第1章 02_転生者な俺
俺の前世は、「来栖聖人」という名前の、ごくごく平凡な、現代日本の男子高校生だった。
いわゆる、サブ・カルチャーによく見られる、「トラック」に轢かれて死んで、目が覚めたら異世界ファンタジーの住人になっていた、というヤツだ。
俺の場合は、高校入学してから1ヶ月くらい経った或る日、自転車下校中に、急に脇道から飛び出してきた茶トラの猫を避けようとして、気がついた時には、あのトラックが目と鼻の先に差し迫っていた。
距離的にも時間的にも、当然避けられず、俺は、そのまま、自転車ごとトラックに追突されて、瞬時に昇天していた。ブッツリ魂が引っこ抜かれたみたいに、たちまち意識が遠くなって、目の前まで真暗闇になったんだ。
そうして、何が何だか分からないうちに、果たして一体どこから現れたのか、謎の大きな白い手に、ぐゎしと捕まってしまった。
「巨人の手かよ?」って思った瞬間、
そういや、かの中華古典『西遊記』で、
「孫悟空が如来様と賭けをして、天の果てへ行った証拠に、五本の肉色の柱の一つに自分の名前を書いて戻ってみたら、それは実は如来様の指だった。賭けに負けた悟空は、そのまま如来様の手に捕まって、挙句、五行山に封印されてしまった」
なんてくだりあったな、――って、ふと思い出した。
とにもかくにも、謎の大きな白い手に捕まった俺は、みるみるうちに、ドス黒いブラックホールみたいな渦の底に引き摺り込まれて、目が覚めた時には、このきらびやかな私室の、大きな天蓋付きベッドの上で寝かされていたんだ。
その時、俺は、まさか、自分が5歳の子供になってるだなんて思わなかったから、
ただただ、
「なんだ、この部屋? クッソひろくてラグジュアリーだな。てか、ベッド、アホみてえにフカフカで、バチクソでっけェ。セレブかよ」
ってな感じだった。
結局、幼い俺は、熱で頭がぼうっとして、フラフラしていたから、上手く状況が呑み込めなかったんだな。
その上、あれよあれよという間に、心配そうに俺の顔を覗き込む、国王夫妻やら乳母やらの姿が次々、ぼやけた視界に入ってきて、
「大丈夫か、リシャール?」
「ああ、目を覚ましてっ」
「王子っ!?」
だなんて、必死に呼び掛けてくるもんだから、
「ああ。おれ、ユメ、みてんだ。公立受験、合格スレスレだったけど、勉強バリバリがんばったから、これ、いよいよボーナス・ステージはいったな」
って、なんかめっちゃアホなコト思ってた。
だって、こんな俺だって、現代日本で、その手のサブカルを幾つも見た覚えがある。
だから、これが夢だと思えば、何だって受け入れられる。
それで、高熱と睡魔とが交互に襲ってくる中で、
「どうせ、ここがファンタジーな世界なら、おれの大好きな国民的RPG『ドラゴニア・サーガ』の世界だったらイイな」
とか、
「凡人、ジミメン、中の下、冴えない眼鏡。底辺レベルなおれでも、チート無双で、イケメン、モテモテ、ハーレムになったりすんのかな?(でもエロは無理です! めっちゃ恥ズイから///)」
とか、
あれこれ、ふと思いつくままに、淡い期待を膨らませていたんだ。
だから、たぶん、重病(麻疹?)なのに、譫言の様に「ウヘヘヘ」なんて、締まりのない薄ら笑いを浮かべてたんだろうな――、
とか、不意によぎってしまって、今となっては、すんごい格好悪いんだけれども。
まあ、その時の俺には、死んだ自覚が無かったし、身体も5歳の子供だったから、或る意味、仕方ないとも言えるか。
しかしながら、後日、すっかり回復して、乳母のタイス(=クロードらの母ちゃん)に、「ほら、王子、お顔の肌ツヤも良くなりましたよ」って、姿見を見せられた時には、愕然とした。
その鏡の中に居たのは、まさに太陽のように燦々と光り輝く、
金髪碧眼、白皙、超絶美少年な、王子様。
イケメンなのは、この際、とりあえず脇に置いといて。
問題は、その素性よ。
だって、そこは、
「勇者だ、魔王だ、冒険だ。オープンワールドなフィールドで、モンスター・エンカウントして、バリバリ倒して、経験値ザクザク、軍資金もザクザク、こつこつレベルアップして、ダンジョン、ミッション、さくさくクリアしていって、横でちゃっかり、アイテム課金や錬金合成とかも極めちゃったりして。壮大な世界の謎に迫りながら、友情、裏切り、愛に希望に、戦略的バトルに胸熱展開まっしぐら。ロマン溢れるストーリーに没入しながら、やりこみ要素までプレイし尽くす」
「同じゲーマー仲間と語らい、その夢と感動を共有、追体験する」タイプの、
俺が憧れる王道RPG『ドラサガ』の世界じゃなかった。
むしろ、それとは正反対。
「ヒロイン(=プレイヤー)が自分好みのイケメンどもとキャッキャウフフして、
さくっとお洒落でお激甘な溺愛を楽しんで、ちまちまルート開拓していくうちに、
なんか知らん間に世界を救ってしまう――」
とどのつまりは、「スパダリ結婚ハッピーエンドが最終目標の、
いわゆる恋愛脳女子が、日々の足りない糖分補給する」タイプ
(ファンの皆さん、ゴメンナサイッ! 男子の俺的には、かなり偏見入ってます!!)な世界。
まあ、要するに、そこは、前世で俺の姉貴が、めちゃくちゃハマっていた恋愛アドベンチャーゲーム『エトワル・ラリアンス』の世界だったんだ。
そして、俺は、そのメインヒーロー、サンクレール王国王太子、
リシャール=ロロ=フェルディナン=ド=シュヴァリエ【攻略対象】、
その人(の幼少期)になっていた。
――え? これって何事?? なんで、おれなんよ!?
しかも、プレイヤー側でなくて、攻略対象って??
サブカル的には、ソコ、弟のおれじゃなくて、
おれの姉貴が、ヒロインか悪役令嬢に転生するトコでしょーがっ!
まぢ、フ・ザ・ケ・ン・ナッ!!
――って、ばちくそ混乱して、ガチで泣きそうになりました。
だって、おれ、アホ坊なのに必死こいて受験して、目標通りの公立高校、入学したばっかだったのに。
同年7月には、最新作『ドラサガ13』も発売予定で、行きつけのゲームショップで早期購入予約までしてたってのに!
――とはいえ、死んじまったモンはしょうがない。
だから、俺は、それでも、なんとかクロードとかニルスとか、気の許せる友達(家臣?)も出来たところで、
「よっしゃあっ♪ おれの2度目の人生、せっかく超絶イケメンに生まれ変われたんだから、ここはサクッと脳みそ切り替えて、とりあえず、ポジティブ、チート、アゲアゲモードで、悔いの無いよう、この薔薇色人生、面白おかしく生きていこうゼッ! アハハハハッ」
って、必死に柄にもなく陽キャのフリして、自分を鼓舞したまでは、まあ、良かったんだけども――。
俺(=リシャール)が思春期を迎えて、悪役令嬢やらゲームヒロインやらに絡みだしたところから、なんか一気におかしくなった。
気づいた時にはいつも手遅れ、二転三転、転がりまくって、俺の人生、絶賛、暴走、爆走、どこへ行く?
そんで、なんかもう、笑けるくらいに、全部の歯車狂い出して、みるみるうちに、めっちゃ精神ヤられまくって、身も心もカスカスになりましたよ。
ええ、それは、もう!!
だってさ、学園入学したら、ガチで、シナリオ通りに行動させられんだよ?
俺の意思とか、全部、まるっと無視で。
いやいや、ホント何なのよ、【攻略対象】って??
俺は、他人の人生飾り立てるためだけの舞台装置か、アクセサリーか、何かかよっ!? って!
マジ、コレ詰んだ。ガチ詰んだ。
何が二度目の人生だ。これじゃあ、お先真っ暗じゃねーか。
まあまあ、そうはいっても、傍目から見たら、リシャールは、一国の王太子だから、社会地位的には、完全勝ち組、スパダリ、リア充、エリート・コースまっしぐら!
それなりに皆にキャーキャー黄色い声を浴びせられると、
「俺って、マジ、スゴくね?」
なんて、めっちゃ浮かれちまって、ついつい、少年漫画的なアレやらソレやらを妄想してしまう。
実際、希望通りの『ドラサガ』みてえな激熱バトルとか、めっちゃチート炸裂した時には、この二度目の人生、とうとう報われた感じがして、今度は良い意味で我を忘れていた。
だけど、そんなのは、一瞬だけだったんだ。




