第3章 01_俺の作戦
結局、王太子な俺が、たった1人で事を起こすのにネックなのは、リシャールが王宮住まいということだった。
なぜなら、王宮は、小高い山上にあるうえ、警備も四六時中、厳戒態勢だ。
衛兵はもちろんのこと、使用人や役人なども、シフト制の24時間体制だから、常に至る所に王宮勤めの人目がある。
場所によっては、防護結界とか、侵入防止トラップとか、何かしらの封印的な場所まであるから、迂闊にちょろちょろするとヤバい。
そして、立地関係でいえば、王宮の鬼門にあたる場所に大聖堂、裏鬼門にあたる場所に国立エスカロワイユ魔導学園がある。
西洋風ファンタジーに、なんで、東洋の風水の概念取り入れてんだよ、って感じだが。これも、やっぱり『エトワル・ラリアンス』は日本の乙女ゲームだから、に尽きる訳で。
だって、風水って、普段、そこまで意識することはなくても、なんとなく「危ない」とか、なんとなく「縁起良い」とか、自然と日本人の心に根付いている「おまじない」感覚だもんな。
大聖堂にしろ魔導学園にしろ、王都郊外に近い区域にあるが、地図で見た場合の、学園と王宮の直線距離は、おそらく13kmくらいだと言えるだろうか。
王宮はモン・ラパンの山上に、学園はモン・ノワールの山上にあるから、さらに、それぞれの標高距離がプラスされて、徒歩なら、片道、3時間半~4時間くらいは、最低かかると思われる。
王太子の俺が、日々のスケジュールこなして、学園に向けて出発できる時間は、早くて、午後10時くらい。ミステリー・スポットなのに、ちょうど丑三つ時に目的地に辿り着きそうなのが、なんだかなあって感じだけど、まあ仕方ない。
そうして、目的地を普通に往復するのは難しそうなので、俺は、下校前に学園図書館に立ち寄って、授業の予習の名目で、これを達成するのに必要そうな魔法なり魔道具なりを調べた。
その中で、どうにか使えそうだと思ったのが、【変身】魔法だった。
この魔法に関しては、単純に術者レベルが上がれば自然と覚えるようなものではなく、それを記した魔導書で習得手順を確認した上で、正しく儀式を執り行い、あらかじめセットアップしておかなければ、使用することが出来ない。
この『エトワル・ラリアンス』は、AVGカテゴリな乙女ゲームのくせに、RPG要素があるから、魔法にしろ、スキルにしろ、細かくタイプが分かれていて、それぞれ習得法や育成法が異なるんだ。
加えて、ゲーム・システムとしての魔法と、転生世界――つまり、もう1つの現実として顕在化した魔法は、まったく同一とは言い切れず、あの「ステータス・ウインドウの代わりに、プロコピオスの鏡を使う」みたいな、リアルに即した些細な改変が、随所に見られるんだ。
(結構、仕組みが煩雑だから、俺も、転生当初は戸惑ったんだよな)
だって、ゲームじゃ、個別ウインドウで選択肢ポチれば発動なものが、実際には、如何にも呪文な長ったらしい詠唱とか、陣とか、所作とか、術によって必要で、それぞれ逐一覚えんと使えんから。
原則として、魔法の習得は、魔力保有者でなければならないが、魔法というのは、まず、基本型、上位互換型、派生型という3系統に振り分けられる。
基本型は、早い話、Lv.1からでも適正があれば、すぐに操術契約が可能な魔法であり、適性がなくとも修練を重ねて操術に耐えうるような能力値まで底上げすれば、誰でも契約の儀式を執り行える。本当に初心者向けの魔法だ。
一方で、上位互換型と派生型は、術者レベルが一定以上超えた上で、その基本型を必要習熟度まで鍛えなければならず、それをアップグレードないしは進化させるためには、さらに別途、特殊な条件が追加されたりする。
そして、現在のリシャールの能力値で操術可能だったのは、基本型魔法の【変身】初級 Lv.1だった。
これは、小型哺乳類にしか変身できない上、変身持続時間も15分くらいが限度。
いっそ鳥類になれれば、移動も楽で助かるんだが、人間は、生物としては哺乳類に分類されるので、明らかに異なる種になるのは、もう少しレベルを上げてからでないと無理なんだ。
魔力が尽きない限り、繰り返し使えるのは助かるが、小型哺乳類なので、変身中の体力の消耗スピードも結構早い。仮に、これで長距離移動しようものなら、おそらく、魔力だけでなく体力の回復薬も相当数必要になるだろう。
だが、この時、俺にとって幸いだったのは、【ループでペナルティ】な憂き目に遭っても、1周目に習得していた【収納拡張】魔法が完全に削除されていなかったことだろうか。
これは、ゲームスタート時には、未収得な魔法だが、学園に入学して最初の実戦演習【嘆きの洞窟】探索の前におこなわれる必修授業で習うから、消えなかったのかもしれない。
(てか、むしろ、これ無きゃ、たぶん、俺、詰んでたわ)
この【収納拡張】魔法の基本型は、自分のカバンなどの媒体に術を付与して、亜空間に構成した専用ロッカー的な場所へと接続し、そこへ最大50個までのアイテムや装備品を、収納携行できるようにする。
ただ、これの操術 Lv.1では、亜空化付与が可能な個数は、1つだけだ。
ちなみに、この【収納拡張】基本型の習熟度をカンストさせれば、亜空化付与個数は最大99個まで、アイテム収納数が媒体1個につき最大999個まで可能となる。
これを、アップグレード条件を満たした上で、さらに上位互換型にすると、亜空化付与個数も収納数も無限に可能となる。
また、これは、派生型に進化させれば、亜空化付与の媒体すら不要になって、常時、亜空間ロッカーから、直接、収納物が出し入れ可能になってしまうという、極めれば、なかなかエグい性能の魔法だった。
――が、しかし。
泣いても笑っても、2周目の俺に使えるのは、【収納拡張】操術 Lv.1だった。
(あーあ。1周目のリシャールだったら、派生型までカンストしてたのになァ)
なんて、ちょっと悲しくなってしまったが、【嘆きの洞窟】演習はヒロインの入学後なので、そうじゃない現在でも基本型が使えるようになっているだけ、まだマシというものだろう。
だからこそ、俺は、この【収納拡張】操術 Lv.1の魔法を、主にベルトに通して使うオーモニエール――早い話が古風なウエストポーチにかけた。
なぜなら、後付けで既に何らかの魔法がかかった携行品は、【変身】の際、同魔法の影響可能な装備品から除外されてしまう。
なんか、後付けの魔法は、それぞれにかかっている魔力に重複してしまうから、魔力に付随する効力が、勝手に打ち消し合ってしまうらしいのだ。
まあ、いわば、ジャミング的な?
元から魔力あるとか魔法効果あるとかなら、そのアイテムのステータス自体が、「付加効果あり」がデフォルトになっているので、二重扱いにならんくて、【変身】に含まれるんだけど。
(ホント、ややこしいわー。後付けか固有の性質か、ってトコで影響するかどうか分かれるとか。なんか家電製品とかで、個人的に魔改造したやつ、故障しても、メーカー修理受付しませんよ、って言われてるみたい)
だから、【収納拡張】する装備品は、変身後でも身に着けられる形状でないと。
結果、俺は、小さめのバッグにしといて、変身中は、ペットのワンコやニャンコが背負うミニリュックっぽく装着できればいいんじゃね? と考えたんだ。
オーモニエールなら、人間に戻った時には、それを腰のベルトに着け直せば良くて、身軽に動けるし。
そうして、俺は、その拡張オーモニエールに、使い慣れた長剣と、サブ武器と、回復アイテムを大量に入れた。
目的地まで【変身】を繰り返さなきゃいけないので、回復アイテムが多い方が絶対いいし。もう着の身着のままでいいじゃん、ってことで、代わりに防具を入れるのは断念する。(ただ、行先が学園だから、念のため、制服だけは入れた)
だったら、最初に装備しときゃいいじゃん、って思いがちなんだけど。
人間の姿であらかじめ身に着けておく防具は、甲冑系では重すぎて移動速度に支障をきたすので、元から魔術的工法で性能強化された、法衣的な軽装してれば良いか、と多少のダメージは覚悟の上の装いにした。
まあ、難関ダンジョンに挑む訳じゃないし。
あのミステリー・スポットな懲罰塔で、魔物が出るとしたら、たぶん、亡霊・アンデッド系だと思うから、とりあえず衣類で聖属性や光属性が付いてればいいか、と割り切ったんだ。
どっちみち、リシャールは、【太陽】守護【光】属性な攻略対象者だから、他のフィジカル強い魔物よりは、アンデッド系を相手にする方が分があるし。
王太子として、狩りなどの野外活動の際に着る装束は、だいたい、初期値でそういう系の付加効果かかった軍服タイプだったから、余計に助かったんだ。
しかして、学園から王宮に戻った後、急ピッチでこの日のスケジュールを終えた俺は、いつでも出れるように身支度を整え、ベッドには、布団ぐるぐる巻きな身代わりを忍ばせておいた。
これに【擬態】魔法をかけられれば、見る者に王太子だと誤認させられて完璧だったんだけど。
それは【変身】の派生型にあたる魔法だったので、リセット後のリシャールには使えるはずもなく、諦めるしかなかった。
(どうか……、バレませんように)
俺は、前世の習慣で、つい手を合わせてしまう。
単純なニルスだけならともかく、王宮では、デキる侍従なクロードに見張られているようなもんなので、ごまかしにくいんだ。
ただただ、途中で邪魔が入らないことを祈り、俺は決行予定時間が来るのをひたすら待った。




