第3章 07_なんかミニミニなヤツが現れた! (挿絵_07)
とりあえず、「前進あるのみ」の精神で、俺は、ひたすら、とぼとぼと螺旋階段を登り続けていた――。
しかし。
ドタタタタタッ!
瞬間、上層の方でけたたましい騒音が聞こえた。
(――な、なんか、いる……??)
ビクッ! と身を竦ませた俺は、バクバク鳴る心臓をどうにか鎮めんと、必死で胸を手で押さえた。きょろきょろと辺りを見回し、何か異常はないか確かめる。
だが、ここは、まだ、階段室。
どこをどう見ても階段オンリーだし、窓がなく、ランプが無ければ、相変わらず真暗闇だ。
ただ、これまでの中〇〇階の出現パターンを考えると、そろそろ、次のヤツが見えてきても良い頃だった。
俺は、キョドりながらも、着実に歩を進めるのを再開する。すると、
(おっ! あった)
と、階段脇に、ちょっとした窪みを発見した。
ランプをかざすと、案の定、例の小部屋があった。
(これ、俺が数え始めて、なんか40階は過ぎてる気がするんだけど……)
とか疑ったところで、
(そういや、前世、日本の東京や大阪にもあった、高さ300m超えの超高層ビルって、確か60階以上とかなんだっけ?)
と、ふと思い出した。
そんでもって、大阪の成人式で、そのビル、「新成人が徒歩で踏破するイベントをおこなった」って、ニュースも見たことあるのも併せて思い出す。
(……あれって、登るの確か1時間くらいだったよーな……? 俺なんか、それ聞いただけでビビっちゃったんだけど)
そこまで想起したところで、俺は「ん?」となった。
(ってことは、何っ!? この懲罰塔、アレと同じくらいの階数あるってコト??)
冷静に考えて、俺はゾッとした。
つーか、この世界の建築レベルで、その高さ、無理じゃね?
って、目ン玉落ちそうになったんだけど。
よくよく考察したら、ここ、魔導学園だから、普通の建て方じゃなくて、「たぶん、魔法的な何か使ってんだろうな」という結論に至り、ひとまず納得した。
それに、ゲームの世界だし。
前世の記憶をたどれば、他のRPGのやりこみ系ダンジョンによくあるタワーの階層なんて、普通に100階とかあったわ。(『エトラリ』住人に転生した俺としては、アレどうやって建ててんの? って思う)
ともあれ、変な物音がした場所が近いだけに、俺は、おそるおそる、その中〇〇階の様子も一応確認した。
見ると、この中〇〇階の床には、割れたビーカーやらフラスコやらが無造作に転がっていた。
(魔法薬学か、錬金術でも履修してた場所かな?)
なんて、一旦、推測したんだけど、
(でも、面積的に狭すぎるし。もしかしたら、実験に使う薬品を保管する薬品庫とか、実験道具そのものをしまう準備室的な場所だったのかもしれない)
と、すぐに打ち消した。
それに、うるさかったのは、距離的に、たぶん、この上の部屋だと思う。
だから、やっぱり教室として使われてたのは、そっちの方で、この小部屋は、そのための物置みたいな扱いだったんだろう。
(はてさて、鬼が出るか、蛇が出るか……)
俺はごくりと息を呑んで、パンパンッ! と、また自分の頬を叩いた。
「シャッ!」
と、形だけでも気合を入れる。
そうして、ぬき足さし足、俺は、蚤の心臓を奮い立たせながら、上階へと続く階段を登っていった。
正直、数字的にソコが何階になるのか、俺には、もう分からなかったけれど。
でも、物音がしただけあって、延々と続くと思っていた階段の先には、やっぱり部屋があったんだ。
その部屋もまた、前に見た下層の部屋のように、その階に1ホールあるだけの形式で、それより上階に進むには、必ずソコを通らなければならない構造になっているらしかった。
(うわー。なんかヤダ。変なモノとかいませんように……)
不安に駆られて警戒心MAXだった俺は、いきなり飛び込んで痛い目みるとかゴメンだったから、まずは階段側の壁陰から、ちらと中を覗いてみる。
果たして――。
(えっ……)
俺は目ン玉でんぐりかえり、日和った声を出しそうになった。
――が、俺は慌てて、ガバッと手で口塞ぎ、一瞬、息止め、向こうに気づかれないようにした。
窓から白銀の月光差し込む、その部屋では、なんか小人みたいな連中が、わきゃわきゃ、わきゃわきゃ。あちらこちら、ちょこまか走り回っていた。
でも、コビトじゃない――。
(何だ、アレ? 部品――、に手足生えてる!?)
そう。ソコにわらわら居て、所構わず室内を走り回っていたのは。
ネジ、ボルト、ナット、歯車、ボビン、ローター、パッキン、ベアリング――
その他、専門的すぎて一般人にはもう何が何だか……。
パッと名称出てこんヤツまで、とにかく明らかに機械部品な頭部を持つ、奇々怪々な連中がわんさか待ち構えていたんだ。
(イヤイヤ。ナニコレ。ゼンゼン、イミ、ワカラナイ――)
俺は即座にピシッと固まり、鯉みたいに口をパクパクとさせた。
しかも、「部品に直接人間の手足が生えている」というよりは、「細っこい体に部品な頭が生えている」っていう方が正しい。
とかく、ものスッゴく人形クサい。
そのうえ、口も無いはずなのに、なんか、キャーキャー喚いてるので、思わず俺は耳鳴りがして、片頭痛をきたしそうになった。
部品運動会なカオスぶりに、ほとほとついていけなくなる。
(え? もしかして、俺、夢でも見てる?? それか、タチの悪い幻覚とか……)
俺は、壊れたスロットみたいに、頭も目玉もぐるぐるぐる……。
脳ミソ完全にヤられた気がして、冷や汗だらだら、喉もガラガラ、この光景がまるっと信じられなかった。
だって、俺は、1周目、シナリオに翻弄されながらもエンディング寸前まで完走して、色々な場所で、色々な魔物や生物を見てきた自負があったけど。
あんな、チープで、ミニミニで、中途半端にSFな、フザケたオモチャみたいな連中、見たことナイ――。
一瞬、眼前真暗になって、
ひゅっっっ――
と、口から超常霊魂抜け出しかけて、
フラッッッ
と、背中から倒れそうになった。
――が、頓に、
「キャー」
と、騒ぎながら、ぴょんこぴょんこする、ムカデっぽい黒小板なヤツと、2本線飛び出た黒電池なヤツと、チカチカ光る丸キャップなヤツが、ガッツリ視界に入ってしまった。
(エ!? ちょいちょい待って!)
俺は、ギョッと目を剥いて、背面ブリッジばりに卒倒するのを踏みとどまって、鍛えた腹直筋を頼りに、ガギョンッと元の位置に身を起こした。
(なんか、めっちゃ、バリバリ最新ハイテク部品なヤツ紛れてるんすケド!?)
そのまま、ごくりと生唾呑み込み、じいっと、何かの見間違いじゃないかと、必死に我が目を疑った。
それでも目に入るのは、やっぱり、ムカデっぽい黒小板なヤツと、2本線飛び出た黒電池なヤツと、チカチカ光る丸キャップなヤツで。
(半導体に、コンデンサに、*LED[=*発光ダイオード]って!? 白熱電球すらない世界に、いったい何世代分、飛び越してんだよ!!)
なんて、ガチでパソコン基盤とかで見たことある、もうツッコみどころ満載なヤツが目に入ってしまって、思わず、俺は「ブホッ!」と噴き出した。
「…………!!」
すると、さしもの部品コビトらも、侵入者に気づいたらしかった。
「ハf全∱ヲ漣フ羅Aあ丙ミ外ワ@纏※e∇∬未!」
「∑危⟐于レ®斗キ呻⁋‰ホ$簾イミ巳※〒ヌ !!」
「具シ下ヨ乱@@”喧ノシ天감㐱两フ撃甲ヲッ!?」
途端に、意味不明な言語(?)でめっちゃ騒ぎ立てるや、
ワーワー怒号を上げながら、一斉に、
ズドドドドドッ
と、こっちに向かってくる。
「ヒッ!」
俺は戦慄して、間仕切壁を背に、ビタッ! と張り付くように立ち竦んだ。
(コレ、ヤベェ。絶対、ヤベェ)
この時、俺は、きちんと武装していたし、基本の光魔法は使えたんだけど。
なにぶん、相手が理解の範疇を超えた奴等すぎて、それらを返り討ちにするなんて発想には及ばなかったんだ。
言うなれば、グンタイアリの群れを見て逃げ出すジャガー、と同じというか。
体格はゼンゼン俺のが上なのに、訳分からんチビっこいのがウジャウジャいるから、それだけでキモいというか、もう怖い。
クソッ。せめて、手足が生えてなけりゃ、ただの部品にしか見えんのに!
しかも、アイツら、ガチャガチャ、ガチャガチャ。ウルセーのなんのって!!
(でも、どうしよう……。俺、このままじゃ、この階、本気で通り抜けられんかもしれん……)
頭ン中まっしろになって、めっちゃガクブルしてると、不思議なことに連中は、
「縲ゅ峨겅ミ〒黑箏Ç※∫縲ラ薙激Ψフ!」
「吾筍シ医纏キ羅ィホ爬嵌ミ蚊ュ※↑医 !!」
と、中で喚くばかりで、その部屋より外――つまり、階段の方まで出てくることが出来なかった。
扉口に結界というか、規制線張られて出られません、みたいな?
(マジか。……って、コレ。どーすんのよ?)
とりあえず、上に登るには、あのチビどもをなんとかやり過ごさんと。
殺す? 壊す?
それも何か嫌だけど、避けるには多すぎる、あの大群――。
表情はないはずなのに、あのチビどもには、なんだか恨めしげにスゴまれてる感じがして、鬱々とした気分になる。
俺は、その場に座り込み、うんうん唸って、途方に暮れてしまった。




