第3章 12_一難去って、また一難
俺が激しくガクブルしていると、ガチむちサイコロ巨人は、
のしっ
と、1歩を踏み出した。
ズゥン
と、その見るからに巨体の衝撃に床が大きく振動し、一瞬、俺の体も、
フワッ
と浮いた。それはそれは面白いぐらい漫画みたいに跳ばされた。
幸い尻餅はつかなかったけど、その重量差に、俺は即座に慌てふためいた。
これは、完全にヤバい。
(ヒッ! こっち、来るっ……!!)
俺はビクッと戦慄して、
「わぁあぁあああっ!」
と、一目散に逃げ出した。
逃げるっつっても、もう、最上階に行くしか選択肢が無いんだけれども。
真暗い階段は、はっきり輪郭線が見えなかったものの、そんなのいちいち気にしてる暇なんてなかった。ので、俺は、ひたすら五感を頼りに全速力で古びた階段を駆け上がる。
ちら、と肩越しに後方を見ると、ガチむちサイコロ巨人も、俺を追って、
のしっ
と、しっかり階段まで出ていた。それに、俺は「ヒッ!」とますます恐怖する。
(なななな何なんっ! アイツっ。部品コビトと違って、ちゃんと部屋の外にも出られんのかよっ……)
蜂の群れみたいなチビ大群も怖いが、1vs1張るには、あんなガチむち巨人なんて冗談じゃない。華奢で小柄な俺の方が、99%、分が悪すぎる。
それに、アイツはあんなに図体デカいくせに、ズシンズシンと確たる足取りで階段を登れているんだ。
(こんなオンボロ階段なのに! なんであんなのが足のっけて崩れてないのっ!?)
もはや、この塔の強度が凄いのか、あの巨人がそういう異能持ちなのかも分からなかった。
ただ、1つ確かなことは、アイツもガチで俺を標的りにきてるってコトだ。
すると、ガチむちサイコロ巨人は、不意に、カエル座りをして、グッとムキムキの両足に力を籠める。つるつるのマネキンなくせして、めちゃくちゃ血管が浮き上がっている。
かと思いきや、
びよーーーーんっ!
と、大ジャンプした。
「ヒィイイッ!」
ズッシィィィィィンッッッ……!!
ガチむちサイコロ巨人は、俺のすぐ背後の階段に着地した。
その段、めっちゃ、メコッてる。
重量超過の大鉄球を高い所から落としましたみたいに、放射状に割れて、前後の階段ごとメキョッとヘコんで、もはや、階段じゃなくなってるんだ。
(こ……っ、殺されるっ! マジで殺されるっ!!)
奴に捕まるが早いか、凶悪すぎる大カエル跳びで潰されるが早いか。
ガチむちサイコロ巨人は、ぬうっと太い腕でつかみかかってきたが、俺は、ひょいと僅差で躱した。
明らかな体格差は、戦うにはこっちが不利だが、逃げる分には小回りが利く。
しかも。
(やたっ! こいつ、うすのろだっ)
ガチむちサイコロ巨人は、何度も俺を狙ってパンチをかましてくるけれど、俺はギリギリスレスレながら避けまくる。
それは、リシャールのユニット性能的なポテンシャルの高さもあったけど、着ている軍服風外出着にも【物理回避率上昇】の付加効果があったから良かったんだ。
なら、部品コビトは、なんで避けきれなかったのかっていうと、あれは、単純に、アイツらのが素早かったから。
だって、アイツら、めっちゃミニミニで、ちょこまかしてたもんな。
しかして、それしきで余裕ができた訳ではない。
「うわあああんっ!!」
俺は涙ぼろぼろ、ギャン泣きして、でも、一切、手足は止めず、シャカシャカシャカと階段を駆け上っていく。
息切らしながら上り続けて、はや10数分。
(……あっ!)
やっとこさ、俺の前方に、最上階の扉が見えてくる。
魔法錠が光っているので、暗くても、そこにあるのが認識できるし、距離感もなんとなく分かる。
けれども、ガチむちサイコロ巨人は、やっぱり、ズシンズシンと俺を追い続けている。その音で、なんとなく、どのくらいの位置か分かっちゃうから、コワすぎて、後ろ振り返れない。
嗚呼! まったく、なんて日だよ!!
昼間は、レオナールに勧誘ストーカーされた挙句、野球ボールをぶつけられて脳震盪。さっきは、部品コビトにびっちりくっつかれて、メガトン級の塊おんぶ。極めつけが、このワケワカラン、ガチむちサイコロ巨人に追いかけられて、ぺちゃんこ必至の恐怖の大カエル跳び。
(……とかって、そのウザいレオナールを助けようと、深夜にこんなトコまで忍び込んできた、俺もアホだけど)
とはいえ、あの大カエル跳びは、そうそう連発できる技でもないらしい。
それでも、あれから2回ぐらいはやられたし、そのたび、俺は、全身の血を凍らせる思いで、必死で避けて、階段を登り続けていたけれど。
(鍵、開けてる間に襲われたらどうしよう……!!)
この時間だと、中にいるであろうレオナールは、ぐっすり眠ってるだろうし、仮に起きていても、懲罰で閉じ込められてるんだから、あの扉は、この階段側からしか開かないはずだ。
(いや。いらんこと考えるなっ! まっすぐ走れっ)
はぁはぁと、体温と心拍数が爆上がりすぎて、膝はガクガク、腿もぷるぷる引き攣りそうになりながら、俺は、力尽きない程度に、
ドドドドドドドドドッ!
と、ラストスパートをかける。
だって、あのガチむちサイコロ巨人が追ってきているんだ。到着しただけでゴールだなんて、絶対ありえない。その後も覚悟して、何か対処しなくちゃ。
「――しゃっ!」
俺は、とうとう最上階の扉まで辿り着いた。
急いで、魔法錠に学生証の【魔術師コード】と生徒会バッジを認識させる。
すると、また、ガチむちサイコロ巨人は、俺より何段も下で、カエル座りして、
ぐぐぐぅっ
と、両足に力を籠めている。
また大ジャンプする気だ。
しかも、こっちはもう逃げ道ないから完全アウト。
きっと届いちゃうし、下手すると、間違いなく殺られてしまう。
俺はハッとして、ちら、と最上階の扉を僅かに見る。
(アイツ跳んできたら、俺だけじゃなくて、中にいるレオナールまでヤバくならないか……?)
ふと心配にはなったけど、ここは、王国随一の魔導学校だ。
そこが使用してる魔法錠に、結界効果が無いはずがない。
(そうだ。この扉は……この階は、最上階。他の階とは、格が違う)
信じるしかない。
「お前なんかに踏み潰されてたまるかよっ!」
俺は、ダメ元ながら、サッと振り返る。
ガチむちサイコロ巨人は、
びよーーーーんっっっ!
と、恐怖の大カエル跳びをした。
俺は死に物狂いで声も高々に唱えた。
「ランペリアル・ブリアンテ・アドヴェルスィー・オーリアン・コンフュズィア―(=眩き光よっ、我に仇なす全て退けよっ)……!!」
それは紛れもなく、目眩ましの光魔法。
リシャールの1番得意な魔法。
これなら初期レベルでも速攻打てるからだ。
大ジャンプしたガチむちサイコロ巨人が、俺の目と鼻の先に迫った瞬間、
ビカッ!
と、凄まじい光が目の前で閃いた。
これは【光】属性の上、防護魔法の1種なので、術者本人が自分の目眩ましにやられることはない。1人だけ無効化されているというか。
そうして、この光の反撃は、ガチむちサイコロ巨人にも有効だったらしい。
「ホガッ!?」
ガチむちサイコロ巨人は、変な呻き声を上げて、光に怯み、そのまま、背面落下する。
ずっどおぉぉ――――――んっ!! ……ぉんっ。……ぉんっ。……ぉんっ。
めっちゃ反響して、その追突の振動は、俺が立っている場所にまで届く。
あの音と揺れの感じからすると、たぶん、ガチむちサイコロ巨人は、アイツが潜んでた階か、あの部品コビトどもがいた階ぐらいまで、落下してるんじゃないだろうか。
(アイツ自身は光ってたけど、ソレ、自分では認識してねえってことかな?)
自分が光ってる自覚あるなら、たぶん、目眩ましには引っ掛からない。常にまばゆい光に晒されているようなもんだから、それなら、光に免疫や耐性があって然るべきなんだ。
でも、アイツは俺の撃った閃光に負けた。
周りに窓も無ければ、光源もないんだから、そりゃ、フツーは明暗差激しすぎて、フラッシュ・ストレス、キツいよな。
ほどなく、俺の【在籍員腕輪】にピピッと解除コードが送られてくる。俺は急いでソレを魔法錠に入力した。ガション、と鍵は、難なく解錠する。
「よしっ!」
俺は、グッとガッツポーズをして、袖口でぐいっと涙を拭った。
たった数時間が、もう何日も経ったくらいだ。
こんな命がけの冒険、1周目以来だわ。
そう自虐しながらも、俺は、ようやく最上階へ入っていった。




