腕輪部分が、女性用は銀で、男性用が金で作られている。


(……それにしても、この腕輪。改めて見ると、太古の遺物とは思えないほどピッカピカだよな。まあ、魔道具だからな。そもそも、ゲームのレア・アイテムに逐一ツッコむこっちゃねーか)


 俺は、一人頷き、利き手でない左手首にカチャリとソレを着けた。


(うお。相変わらず、吸いつくようにピッタリだな)


 この()()()()が、実のところ、物理的なジャスト・フィットってよりは、呪術的制約によるものだと考えると、ちょみっとコワいんだけども。

 

 まあ、それはそれとして。


(っしゃ! 絶対、間に合わせるぞっ!!)


 そう志すや、俺は、この【転移バングル】と一緒に収めていたメモを見る。


 あの時、俺は、その性能や使用法を【永遠の司祭】に口頭で説明されたから、一応、紙に書き留めておいたんだ。


 だって、この世界、よくあるサブカル転生モノみてえに、「ウインドウ、オープン!」なんてコマンド発してみても、何も出てこないから。

 いや、仮に、それで、虚空に半透明な黒窓と白文字が急に浮かび上がったら、それはそれで怖いんだけども。


(いくら魔法があるったってなあ……、あれが現実(リアル)に起こったら、マジで萎えるわー。だって、バリバリRPG脳なヤツからしたら、なんかもう既視感(デジャヴ)すぎて、この世界全体が嘘臭くなるっつーか。ただでさえ、シナリオ強要される身からすりゃ、俺まで()()()()()なのかよ、ってさ)


 だからかもだが、改めて、マサト(おれ)らしからぬ流麗な字面を見ると、「えっ。コレ、マジでおれが書いたの?」って、目を剥いて、ガチでビビるわ。


 王太子(リシャール)はスパダリに設定されてるから、この世界で使われている言語は、普通に日本語と同じように習得してるし(おれも5歳からの転生人生で勉強したし)、我ながら字も綺麗なんだよなァ。


 いやー、転生後、まさか、()()()()までチート化するとは――。もう慣れたけど。


「……ふんふん。ナルホド、ナルホド…………」


 原作(オリジナル)のゲーム的には、転移バングル(これ)により、【終焉の祠】がラスト・セーブポイントに出来る上、祠の祭壇から、魔王の玉座まで一気に飛べてしまう。

 次の時には、また「この地点から再開(リスポーン)できる」という、RPGにもよくある仕様になっていた。


 ――が!

 今、俺が生きている世界は、ゲーム通りには進むものの、「ゲーム」じゃない。

 

 なので、この腕輪持ってると、仮に、対魔王戦で敗北しても、なぜか戦闘不能状態→自動(オート)退却みたいに勝手にワープ発動して、「必ずHP1で生き残る」みたいな謎チートが付いていた。

 ()()()()には、ゲームと違って、蘇生魔法っぽいの無いし(ゾンビ生成術は別)、()られるとフツーに死ぬから?


 ともあれ、転移バングルは、ペアだからこそ、GPSさながらに(いや、この世界に人工衛星は無いから、たぶん、魔術的な刻印認証(マーキング)とか何かなんだろう)、お互いの場所を感知できて、双方向(インタラクティブ)に行き来できたりするんだけど――。


 実のところ、これらは、それぞれ単体でも、しっかり機能する。

 

 つまりは、その転移先も、【終焉の祠】限定でなく、普通に「自分がこれまでに行ったことがある場所」に転移が出来るという。


(この王都エルセイユは、王太子(おれ)っつーか、王家の庭みたいなモンだもんな)



「……ぅじっ、……王子っ! どちらですっ!?」


 割と近くでクロードの声が響いた。

 俺はハッとして(おもて)を上げる。サッと、開けっ放しの扉を振り返った。


 あの感じからすると、たぶん、執務室を出た先の、あの廊下の角の向こう側だ。


「やっべ! 早っ。追いつかれんじゃんっ」


 そうはいっても、行先が決まらなければ、この便利なアイテムも、無用の長物だ。


「今度は失敗する訳にはいかねえんだ」


 だって、俺は、前世ン時、あの姉貴の話を聞いていたにも関わらず、うっかり忘れてて、

 そのゲームプレイ中にだんだん、


「ハー……。たりィ……。なにコレ? ギャルゲーならまだしも、何が悲しゅうて、おれが女子(アンジェル)になりきって、(ヤロー)に口説かれなきゃならんのよ。まじ、ウゼェ。こんなん、やってらんねえ……」


 って、なってきて、思わず、ちょいちょいサボっちまった。


 おかげで、マサト(おれ)がプレイしたデータのアンジェル(ゲームヒロイン)は、好感度93%ってビミョーな数値で、このイベント終了したから、プレイ履歴としては、断罪イベントで、悪役令嬢がまんまと処刑エンドになっちまったんだわ。


 そんで、現在(いま)、俺、王太子(リシャール)になってみて、さらには、生身の悪役令嬢(マリエッタ)と会ってみて、


「やっぱ、おれ、悪いコトしたよなあ」

 ってさ。


「あー……。転生後、追放エンドになっても、未だ心苦しいのは、この所為もあるのかもなァ――?」

 って。


 それは、ともかくとして。


(……どこだ? どこへ行けば、マリエッタに会える!?)


 焦る頭で必死に考えた結果、俺の脳裏に思い浮かんだのは、王都城塞の北方にある【小獄門】だった。

 いや、ガラシェニア王国は、南の方角にあるんだけど。


 ただ、死罪や、それに等しい重大罪に処された罪人は、民への見せしめのため、客室(キャビン)をまんま牢獄に挿げ替えた【牢獄馬車】で、わざわざ王都の特定の大通りを東回りに曳き回された後、この【小獄門】から出され、処刑場ないしは、流刑地へ移送されていく。


 事件が大々的に知られていればいるほど、短慮な民は、牢獄馬車に収容されている罪人めがけて飛礫(つぶて)を投げて辛辣な罵声を浴びせ掛けるし、なんなら、それらを煽動するのを生業とする奴もいる。

 しかも、それは、決して闇商売とかじゃなくて、公的機関とか、一部の教会とかが、こっそり雇っているから(たち)が悪い。


 なぜなら、それは、罪人に己が犯した罪の重さを自覚させて、観衆(ギャラリー)にも「こうなりたくなければ、おのおの法律(戒律)を守って、自重しましょう」と促したいからだ。


 だが、現代日本で生きてきたマサト(おれ)的には、


「いくらなんでも、そんな傷口に塩を塗る真似しなくても。それって、人間(ヒト)としてどうなのよ?」


 って、呆れ果ててしまったりするんだが――。


「ああっ! 見つけましたよっ。王子――ッ」


 とうとう追いついたクロードが、鬼の形相で、執務室内にズカズカ入ってくる。


「ゲッ……!!」

「何が、『げっ』ですか! お行儀の悪いっ」


 ぐいっと俺の腕を引き、クロードは俺を力ずくで取り抑えようとする。


 ああ、もう! こんなところで羽交い絞めされて(たま)るかっての!!


 俺は警戒したが、クロードは、軍人じゃないものの、王太子(おれ)の護衛も兼ねているので、そこそこ強い。


「くそっ。放せよっ、クロードッ! この朴念仁っ!!

俺は、どうしてもマリエッタに会わなきゃなんねーんだってばっ」


「いけませんっ! 今の貴方は、すっかり腑抜けて、どうかなされていらっゃるっ……」


「いーや! 俺は正気だ。だから、邪魔すんなってっ。

俺は、マリーのところへ行って、最後の(はなむけ)にあのコに謝るんだっ!」


 俺はすかさず目眩ましの術を唱えた。


 カッ! と強力な閃光がひらめくと、クロードは「わっ」と怯んだ。

 その隙に、俺は、転移バングルに向かって呪文と行先を唱える。


 転移バングルを発動させるには、呪文の後、一定時間(30秒くらいか?)、金晶珠が緑色に発光している間に、それをダイヤルのように回さなければならない。行きが「左回り」、帰りが「右回り」だ。


「――行かせませんっ……!!」


 クロードは、フラッシュにやられて涙目になりながらも、俺の袖をむんずと引いた。

 ――が、特に何か魔法的な妨害をするでもないため、俺は、彼を振り払うよりも、力ずくで転移バングルの金晶珠を左回りにクリと回した。


 転移バングルは、基本、単体で使うと、その装着者にしか効果が出ない。


 だからこそ、先のGPS的な機能と併せて、一定範囲内にいる仲間ごと移動したければ、「ヒロインの(シルバー)ヒーローの(ゴールド)を揃って使わなければならない」といった、ペア制約が課せられる仕様になっている、訳なのだが――。


 しかして、これも、状況によって、例外はあった。


 つまり、単体でも、装着者にしっかりつかまっていれば、その人も物も、装着者の付属品扱いになって、一緒に飛べてしまうという。


 俺はそれを知っていたからこそ、「あー。もう面倒くさいから、クロード(こいつ)、ついてきてもいいや」的な感じで、さっさと使ってしまおうと考えたんだ。


「あっ……!?」


 クロードは蒼い顔になったが、みるみるうちに、転移バングルの金晶珠から、プワンと、レインボーに発光するフラフープ大の霊輪が飛び出して、俺らの頭上に浮かび上がった。


 かと思いきや、霊輪は、俺らを内側に捉えたまま、ストンッと一気に、足元より下まで通り抜けた。


 っしゃ! スキャン終了―っ。


 知らん顔して、俺がフンフンと鼻歌を歌っているうちに、俺はクロードごと、シュンッと転移した。


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