第3章 02_モフモフ変身3連チャン(1)モモンガ
やがて、時計の針が午後10時を過ぎて、夜間勤務者以外の皆が寝静まったのを見計らって、俺は、夜闇に紛れるフード付き黒マントを羽織り、そっと静かに寝室のバルコニーに出た。
月夜なので、真暗じゃないぶん、まだ動きやすい。
ヒョオオと冷たい風にさらされて、雑木林の緑の傘がこんもりするモン・ラパンの尾根を見下ろすと、「俺、これ下りなきゃダメなのか」と、戦々恐々とする。
だが、思い切ってやるしかない。
俺は、目を閉じ、じっと精神集中して、すうと息を吸い込み、【変身】魔法のスペルを唱えた。
「メタムルファルツィオン!」
たちまち、俺の体は、しゅううと小さくなっていき、
ポムッ!
と、きゅるんとつぶらな瞳が魅力的なモモンガとなる。
モモンガな俺は、もそもそと拡張オーモニエールの下側に潜り込み、ちょっとリュック紐みたくなってるところに小さい手を通し、上手いこと背中に引っ掛けるや、バッと皮膜を広げて、バルコニーから滑空した。
ビュンビュンビュンビュン――
あっという間に、宮殿、各館、役所、詰所、幾重にも築かれた城壁を飛び越し、モン・ラパンの森へと滑り落ちていく。
(うっひょーっ! めっちゃ、スピード出るじゃんっ)
とかって、建物や樹上より少し距離ある時は、風を切って凄く気持ち良かったが、段々と高度が下がっていって、ちっちゃい体で木々の間をスレスレで抜けていくようになると、
(ぎゃっ! 狭っ! 木にぶつかるじゃんっ)
って、マジでビビる。
それをどうにかこうにか、
ぐいんっ
と、風であおられるっぽく体を傾け、
ひゃうんっ
と、ギリ追突をまぬかれる。
(うっわー。前世で1回だけ、パラグライダー、家族旅行でやったことあるけど。あれとは全然違うな)
だって、秒速10~20mメートルくらい? 俺はモモンガな訳だから、当然、森の木々は、巨人なみの迫力で、この速度で、舵取り間違って激突でもしたら、絶対即死だ。
(……てか、モモンガってこんなスリリングな生活してんの? ガチやべェ)
まあ、野生のモモンガは、元からそういう生態だから、俺みたいにあーだこーだ考えるよりも早く、自然と体がそう動いて、きっと、どうにかなってんだろう。
(つーか、荷物背負ってるから、バランスとるのムズい……)
油断すると、変な傾斜で滑空して進行方向曲がるし、そもそも、素より重くなってる分、すぐ高度が落ちちゃって、あんま遠くまでは飛べないっぽい。
地面に降りると、また木に登る必要があるので、時間短縮と安全も兼ねて、木から木へ飛び移る感じで進む。
(王都内だから、たぶん魔物はいないと思うけど……。普通に、猛禽類とか、肉食獣に狙われたらどうしよう……)
そんな不安に襲われ、時折、上空を何か黒い影がよぎったり、茂みからガサガサッとうろんな物音が響いたりすると、本気でヒヤッとする。
まあ、普通に地面歩くよりは速いから良いんだけど。
変身時間は15分だし、滑空中とか樹上で人間に戻ったらヤバいので、モモンガな俺は、とかく全速力で、15分以内に下山しようと焦っていた。
(結構、遠い……)
木の生えている位置にもよるけど。1回の滑空で移動できるのは、せいぜい、15~30m、長くて40m前後かな? 木々が密集していると、激突回避でもっと短くなるので、懸命にコンマ○○秒な感じで滑空を繰り返す。
始終、ヒヤヒヤしながら、俺は、どうにかモン・ラパンを下山した。
しかして、最後に足場にした木の位置が予想よりズレていて、ついつい、飛び出すタイミングを見誤って、
ぼぼんっ!
べちゃっ☆
「ギャッ!」
と、着陸寸前で人間に戻った俺は、顔面から地面に突っ伏した。
めっちゃ鼻の頭打った。ナチュラルに痛い。
そのうえ、気づけば、すぐ傍に尖った岩がでっぱってたので、
(マジか。アレに当たってたら、俺の頭カチ割れてたわ!)
と、かなりガクブルだった。




