第3章 08_タイヨウフウ
物陰に隠れた俺は、蒼い顔で部品コビトどもの様子を窺い、必死に考えあぐねていた。
(……メカなヤツの弱点は、やっぱり水と電気? でも、俺、どっちも使えないし。そもそも、アイツら部品だから、どっちもそこまで即効性も無いよーな……。金属溶かせるのは、酸と炎だと思うけど、それも使えないし……。
つか、アイツら、部品だし、めっちゃガチャガチャしてるけど、ガチで金属認定してOKなワケ?)
前世の知識もフル動員して、俺は「どうにか突破口はないものか」と頭を悩ませる。
リシャールは、【太陽】守護、【光】属性。
得意な物理攻撃は【剣術】で、魔法もスキルも、最初から使えるのは、ホントに基本中の基本。王道なヤツだけ。キャラ性能的には、オールラウンダ―だけど、それは、裏を返せば、突出して秀でた強さがどこも無いともいえる……?
(でも、メカか……。メカなんだよな……? 現在の能力、リシャールのユニット特性で出来ること、なんでもいい、何か無いか??)
すると、ふと、不意に、
【タイヨウフウ】
と、いう単語が思い浮かんだ。
(そういえば、なんか前世で『太陽フレアの爆発で磁場が狂うと、精密電子機器に影響出る』的なニュースを聞いた覚えがあるような……)
そうだ。【太陽】――。
俺の、王太子の守護は【太陽】なんだ。
つまり、属性とか、基本は【光】でも、実は【太陽】由来の力を使用することだって可能……??
(あった! 1コだけ。ホントに効くかどうかは分からんけど)
俺は、ランプを足元にコトンと置くや、瞼を伏せ、すうと深呼吸する。
この上ないくらい、神経研ぎ澄まさせ、俺は精神を集中させる。
「……エスティージャ・ソラリア・フォトニア・スフィアリア(=顕現せよ、陽なる御星の光結晶よっ)!」
詠唱するや、俺は、たちまち、自分の掌中に、
ポヮンッ!
と、ミニ太陽を作り出した。
(ちっちゃっ!!)
それは、ミニっつーか、もう、ミニミニな光球、真赤な灼熱ガスの小玉。
(うわ。リシャールのレベル、リセットされてるから、嫌な予感したけど。コレ、思った以上にチビすぎるな)
強いて言うなら、リアルに、硬式野球のボール・サイズ。
(いやいや、卓球とかゴルフのサイズじゃないだけマシか。あー。でも、せめて、バレーか、バスケか、サッカーか……。そんぐらいのサイズは欲しかった……!!)
サイアクそれだけの大きさがあれば、この光球をごろごろ転がして、ひたすらぶつけまくるだけで事足りたかもしれない。
――が、現状のこのサイズじゃ、水槽の中に醤油を1滴たらすようなもので、衝突から免れた大多数の部品コビトどもを退けるのが困難すぎる。
あと、あんまり部屋の壁や床に近いと、あのコビトどもを倒すどころか、部屋が破損して、塔崩壊に繋がるかもしれない。
そうして、たった今、思いついた俺のアイデアは、そんなスポ根チックなヤツじゃなかった。
だって、俺はそこまで投げるの上手くもないし、俺の目的は、あの部品コビトどもを全滅させることじゃない。
如何に無傷で、自分がこの階を通り抜けられるかなんだ。
正直、上手くいくかどうか、自信ない。
それでも――。
俺は、思い切って、
「えいやっ!」
と、そのミニミニ太陽を、へっぴり腰ながら野球のフォームで、部品コビトの群れに投げた。
直接当たる位置じゃない。あの大群の真上の方。
部品コビトらは、初めて見るソレが何か分からないようだったが、本能的にヤバいと思ったのか、ザザッと波紋広がるみたいに離散して、わたわた逃げ惑っている。
俺は、さらに詠唱を重ねて、自分の手から離れたソレを操作する。
「……廻れ、舞われよ、独楽繰るように。そなたは明き光、大地を照らす、天の王。磁なる熱をもたらし、闇夜を分かつ。四季の巡り告げ、あまねく生命を呼び醒ますように。内なる輝き、荒ぶる波動を解放せよ。廻れ、舞われよ、焔の大蛇。黒き斑の奔流、生じ滅びて、くるりくるりと、果てなき輪舞を繰り返せ…………」
俺の詠唱に合わせて、ミニミニ太陽は、
ギュン、ギュン、ギュン……
と、徐々に回転し始める。
ミニミニ太陽は、その見た目通り、太陽と同じ、プラズマと電磁波を持つ、灼熱ガス集積体。
それは自己完結するものというか、絶えず内側からそういうガスが噴出されて、自転運動をおこなうので、外側には、分厚い大気層が形成されている。
とどのつまり、めっちゃミニミニだけど、まさに、それは太陽の複製体なんだ。
当然、その表面は、マグマに匹敵するほどの超高温なんだけど、普通の火炎弾みたいに連射はできない。その規模は術者のレベルに依存するものの、個数自体は、たった1個しか作れない。
だって、太陽だから。
なので、早い話、戦場では、何の役に立つのか分からん光魔法だったが――。
(いや。太陽光線が苦手な敵には牽制になったか? あと、この光浴びた味方の体力が、ほんの少しだけ、オート回復するみたいな??)
とにもかくにも、俺は一心不乱に念じ続けた。
「……疾く疾く廻れ。渦巻き、螺旋のことわり、加速せよ!!」
そう詠唱を締めくくると、俺の魔力制御を受けたミニミニ太陽は、
ペカーッ!
と、ますます、サンサン光り輝き、
ギュンギュンギュンギュン……!!
と、一気に高速回転し始める。
それで遠心分離の力が働いたのか、太陽フレアも、ますます燃え盛りながら流動し、時に表面で小爆発を起こして、内部に蓄えた電磁波を解放する。
やがて、四方に拡散する電磁波は、磁力線となって降り注ぎ、それらが対流すればするほど、ミニミニ太陽を核とする磁力が強くなる。
次第に部品コビトも、その磁界に吸い寄せられていく。
ズオオオオオオ……!
それこそ、理科の実験で「電磁コイルで発生した磁界に、撒いた砂鉄が、N極とS極にゴッソリ吸着される」みたいな感じだ。
部品コビトらは、加速度を増すミニミニ太陽の2極に凝り固まって、ただ手足をジタバタするしか出来ない状態になった。そこで、俺は、高速回転するミニミニ太陽の浮遊位置を、徐々に端っこへずらしていく。
それこそ、俺が、連中に襲われることなく、通り抜けられるように。
(っしゃ! 今の隙に……)
通過しきるまでに魔力が尽きるとヤバいので、俺は、魔力制御を維持しながら、利き手で魔力回復薬の小瓶を、拡張オーモニエールから取り出し、ぐびっと一気に飲み干した後、空瓶をポイッと投げ捨て、そろそろと移動する。
(そーっと、そーっと……)
ただ、次の階段までの距離を考えると、もう2回くらいは、途中で魔力回復薬を飲まないといけない気がする。
(くそっ。魔法やめることなく、目視で周囲の安全を確認しつつ、途中で魔力補給もして移動するの、なかなかエグいな。これ、部品コビト以外の敵、潜んでたら、絶対対処できんわ)
とはいえ、いざ、久方ぶりに窓ある部屋に潜入すると、そこは、ランプが無くとも月明かりで明るく、充分、見通しがきく。大量のゴミが転がってはいたけれど、部品コビト以外はいなかった。
けれど、ふと、俺は或るものに目が留まる。部屋の隅に、扉が一部壊れて開いたままになっている掃除用具入れ(?)、いや、3連縦ロッカーが置かれていた。
しかして、その開いたロッカーの中には、不気味なマーブルキラキラな光が渦巻いていた。
俺は、我が目を疑った。
(あれ! 俺とユノが出逢った白の世界の終焉――、あの時、ガッツリ天井ブチ破ってきた、怪物目玉がいた背景と一緒じゃんっ!!)
信じられない光景に、一挙に、この階層だけが異質な世界に思えてくる。
俺は、思わず呆気にとられて、生命線たる集中力がプツンと切れた。途端に、
パァンッッッッッ!
と、ミニミニ太陽が弾け飛んでしまう。
「あっ……。ヤベッ!!」
あっという間に、ミニミニ太陽が生み出していた磁界が立ち消え、2極にゴッソリ捕まっていた部品コビトらは、
ザラザラッ
バラバラッッ
ガランガランッッッ
と、全部床に落ちた。
部品コビトらも拍子抜けしたように、みんな山盛りでひっくり返って硬直していた。――が、すぐに、
びょーんっ!!
と、跳ね起きて、また、わらわら、こっちに向かってくる。
「わわわっ……!? は、早く……っ、第2弾をっっっ」
おろおろ俺が焦って、もう一度、太陽球を作り出そうとしたところ、
スパ――――――ンッッッ!!
と、物凄い勢いで、何かが俺の腕に激突してきた。
「痛ッテッ!?」
方角的に、たぶん、部屋の隅っこから飛んで来たっぽい。あのロッカー方面。
石より硬いソレに、「どんな武器だ?」と思って見たら、ガチで、手足が生えたネジでボルトな奴だった。
「新手じゃんっ!?」
俺は、ガガンッ! となった。
俺を打撲させたチビは、床にころんっと落ちて、当たり損ねた何人かは、思いっきり、石の床に脳天からブッ刺さって、細っこい体が、
ぶらーんぶらーん
特に痛がるでもなく、棒切れみたいな足が床から生えたみたいになっている。
パッと見は、めっちゃシュールでチープなんだけど、それがかえって、ものすごくコワい。
「ゲッ」
そう。部品コビトが渾身のロケット頭突きをしてきやがったんだ。
(あっぶねっ! 付加効果かかった装備じゃなけりゃ、完全に、俺の腕、貫通してたやんっ!!)
よくよく考えたら、ピストルとか、イメージ的には火だけど、実際には、火薬の爆発力で金属の弾丸、音速な速さで飛ばしてるだけだもんな。
つまりは、この部品コビトの捨て身アタックは、ピストル並みの殺傷力があるということだ。
(こんなクッソうざ凶器な連中、いちいち相手してられっかよ……!)
果たして、俺の腕を狙い撃ちしたチビどもは、床に落ちた奴、めりこんだ奴、お構いなしに、不敵にのっそり起き上がる。
(マジか。不死身なのかよ)
俺がビクッてブルッてると、なんと、あの壊れたロッカーのマーブルキラキラの中から、ひょこっと、さらに新手の部品コビトが飛び出してくる。
(え!? このチビども、あの目玉とおんなじ所からやって来てたんっ??)
最初から、この塔の住人じゃなかったのか。
そうして、新手の部品コビトは、磁界から解放された連中らと共に、仲間を苦しめた犯人(つまりは俺だが)めがけて、金切り声を上げて、猛ダッシュでタックル仕掛けようとする。
「斗m/纏呻⁋‰死ホ@医※㐱キ丙フ撃〒ヌッ!」
「ミ螺ィ具シ※巳サ恨ュWッ襲h纏=無g∇LΩ !!」
「ヒイィィイィッッ! じょ、冗談じゃねえぞオォォオォ――――ッ!!」
俺は甚だ絶叫し、ソッコー身の毛がよだって、絶望した。




