表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/41

第1章 23_唯一の救済

(だいたい、こんな何もない世界で、誰の監視があるっていうんだ?)


 独り怯える人形ロリッ()の姿を見た時、俺は、真先(まっさき)にそう思った。

 ――が、かえって、()()()()からこそ、


(ひょっとして、カミの敵は、神、みたいな??)


 と、視えざる上位存在の有無を疑った。


 だって、よくよく考えると、攻略対象者(おれ)にいつも降りかかってくる【シナリオ・スイッチ】なんて、まさに、()()()()クラウド監視システムみたいなモンじゃないか。


 そうすると、これは、()()()()の根幹の在り方に関わることで、実は、このコは物凄く壮大なミッションを課せられているんだろうか――、とさえ映ってしまう。


 だったら、とりあえず、この「世界を壊す」ことは、単に「破滅」じゃなくて、なんか「革命」的なことだと、善い方に捉えようと思ったんだ。


 だって、そうでもしないと、俺の方が絶望に押し潰されそうだったから。



 そして、俺は、大人の男として、ひとまず怯えるこのコを落ち着かせようと、


「そうなんだ? それで、わざわざ転生者(おれ)のところに来てくれたの?? なんかゴメンね。俺、そういうの、全然気がつかなくて」


 と、その頭を優しくぽんぽん撫でた。


「!!」

 人形ロリッ()はビクッと身を強張らせた。

 そうして、目を丸くしてうろたえた後、


「…………?」

 と、スススと逃げるように1歩後ろに下がった。

 なんていうか、めっちゃ不信感マシマシな眼差し。


 って! うそーん!! もしかして、俺、君的には変質者ッ!?


「……キミ、なにシてル?」

「え」


 まもなく、じとっとした視線がグサグサッと矢のように俺に突き刺さった。


「いや、だから、その……」

「……あたま、オカシイ?」


 露骨すぎじゃん!


 いやいや、仮に、()()()()()()に慣れてないんだとしても! もっと別の言い方があるっしょ!? てか、そもそも、俺、ロリ相手に()()なんて無いからっ……!!

 

「……げ、元気出るかと――」

「……ゲンき?」


 人形ロリッ()は無遠慮に首を傾げてくる。

「ナンで、ゲンき?」


「え。だって。なんていうか、その……。き、君、泣きそうな顔してたし!」

 とかって、むしろ、俺の方が泣きそうなんだけど。


「……フゥン」

 言うや、人形ロリッ()は、ふいっと俺から視線を外した。


 しかして、しゅんとする俺に気がついたのか、人形ロリッ()は、改めて、おずっと俺に近づく。


 ジッと怪訝に見られて、俺も思わず身構えた。


「えっと。な、何……?」

「…………」


 すると、人形ロリッ()は、無言のまま、今度は、彼女の方から、ぽんぽんと、俺の頭を撫でる仕草をしてきた。――が、あいにく、その手には黒い小箱を持っていたので、実質、ゆで卵を頭で割るみたいに、俺は、小箱でコンコンと小突かれた感じになった。


 ちょっと痛い。


「……ゲンきデた?」

 淡々と人形ロリッ()に訊かれ、


(んな訳ねーじゃんっ! がっつりカドが刺さったわ!!)

 なんて、俺は、顔が引き()りそうになるのを抑え、


「だ、だね!」

 と、ひとまず、ニコッと返す。


「……そウ」

 人形ロリッ()はすぐに興味をなくして、ふっと俺から離れた。


(いやコレ! フツーに君のがおかしいっしょ!!)

 とはいえ、ここで、怒るのは大人げない。


「そ、それで? 君のカミは、転生者(おれ)が必要だって、言ってるの?」


 人形ロリッ()は、無表情のまま、コクと頷く。

「キミ、いせかいどノ、ひィろゥ。だカラ、キた」


 指をさされた(っつーか、正確には、傘でさされた)のは、ちょっと「マナー的にどうなん?」って気がしたけど。


 俺は「よし」と思い直した。


「じゃあ、もしかして、君の指輪(ソレ)と、この【星の結婚指輪(エトワル・ラリアンス)】を交換したら、攻略対象者(おれ)は、シナリオから解放されたりする?」


 人形ロリッ()は、目をぱちくりさせて、緊張に駆られる俺を凝視していたが、


「それハ、無理――」


 と、ズバッと答えた。

 その表情は、もちろん、()()


 俺はズコーッとコケたくなった。

(って、ソコはさすがに踏みとどまるよ!? だって、俺、王子だし!)


 案の定、彼女は表情を変えるでもなく、まっすぐこちらを見据え、告げてくる。


「でモ、今、【星の結婚指輪(ソレ)】捨てテ、この【混沌の盟約(カオス・パクトゥム)】着ケて、ユノと契約(エンゲージ)シたら、次ハ、きっト何カが変わル――」


「! か……、かおす・ぱくとぅむ!? 君とエンゲージ――??」

 

 俺はゴクリと息を呑んだ。

(ちょっとコレ! なんか、一気に意味深な単語が出てきたぞ!?)

 

 が、しかし。


「――カも?」

 って! ソコ、疑問形なんかーいっ!!


 しかも、拍子計(メトロノーム)かよ! ってくらいにめっちゃ首傾げるし!

 いや、その()()()()を見るに、人形ロリッ娘(このコ)に悪気がないのはわかるんだけど。


 俺は今度こそ、ズコーッとなった。(いや、()()半コケだけど)


「そ……それも、君のカミが言ったの?」

「そウ」

 人形ロリッ()は、コク、と頷く。


「ユノは、ユノのカミの、言ウ通りニするダケ……」

「は、はあ……?」


 無垢(イノセンス)すぎるってコワいわネッ!


 俺はほとほと困り果ててしまった。


(つーか、マジで、このコの()()って何なんっ?)


 その手の大それた指示出すなら詳細まで教えろよっ! こういう報連相(ほう・れん・そう)って案外大事よ!? って、俺は思うんだけど。


(だいたい、そもそもの話として、革命(ソレ)って、こんな小さな女の子にやらせる事なんっ!?)


 転移者(ゲーム開発者?)だか、システム的なアレだか、分かんねーけど。

 もうちょっと相手選んで仕事させるべきだと思う。

 

 俺はちょみっと腹が立ってしまった。


「じゃあ、もういーや。とりま、そのカミはどこ? 君は会ったことあるの? 俺でも会える??」


 もし、俺でも会えるなら、一言、文句言ってやろーかと思ったんだ。

 どっちみち、「転生者(イセカイド)が必要」なの、人形ロリッ娘(このコ)じゃなくて、そっちなんだから。


(つーか、受ける受けないかは別として、もし、システム的なアレの方だったら、シナリオ・スイッチについても『フザケンナ』って言ってやる!)

 半分、八つ当たりみたいなもんだけど。


 しかして――。


「……会ったコトは、ナイ。いツも、()()、突然、来ル」


 人形ロリッ()の顔が少し暗くなった。いや、無表情なんだけど。

 うつむいて……。もしかして、なんか寂しそう?


 俺は、無性に、胸がキュンと締め付けられた。


 これは……そう、言うなれば、路傍の段ボールに打ち捨てられた子犬が、母恋しさにずっと鳴いていて、冷たい雨しぐれに打たれ続けているのを見つけ、それを無視して帰るに帰れなくなっちゃった感じ?


 そうなってくると、なんか、普通に「嫌だ」って断れない雰囲気だな。


 俺は、この陶器人形(ビスクドール)みたいな訳分からん少女を、なんか放っておけなかった。


(……どのみち、このまま大聖堂(あのばしょ)に戻ったとして、ヒロイン(アンジェル)との結婚式を無事終えたところで、リシャール(おれ)が自由になれる保証は無い訳だし)


 それどころか、今までみたいに、転生者(おれ)が天の声化して身体ばかりが操られるんじゃなくて、転生者(おれ)までが洗脳されて、その存在を消されてしまうなら、それは、もう、地獄じゃなくて、ただの完全なる死だ。


 俺は、そんな無様な形で、今世を終わりたくない――。

 

 ちょっと考えたものの、結局導き出されたのは、たった1つの答えだった。

 

 俺は、ふう、と溜息をつく。

「そっか。じゃあ、俺、君の言う通りにしてみる」


「エ――」

 俺の返事に、人形ロリッ()は、驚いたように顔を上げる。


「だって、転生者(おれ)も、本当は、いろいろ納得いってなかったし。ここまで来たら、もう別に何でもいいかなって。君の言う通りだよ。俺は、ヒロイン(アンジェル)と結婚したい訳じゃない。俺は、もっと自由になりたい。それだけなんだ」


「…………」


「で。君にとっては、きっと、そのカミが、君の家族(?)みたいな、とても大切な存在だってことだよね? だって、君、狂信者ってよりは、預言者? なんか、孤立無援な感じ?? でも、神託(?)を受けられるんなら、巫女さん的な、トクベツな女の子ってことだと思うし」


「みコ?」

 人形ロリッ()はきょとんとしてるけど。


「そう。巫女。神様にお仕えしてる女の子。prêtresse(プレートレス)(=女性祭司)。そして、転生者(おれ)が君の言う通りにするなら――。君のカミは、必ず、また、君に接触してくると思う。なら、ひょっとしたら、俺も君も、本当にそのカミに会えるかもしれない」


 俺はしっかりと彼女の目を見つめて言った。


「だったら、俺は、君や、君のカミのコト、もっと知りたいな。それが、この先、俺のためになるかどうか、全然分からないけど。でも、なんていうか――そう、俺の開拓(フロンティア)精神に火が点いたっていうか。『()()()()』オタ的に、グッときたんだ!」


()()()()?」

 あっけらかんと人形ロリッ()に訊き返されて、俺はギクッとした。


(やっべぇ! 恥ッズ!! なんで、別ゲー世界でオタ宣言してんのよ、俺っ……)


 俺は、カアアッと赤くなって、「あっ、いやっ……、その……っ」と動揺する。

 そして、とりあえず、わしゃしゃっと自分の頭を掻いて、ガックリうなだれた。

 再び「はあ」と溜息1つ、気を落ち着かせる。


 果たして、人形ロリッ()は、笑いもしないが、こんな俺を小馬鹿にするでもなかった。ただただ、ありのままの俺をじっと見ていた。


(……あれ? リアクション無いとツラいかと思ったけど――)


 案外、気楽!


 だって、こんなアホなトコまるっと全部含めて俺だから。

 いまさら、別に恥ずかしがるこっちゃねーワケで。


 こんな風にいちいちツッコまれないんなら、むしろ、俺らしくないシナリオ・リシャールみたいな、イケメン・チートなスパダリ王太子様は、このままいっそ卒業してしまおう。


 俺は、()()と口角上げて、サッと(おもて)を上げた。

 

「そういう訳だから、えっと――」


 まずは自己紹介かな、と迷っていると、

 この人形ロリッ()は、


「キミ……、頭打っタ? あ。サッきノ。ユノが、コレで、コンコンしタせい……??」

と、オロオロと、黒い小箱と俺の頭とを見比べる。


 まさかの反応。

 このコは本当にピュアな子らしい。


 俺は、プッと苦笑した。

「かもね!」


「エ……」


「受け取ればいいんだよね? 混沌の盟約(ソレ)


 シナリオに解放されたがってる奴が、進んでソレとはまた別の何かの言いなりになるなんて、滑稽(こっけい)も甚だしいけれど。


 ただ、少なくとも、俺自身に選択権が与えられるなら、それは、()()()()()()()、俺自身が()()()()()結果なんだ。


「その……、厨二リング(?)――じゃない、えっと、【カオス・パクトゥム】?? の代わりに、この【星の結婚指輪(エトワル・ラリアンス)】、捨てたらいいんだっけ?」


 俺は、スッと、人形ロリッ()に向けて手を差し出す。


契約(エンゲージ)するよ。君と」


 サファイアの如き碧眼に強い意志の炎を閃かせ、俺は宣言する。


「だから、行こう! 俺と一緒に。()()()()()()へ」

「あタらシイ、セカイ……??」


 ハッと目が覚めたように、人形ロリッ()のガーネットの瞳にも明るい光が宿る。


「行ク。ユノ、転生者(キミ)と行っテ、ユノのカミに会テみタイ」


 ほくほくと顔を輝かせた。

 そのフリージアみたいな微笑みを認め、俺もフフッと目を細めて頷いた。


 そうだ。このコは、きっと、普通になりたくともなりきれていない、ただ不器用なだけの女の子。ちょっと風変わりで、傍目には理解し難いからって、いたずらに恐れることなんてない――。


 そんな風に考えを改め、彼女を見返してみると、その姿は、もう()()じゃなかった。


「ああ! 会いに行こう。そんで、思いっきり、文句を言ってやろう!」


「うン」

 喪服ロリッ()も、コク、と頷く。


 正直、俺には、喪服ロリッ娘(このコ)と、このコのカミが目指してるものが何なのか、いまいち把握しきれていなかったんだけど。


 でも、それが「破壊」じゃなくて本当に「革命」なら、いつか、俺の望みだって、きっと叶うはず――。


 俺には、これが、今の俺に差し伸べられた、唯一の救済に思えたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ