第3章 04_モフモフ変身3連チャン(3)ネコ
どうにかこうにか、暗闇に沈む市街地も走り抜け、いよいよ、最後の難関、モン・ノワール登山からの学園侵入だ。
(うわー。山登りかァー。いや、分かってたけどさ。いざ目の前にすると、結構、タリィよなー)
とか、文句言ったって、どうしようもないんだけど。
モン・ノワールは、モン・ラパンより標高が100mくらい低いものの、当然、滑空するより登山する方がキツいし、モン・ラパン以上の魔法トラップ的なヤツがあちこちに仕掛けられている。
学園が保有している魔導書とか、魔道具とか、敵方に奪われるとヤバいヤツがたくさんあるし。立地的に、城攻めの重要拠点になりうるからだろう。
そういう意味では、この学園もまた、王宮並みの、もしくは、それ以上の警備が必要なんだ。
だから、学園への往来に使われる道は、100%、厳重警備が機能していて、異変があれば、すぐ魔法の檻や柵が出現する術が敷かれていたり、鳥や虫に擬態したドローン的な魔法の見張り番もうろうろしている。
また、不審な侵入者は、雷撃で狙い撃ちされ、感電気絶させられるという、ミニ雷雲みたいなのもふよふよしていた。
なので、学園までは、当然、通行区域外からのモン・ノワール踏破、1択だ。
そこで、俺は、若干、移動速度が落ちるけど、今度は、猫に【変身】して挑むことにした。
ぼぼんっ!
「ニャニャーンッ!(=やってやらァッ!)」
俺は猫語で自分に活入れる。
猫は、木登りも出来るし、変則的な動きも出来るし、一応、肉食獣だし。
時に、「猫は液体だ」ってネタにされるほど、体が柔軟で瞬発力高いのも良い。
元々夜行性で、夜目も利くし。
ヒゲは周囲の状況を瞬時に識別するセンサーみたいなもんだから、何があるか分からない夜間の山の急斜面を分け入っていくのに適していると考えたんだ。
とたたっ、とたたっ
しゅるりんっ、しゅるりんっ
ニャンコな俺は、草叢、小石ごろごろな獣道を進み、崩れかけのちょい崖、砂利段差をひょいひょい飛び越し、倒木折り重なる狭い隙間や岩々が迫り出す狭間をするりと抜けていく。
ガサガサガサガサ――
なぜなら、大幅に道から外れた、ちょっとでも人間が通れそうな箇所は、だいたいトラップがあるからだ。なら、小動物か虫ぐらいしか通れんだろう、って感じの場所を、敢えて選んで進む方がトラップ回避率が高いといえる。
(……あっ! あの岩の隙間、光ってる!! あの木の上とか、茂みの先とか――)
あれって、たぶん、リアル地球の映画やゲームでも見るような、警備レーザーじゃないかな? しかも、ここはファンタジーな世界だから、科学的なアレじゃなくて魔法的なヤツ。
魔導学園の先生方みたいに、魔法使いには、使い魔を使役している者が一定多数いるので、たとえ、獣道でも、そういう際どいトラップがあったりする。
なので、悪路でも必ずしも安全とは言えず、そこは、全神経を研ぎ澄まさせて、各所に点在する大小様々のトラップを見分けて避けるしかない。
ひょいひょい、ひょひょい、ひょいっ――
(ヒィーッ! まだまだあるーっ。これ、めっちゃしんどいヤツじゃんっ!)
ぐるぐる目が回りそうになるほど、俺は、この骨が折れるトラップ・スルーを繰り返す。
だが、冷静に考えると、下手に変な酔っ払いに出くわすよりはマシかもしれん。
だって、こういうトラップに掛かったとして、それは、俺の自己責任だけど。
俺は、一応、王太子だから。
仮に、不慮の事故に遭って、王太子のが過失大きかったとしても、そっちのが揉み消されて、むしろ、被害受けた方の人が、一方的に罪人にされて、裁かれてしまう懼れがあるんだ。
(国王陛下は正しい判断をしてくれそうなんだけど、それより声の大きい、王太后や宰相が厄介なんだよな。あと、奏上前に、裁判所とかの役人が勝手に忖度したりとかさ)
まあ、そんなことが実際に起きると、完全に政治の腐敗だと思うから、できれば、無いものだと信じたい。ただ、この世の中ってのは単純じゃないから。敢えて「政治的取引」という形をとって、うやむやにするケースだってある。
ので、とりま、王太子自身が気をつけないといけないんだ。
などなど思い巡らせながらも、俺は、すぐに脳ミソ切り替えて、慎重にトラップ回避に注力する。
しかして、警備レーザー・エリアは割に長かった。
なので、俺は、タイムアップごとに、ササッと、レーザーの死角になってる岩陰や木陰に隠れ、トラップに感知されないようソッコー【変身】するのを繰り返しながら、やっとこさ、この最大難所をクリアする。
とはいえ、最後の最後で、ニャンコな俺が、夜露で濡れた苔むした岩でちょろっと滑ってしまって、
ずべしゃっ
「ふぎゃっ!?(=痛てっ!?)」
って、すっ転んだ際に、たまたま、そこらの小石が、ぽーんっと跳ね飛ばされるなり、
バシュッ!
ジュジュッ!!
と、レーザーで瞬時に黒焦げ、蒸発したのを目の当たりにした時は、
「ぅなぁーご……(=マジか……)」
と、心底、血の気が引いたけど。
(やっぱヤベェわ。魔術師協会クオリティ……)
学園の上位組織のトラップに対する本気度が垣間見えて、地味に怖かった。
けれども、のんびりはしていられないので、ニャンコな俺は、とっとことっとこ、鬱蒼とした山林の中を駆け上がっていく。
やがて、国立エスカロワイユ魔導学園のメイン校舎があるエリアの外構壁が、ゆらりとその荘厳な風姿を俺の眼前に現した。
(おっ! 見えた、見えたっ)
果たして、ニャンコな俺にとって難所と思われる切り立った小崖を過ぎたところで、何の仕掛けもない山の斜面を発見した時は、もはや、ウイニング・ゴールばりにキラキラ輝いて見えた。
「ニャーンッ!(=やったぁーーーっ!)」
テンション上がった俺は、また、とっとことっとこ、一気に駆け登っていった。
「ニャニャニャーンッ! ニャニャン、ニャンッ♪
(=無事、踏破っ! やるじゃん、俺っ♪)」
ニャンコな俺は、嬉しくなって、つい、その場でぴょんこぴょんこと宙返りをしてしまう。
おっと、いかん、いかん。心まで猫になりかけてしまった。
ひとまず我に返って、冷静に、目の前に聳える学園の外構壁をじっと見つめ、様子を窺った。
壁より向こうは、より精度の高い結界があるから、流石に、ここから先は【変身】魔法を解かないといけない。
そうしないと、変身中は放出され続ける微弱な魔力波の影響で、一発で、学園に敷設されている不審者侵入防止センサーに引っ掛かってしまう。
だからこそ、俺は、猫のまま、そっと足早に、
とててっ
と、正門とはまた離れた位置にある、夜間通用口まで移動した。
閉門時間を過ぎても緊急で入退が必要な学園関係者とか、宿直とかが使う出入口だ。小さめの鉄格子門で、魔術的なセキュリティ・ロックが掛けられている。
だが、部活動などで、どうしても閉門時間に合わせられないとか、特殊な事情を抱える生徒がいないとも限らないので、この夜間通用口は、実は、在学生にも利用が認められていた。
つまりは、当然、ここの学生であるリシャールにも使えるという訳だ。
ニャンコな俺は、静かに目を伏せ、精神統一して、解呪の呪文を唱える。
銀の雫みたいな魔粒子が閃くと、その光の帯が、足元から旋回上昇して、脳天越したところで、
ぼぼぼんっ!
と、俺は、元の、金髪碧眼、軍服風外出着を着た王太子の姿に戻っていた。
(よし! こっからが正念場だ!!)
俺は、ころんと地面に落ちた拡張オーモニエールを拾い上げ、さっとベルトに通して携帯し直した。




