第2章 23_ヤキュウやろうぜ(前世) (挿絵_06)
それは、道端の蒲公英も綿毛になって、桜の木もすっかり新緑に輝き始めていた頃のことだった。
人見知りなオレは、小学2年生に上がって、ようやく学校に慣れてきたというところ――しかして、まだ、これといった友達は出来ていなかった。
なぜなら、保育園の時に仲良かった子らは、ちょうど、実家の住所の関係で、隣の学区に分かれてしまっていた。だから、オレは、入学以来ずっと、新しい環境にすっかり気後れして、ろくに誰とも話せずじまいだった。
そうして、当然、その日も、1人でトボトボ、歩いて帰っていた。
だけれど、その日、オレは、帰り道にある、いつもの公園で、とんでもないものに遭遇したんだ。
近所の顔を見たことがある幼稚園のこども達が公園の砂場で遊んでいたところに、4、5年生くらいの小学生らがやってきて、
「オラ! じゃまだっ。チビども。とっとと、どっか行けや!」
と、めっちゃガンとばして、小さい子達を恫喝していた。
小さい子達は、案の定、ビビりまくって、あうあうと両目に大粒の涙を貯めて萎縮していた。そのうち、小さい女の子が、えーんと泣いてしまった。
けど、イキった小学生らは、
「ギャーギャーうっせーんだよっ!」
と、砂場を蹴って、砂を小さい子達に浴びせ掛けていた。
この時、オレは、道路側からフェンス越しに、その異変に気がついて、めっちゃ怖くなって、一旦は見て見ぬふりをしようとした。
でも、恐怖で足がすくんでしまって、すぐに立ち去れなかったんだ。
イキった小学生らは、1人がタブレットを持っていて、後のメンバーが、バケツやら水鉄砲やら、なんかバズーカっぽいのとか、水風船やらを大量に持っていた。
たぶん、彼等は、砂場を含めた公園というフィールドで、何かのチャレンジ動画的なヤツを撮ろうとしていたんだと思う。そのために、そこで遊ぶ幼稚園児らが邪魔だったんだ。
「なー。もう、こいつらタゲって、バトルせん?」
「おっ。いーじゃん。ソレ」
「あわれなちびゾンビ、レイケンあらたかなセイスイで退治シマースッ!」
「ヒャハハ! それ、まじウケる」
なんて、小学生らは、物騒なことを喋っている。
「けど、ソレ、動画に撮って上げたら、炎上するんじゃね?」
「だったら、こいつらどっか行くまで、カメラ回さなきゃいーじゃん」
「なーるっ! いいウォーミングアップだなっ」
すると、さっきから泣いていた女の子が、さらにギャン泣きしたので、バズーカ持ってたヤツが、
「だまれ、ガキ!!」
と、シビビッと、その子の顔面目がけて水砲を浴びせた。
女の子はキョトンとして、めっちゃ目をぱちくりさせた後、ますますギャン泣きが止まらなくなった。
なのに、イキった小学生らは、ニヤニヤ。
(みずデッポウで、カオねらうなんて、アブなすぎだろっ!)
オレは凄まじくイラっとした。
「バクダンは数限られてるから、カメラ回すまで使うなよーっ」
「りょ!」
「バケツはあり?」
「アリアリ! ついでに砂もド派手にぶちまけたら、もっとオモロくね?」
「砂ゾンビ! イイねーっ」
イキった小学生らは、ワイワイ盛り上がっていた。
そのうち、ガクガク震えていた、一番幼い男の子が、わーんと泣いて粗相した。
「うっわ。クッセ!」
「やっべェ。コイツ、もらしやがった!」
「かけろ、かけろっ!」
「ションベンたれは、ちゃァーんと流して、キレーにしてやらんとな!」
そう言って、イキった小学生は、たっぷり汲んでいたバケツの水を、その子めがけてぶっかけた。
――が、しかし。
バシャンッ!
水を頭から浴びたのは、小2のオレだった。
さっきの危険なバズーカいびりに居ても立ってもいられなくなったオレは、
無意識にダッシュして、
いつの間にか、小さい子達を背に、両手をバッと開いて仁王立ちしてたんだ。
「ァーン? なんだ、このクソガキ」
めっちゃガンたれて、イキった小学生は、年下のオレにメンチ切ってくる。
オレはガクブルしながら、キッとイキった小学生らを睨み、蚤の勇気を振り絞って叫んだ。
「お、おまえらこそ、なんだよっ! こんなちっちゃいコ、イジメてっ!!」
「うっせーんだよっ!」
「どチビ!」
「おまえこそ、とっととソコのけや!!」
イキった小学生らの水鉄砲が、シビビッと四方からオレに向かって撃ちまくられる。圧縮された水砲は、水なのに、割に痛い。
でも、オレが逃げれば、この小さい子達がやられちゃうし。
みんな、ホントはその場から逃げたかったんだろうけど、相手も複数だから、動けば即座に標的にされる。
それを本能的に察して、怯える幼稚園児らも動けずにいた。
そのうち、水砲だけじゃなくて、砂とか小石とか投げられてくる。
「オラオラッ! どけやっ」
「どかねーとずるむいて、ネットさらすぞ、コラ!」
(コワッ! それ、マジでヤバいヤツじゃんっ)
そう思ったけれど、オレは、やっぱり動くに動けない。
オレは必死に目をつぶって恐怖に耐えていると、不意に、
ドコッッッ!!
と、もの凄く鈍い殴打音が聞こえてきた。
「ぐわっ!」
襲撃を受けたらしいイキった小学生のリーダー格が呻く。
「あー。ごっめーんっ。すぶり、ヘマっちゃったー」
オレと同い年くらいの少年の声が聞こえてくる。
オレは震えながら、おそるおそる、目を開けてみると、少年野球のユニフォーム着た低学年生が、半眼で冷ややかに、木製バットで、イキった小学生の腰をソフトにボコっていた。
「クソッ! こんにゃろっ」
殴られたリーダー格は、その野球少年につかみかかろうとしたが、俊敏なその子は、ひょいと脇に避ける。
それどころか、キラーンッと目を光らせ、一本足打法で、
カッキーーーーンッ!!
と、イキった小学生が持っていたバケツをバットで殴り飛ばした。
イイところに命中したソレは、思いっきり綺麗な放物線、空に描いて、バケツを公園の端まで吹っ飛ばす。
「っしゃ! ナイス・ホームラーーーーンッ!!」
ドガシャンッ!
と、バケツは、めっちゃフェンスに激突して、その表面を凹ませた後、
バカンッ
と、割れて、無残な有様になった。
「さっすが、オレ!」
野球少年は、ブンブンとバットを振り回して、得意満面にニカッと白い歯を剥いて、グッとサムズアップをしてみせる。
オレも幼稚園児らも、ぽかーん、としたが、イキった小学生らは、その大迫力のバッティングに、
「ギャーーーーーッ!!」
と、諸手を挙げて、蜘蛛の子散らすように逃げ出した。
そうして、イジメっ子らが完全に退散したと見るや、野球少年は、フフンと笑って、オレの前に1歩進み出てきた。
「やるじゃん! おまえ!!」
オレ、ヤラれ放題で、褒められるほどのことしてないけど?
って、思ったけれど――。
オレが背にかばっていた幼稚園児らが、おずっと恥ずかしそうに、オレのシャツの裾をぎゅっと握り締めた。
「あ、ありがと……。おにいちゃん」
そのポソッと言う様があんまり可愛らしかったので、オレもヘラッと笑って、
「ううん! だいじょうぶ? ケガとかなかった??」
と、朗らかに尋ねた。
幼稚園児らは、モジモジしながらも、コク、と頷いた。
そのうち、幼稚園児らのママさん方がお迎えに来て、オレのずたぼろ姿に驚いていたけれど、小さい子達は舌足らずながら、みんなで懸命に事情を説明してくれた。併せて、野球少年のフォローも入って、オレは、ママさん方から、めっちゃ「ありがとう」と感謝された。
ほどなく、母子連れらも帰り、オレは、野球少年と2人、取り残される。
「おまえさー。みため、めっちゃモサくてひょろいけど、めっちゃオトコギあるな!」
「お、おとこぎ……?」
当時、小2のオレに、その言葉の意味は分からなかった。
けれども、構わず、野球少年はオレに向かって手を差し出してくる。
「オレは、モノベ、シュウヤ! しょうがく2ねんせいだ。おまえは?」
「え? ぼ、ぼく……? く……、クルス、マサト……。ぼくも2ねんせいだよ」
オレもモジモジしながら、シュウヤと握手する。
「そっか! んじゃ、オレら、タメだな!!」
「た、ため……?」
小さいオレには、やっぱり、その意味が分からなかったけれど。
なんか、悪い気はしなかった。
そうして、シュウヤは、ニンと笑う。
「おまえ、ミドコロあるよ!」
「みどころ?」
「うんっ! だからさっ、マサトッ」
シュウヤは、サッとすぐに、握手から拳に切り替えて、
「オレと、ヤキュウやろうぜっ!!」
と、グータッチを求めてくる。
「う、うんっ!」
小さいオレもはにかんだ顔で、こつんっ☆ と、そのグータッチに応えた。
それが、オレ、来栖聖人と物部修哉の初めての出会い――。
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その後、オレは、向いてないながらも、修哉と同じ少年野球クラブに入った。
中学に入るまでは、万年補欠ながら、汗水垂らして、一生懸命、野球に打ち込んだのだった。




