第2章 08_なんで、こんなとこにヒロインが??
「あ……あのっ、……も、申し訳、ありません……。わたし……っ」
カアアッと赤面して、ヒロインはモジモジと唇を押さえ、下を向く。
(え? どゆこと?? なんで、君、学園にいるの。で。なんで、攻略対象者と出くわしてるの。君、入学してくるの、1ヶ月後のはずじゃんっ……)
俺は激しくパニクりながらも、じじぃっとヒロインを見返す。
すると、アンジェルは、学園の制服でなく、無地の簡素なバッスルコートを着ていた。どう見ても私服っぽい。
ただ、衣装の感じから、それはまだ真新しさが残っていて、シンプルながらも、その生地は1級品の絹に見えた。
こんなの、およそ平民が身に着けられる代物じゃない。
(サヴァティエ伯爵が用意したヤツ? それより、ここにいる理由、早よ!!)
なんて、誰に尋ねるでもなく、1人で悶々としていると、急に、俺も、
ピキピキーンッ!!!
と、全身が硬直して、即座にフッと意識が飛んだ。
(ヤバいっ、シナリオ・リシャールくるっ……!!)
すると、リシャールは、今にも泣きそうなヒロインの頬をそっと撫で、クス、と儚げに苦笑した。
S・R:
「いや。君が無事ならいいんだ。僕は男だからね。かよわいご令嬢を守るのは、僕の義務だから。本当に、どこも怪我が無くて良かった」
なんか、言葉はまともなのに、めっちゃ流し目で言ってる。
今朝、婚約者である悪役令嬢のことは、冷淡に突き飛ばしたのに。
そして、ヒロインも、きゅきゅぅーんっ♡ とキたみたいに、王太子に熱っぽい眼差しを向けてくる。
そこへ、慌てふためくニルスも駆けつける。
「大丈夫ですかっ! 王子……っ」
(いや、ニルス、来るの、遅っ!)
「わっ! 大変だっ。保健室の先生、呼んできましょうかっ??)
心配そうにニルスは言うけれど。
いや、おまえ、王太子ガッツリ下敷きにしてるヒロインのことはツッコまんの?
S・R:
「落ち着きたまえ、ニルス。僕は大丈夫だよ」
飄々と一蹴するリシャールの澄まし顔を、
ヒロインはギョッと二度見して、
「……えっ? お、王子……様……??」
と、真赤になりながら、さらに、わたわたと動揺し始めた。
そりゃ、1国の王太子、思いっきり緩衝材にしたら、そうなるの分かるけどさ。
「し、失礼いたしましたっ! あの……っ、わたし……っ!!」
ヒロインはバッと慌てて立ち上がり、ペコペコと俺に向かって平謝りする。
リシャールはすっくと立ち上がり、穏やかに苦笑して、パンパンッと制服の埃を払った。
S・R:
「構わないよ。だって、僕がそうしたかったんだから」
なんか見るからにキラーンッって感じのドヤ顔。
まもなく、リシャールは、おもむろにヒロインの耳元に唇を寄せると、
S・R:
「……それより、ごめんね? 僕、君の大切なもの、奪ってしまったよね??」
と、敢えて事故チューを強調する。
(それ、言わんでいいヤツ!)
天の声な俺はツッコんだが、
ヒロインは、ボッと顔から火を噴いて、
「あ……。えっと……」
と、うつむき、モジモジしていた。
S・R:
「僕も、初めてだったから、驚いてしまったけれど。でも、なんだか、すごく――胸が高鳴った。運命を感じてしまったんだ。君のような愛らしく素敵な女の子なら、もっと、きちんとした出逢いをしたかったな」
なんて、さらっと一目惚れ(?)&初キッスをカミング・アウトしてる。
(つーか、リシャール、婚約者いるじゃん! こんなの浮気じゃんっ。
王太子としての自覚ないんかよっ……)
いきなりハンターに変貌するリシャールに、天の声な俺はドン引きした。
しかして、ヒロインもまた、ポポポッとますますウブな顔で照れちゃって、
「そ、そんなっ……。わたしの方こそ! よもや尊い貴方様のような御方にっ。こ、光栄ですっ……!?」
って、声を大にしていた。
途端に、天の声な俺はガガンッとなった。
(イヤ、語尾オカシイ! そんなん言ったら、リシャール調子こくじゃんっ!!)
そうして、オソロシイことに、再び、リシャール・ルート開始の鐘(いや、むしろゴングかも?)が、どこかでリーンゴーンッと鳴った気がした。
(2周目こそ関わりたくなかったのに!)
思うや、リシャールは、フフフッと悪戯っぽく微笑んで、余裕綽々に、ヒロインからそっと離れた。
S・R:
「――君も学園の生徒なの?」
瞼を伏せて、ふぁさっと髪を掻き上げ、リシャールは問う。
たちまち、流れるサラサラ金髪が陽光に映え、如何にも、少女漫画でヒロインがズキュンとなる場面っぽかった。
だからこそ、むしろ、天の声な俺の方が照れてしまう。
(うわーんっ。やめてよ! ソレッ!
『俺』らしくなくて、めっちゃ恥ズいから~っ……!!)
かたや、ヒロインは、ギクッと畏れ慄いていた。
「あ、えっと……。その……」
S・R:
「――うん?」
リシャールはちょっと小首を傾げ、
S・R:
「僕等、今日が入学式だったんだ。でも、おかしいな。式に、君の姿は無かったようだけれど――?」
と、とぼけた風に、ヒロインに探りを入れる。
「ですから、その……。わ、わたし……っ、にゅ、入学試験でっ……」
S・R:
「……入学試験?」
怪訝に訊き返すリシャールに、ヒロインは、「あっ」と両手で口元を覆って、目をつむり、ビクビクと震える。
もはや、その緊張も頂点に達しているらしかった。
それに、ニルスも「ああっ!」と雷撃たれたように声を上げる。
「そういえば、この間、噂になってましたっ! とうとう【聖女様】が現れたって……!!」
S・R:
「セイジョ??」
リシャールが眉をひそめると、ニルスは興奮した眼差しで「はい!」と頷いた。
「その子は15歳のお誕生日に天啓を受けたものの、平民だったので、その御身をお護りするには、確固たる後ろ盾が必要だ、って。故郷の領主である伯爵様のご養女になったらしいんです。でも、それらの手続きをすべて終えるには少々お時間を要するので、時期的に、入学式には間に合いそうもないって……」
ドキドキと少し舞い上がった風に語るニルスに、リシャールは、一瞬きょとんとしたものの、すぐに、ちろっとヒロインを見つめた。
S・R:
「……そうなの?」
うっすら顔を覗き込むような感じで、ほのかに案じる面持ちでリシャールはヒロインに尋ねる。(なんか、ちょっとアザトい……)
ヒロインは、またカアアッとなって、
「はい……」
と頷きながら、おずおずと答えた。
「でも、わたし……、まだ、信じられなくて。ほ、本当は……自信もないんです。ですから、今日、試験を。この国のために、わたしなんかでお役に立てるなら、って……。とても、誇らしくはあるんですけれど……。ただそれだけで、便宜を図って頂けるのは、なんだか忍びなくて……っ」
奥ゆかしい言い分だけれど。
これ、たぶん、ゲームの設定から、そうなってるはずだよな?
けど、ヒロインって、推薦入学じゃなかったんだ。俺、てっきり、このコも例外枠っぽい感じで、ニルスみたいに「面接だけ」で入学――――。
天の声な俺は、「ん?」と、喉に小骨が引っ掛かったような感覚を覚えた。
(……いや、どうだっけ? 試験…….。あったよーな、なかったよーな……??)
だって、今世のリシャールは、ヒロインの事情なんか全く知らんけど、少なくとも、前世のマサトは、プレイヤーとして、一応、ヒロインを操作したことあったんだから。
とりあえず、【賢者の聖別】は、一定の生活水準もってる国民が、魔力の有無を測るためにやるヤツだから、学園の試験とは異なるし。
王太子だって、王族だけど、魔導学園の中等部に入る時には入試を受けた。でも、高等部は受けてない。中等部の方で、エスカレーター式にスライドするのに十分な単位、取ってたから。
(……どうしよう。なんか、わからんくなってきた)
ただ、今、それを気にしたところで、さして問題でもなかったので、
(ま、結局、入ってくんの5月なん変わらんなら、どっちでもいーか)
と、一旦、思考停止した。
そんな天の声な俺の戸惑いなんて、どこ吹く風か。シナリオ・リシャールは、
S・R:
「じゃあ、これも何かの縁だし。この先、困ったことがあれば、遠慮なく僕に言ってね。きっと、力になれると思うよ」
と、ニコッと、まさに頼れる王子様な顔で告げた。
すると、またまた、ヒロインは、王太子に悩殺されたみたいに、ポッと赤くなる。恥じらいのあまり、やたら、おどおど、ソワソワ。
(いや、これはフツーに可愛いな)
シナリオとか関係なく、リアルにこれなら、俺だって力になってあげたいけど。
(でも、この娘、1周目はピュアなフリして、攻略対象者にガッツいてたし)
油断すると、またナナメ上な肉食モード改変くるかも。
(だって、現状、シナリオと1番結びつき濃ゆいの、ヒロインのこのコだよな?)
つまりは、これら全部、ヒロインによる好感度アップの一環なんだと思えば。
マジ、ノーサンキュー!(いや、我が国はフランス語だから、ノンメルシー?)
正直、マサト的には、全力でヒロインから逃げたいっす!!
でも、ニルスは「さすが王子!」って顔してるし、ヒロインもドキドキと王太子を見つめてる。そうして、リシャールは、ヒロインの桃髪を1房とると、そこに、ちゅ、とキスをした。
S・R:
「これからよろしくね、【聖女様】?」
パチリ♡ とウインクする。
内心、俺はゾッとした。
(イヤァ――ッ、やめてェ――っ! そんなん、ヒロイン口説く気マンマンじゃんっ。俺、2周目まで、この娘に攻略されたくねぇ――――ッッッ!!)




