第3章 09_こんな地獄、前世で見たな
俺は、ダッと一目散に逃げだした。
――と、いっても、ちゃっかり、上階へ続く階段がある方へだが。
とにかく、なりふり構わず、爆速、全速力で。
短距離走の選手ばりのキレイなフォームで、手足をシャカシャカシャカと動かし、めっちゃダッシュする。
前世のマサトだったら、たぶん、ここまで動けてない。
この時ばかりは、『エトラリ』のメイン攻略対象者、リシャールの王太子らしからぬフィジカル・チートに感謝した。
だが、火事場の馬鹿力を発揮できるのは、何も俺ら人間ばかりじゃなかった。
うぞぞぞぞぞ
と、部品コビトの大群は、ぴょんぴょん跳ねつつ、猛然と俺を追いかけてくる。
その気持ち悪さといったら!
イナゴの大群並みの大迫力で絶えず襲来してくる。
「うえ」
俺は激しく顔が引き攣った。
あいつら、あんなミニミニなのに、なんであんな高さで跳べて、バネみたいにびよんびよんしてんの?
とか思ってたら――、
本当に群れの中にバネこびとまで混じっていた。
「ヒッ!」
それどころか、部品コビトらは揃いも揃って、
シュピピピピピ――!
と、ビッグ・ウェーブばりの大ジャンプをしてきて、俺の背中に、次々、
ぴとっ☆
と、取り付いてくる。
「ぎゃっ!」
俺はまたしても、ガガンッ! となった。
しかして、部品コビトらは、もうアホかと泣きたくなるくらい、わんさか盛りだくさんに積もりに積もって、たちまち、俺の背中でゴアァ……と小山化する。
ウソやんっ! って叫びたいけど。
いや、これマジで。
「子泣きジジイかよっ!?」
俺が悪態つこうが、ジタバタしようが、部品コビトらは非情に攻めてくる。
金属の塊だから、本家本元の妖怪ジジイに引けを取らない超過重量。
ウザさも重さもメガトン級だ。
しかも、部品だから、巧い具合にカチャンカチャンと仲間同士連結して、きっちりガンガン隙間埋めてくるし。
コビトにコビトがくっついて、竿みたいにぎょんっと中空に伸びまくっても、互いに部品として固定されてるから、下手に振り落とされることなく、その数は、どんどん、どんどん、増殖していくばかりだった。
それはもう、とんでもない地獄絵図になり果てて、俺はギリギリと物理的にも精神的にも苦しめられた。
「ヒィイィィッ!? お、重っ……」
膨大な部品コビトの塊おんぶに、俺は、とうとう、
ぷちっ
と、圧し潰されそうになった。
(つーか、ほぼほぼノックダウン寸前)
だからだろうか。
部品コビトらも勝ち誇ったように、
「Σ羅螺∫彡ハ加繧Ω爆ァ未戟%ィ具シ破g!」
「纏ィヲ⺛Φ拿Δュ犠丁θ煉갭γ縺∋∀キ無 !!」
と、ワケワカラン歓喜の雄叫びみたいなものを発した。
俺は血の気が引いて、歯の根がガチガチ合わないままに、身動き取れずに、ぐるんぐるんと目を回す。
(まじヤバい、まじエグい。こういう地獄、前世の昔に、仏教の教えを著した絵本? で、なんか見た気がするぞ)
そんないらん事を考えながら、俺は、完全に意識墜とされる前にガバッと起き上がり、俺の背に乗っかって一向に降りない連中を、カシカシと腕で払い落とそうとした。
「うぐー……っ!」
けれども、部品ならではの特性(もはやスキル?)で、がっちりスクラム組んだ奴等は、まさに無双状態、まったく離れようとはしなかった。
(こうなったら、もう力ずくでクラッシュさせるしかない――!)
そこで、思い切って、俺はグッと腹筋に力込め、
「フンッ!!」
と、勢いよくめっちゃ蝦反りして、エア・バックドロップをした。
――――ガッチャンッッッ!!
「乱@羅繧ヲ宍牟テ驚酷ッ!?」
え。なんで「エア」かだって?
それは、つまり、前に組み手はいないが、動作的には、まんまソレだってコト。
敢然と背面から床に倒れ込んで、俺の背中にどちゃくそ盛り上がった部品コビトの上部連中を直接石床に叩きつけようとしたんだ。
「弱ミ※恨シ剃鐚ャ也泣シ溢@@→……」
そんな悲鳴っぽい何かを発した直後、俺の背中に山成してた半分くらいの部品コビトが、床衝突の衝撃でバララッと分解した。
「っしゃ! 計算通ォーりっ!!」
俺は渾身のガッツポーズをした。
フフンと、忌々しい部品コビトどもにマウント返しの笑みを向けたところ、
ぴきー。
きゅるる、きゅるる。
ぎぃぎぃぎぃぎぃ……。
と、ダメージ食らった部品コビトらは、もはや、マトモな声(?)も出せない様子だった。
奴等のメタル・ボディは、さして壊れてなかったが、脳震盪起こしたみたいに、バラけた連中は、ピクピクと痙攣して、仰向け(どっちが表か分からんヤツもいるが?)で倒れていたんだ。
「っと! こんなんで無駄にタイムロスしてる暇ねーわっ」
俺は身軽になった隙に、急いで、ダッと、また疾駆体勢に戻る。
(まだくっついてるヤツいるけど。この部屋さえ、出れば)
そう考え、補充要員が襲ってくる前に、俺は必死に残りの距離を駆け抜けた。
上へ続く階段室へ、と。
どうにか一歩を大股で、部屋と部屋との境界超すように、
ダンッ!
と、片足踏み入れると、俺の背中に小塊おんぶしていた連中が、それこそ、車の後部座席で急ブレーキ食らったみたいに、一斉に反動で前後に揺れた。
直後、境界を越した奴等だけ、窓ある部屋側へ、
すぽーんっ!
すぽぽーんっっ!!
すぽぽぽーんっっっ!!!
と、ことごとく吹っ飛ばされた。
そうはいっても、そのギリへばりついてたヤツもそこそこ大群だったから、
ズドドドッ!
ズドドドドドッッ!
がらんがらんがらんっっっ――!!
と、凄まじい轟音立てて、部屋の中で散らばり、ぶっ刺さり、崩れ落ちた。
果たして、案の定、飛ばされた連中は、重い頭からぶっすり床に突き刺さったまま、子供の落書きみたいな細っこい手足を、
ぶらーんぶらーん
と、空に投げ出していた。
なのに、連中は、やっぱり、痛がるどころか完全に虚無な感じだから、再度、あのシュールな絵面が量産される。
そのため、傍から見ると、それは大惨事ってよりは、普通になんだか部品コビトの畑が出来たみたいになっていた。
「ハハ……。これはこれでキモいなー……」
俺は苦笑交じりにそれを見ていた。
つーか、こんな漫画みたいな強制送還されるとは思ってなかったけど。
とはいえ、
(こいつら、やっぱり、ココから出られないんだ!)
なんて、俺もちょっとホッとする。
――が、実際のところ、俺の身体が室外に出たのは、たった半分だけ。
部品コビトらも強制送還からのクラッシュで放心しているものだと、すっかり俺も油断していた。それこそが大間違いだったんだ。
「怒激Φト繧纏δネ螺※爬巖彡h∫撃ロ>破 !!」
部品コビトらは、にわかに喚き散らして、その動きが凶悪に加速した。
「え」
「殺@↑耳ェ多恨!」
「尽破ミ羅ギβ犠 !!」
その怒号と共に、まだ出せてない側の俺の半身――それも、捨て身タックルで打撲させられた右腕側背面に、部品コビトどもが悔しそうに、わらわらわら、と群がり始めた。
グイグイ、グイグイ
果敢に皆で俺を引っ張って、奴らの独壇場へ連れ戻そうとする。
(ウッソ! マジか!?)
ガガンッと、めっちゃショックだったけど、俺にヘコんでる暇などなかった。
「ぐぬぬぬぬ……!!」
俺は歯を食い縛りながら、何度も何度も振り落とそうとするんだけど、怒り狂った部品コビトどもは、蟻集まって木を揺るがすみたいに、延々と俺に向かってくる。
(くそう……! 負けてたまるかよっ!!)
俺は、ギリギリギリと、主導権取られまいと、耐えて、耐えて、懸命に最凶な錘と化した部品コビトどもの拘束から逃れんとした。
しかしながら、連中のしつこさは、とかくメンヘラ・レベルだから、俺もいよいよブチギレて、
「っこなックッソォ――――――ッッッ!!」
と、無我夢中で、スマッシュ打ち込むくらいに、
ブンッ!
と、負傷した腕を大きく床に振り下ろした。




