第2章 19_他の攻略対象者って?
(やっぱ、俺、馬鹿にされてんのかな……??)
俺は怪訝な瞳で、この戦隊レッド風イケメンを見た。矢庭に目が合い、戦隊レッド風イケメンはクスと含みある笑みを浮かべる。
「アベル」
「え?」
「アベル=バティスト=エティエヴァンと申します。ミルレーヌボンヌ伯エルネストの子の」
「ああ……」
なんとなく聞き覚えのある名前に俺もうなずいた。
――が、ミルレーヌボンヌ伯爵がどんな人だったか、その顔を思い出してみようとするも、パッとは浮かんでこない。俺、王太子として、だいたいの貴族のご当主とは会ったことあるはずなんだけどな。
(まあ、普段、王太子が絡むことない人だったら、あんま記憶に残ってなくても仕方ないかも)
そう思い直し、とりあえず、
「では、君の御父上にもよろしくお伝え下さい。また何かの機会で、君ともお話しできることを心待ちにしているよ」
と、当たり障りのない口上を述べた。
「そうですね。ご縁があれば」
戦隊レッド風イケメンもにこりと答える。やっぱり、目、笑ってないけど。
「僕はこれで。Au revoir.(=失礼するね)」
挨拶も早々に、俺はニルスを引き連れて立ち去った。
俺らはそろそろとA組の方へ歩を進める。
A組は特別進級クラスだから、同じ1年でも、教室が違う棟にあるんだ。
だからこそ、1周目も他の攻略対象者に遭遇する率が低かったんだけど。
C組の教室からだいぶ離れた辺りの廊下で、ニルスがぽつりと言った。
「なんか感じの悪い人でしたね」
「あー……。俺もああいう奴、あんま好きじゃねーかも」
――と、いけない、いけない。素が出ちゃった。この喋り方、誰かに聞かれるとマズいじゃん。
俺は、ソッコー、また王太子モードをオンにする。
「だけれど、僕もいうほど出来た人間じゃないからね。僕が王太子だからって、やたらと賛美する者もどうかな? というところだから、まあ、そこは……」
俺もハハハと苦笑する。
ニルスは「だって」と溜息をつく。
「さっきの人に比べると、なぜか、あのフイヤードさんの非常識ぶりの方が可愛く見えちゃったんですもん。これは相当なものですよ」
ぶうたれるニルスの横顔を見て、俺の方が目が点になった。
人間、「接する機会が多い相手ほど好感度が上がりやすい」っていうけど。
なんだかんだ、ニルスもレオナールに慣れてきちゃったのかもな。
「レオナールは、やる事なす事、規格外の割には、悪気ないのだけは分かるからね」
苦笑いをしていると、ふっと、
「……ん? アベル??」
と、俺は胸に引っ掛かりを覚えた。
(……そういや、ヒロインと同学年の攻略対象者って、リシャール含めて何人かいるけど、全員、別のクラスなんだよな?)
我知らず、そんな言葉が脳裏によぎり、思い馳せた瞬間、
「あっ……!」
と、俺の薄靄がかっていた前世の記憶が、ほんのちょこっとだけ蘇った。
「そうだっ! さっきの!! アベル=バティスト=エティエヴァン! あいつも攻略対象者なんじゃんっ」
素頓狂な声を上げたので、ニルスも「ひーろー?」と首を傾げた。
俺はギクッとして、慌てて口元を手で覆い、わたわた、周囲を見渡した。
幸い、周囲には、ほかの生徒はいなかった。
なので、俺もほっと胸を撫で下ろす。
(モブにしては整った顔立ちしてんなァ、って思ったけど。そういや、アベルって攻略対象者、公式イラストも、なんかあんな感じだったわ)
前世のマサトはどっちかっつーと、攻略本はあんまり見ない派だったんだけど。
どんなゲームでも、とりま、どんなキャラがいるかぐらいは興味あったっつーか。
モノによっては、「キャラ萌え」あるかもだし、最低限、知っとくべき情報? 的なアレで。つっても、それは、俺が好きだったRPGとかACTとかプレイする時の確認癖の延長みたいな。
だって、ギャルゲーじゃあるまいし。ヒロインと悪役令嬢以外はイケメンばっかって感じの『エトラリ』に関しては、むしろ、「怖いもの見たさ」ってのが強かったかも。
女子(つーか、姉貴)って、「こういうオトコ好きなんだー?」ってイジる? 目的で。
まあ、実際、イジろうとしたら、ソッコー仕返しされて、弟のが100倍酷い目遭ってただろうな。だって、姉貴、猫かぶりの猛女だもん。
自分の『エトラリ』オタを隠す&コスプレしたい、って理由で、「乙女ゲーム好きな弟にムリヤリ付き合わされちゃいましたァー(´>∂`)☆」をSNSで偽装ろうとしてたの、バレバレだったっつーの!
(とかって、マサトも結局カネにつられちゃったんだけど)
とにかく、めっちゃパラ見だけど、一通り、見るだけは見ていた。
乙女ゲーム『エトワル・ラリアンス』の攻略対象者は、全部で14人。
【太陽】/【月】/【12星座】の守護を持ち、それぞれに付随する【属性】を備えている。
【太陽】と【月】の属性は、シンプルに【光】と【闇】。
ただ、【12星座】の方は、どれがどの属性になるのか、ちょっと分かりにくい。
プラス、前世の姉貴いわく、クリア後は【隠しキャラ】が解放される? とか。
けど、そっちは、マサト、クリアしてねーから、全然知らん。
なので、それは、今んトコ、スルーでOKってことで。
ゲーム公式にいた1年生の攻略対象者は、この6人だったと思う。
A組は、俺こと、【太陽】守護【光】属性の王太子リシャール、
B組が【牡牛座】守護【地】属性の伯爵令息オクタヴィアン、
C組が【牡羊座】守護【金/熱】属性の伯爵令息アベル、
D組が【蠍座】守護【毒】属性の伯爵令息アドリアーノ、
E組が【乙女座】守護【木/花】属性の子爵令息セルジュ、
F組が【蟹座】守護【影/氷】属性の男爵令息ジョルジュ、
それと、現状では、留年しているレオナールがC組に入っている。
なんで、C組に2人いるんだ? って、困惑しちゃうが。
でも、これ、レオナールは、きっと、本来なら2年生だったんだ。
それが、たぶん、転生者(?)になって、微妙に運命が変わったから、王太子等と同学年になった、ってカンジ?
それどころか、基本の4大属性「地・水・火・風」の奴は、ぜんぶ同学年になるのかと思っていたら、ゲーム公式では、うち3人が、本来なら別学年、っていう。
ただ、攻略難易度と学年は関係ないから、きっと、違う学年でもヒロインと絡むイベントが、それなりの頻度であったに違いない。
ともあれ、攻略対象者は、同級生のほかは、上級生、下級生、留学生、講師が含まれていたはずだから、この2周目、平穏無事に乗り切るためには、俺も、あれこれ注意しながら日々送らないとダメな気がする。
「つーか、そうか……アベル、3次元になると、余計に、戦隊レッド風イケメンになるんじゃん。なんかスゲェ」
それはそれとして。
攻略対象者なら。
道理で、リシャールに当たりがキツくなる訳だ。
だって、まだ、ヒロイン編入してきてないけど、いざ、入ってきて「ゲーム・スタート」になったら、攻略対象者的には、恋敵になるもんな。
しかして、そのつぶやきを隣で聞いていたニルスが変な顔をした。
「せんたいれっど?」
俺もハッとする。
「あ。ううううんっ! いや、何でもない、何でもない……」
とりあえず、手を左右に振って否定する。
だって、「戦隊ヒーロー」を説明しようとすると、テレビとか何から何まで説明しなきゃいけなくなっちゃうから!(しかも、実物が目の前にないから、ほとんど意味わかんないだろうし)
ニルスはおもむろに懐中時計を確認する。
「あ! 王子っ。早くお戻りにならないとっ。午後の授業が始まってしまいます!!」
「マジでっ!? じゃあ、ちゃちゃっと戻ろうっ」
ほどなく、俺とニルスは、A組の教室へ向けて歩調を速めたのだった。




