第1章 03_俺のやるべき事 (挿絵_01)
メインヒーロ―【攻略対象】な俺は、結局、ヒロイン・アンジェルのためだけに存在している。
なので、この『エトラリ』も、乙女ゲームなりに、ちょいちょいRPG的バトルな部分はあっても、最後は、俺が望んでいるような超展開には、なかなか成ってくれない。
少年漫画的なアレと、少女漫画的なコレとは、やっぱり何かが違うのだ。
いや、ヒロイン・アンジェルは、確かに美少女だし、心優しくて、いいコなんだけど――。
俺みたいな現代日本で日陰の人生歩いてきたようなモブ男子には、
メインヒーロー・リシャールの意中の女の子(?)に対する立ち居振る舞いは、
思わずサングラス掛け忘れたまま太陽見上げて、直射日光、目に入っちゃったくらい、
キラキラ眩しすぎて、ダメージ食らってしまう。
加えて、その台詞は、
糖蜜ひたひたのパンケーキに、めっちゃ餡子とカスタード塗りたくって、生クリーム山盛り、メープル、蜂蜜、キャラメル、ミルクチョコソースと、ありとあらゆる甘いものをドバドバかけまくった上、粉砂糖と砕いた飴屑どっさりトッピングしたくらい、
とにかく甘々、激甘なのだ。
他人が言うのを聞くだけならまだしも、ソレが、この俺、リシャール(=マサト)の口から出ているのだと一旦考えてしまうと、たちまち、ゾワワッと全身に鳥肌が立って、喉が焼けるほどの溺愛台詞にうんざりする。
そうして、極めつけが、ヒロインの名前だ。
なぜなら、俺の姉貴の名前は「杏珠」。
元々の「アンジェル」だけでも、ほぼほぼ同じ響きなのに、
シナリオのリシャールは、これを愛称の「アンジェ」で呼ぶもんだから、
前世の姉貴の名前と一字違いになってしまう。(それも、ちっちゃい『ユ』と『エ』だけ!)
何故に、コレを、おれの大好きな国民的RPG『ドラサガ』みてえに、プレイヤー任意にしなかった!?
TOKIMETEC社(ゲーム開発元)よ!
(声優アフレコ問題なら、ヒロインの名前んトコだけ喋らさなきゃいーじゃんっ。
それか『愛しき恋人』みたいに別の言葉にするとかさっ。
あの『ドラサガ』でさえ、挿入イベント・ムービーとか、そういう仕様になってんだからっ)
などと、とにかく、俺は、その手のもろもろ何度も繰り返すうちに、自分で言ってる台詞が、なんだかガチでマサトの姉貴口説いてるみたいに空耳して、心底萎えて、ゾッとした。
本気で一生、城に引き籠っていたくなっちまったんだわ。
実際、姉貴の最推し、リシャールだったしねっ! (マジで!?)
そんで、弟も、なぜか王太子ルート、プレイさせられたしねっ! (激オコ!!)。
だもんで、マサトでないリシャールが、激甘にアンジェルに愛を囁くたび、
(あー。姉貴、こういうのに『萌え~っ♡』とか、『ずっキュン♡』とかやってたワケ?)
とか、
(うっわー。受動的になるのと能動的になるんじゃ、マジ180度ちがくね?)
とか、
(つか、今、リシャール、マサトなんですケド? この『世界』が、まんま、あのゲームに反映されてたら、俺、アンジェルのことも口説いてるみたいになるんじゃね?? なら、ダメじゃん。アウトじゃん。相手が姉貴だったら、なんか疑似近親相姦っぽくなっちゃうじゃん)
とかって、なんかもうヒロインの顔にまで、アホみたいに姉貴の残像が過ってしまって。
(いやいや。コレ、いったい何の罰ゲームよ? 弟的にまじアリエナイっすよ。うん)
って、四六時中、脳内の俺が虚無面で毒吐いちまってた。
それで、悪役令嬢マリエッタが出てきたら、別人かよって思うくらい、冷淡な罵倒するし。
ホント、やめて? なんか、人格分裂症みたいで怖いから。
それに、俺は知っている。
マリエッタは、あんなキャラに反して、本当は、そこまで性根が腐った奴じゃない。
なぜなら、リシャールとマリエッタは、10歳の時に、親同士が決めた政略結婚的なアレで、引き合わされたけど、実際、出会ったのは、そのずっと前だった。だから、俺等は、婚約者である前に、実質、幼馴染みみたいなもんなんだ。
それというのも、俺等、王侯貴族の子女は、基本的な学問・教養・作法を学ぶために、王立ベレマニエ学院・初等部に通うのが慣例になっていて。その2年生の時、リシャールとマリエッタは、初めて同じクラスになった。そして、隣の席になったんだ。
その頃は、王太子の婚約者候補は何人かあれど、正式には、まだ決まってなくて。でも、俺は、前世の記憶があったから、マリエッタが隣の席になった途端、
「あー……この子かあ」って思って、ガチで完全スルーを貫いてやろうと考えてた。
けど、この隣の席ってのが、案外、曲者だったんだよな。
だって、俺等は隣の席だから、複数で協力する課題になると、いっつもマリエッタとペアを組まされちゃうし。そして、学期変わって、席替えし直しても、なんか腐れ縁みたいに、やっぱり、マリエッタが隣になっちゃうし。
だから、俺、否が応でも、悪役令嬢の相手せんとならんくて。
(こんだけ付き合い長いクセに、なんで、いざ、ゲーム始まったら、手のひら返しみたいに、婚約破棄からの断罪になるワケ? 熟年離婚の老夫婦と同じ図式っつーか、それが様式美だって言われちゃうと、まあ、それまでだけど)
とか思いつつ、婚約決まってからは、
ますます――というか、もう、まるっと一蓮托生みたいになってた。
いやー、改めて、
「これがシナリオ強制力なのかよ?」
って思ったね、俺は――。
満12歳の時の、魔力保有者か否かを調べる儀式【賢者の聖別】でも。
国立エスカロワイユ魔導学園・中等部へ進学してからも。
王太子と悪役令嬢は、あまりにずっと一緒に居すぎて、
俺は、もはや、隣にいるのがマリエッタじゃないとしっくりこないというか、
違和感バリバリってなくらい、変な感じがするトコまできてしまっていた。
だから、俺は、高等部でゲーム・スタートになって、マリエッタとヒロインと三角関係になるのが、「うわぁ……」ってなカンジで。本気でメンタルやられちゃったんだよな。
だからといって、リシャールの初恋相手がマリエッタなのか、というと、そうでもない。
前世日本人のジミメン、モブ男子なマサト的には、マリエッタみたいに、「THE お嬢様」な、ド派手でキャピキャピ取り巻き侍らせるタイプの女子は苦手なんだ。
だから、それなりに親近感はあるけれど、なんかどっかで冷めてしまって、出来れば遠巻きに見て、ほどほどの距離を取っておきたい、お友達のお友達レベルだったのだ。
いや、正確には、王太子リシャールのお友達、か。
(だって、シナリオ・スイッチ働くと、もうマサトじゃないもんな。
二重人格とも違うんだけど。やっぱ、シナリオ・リシャールは、別の人っていうか。
俳優と、その演じる役との距離感、剥離感って言うのかな?
でも、それも『俺』なんだ、って自覚もあるから、すんげーフシギ)
そうして、純粋に「婚約者」でなく「お友達」として見れば、真の彼女がどういう少女か、正しく見えてくるというもの――。
彼女は、公爵令嬢らしく(?)、ちょっと世間知らずで、高飛車で、変な所で負けず嫌いで、見栄張りの意地張り、ちょいちょい我儘なところもあったんだけれど――。
とりあえず、貴族としての礼儀作法は完璧で、勉強は出来るし、魔力も強くて、王太子の俺とツートップで、学園成績第2位をキープし続ける、稀にみる努力家だった。
まあ、そこは【悪役令嬢】だからねっ。
ゲーム設計的には、メインヒーローで婚約者の王太子や、ゲームヒロインのアンジェルが、天才型の能力者に設定されていたからこそ、そういう感じになってたんだろう。
とかく、ビジュアルだけで言えば、マリエッタは、学園一と呼べるほどピカイチのグラマラス系美少女で、カワイイ系美少女のアンジェルよりも、パッと見すごく華やいで目を惹く。典型的な高嶺の花タイプだった。
実家も、代々、宰相や国務大臣、政務官らを輩出する名家のお家柄だし。普通の男子なら、大抵、一度はお付き合い願いたいと告る系のツンデレだ。
そうして、彼女は、社会的弱者を見たら放っておけない、「ノブレス・オブリージュ(=貴き者こそ、仁なる道を果たせ)」の精神で、自ずと手を差し伸べてやることが出来る、良識ある少女だった。
(うむ。流石は、我が王室が王太子妃候補として選定するくらいのオンナだ。でも、婚約者の所為で、なんか、嫉妬で狂いに狂いまくったけどねっ。ハハッ。……って、笑いごとじゃねえって! マジで!!)
なんせ、マリエッタは、あれでも「月」の守護持ち家系だからな。
実際、あいつの5歳年上の兄貴、シルヴェストル=ラグランジュ侯爵は、ゲーム的には、王太子と同じ攻略対象者になっている。
もちろん、悪役令嬢の実の兄貴だから、1周目では、Sランク攻略対象者だとかで、オトすこと自体、まず難しいのだが――。
(これは、前世の姉貴から聞いた情報。姉貴の最推しは、王太子だったが、次点の推しが、この侯爵だった。守護もそれぞれ『太陽』と『月』で、魔力属性が『光』と『闇』。バトルにおいては、他の攻略対象者よりも、ずっとオールラウンダーでスキルが格上、対魔王戦でも、めっちゃ強いしねっ♪)
だからこそ、俺には断言ができる。
この世界が、もしも、乙女ゲームじゃなくて少年漫画だったなら、
マリエッタは、きっと、アンジェルと二分する(場合によっては、ダブル・ヒロイン的な)大人気キャラになっていたに違いないんだ。
そういう訳で、俺は、リシャールがシナリオ・スイッチで豹変するみたいに、マリエッタも何か視えざる力で「そうさせられているんじゃないか」と、ずっと疑っていた。




