第2章 21_悪役令嬢と中庭ランチ
「あたくしとdéjeuner(=ランチ)致しましょう!」
そんな風に、昼休み、悪役令嬢が満面の笑顔で王太子を誘いに来た。
その後ろには、悪役令嬢の取り巻きの女子らもいた。
マリーの懐刀で親衛隊のリーダー、青藍ポニーテールの碧眼クールビューティーな、バリキャリ系? 伯爵令嬢、ベレニス=クララック。
たれ目、鬱金の内巻きカール・ボブ、ヘアバンドの、小柄な、ドジっ子? 男爵令嬢、コレット=スミルノフ。
そばかす、赤毛、モジャ髪タテロール(つーか、ぱっと見、ドレッドヘアに見える)なツインテール、ひょろ高い、一重瞼の悪人面、子爵令嬢、ジスレーヌ=ロカンクール。
ちなみに、このジスレーヌは、子爵令嬢だけど、本当は元平民なんだ。中産階級まで成り上がった親父さんが国へ巨額の寄付をすることにより(要するにカネの力)で爵位まで勝ち取った。
なので、ジスレーヌは、取り巻きズの中では、血筋的に、最底辺扱いされている。今日だって、悪役令嬢が持参したというデッカいランチバスケットを持たされるなど、いつも、様々な雑用をさせられていて、少し気の毒だった。
でも、おそらく彼女的には、それを拒否って悪役令嬢らにハブられる方がもっと困るんだろう。
S・R:
「昼食なら、君達、ご令嬢方だけで戴けば良いじゃないか。僕ら男子はご遠慮するよ」
やっぱり、無感動なにこやか笑顔で、シナリオ・リシャールは、あっさり断った。――が、それでめげるほど悪役令嬢は単純じゃなかった。
「あら? 左様なことおっしゃられてよろしいんですの??」
悪役令嬢は、口元に手を添えて、クスクスと大輪の薔薇のように微笑んだ。
「先日ご一緒いたしました高級仕立て店での殿下のおつれなきなさりよう。
あたくしのお父様に吐露いたしましたら、どうなりますことか。
また、次のご公務でご入用の御品、我がラグランジュ家が支援いたしております芸術家のものですわよね?
よもや、華の王太子殿下が、御自らのご名声をご自分でご毀損なされるご趣味でもおありなのかしら??」
華やかな笑みに明らかに悪意のトゲが含まれている。
早い話、「言うこと聞かなきゃ、邪魔してやるぞ」ってことだが。
仮にソレやられたとしても、普通に釈明したり、別の品物、用意すりゃいいじゃん、って話なのに。
でもって、それほどの権力持ってるの、悪役令嬢じゃなくて、間違いなく、その父ちゃんである宰相ブノワ=ラグランジュ公爵で、かの宰相も娘のためだけに国益損なうほどの大馬鹿モンじゃないんだけどな。
たぶん、シナリオ・スイッチで悪役モードONなマリーには、そんな理屈も存在しないんだろう。ただ、マリーは元からこの世界の住人だし、転生者みたいに【天の声】化してるかどうかまでは不明だけど。
とはいえ、シナリオ・リシャールもまた、プライド高いし、その割には、悪役令嬢にイキられると時々キョドるトコあるから、なんか結局言いなりになるの、「こいつヤベェ」感あるんだ。
まあ、前世の俺も、姉貴に対して、文句は言っても最後は丸め込められて、いい様に使われてたトコあるから、その辺、どっこいどっこいで、エラソーなこと言えないんだけどさ。
ともあれ、リシャールは苦虫を噛み潰したような顔をして、悪役令嬢の要望通り、中庭でピクニック・ランチをすることになった。
だから、荷物は、男子で王太子の従僕のニルスが、申し訳なさそうに、「ぼくが持ちますよ」と、ジスレーヌからまるっと引き受けていた。
ニルスは何気なく言っただけなんだけど、ジスレーヌはちょっと頬を赤らめていた。このコ、あんまり男子に免疫ない子なんだろうな。
さてはて、リシャールらは、日当たりのよい場所を選んで、敷物を芝生の上に広げ、おもむろにずらっと輪のように座る。
いざ、ランチバスケットを開けてみると、弁当ってよりは「オープン・ビュッフェ?」なセレブ・メニューが、次から次へと出てくるわ、出てくるわ……。
悪役令嬢が朗らかに告げる。
「皆さん、どうぞお召し上がりになって! 当家自慢の総料理長が腕によりをかけて、お作りしました昼食ですわ」
(つーか、わざわざ婚約者面して誘ってんのに、ソコ、手作りじゃねーんだ?)
とかって、前世日本人の俺は、ついつい、ツッコんでしまうけれど。
まあ、日本の漫画やテレビドラマのいわゆる悪女は、
デパチカ総菜、大量に買ってきて、それ片端から全部、弁当箱に詰め替えて、
「一生懸命作りましたァ~っ♡ (*Թ>ωƠԹ*)///ミャハッ☆」
(←絶対バレるっしょ?)
をやるから、自分から「作ってません」宣言するあたり、「潔くて良し」なんだけども。
しかして、悪役令嬢はしっかりリシャールの隣に陣取って、
「さ。殿下♡」
と、ニコニコ、一口サイズにカットされた「フォワグラと牛フィレ肉のパイ包み」をフォークで「あーん♡」ってしてくる。
(めっちゃ美味そうだけど、人前でコレやるの恥ズイ……)
天の声な俺は、ソッコー思ったが、前世でカワイイ女の子にそんなコトされたことないだけに、「うわー」とちょっと気後れしつつも、ドキドキしていた。
悪役令嬢ゴリ押し酷いけど、一応、美少女だから。
一方、シナリオ・リシャールは、ただただ不快なようで――。
バシッ!
と、乱雑に料理差し出す悪役令嬢の手を払い除けた。
途端に、フォークからすっぽ抜けたフォワグラ&ビーフ・パイが、
べちゃっ!
と芝生に落ちる。
(……ああっ! もったいないっ!!)
天の声な俺は、「あーん♡」よりも食材がダメになった方が申し訳なく思った。
S・R:
「茶番だね! 君はへりくだって僕に尽くしているように見せかけているが、まるで心が籠っていない。実のところは、これと引き換えに、同じことを僕にさせよう、って魂胆なんだろう?」
即座に、悪役令嬢が怒りでピシと固まったみたいになった。
「……。まあ! ご想像力がお豊かですこと!!」
「そこまでおっしゃられるなら、まずはお手本ご指南下さいます?」
なんて、悪役令嬢は、シナリオ・リシャールの言葉を逆手にとって、リシャールからの「あーん♡」をゲットしようとする。
これに、リシャールは「うぐっ」と閉口した。
うわ。むしろ、墓穴掘っちゃったカンジ。
そうして、そんな悪役令嬢を援護射撃するみたいに、取り巻きズまで、
「まあ。殿下ったら、お上手にお出来なさるのかしら?」
「まさか! だって、殿下はかしずかれるお立場の御方ですもの」
「だけれど、王子様お手ずからご援食だなんて。お素敵ですわね」
と、こっちをちらちら見ながらヒソヒソ話していた。
いや、「かしずく」はともかくとして、「援食」て。「あーん」を丁寧に言い換えられないから、「食べるのをサポート(支援)する」って意味で言ってる?
すげえな、ノーブル貴族マインド……。
つーか、このおフランスっぽい異世界で漢字の概念とか無さそうだから、これって日本の乙女ゲームとしてシステム補正が入ったってことか??
「……ど、どうするんです? 王子……」
ニルスも案じるように、ぽそっとリシャールに耳打ちした。
そこで、シナリオ・リシャールは、珍しく軽くチッと小さく舌打ちして、渋面になりながらも、悪役令嬢から、サッと取り分け済の料理が載った小皿を取り上げ、ざくりとフォークを突き立てる。
(……えっ? マジで!? ガチでやんの?? リシャールッ!)
天の声な俺は、またまた別の意味でドキッとする。
だって、俺ターンじゃないとはいえ、外面的にはリシャールがやってるように見えんの、なんか嫌なんですケド。
相手、悪役令嬢とはいえ、そんなん、めっちゃ恋愛脳男子っぽくなるからさー。
S・R:
「Quelle femme exaspérante!(=なんて忌々しい女だ!)」
そう吐き捨て、リシャールが、うっとり頬染めて待つ悪役令嬢の口元に、嫌々ながらフォークに刺したパイを差し出した、
――その直後だった。




