第3章 15_日輪の矢 (挿絵_09)
果たして、レオナールの炎拳がガチむちサイコロ巨人をKOしたとはいえ、ばらけていると危なそうなので、俺は、とりあえず、剣を鞘に納め、急いでレオナールの傍へ駆け寄った。
「――っていうか、君、得意な武器、ハルバードじゃなかったの?」
「ん? あー。前はなー」
「……前?」
俺が首を傾げると、レオナールは頷いた。
「ほら。俺って、留年してるじゃん?」
「う、うん……?」
俺は眉をひそめながら、ニルスに聞いた内容を思い出す。
「ええと、確か、実家の毒イタチ退治の任務に同行して、うっかり酷い怪我をして、進級単位が取れなかった、って――」
「そーそー。で。ソレ、ただの負傷じゃなくて。なんか猛毒まで喰らっちまってて。一時は、生死の境さまよったんだ」
ニカッと笑ってレオナールは告白する。けれど。
(いや。生死の境、って。かなりヤバくね?)
俺は思ったものの、レオナールはさして気に留めるでもなく、言葉を続けた。
「で。俺、目ェ醒ました時には、医者に、半身不随になるかも、って言われて。俺、必死こいて治療に専念して、ギリ回避したと思ったんだけど。今度は、それが裏目に出て、左足切断の危機に陥ったワケよ」
(半身不随に左足切断って!? いやいや。どんだけヤバいんよ!)
「でも、俺は、もう二度と、そんなんで俺の青春邪魔されたくねえっつって、普通の医学書だけじゃなくて、魔法薬学書とか、とにかく、めっちゃ読み漁ってさ」
(……すげえ。俺だったら、すんなり諦めて受け入れちゃうかも。だって、リシャールは王族だから、身の回りの世話をしてくれる人は腐るほどいるし。最低限のことさえ出来れば、とりま充分、みたいな?)
「藁にもすがる思いで、あれこれ試して、どうにかこうにか回復させた後、ガチでリハビリ頑張ったんだ。したら、やっぱ、完全に治るまでは、ハルバード、上手く扱えんくてさ。なら、せめて、格闘術の方、強化してみっか、ってなってー」
レオナールは、グッと拳を握る。
その拳には、ほんのり炎のオーラが籠っていた。
「ま。人間、諦めなきゃ、どうとでもなるっつーことだな。悔しくねえっつったら嘘になるけど。俺は俺で、今はまあまあ満足してんだ。あん時の俺、ガチで頑張ったよな、って!」
ふふん、と傍目には不遜に映るくらいだったけど。
言い切ったレオナールは、若干、輝いて見えた。
(こいつ、こんなにチャラいのに、ここまで真面目に苦労人だったとは。勝手なイメージだけで、あんま馬鹿にしちゃいけないな。っつーか、むしろ、王太子のが甘ちゃんすぎて、恥ずかしくなっちゃうかも)
俺は感心して頷いた。
我知らず、フッと顔を綻ばせ、つい、レオナールに尋ねてしまう。
「それで、魔法を掛け合わせることにしたの? ただの徒手空拳じゃ、しっかり武装した敵や、魔物と戦うの、不利になりそうだから」
この時、俺は、たぶん、上気していた。
だって、あんだけスゲー破壊力なんだ。
きっと、アレにも、そういう厳しい修行とか、感動ドラマがいっぱい詰まってるんだろう。
そう期待してたから。
なのに。レオナールときたら。
「あ。炎拳?」
さも得意げに赤く輝く拳をチラつかせながら、
「いや、これは、ガチで偶然の産物っていうか。火事場の馬鹿力ってヤツ?」
と、あっけらかんと言った。
「は」
一転、俺は目が点になった。
(か、火事場の馬鹿力、って……?)
俺は甚だ当惑したが、レオナールはそんな俺なんて全く目に入らない様子で、
「ありゃあ、ちょうどリハビリ終わったぐらいン時じゃねえかな? うちの兄貴ら、俺がヘコんでるの気にして、天気いい日に野駆け誘ってくれてさー。だけど、そん時、俺等兄弟んトコに人喰い魔猪が突っ込んできたんだ」
と、俺に向かって、グワッとそのモンスターが威嚇するマネをした。
俺もついつい「ワァッ」と怯む。しかして、レオナールは、
「で。俺、丸腰だったからさ。とにかく、ただで殺られてたまるかよ、って。とりま、なんでもいいから、ズガァンッと1発、お見舞いしてやろうと、無我夢中で、ソイツ、吹っ飛ばそうとしたんだ。したらよ。なんか、たまたま出来ちまったワケよ!!」
と、俺の眼前でシュッとその「やけくそパンチ」を再現してみせた。
そのまま、ガハハと大笑いする。
なんかもう、チャンピオン・ベルト勝ち獲ってやりました、なテンションだ。
(ナニソレ!? 漫画じゃないんだから)
俺は、またしても、ガガンッ! となった。
確かに、ピンチの時に覚醒して必殺技を編み出すのは、少年漫画あるあるというか、それがもはやハイライトな感じだけれども。それがリアルに起こる、って。
レオナール、どんだけポテンシャル高ェんだよ?
それとも、レオナールも転生者っぽいから、ソレ、転生チートなギフトなワケ??
(だとしたら、俺、ちょっと嫉妬しちゃうかも)
だって、リシャールは、1周目、そういう特殊なチートは付かなかったし。この2周目にいたっては、【ループでペナルティ】食らってるんだから。
「ア、アハハ……。お、面白いね、君――」
「おうっ! 俺は天才だからなっ!!」
レオナールは、グッと親指立てて、また、てへぺろする。
うわ。なんかムカツクわー。
俺は笑顔のまま、ピキとこめかみに血管浮かせ、地味に苛立ちを滲ませてしまう。
ところが。
「って、言いたいのは山々なんだけどさー。俺、やっぱ、一番得意なのは、結局、どっちでも無いワケよ。とりあえず、1日1発は、ホームラン打っとかんと。なんか、こう、調子出んっつーかァ――」
不貞腐れた顔で、レオは、ぐるんぐるんと利き肩を回しながら言う。
(え。言いたいの、実はそっち!?)
いや、生死を賭けた人外バトルと野球を一緒にすんなって!
つーか、なんだ、このフザケた既視感。
この流れ、ひょっとして――――。
「そうだ! なあなあ、リッシー、アンタ、持ってきてんの、剣だけ? たとえば、きん――」
「金属バットなんて持ってきてないよ。っていうか、状況的にある訳ないよね? フツー」
ニッコリ微笑みながら、ズバッと、俺は言う。
(――ったく、何が『金属バット最強!』だよっ。これだから、野球バカってのは!)
でも、コレ、まんま、同じコト言ってたヤツを俺は知っている。
前世のマサトが好きだった『アポカリプス・ファイターズ』ってFTGに、金属バットを武器にするネタキャラがいたんだけど。マサトと対戦する時、ソイツはいつも、そのネタキャラばっか使っていた。
でも、それはゲームだから成立するんであって。
リアルにそんな使い方したら、もう、それ、スポーツじゃなくて、流血必至のキケンブツだし! そんなヤツ、目の前に居たら絶対ヒくわ。
純然たる野球少年なら、本気でバット武器にしようなんて、フツー思わんからっ!!
「やっぱ、知ってんじゃん。野球――」
レオナールは、厭な顔をして、チッと舌打ちした。
(うわ。ガチで図星だったのかよっ! これだから、真性野球バカは……)
なんて言いたいのを、俺はぐっと抑えて、
「さあて? どうかなあ。ただの当てずっぽうだよ」
と、小さくクスクスと、ちょっと照れ臭そうに苦笑してみる。
こんなの、めっちゃ白々しいかもだけど。
ここで絡まれたら、後々厄介なコトになりそうな気がしたからな。
(平常心……、平常心……。リシャールは、この国の王太子なんだから……)
その時だった。
矢庭に、フッと、なんか俺等の周りだけ、一気に暗くなる。
「え」
何事かと思って真上を見上げたら、ガチむちサイコロ巨人の太い脚と、つるんとした股間が見えた。
というか、憎きヤツは、あの、凶悪な大カエル跳びを、俺等にかます寸前だったんだ。
「マジかよっ、クソッ! 復帰早くねっ?」
レオナールは、また、猛然と舌打ちする。
「……!」
心情的には、俺もめちゃくちゃ焦っていた。
けど、これも2周目だからかな?
俺は、めっさ反射的に、ほぼほぼ無意識で、速攻、光の呪文を唱えていた。
「トランピアンザ、コルポリオーサ(=貫け、穿て。)」
長弓で矢をつがえるように、俺が構えるその場所に、
フォン
と、金色に光り輝く霊光の弓矢が現れる。
しかして、今にも、ガチむちサイコロ巨人のバカデカい足の裏が迫っていた。
ゴォォォォォォ――
このまま動かなければ。きっと、俺等は踏み潰される。
だが、こちらが逃げられないからこそ、向こうも、きっと、俺の攻撃を避けられないハズ。
俺は、冷や汗するも、クッと歯を食い縛って、思い切り詠唱を完成させた。
「ソラリエ、ディメン、クラッサプレス、オーレア、ヴェローサ、グロイツ、シューティン、スピニッシェンっ!(=日輪の如き破邪の閃き、燦々と輝く黄金の矢っ)」
俺が、ビンッ! と射掛ける動作をすると同時に、その掌からは、光の矢が放たれる。
シュインッ――――!
と、瞬く間に、光の矢は、澄み切った風切り音を立てて飛んでいき、
ズドンッッッ!!
と、敵のケツ穴から脳天まで一気に突き抜けるような(いや、マネキン野郎だから、穴なんて無かったけど)苛烈な軌道で命中した。
「ホガアァッッッ――――!?」
ガチむちサイコロ巨人は、これまでにない悲鳴を上げて、突き刺さる光の矢の勢いに押され、大きく放物線を描くように飛ばされた。
そうして、高速の光の矢は、放物線の頂点に達したところで、あのつるつるガチムチ巨体から、あの小さな箱頭を攫って、
ブチリッ
と、引き千切る。そのまま、延々と天まで飛び続け、ようやく戦闘空間の空の境界に衝突したところで、パァンッ! と霧散した。
体から分離されて、完全にサイコロみたいになった箱頭は、
てんっ! てんっ、てんっ……
と、塔の原型を亡くした床(地面?)に跳ねて、転がった。
これを見たレオナールは、一言、
「エッグゥッ!」
と、スッゲェむかつく顔で、ゲロゲロッと吐く真似をした。
かたや、この時の俺は、フゥと額に流れる汗をぬぐって、やりきった感バリバリだった。
「まァたエラいトコからブッ刺したじゃんっ。やるねー、王子様っ」
そんな揶揄も反対の耳から抜けてくくらい、俺はめっちゃキリッ! ってしてたのに。
「つーか、陽の棒、ケツ穴から串刺しなんて、どこの地獄だよっ? 一歩間違えば、モザイク規制かかったんじゃね??」
なんて、意味深なディスりをしてくるもんだから、俺は、ガックゥッとなって、思いっきりズッコケそうになった。
いや、言い方!
ってか、棒じゃなくて矢だし、穴なんて無かったし。
せめて、ビームくらいに言ってよ!
俺もわざとソコ狙った訳じゃねえし!!
しかも、モザイク規制て。(いったい誰に対してよっ!?)
あのガチむちサイコロ巨人が、俺等、踏み潰そうとしたから、角度的に、偶然、そうなった訳で――。
だけど、レオナールは、てんでお構いなしに、ケケケと笑う。
「つーか、でっけえロケットぶち上げたもんだよなあ。俺、あんなん、初めて見たわ。てか、あの【光】、やっぱレーザー光線的なヤツなん? 俺の【火】とどっちが熱いんっ??」
なんて、レオナールのヤツ、また、ロケットとか、この世界でありえない単語、口走ってる。かくいうマサトも、1周目の時、クロードやニルスに、同じようなコトしちゃってたから、文句は言えないけど。
「知らないよ! そんなのっ。僕は、王家に伝わる魔導書の通り、使用してるだけで――」
「ふぅーん? じゃ、あれって、とどのつまりは、『虫眼鏡で日光集めて、黒い紙、ピンポイントで焦がして穴開ける』みたいな感じ? 確か、アンタの守護、【太陽】だもんな」
いやいや、原理的にはそうかもだけどっ。
なんか、そう言われると、一気にチープになるやんっ!
俺は、はあ、と軽く頭を押さえて、「もうヤダ、こいつ……」と本気で思ってしまった。




