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第1章 25_終わりへのカウント・ダウン (挿絵_03)

(だ、誰……っ!?)


 俺の目の前には、俺と同い年くらいの、ゴスロリ喪服姿の白髪紅眼の()()が居た。それもクールビューティーな感じの。


 容姿の特徴は、ほぼほぼ同じなので、たぶん、ユノが成長したんじゃないかと思うけど。


 身長は、183cmある俺と、20cm差くらいに見えるから、たぶん、160cmはあると思う。ただ、元のユノがあまりに小さすぎたので、明らかに印象が違いすぎる。


契約(エンゲージ)――、完了」


 その一言も、鈴振るような美声で、俺は、涼やかな水琴窟(すいきんくつ)の音色を連想した。


(ウソ……。これ、ユノ? あの()()()()?? つか、別人やんっ!!)


 はわわわっと、俺は激しくパニクった。


(だって、だって、ガチで俺の好み()()()()()()だしっ!)


 あの結婚式で、ヴェールを挙げてヒロイン(アンジェル)を見た時とは、全然違う。


 なんか、もう本当に、ピシャンッ! と雷に撃たれたみたいに衝撃を受けて、俺は、カアアッと湯気噴くくらいに赤面し、ドッキンドッキンと胸が高鳴った。


挿絵(By みてみん)


(やややややヤバい……。俺、マジでこれ、好きになっちゃうかも)


 俺は、茹蛸(ゆでだこ)になりながら、ドキドキして、居たたまれない気分で下を向く。


 すると、オトナ・ユノは、自分の肩に掛かっていた俺の左手を見て、ギロとハンターみたいな鋭い目になる。俺の両手を振り払い、改めて左手だけ取り上げた。


「コレ、いらない」


 オトナ・ユノは、冷たく言い放つと、俺の左手の甲に柔らかい唇でキスをして、その後、薬指から、スッと【星の結婚指輪(エトワル・ラリアンス)】を抜き取る。


 俺は、ギョッと目を剥いた。


「ええっ! な、なんでっ……。さっきは、全然、取れなかったのに……っ!!」

()()()()()カラ」


 オトナ・ユノは、スンとした顔で言う。


(書き換え? ってコトは、攻略対象者(おれ)ヒロイン(アンジェル)の結婚が破棄されたのか――)


 それで、よくよく見てみると、確かに、結婚指輪としての機能を失った()()は、たちまち、神々しいオーラが立ち消えて、ただの凡庸なアクセサリーの1つと成り下がっていた。


(そっか。ペアであることに意義があるんだもんな)


 俺は、あれほど苦労してゲットした【星の結婚指輪(エトワル・ラリアンス)】を無常の瞳で見つめる。


(そういえば、オトナ・ユノが俺の手の甲にキスした時、そこから同心円状に、何かじんわりと温かい波動が広がったような――? これが契約(エンゲージ)に付随するものなら、気功っていうか、()()()()()愛の力(ラブ・パワー)、的な何かか??)


 考えると、嬉しさ反面、すごく恥ずかしくなった。


 だって、たぶん、ユノは、俺を異性として捉えてないのに。

 ただ、大切な「カミ」の指令を遂行する上で、転生者(おれ)は必要な相棒程度の認識で、それ以上でも以下でもないはずだ。


 けれど、それでも、こうして契約(エンゲージ)したことで、2人の間に特別な関係性が生まれるなら――。


(失くしたくないな。俺、ガチで頑張らんと、玉砕しちゃうかも)


 そんな風に悶々としていると、オトナ・ユノは、頓に、ふうっと【星の結婚指輪(エトワル・ラリアンス)】を吹く。やがて、【星の結婚指輪(エトワル・ラリアンス)】は、白化して、ざざあっと(ちり)となって崩れ落ちていき、最後には跡形もなく消えてしまった。


(うわァ……。マジか。1000年の伝説が一瞬にして消えちゃったよ)


 なんか、ヒロイン(アンジェル)よりも、むしろ、1000年前の我がシュヴァリエ家の始祖、聖騎王(パラディン・ロード)マクシミリアン公と、初代星辰の乙女(アストロ・メイデン)エステル嬢に、ものすごい申し訳ない気がした。あと、これの為に俺らに討伐されてしまった(?)魔王ダルケシウスにも。


(……つーか、これじゃあ、そもそも、ヒロインが攻略対象(ヒーロー)と結ばれるシナリオやるために、()()()にされてる魔王と、()()()()()()の存在意義がまるっと吹っ飛んじゃうよな)


 そう考えると、ますます、


【こんな、あっさりゲームタイトルになってる重要アイテム消滅させちゃって、良かったん??】


 って、メインヒーロ―的に罪悪感が湧くんだけれども。


「ユノとリシュは、コレで一蓮托生」

「一蓮托生……?」


 俺が訊き返すと、オトナ・ユノは、フッと、そこはかとなく微笑んだ。その姿は、凪のように穏やかで、まるで、雲上から降り立った天女のように麗しかった。


(うわ。……こっちはこっちでヤバい。めっちゃ、カワイすぎかよっ!)


 俺は素直に照れた。でも、オトナ・ユノは気づいてない。


(――あれ?)


 よく見ると、俺が()めた、ユノの右手薬指のタイ・リングも、最初から彼女のためにあつらえたみたいに、ぴったりと婚約指輪(エンゲージ・リング)らしく、その指に収まっていた。


(どゆこと? あのリング、ネクタイ用だから、今のオトナ姿でも、元々のサイズなら、もう少し緩くなると思うんだけど。契約(エンゲージ)効果で、サイズ、変化した??)


 おろおろしながらも、美女化したオトナ・ユノに「ドシタ?」と小首を傾げられると、つい見惚れてしまう。考えてみれば、ユノの喪服も、体型に合わせて伸縮してるっぽいし、そこは、やっぱり魔法的な何かなんだろう。


(……ってゆーか、この()、オトナ化すると、割にオッパイ大っきくね?)


 俺はまじまじとオトナ・ユノの全身をなめるように見定める。


(全体のラインも整って綺麗だし、顔ちっちゃいし、いいカンジに細くて、手足も長くて、人形っていうか、本当に芸術品ばりのスタイルだ。リアルでこんな子いたら、完全にスーパーモデルになれてるな)


 よくリアル地球の海外で「リアル・○○」って、女の子向け玩具のお人形に例えられる美人がいたりするけど。ああいう人達って、むしろ、化粧(メイク)で盛って、敢えて()()()()()()たりする感があるよな。


 けれども、今、俺の眼前にいるオトナ・ユノは、()()()()()()()で本当に「お人形」な感じ。


(ってか、2次元ヒロインにお熱なギャルゲー・オタの気持ちが、ちょっとだけ分かるわ。ここ、乙女ゲームの世界だけど、こんな()なら、マジで『オレのヨメ』にしてェ、ってなるわ)


 ――あれ? でも、これ、恋か? それとも、ただの推し活……??


 なんて、変に浮かれて、途中から何が何だか分からんくなりながも、ドキドキと、俺1人で盛り上がっていると、


「え」


 と、突如、パキ、と彼女の背後の、真白な空(?)に亀裂が入った。


「な……んっ……!?」


 俺が唖然としていると、オトナ・ユノの表情が一挙に厳しくなる。


「……時間、()()


 冷然とオトナ・ユノが言うなり、


 パキパキバキッ、メリッ……、バキッ、バリッ、パラパラパラ……ッ


 と、ガラスの天井叩き割ったぐらい広範囲に割れて、その破片が雨みたいにザラザラと降り注いだ。鋭い破片の雨は、見るからに凶悪な閃きを見せ、真下に佇む俺らを狙ってくる。


 オトナ・ユノは、サッと黒い日傘を取り上げて、何事か唱える。すると、


 ボンッ! 

 

 と、日傘は、ビーチパラソルくらいに大きくなって、俺とユノとを、割れた破片の雨から守った。日傘に当たった破片は、粉々に砕けて、ザッと砂のようになったかと思うと、即座にボウッと青く燃えて、すうっと消えた。


 そうして、俺は、日傘の向こうに、恐ろしいものを見る。


()()っ……!?」


 そう。割れた白天井には、隕石ぐらいの巨大な1つ目玉が、ギョロギョロと、禍々(まがまが)しい闇閃を放って、こちらを睨んでいた。目玉は酷く血走っていて、その周囲も、不気味な暗黒が渦巻いていた。


「そういや、ヒロイン(アンジェル)はっ……!?」


 日傘に守られなかったアンジェルは、まともに、あの白天井の破片を浴びたはずだ。


 そう思って、俺は、慌てて見ると、ヒロイン(アンジェル)は、完全に石化していて、なんなら、石膏像(ぜっこうぞう)くらいの真白になっていた。どう見ても、生きているとは思えない。


 ほどなく、


 ビーッビーッ!


 と、けたたましいサイレンが鳴り響き、


 ファンファンファンファン……


 と、ドラマで聞くようなパトカーっぽいサイレンまで響き始めた。


[状態異常ヲ検知! 状態異常ヲ検知!! システム・ダウン! 【サーバー】カラノ、【バックアップ】ヲ停止シマス! 【オールリセット】ヲ実行――、コレヨリ全テ【シャットダウン】シ、【再起動】ヘ移行マス……]


 明らかな電子音声が、どこからともなく降ってくる。


(え。何なん、コレ。異世界っていうか、完全に()()()()なヤツやんっ)


 動揺を隠せないでいると、ユノが、矢庭に俺をぎゅっと抱き締めた。


「りしゅ。チョットの間、お別レ」

「えっ」


 俺が目を白黒させていると、


「でモ、契約(エンゲージ)したカラ。キト、また会エル」


 と、ユノは誇らしそうに口角を上げる。


 そのうち、白の世界は、全体にめちゃくちゃ亀裂が広がり始めて、空間自体も、大地震に見舞われたぐらいに、激しく鳴動した。その衝撃で、石化白化していたヒロイン(アンジェル)も、ピシピシッと砕けて、石塊(いしくれ)となって、ガラガラと崩れてしまう。


 あの巨大な目玉は、もはや白目が血の色に変わって、破壊の毒風を撒き散らしていた。


 その毒風に中てられて、ビーチパラソル化していた黒い日傘も、瞬く間に風化してしまう。


 危険な毒嵐が、俺とユノに迫っていた。


「ダカら、次ハ、りしゅガ、ユノ、()()()()

「み、見つけろって……。そんなっ、イキナリ言われても……っ」


 俺が甚だ狼狽していると、ユノは、契約(エンゲージ)を確認するように、ちゅ、と俺とキスをした。


「サヨなら。りしゅ。またネ」


 ユノは少しさみしそうながらも微笑んでいた。


 やがて、白の世界にも終焉がやってくる。


「な…………っ」


 すべてが剥がれ落ちたソコは、宇宙の果てのように真黒く、混沌として、天も地もない絶望の世界(フィールド)へと変貌していた。


 ズゴゴゴゴゴゴ……


 と、漆黒のハリケーン的な闇雲の塊が襲ってくる。


 そうして、ユノも、俺も、全身が透けて、ぱらぱらとタイルが剥がれ落ちていくみたいに、身体が徐々に分解して、最期の時には、モノクロの砂嵐が目の前に広がった。


 俺らの身も心も、そこで全て潰えて、ザンッ! と消え果ててしまった。


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