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 その夜、紺碧に浮かぶ白き月は、煌々と輝いていた。


 ブランリュクス離宮のダンスホールにて、国立エスカロワイユ魔導学園の「卒業」という節目のハレの舞台に、若き紳士淑女らがきらびやかな装いをして、華やかに色めく饗宴も最高潮の時を迎えていた。


 パーティーを締めくくる大円舞(ワルツ)は、それぞれの婚約者や恋人が、まずパートナーとなって踊り始め、軽やかなステップで1小節ダンスしたラストのターン終了後に横へ移動(スライド)する拍子(タイミング)で、順繰りに隣り合う異性のパートナーへと交替していった後、最後にまた、本来の伴侶(パートナー)へと戻って、オーケストラの伴奏終了と共にダンスそのものが終わる。


 サンクレール王国、王太子リシャール=ロロ=フェルディナン=ド=シュヴァリエは、次期国王として、父王の政務の補佐を確固とするために、学園を卒業すると同時に、婚約者と結婚することが既に決まっていた。


 コツコツと、2名の足音が、貴族子女らが見守る中を割って、舞台(ステージ)に進み出てくる。


 一際絢爛なジュストコールを身に纏った、誰もが感嘆を漏らすほどの、金髪碧眼の美青年。

 その美麗なる王太子と親密そうに腕を組み、傍らで幸福そうに微笑んでいたのは、桃髪翠眼の、愛くるしくも素朴な少女。元平民の伯爵令嬢、アンジェル=サヴァティエ。


 これに、貴族子女らがざわついたのは、言うまでもなかった。


「……おい! どういうことだ。どうして、『星辰の乙女(アストロ・メイデン)』様が」

「殿下は、オルデュラン公爵令嬢とご婚約されていたはずでは」

「マリエッタ嬢は!?」

「見て! お1人でいらっしゃったわ!!」


 屈辱に満ちた顔でじっとわななく、豪奢なドレスで着飾った毒華のような美少女が、舞台に在る2人を睨みつける。黒銅髪(ブルネット)に金眼の彼女は、「崩星の魔女(コラプサー・ウィッチ)」との不名誉な呼称の通り、憎悪の炎に燃えて禍々しかった。

 しかして、太陽の守護を持つ光の王太子は、そんな彼女を威圧するように、スッと伸ばした掌で制して、苛烈に恫喝した。


「聞け! オルデュラン公爵令嬢、マリエッタ=ラグランジュ!! 私、サンクレール王国、王太子リシャール=ロロ=フェルディナン=ド=シュヴァリエは、ここに、貴様との婚約を破棄し、我が愛しき聖女、ラヴィション伯爵令嬢、アンジェル=サヴァティエとの婚約を宣言する!」


 皆が、ザワッと激しく動揺した。マリエッタは、クッと恨めしそうに歯噛みする。聖女アンジェルは蒼い顔をして、王太子の陰で、嫉妬に狂った悪しき公爵令嬢の眼光に怯えていた。


「貴様は、無礼にも、我が愛しきアンジェルを傷つけ、悲しませたに飽き足らず、無垢なる彼女を呪い、その生命(いのち)をも狙った。さらには、姑息なる悪鬼に惑わされ、よもや、自ら『崩星の魔女(コラプサー・ウィッチ)』となりて、かの1000年に1度の大災厄、魔王ダルケシウスの復活にまで加担するとは――。我がアンジェルの――『星辰の乙女(アストロ・メイデン)』の尊き『銀河』の聖力(ちから)を以てして、かの魔王ら邪悪なる者共、悉く駆逐せしめられたゆえ、まだ良かったものの、一歩間違えば、この世界を滅ぼすところであった」


「お言葉ですが、殿下――――」


 マリエッタは、金眼を潤ませながら、キッと愛する婚約者に反論せんとした。先につれなき仕打ちをしたのは、そちらではないか、――と。彼女には被害者意識があったからだ。

 だが、果てなき妄執にとらわれ、人間(ひと)として最悪の選択をした、かの令嬢の罪は、死星(コラプサー)よりもなお重く、高潔なる王太子は、決して聞き入れることなど出来なかった。


「貴様の忌まわしき悪行の数々、ここに列挙するだけでもおぞましく、今すぐにでも、その首、落としてやりたいが――。貴様は、仮にも、我が王室が選定した、王太子妃候補。また、我が心優しきアンジェルの嘆願により、致し方なく助命する運びとなった。然るに、貴様は、極刑とする代わりに、『世界の果て』なる永久監獄、ミセリア・フィンテラへ追放することとする!」


 次期王位継承者は傲岸な口調で言い渡す。これに、益々、周囲はどよめいた。


「ミセリア・フィンテラッ!? 『世界の果て』ですって?? 酷い! あんな絶望の地で、高貴なるあたくしが生きていける訳ないではないのっ。この鬼っ! 冷血漢っ! 人でなしっ!!」


 マリエッタは、由緒正しき公爵令嬢らしからぬハスっぱな物言いで抗議したが、リシャールの冷酷な「連れていけ!」との号令に、近衛兵らが、容疑者確保とばかりに彼女を捕縛して、ずるずると退室させんと曳き摺っていった。


「おのれ! リシャールッ! この裏切り者めっ。忌々しいアンジェル(そのオンナ)ともども、地獄に堕ちてしまえっ!! 死なば諸共、未来永劫、貴様らを呪い続け、いつか血祭りに挙げてやるっ……」


 悪しき公爵令嬢の呪詛に、皆が「なんて恐ろしい」とざわざわ騒然としたが、対する王太子は泰然自若としていた。ただただ無常の瞳で、扉の向こうへと消えていく、その卑しくもみすぼらしい姿を、冷ややかに見つめていた。


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