第3章 14_炎の鉄拳
魔導学園に張り巡らされてる結界は、通常なら、そうそう破られるものではないはずなのに。
この時、ガチむちサイコロ巨人は、その上をいっていたと言っても過言ではなかった。
システム外の謎パワーで、結界の発生源ごと、ガチで破壊(解体?)しに来てたんだ。
その証拠に、ここは塔の最上階の部屋のはずなのに、そのビジュアルのまま、窓の外とか、破壊された建物の隙間が、マーブルキラキラな光で満たされていた。
RPG的に言えば、戦闘空間へ移行しました、ってトコだろうか?
(マジかよ? ホント、何なん、コレ。1周目はこんなん無かったのに!)
その方が、塔の崩壊とか、転落とか気にしないでいい分、戦い易いっちゃ戦い易いけど。見方を変えれば、これは、少なくともバトルが終わるまで、この空間から出られない、ということだ。
つまりは、ガチむちサイコロ巨人を倒すか、俺等が殺られるか。
それまでは終わらない、撤退不可避のデス・マッチに他ならない。
「敵って、どういうことだよっ! リッシーッ!! まさか、さっきまでの――、ちょいちょい震度7ぐらいで揺れてたのって――――っ」
レオナールは愕然として俺に訊く。
ああっ、もうっ! 「名前で呼ぶな」って、ずっと言ってんのにっ。
でも、今は、そんなこと気にしてる場合じゃなかった。
「そうだよっ! この部屋に来るまで、僕、アイツに追いかけられたんだ。だから、階段のところで、目眩ましの魔法で撃退して、ずっと下の階まで落ちたと思ってたのに! アイツ、全然、無傷だし、あんまり意味が無かったみたいだねっ」
そんな会話をしていると、ガチむちサイコロ巨人は、両拳を水平にして丁字姿勢を保ったまま、
ギュルルルルルル――ッ!
と、竜巻のように高速回転して襲って来た。
「わっ!」
「アッブねっ!」
俺とレオナールは、巨人の拳が当たらない高さにしゃがみつつ、その高速体当たりを免れんと、それぞれ左右に飛び退る。
なんて漫画みたいなフザケた戦法だ、って思ったけれど。
ここ、ゲームの世界だった。
しかも、普通の人間なら目を回すところ、ガチむちサイコロ巨人は、けろりとしている。
「ホガァッ!」
あんな小さい三角の口のクセして、ガチむちサイコロ巨人は、俺等を恫喝するように雄叫びを上げた。その衝撃波(?)が、
――ゴッッッ!!
と、俺等を襲った刹那、
ビリビリビリビリッ!
と、感電したみたいに、俺等の全身が硬直する。
俺もレオナールも「クッ!」と顔を歪めた。
その隙を狙って、ガチむちサイコロ巨人が、より近い位置にいた俺にメガトンパンチを叩き込んできた。
ドカァンッ!!!
俺は寸でのところで避ける。
――が、炸裂したパンチは、さっきまで、俺が立っていた場所を叩き割り、蜘蛛の巣上の罅が入ったデカい窪みが出来ていた。
(冗談じゃねええええっ! これ、鋼鉄の鎧着てたとしても死ぬわっ)
俺はゾッとした。
けれど、ガチむちサイコロ巨人は、次の攻撃態勢に入っていた。
そこで、俺は、サッと奴の後ろに回り込み、その足首の裏めがけて、
「でやっ!」
と、シュッと一太刀入れた。
それは、前世、ギリシャ神話の、アキレス腱の語源になった英雄アキレウスの話を思い出したからだ。
どんな無敵の戦士も、弱点を突かれれば敗北する。
腱を切れば。きっと、巨人の体勢が崩れて、こっちが有利になるはず――!
が、しかし――。
ギャリィンッ!!
俺の剣は、耳障りな音をたてながら、横滑りするだけで、ガチむちサイコロ巨人の体表にまったく傷を負わせられなかった。
(何っ!? コイツの体、どんだけ堅いんよっ!)
とりあえず、俺だけで戦うのは厳しいので、俺はレオナールに向かって叫んだ。
「フイヤード君っ! 君、曲がりなりにも武門の家系なんだから、剣ぐらいは扱えるよねっ? 僕、予備の剣があるから…………っ」
「…………ねェよ!」
レオナールは何かぽつりと言ったが、俺には、よく聞き取れなかった。
「は」
俺は眉を顰め、困惑する。
その間に、ガチむちサイコロ巨人も、武器を持ってる俺より、丸腰のレオナールを先に叩いた方がいいと気づいたらしい。
即座に標的を替え、
びよーーーーんっ!
と、恐怖の大カエル跳びをした。
あの真暗い螺旋階段で、死ぬほど俺が苦しめられたヤツ!
(やばいっ! レオナールッ、潰されるっ!!)
だが、レオナールはうろたえなかった。
「そんなもん、いらねェってのっ!!」
レオナールは、どっしりと深く腰を落とし、「ハァァ……!」と丹田に力を込める。そのまま右拳に全身全霊を注ぎ込んでるカンジ。
正拳突きを繰り出す前の構えっぽい。
でも、あれ? 気の所為かな? レオナールの拳、チカチカ赤く光ってない??
一方、ガチむちサイコロ巨人は、レオナールの頭上手前に来たところで、両手をガッチリ組んだ大拳をその項めがけて振り下ろした。
ブンッッッッッ!
ああっ! なんか、少年向けバトル漫画でよく見るヤツっ!!
(元ネタは、プロレス技のダブル・スレッジ・ハンマ―だけどっ)
つーか、踏み潰すんじゃなかったの!?
「危ないっ!」
俺が蒼い顔で叫んだのとほぼ同時に、
「クソがっ! 漢の喧嘩は、ゲンコツが基本って決まってんだろォがよォッ!!」
レオナールは、すぅと深く息を吸い込んで、一点集中、
「オラァッ!」
ドッコォッ!!
と、炎の鉄拳を、襲来するガチむちサイコロ巨人の鳩尾めがけて炸裂した。
「ホガァッ――」
ガチむちサイコロ巨人は、ドンッ! と戦闘空間の端まで吹っ飛ぶ。
そして、
ガッシャンッッッ!!
と、見えない壁に激突した。
「すっげ……」
俺は呆気にとられる。
なんつー威力だ。人間業じゃねえ。
――と、思ったら。
(え。比喩的なアレじゃなくて。リアルに、レオナールの拳、燃えてない?)
なんともはや。
レオナールの、敵ブッ飛ばした拳は、本当に、燃え盛る炎に包まれていた。
その火には、明らかに魔力の気配が漂っていた。
(そうだ。攻略対象者としてのレオナールは、【獅子座】守護、【火】属性――)
俺は目が点になった。
(――ってことは。魔法って……物理攻撃に乗せられんの!?)
RPGだと、普通に【魔法剣】とかの項目見るし、そういう属性攻撃のスキルは、よくある。マサトも前世のゲーム・プレイでは散々お世話になったけど。
ただ、この乙女ゲーム『エトワル・ラリアンス』の世界では、確か、物理攻撃と魔法攻撃は、くっきり分かれていたはずなんだ。
(単にレオナールが規格外なだけ? それとも――)
俺は戸惑わずにいられなかったが、目の前の赤ツンツン頭は、見るも見事に有頂天になっていた。
「どーよっ! このレオナール様の、魔法拳っ!!」
レオナールは、「ワハハハ!」と歯を剥いて笑って、戦闘空間の端っこでぐったりするガチむちサイコロ巨人に向かって、ビッと中指を立てる。
うわ。なんかもう、不良っつーか、悪人面だ。こいつ、乙女ゲームの攻略対象者なのに。こんなんで大丈夫なワケ?
呆然として、俺が言葉を失っていると、ふと、レオナールと目が合った。
ハッとしたレオナールは、何故か、可愛らしく(?)てへぺろ☆ する。
ほ……褒めてもらいたいのかな?
「す、スゴいね。君……」
若干、引き攣りながら、俺がニコと笑顔を作ると、
「おうよっ! てかさー、アンタ、マジで細っこいんだから、あんま無理すんなよなーっ。あんなデカブツ、まともに剣なんか通る訳ないし、それやったら、むしろ、アンタの腕の方が折れちまうだろ。まあ? あんなんにも果敢に立ち向かう、その根性は気に入ったけどさ。こんなトコで、王子様に怪我されちゃあ、武門の出の、俺の立つ瀬がねえっての」
と、眉をハの字に下げて、レオナールは肩を竦める。
言ってる内容は至極マトモだ。
王太子のこと、気遣ってくれてるのも、分かる。
でも――。
「――僕が怪我すると、『ヤキュウ』出来ないし?」
半眼になって、俺はわざと訊いてみる。
それに、レオナールも胸を張り、エヘンと答えた。
「そーそー。王太子なしじゃ、甲子園なんて、夢のまた夢――」
(やっぱり!)
俺は、ガガンッ! と白目を剥いた。
つーか、「甲子園」って!
レオナール、完全に転生者(現代日本人)じゃん。
予想はしてたし、こっちも、そのつもりで懲罰塔に来た訳だけど。
(この『エトラリ』世界に『甲子園球場』はないから、王太子の権力使って、とりま、設備と頭数そろえて、高校野球の全国大会やりたいってコト!?)
考えるだけで「うへぇ」ってなって、ドン引きした。
俺が「はあ」と溜息をついて、悩ましげに頭抱えると、
レオナールもギクッと顔を真赤にして、
「あっ……いやいやっ! うそうそっ!! じょーだんっ、冗談っ! 俺は、純粋に、リッシーのことが心配で――」
と、焦って両手を交差するよう左右に振って、めっちゃ否定し、苦笑いする。
そのごまかしかたが、どうにも痛々しい。
てゆーか、いい加減、その「リッシー」呼びヤメロ!
俺は、フンと冷ややかに言った。
「いいよ。どうせ、王太子の価値って、そういうもんだろうし。そういうの、慣れてるから」
そう不貞腐れる風を装って、俺は、レオナールに「自分も転生者だ」って打ち明けるの、本気で「やめようかな」って思ってしまった。




