第2章 13_3位だった
国立エスカロワイユ魔導学園は、基本的には、魔法に関する知識・技術を学ぶ学校だが、それ以外の学習もあり、魔法系専門職に就くための資格取得も一部可能だったりする。
なので、現代日本の進学校並みに、結構、模擬試験などが頻繁にある。
また、この模擬試験の結果いかんによっては、次学年の配属クラスが変わったり、特別実習とかのチャレンジ可否レベルが決まったりするので、これをただのテストだと思って、勉強をおざなりにすることなかれ。下手すると、後々、自分が大変な目に遭ってしまう。
特に、ダンジョン探索系の特別実習では、フツーに魔物と対峙することもあって、ガチで生死の危険が伴うこともあるから、いくら講師のサポートがあるといっても、そこは、きちんとシビアにしなきゃいけないんだろうな。
取りたい資格によっては、絶対単位が必要な必須課題とかもあるし。
そもそも、身分社会だから、いつも誰かしらに見張られてたり、すぐ噂になったりとかして、プライバシーなんてのは、もはや、あって無いようなもんだ。
だから、やたらプライバシーの侵害に配慮する令和日本とは異なり、わりかしガッツリ、試験結果の順位が掲示板に貼り出されてしまう。
そのため、家庭によっては、この学校の成績と家柄とを天秤に掛けて、生徒の親なんかが、子の婚約者を決めたりすることもあるらしい。
とどのつまりは、ここでのキャリアが、生徒どころか、その家の将来に関わる重大事になっている。むしろ、ランキングを隠す方が叩かれてしまうんだ。
そうして、入学して初めての模試――4月下旬に実地されたソレで、俺は、まさかの冷たい洗礼を受けるとは思わなかった。
(……3位? 転生チートで王太子なリシャールが、3位だって!?)
1周目の時は、いつも1位だったのに!
けれども、悪役令嬢は変わらずの2位だ。
ヒロインはまだ登校に至ってないので論外として。
(えぇー? マジかよ。これ【ループでペナルティ】の所為? そんなっ……。俺、いつも通り、予習復習バッチリで試験に臨んだのにっ…………!!)
掲示板のランキングを見て愕然とする王太子に、悪役令嬢は遠慮がちに言う。
「ま、まあ……っ。殿下もお忙しいから、仕方ありませんわよねっ……」
たぶん、慰めてくれているんだろうけど。
その作り笑いが酷くぎこちなくて痛々しかった。
すると、たちまち、
ピキピキーンッ
と、案の定、シナリオ・スイッチにやられた俺は、明らかにムスッとする。
つと恨みがましそうに悪役令嬢を睨み、ドスの効いた声で冷酷に言い放った。
S・R:
「……僕に勝てたのが、そんなに嬉しいのかい? とんだアバズレだね、君」
悪役令嬢はギクッと身を竦める。
「あ……、いえ……、あたくし……っ」
オロッと、悪役令嬢は畏縮して、すぐ王太子に謝罪しようとした。
しかし――、
S・R:
「善き妻というのは、夫より3歩うしろに下がって、陰で夫を立てて、公では慎ましく振る舞うものだと、ずっと教わってきたけれど。君のような厚顔無恥な女性が、僕の将来の伴侶だなんて。失望したよ!」
と、リシャールは罵倒して、フンと不機嫌な顔でマリエッタを無視した。
ちょ、古っ! 何? その昭和以前っぽい価値観っ!?
いや、まあ、この世界は、18~19世紀っぽい感じあるから、或る意味、仕方ないけどさっ!
てか、王太子妃なんて、むしろ、賢く有能な女の子の方がいいじゃん。
俺は、男女関係なく、優秀な奴は頼もしいから、よっぽど性格がアレじゃない限りは、尊敬するけど。
そして、王太子がキレた所為で、周囲の学生らは、悪役令嬢を冷ややかな目で見て、ヒソヒソ、ヒソヒソ――。
「おいたわしや、殿下」
「ラグランジュ嬢は軽率すぎます」
なんて、一方的に悪役令嬢が悪いみたいになっていた。
(ごめん。マリーッ。君は、普通に頑張っただけだよね? ルコック先生の言う通りだよ。俺も、なんだかんだ、チートにあぐらかいて勉強が足りなかったんだ)
そう感じていても、リシャールは、つれなく、そのまま、マリエッタに背を向けて立ち去ってしまう。従僕として側にいたニルスは、とりあえず、ペコ、と悪役令嬢に一礼してから、すぐに王太子の後を追いかけてきた。
「お待ちくださいっ、王子っ……」
ニルスの言葉も振り切って、リシャールは、ツカツカと中庭まで移動した。
ほどなく、噴水前まで来たところで、「ハァーッ……」と深い溜息をついて、頭を抱えながら、傍にあるベンチの1つに、ドカリと座った。
とはいえ、こんな風でも悪役令嬢から離れたおかげで、マサトな俺が、すぐに復帰できたけど。
俺は、シナリオが切れても、ショックのあまり、顔を上げられなかった。
それは、幼馴染みで婚約者な悪役令嬢に負けたからじゃない。
「――ったく。誰だよ、レオナール=ジェルマン=フイヤードって……!!」
それこそ、王太子と悪役令嬢をダントツでゴボウ抜きした、学年1位の奴だった。
そうしたら、息切らしながら追いついたニルスが、眉をハの字に下げて言った。
「我等が王国陸軍、第5大隊少佐、ガエル=フイヤード男爵の御三男のようですよ」
「え」
反射的にニルスの顔を見上げて、俺は目をぱちくりさせる。
「ですからっ……。ぼくも気になって、急ぎ調べてみたんです!」
温かく俺を気遣う眼差しは、やっぱり、兄のクロードと似ていた。
「親の七光りだ何だと言ってしまうと、身も蓋もありませんけれど。かの御方は、お若いながら、騎士としてなかなかの手練れのようです」
「ただ、昨年、ご実家が上から命じられた毒イタチ討伐に、御父上の名代として向かわれた兄君の御供として、ご一緒された際に、敵に不意を打たれ、大変なお怪我を負ってしまわれたとか――」
「それで、半年は休学しなければならなかったみたいで」
「復学後は、その休学中の単位をとるために、真摯に学び、定期試験や追試なんかも、それはそれは一生懸命頑張られたようですが、やはり、出席日数と試験結果の兼ね合いが厳しく――」
「結局、今年、留年して、王子の同級生になったそうです」
途中、軽い息継ぎもはさみながら、一気に話したニルスに、俺は「スゲェ」と思いつつも、
「留年……?」
と、首を傾げた。
「はい。ですから、王子の順位が下でも仕方ありません。あちらは、過去にも同様の模試を受けているので、十二分に対策できていたといっても過言ではありませんから……!」
ニルスのフォローはもっともだった。
確かに、過去問とか、その傾向と対策を知っていたら、そっちのが有利だ。
てか、そういう意味では、2周目の俺だって、過去問どころか、模試、ガッツリ2回目になるんだけどな。
でも、いざ受けてみると、問題、なんか違ってた気がするし。
流石に、卒業まで完走して、3年近く開きがあるとなったら、正直、古い記憶ほど、うろ覚えになるからなァ。
「とはいえ、かの御方は、【獅子座】の守護、【火】の家系、フイヤード家の者ですから。この先、王子の競争相手として、メキメキ、頭角を現してくるかもしれません」
「獅子座の――」
俺は唖然とした。
(ってことは――。そいつも攻略対象者!?)
そういえば、なんか、前世の攻略本でも見たかもしれない。
火属性だからか、髪は赤くて、なんか乙女ゲームのキャラの割には、チンピラくさかったような……?
それに、ソイツも攻略対象者なら、ゲーム的には、王太子と同等みたいなモンだから、負けても仕方ない……。
(あれ? でもでも、ちょっと待って。攻略対象って以外に、さっきの、何か引っ掛からなかったか?? 留年したとか、前にもどっかで聞いたよーな……)
それに、模試の結果が貼り出されたのは、ついさっき――
つまり、本日の帰りのSHRが終わってからだ。
なのに、ニルス、何でここまで調査済みなんっ?
「よく、そんなに調べられたね」
「あ。いえ。調べたのは、さっきじゃないです」
「はっ?」
「ほら。王子、前におっしゃってたじゃないですか。『野球部を作りたがっている男爵令息って、どんな人なんだろう?』って。それで、ぼく、お忙しい王子に代わり、空いた時間を見て、ちょいちょい【紳士会】にも赴いたりして、色々調べたんです。それで、特定したのが、たまたま、今回1位の人だったので……」
まさかの答えに驚いた。
(マジか)
調査と模試結果の順番、反対だったんだ。
(ファーヴルとか、全然違うやんっ!)
俺の脳内から、たちまち、メジャー・コスな昆虫学者(?)が、「OH! サヨナラデース!」とはらはら泣いて、バット振り回しながら、カラフルな蝶の群れ連れて去っていった。




