第1章 15_続・ヒロインと俺
さてさて、腹心の乱入には、シナリオ・リシャールも一気にクール・ダウンしたらしかった。
リシャールは、はあ、と大きな溜息をついて、さらりと乱れた金髪を掻き上げ、
(――って。こんな状況でカッコつけんなよっ!)
S・R:
「……良いところで邪魔が入ってしまったな」
と、不服そうにクロードが去った扉の向こうを睨んだ。
アンジェルも反省したように、しゅんとうつむいた。
「申し訳ありません、殿下。結婚間近とはいえ、なんて、はしたない……」
S・R:
「いや。いいんだ」
そう言って、リシャールは、ちゅ、とヒロインの額にキスをした。おもむろにアンジェルに手を伸ばすと、そっと後ろ抱きして、彼女を自分の膝に乗せながら、耳元で囁く。
S・R:
「私が君を求めたのだから――」
利き手じゃない左手では、しっかり彼女の胸を抱いて、ちゃっかり、ふにふにしている。
無意識にやってるんだろうが、リシャール、今度こそ、絶対ヤる気だな? ホント、それ、マジでやめてくれ! むしろ、マサトのが身も心も保たんわっ!!
俺は心で叫んだが、流石に、伝説の【星辰の乙女】サマも、マズいと思ったのか、後ろ抱きのまま恋人の顔を横に向かせ、また濃厚なキスをしようとした婚約者を拒んだ。片手で俺の口元を塞ぐ形で、ぐい、と押し返したんだ。
S・R:
「――アンジェル?」
首を傾げるリシャールに、アンジェルは切なく照れながら、
「……もう。これ以上は、本当にダメですよ? リシュ様」
と、リシャールの鼻の頭を、ちょん、と人差し指でつつく。
「わたし達、お式もまだなんですから」
アンジェルは、ぱちりとウインクして、小さくペロと舌を出した。
うわぁ。すっごくカワイイが、あざとさMAXすぎて、なんかマサト的には、ドン引きだわー。1周回ってゲンナリした。
「わたし、強引なリシュ様も大好きですけど、こういうのは、本当の夫婦になってから。ね?」
諭すように言ってくるくせに、リシャールのほっぺたに、チュ、とキスをする。
これに、リシャールは至極残念がって、拗ねた顔をして、
S・R:
「つれないな」
と、アンジェルの額に、こつん、と自分の額を当てる。
うわわ。出ました。本家本元(?)の「でこコッツン」!
S・R:
「私はこんなにも君を愛しているのに」
なんて、ガッツリ子供じみた甘え顔になったから、あの時、マサトが悪役令嬢に演じてみせたのとは全然違う。
「……わたしもです。リシュ様」
アンジェルもポッと頬を赤らめる。
そうして、ジッと、熱帯びた視線が絡み合った後、リシャールはふいっと目を逸らした。
S・R:
「……。本日は、あの魔女の所為で、もはや公務どころではないし」
頓に、力無くつぶやいた。
直後、突然、リシャールの碧い瞳から、ポロッと一筋の涙が流れた。
(――あれ?)
悪口の割に、なぜだか、無性に悲しくなる。
(……リシャール、もしかして、ホントは、幼馴染みが死んだの、めっちゃ悲しかったから、新婚約者とイチャコラして、自分の心、ごまかしてんの?)
そんな憶測が、ふと、天の声な俺の頭によぎった。――が、すぐに、
S・R:
「このまま、終日、君と睦み合えたらな」
とか、ほざいて、リシャールは、右手でアンジェルの艶やかな髪を一房取った。狂おしいほどの愛を込めて(?)その兎毛みたいな桃髪に口づけする。
(イヤイヤイヤ。さっきの涙の理由、早よ! つーか、ソレ、アンジェルに拒否られたばっかじゃん!)
呆れるマサトをよそに、リシャールは再びヒロインをその気にさせようと、誘惑に執心しているようだった。
ひょっとしたら、涙が流れたことにすら気がついてないのかもしれない。
しかして、リシャールはヒロインの顔にそっと唇を近づけた。
「リシュさ――」
言いかけたアンジェルの唇をチュッと塞ぐ。
軽く口先が触れ合うだけのバード・キス。
S・R:
「フフ。やっぱり甘い」
「アッ……♡」
ヒロインも普通に面映ゆくなったらしかった。
ひとしきり見つめ合い、そのまま、リシャールを受け入れる。
「リシュ様……!!」
S・R:
「可愛いアンジェ。もう私から離れないで」
交わすや、今度は、どちらからともなく、婀娜っぽく鼻を擦り合わせるノーズ・キスへ、と。その余韻に浸るかに任せて、頬擦り+ハグをし始めると、互いにまったくボルテージが上がってしまう。トドメは、濃密に舌を絡めるディープ・キスへ、と。かなりアダルティな感じにステップ・アップした。
(うーん……。平常運転。やっぱ気のせいか?)
そう天の声な俺が困惑していると、
そのうち、先に煽ったリシャールよりもヒロインの方が、
「……ああっ。やっぱりダメッ!」
と、辛抱たまらなくなって、気づいた時には、リシャールの方がガバッとソファに押し倒されていた。
「アンジェ……!?」
「ああ……愛しい殿方。わたしの王子様。本当にスキ♡ スキ♡ ダイスキッ♡ もう、お式なんて待ってられないっ!!」
ヒロインは、いきなり、サッとドレスの裾を持ち上げ、スカートの下で俺が逃げられないよう、むっちりした脚で、リシャールの下半身をがっちり挟む。
ぽよんと露になった胸をリシャールの眼前にちらつかせ、
「抱いて下さいませ」
と、ムチュゥッと煽情的なキスをした。
S・R:
「アンジェ♡」
シナリオ・リシャールは、トゥンク♡ とトキメいたが、天の声な俺はピシッと即座に固まった。
(うわわっ。なんだコレ。もしかして、ガチでエロゲー・シフトした?)
そうして、聖女&王太子は、息つく暇なくついばむキスをして、汗をぐっしょりかきながら、情熱的に絡み合う。完全にR-18モードで、激しく求め合い始めるから、始末に負えなくなる。
(えっと? ナニコレ? 俺ら、まだ婚前でしょ?? さっきだって、君、ガッつくリシャールのこと押し返したじゃんっ! で。なんで、結局、引き下がったはずのリシャールまで盛り上がって爆走してんのよ? これ、もう明らかに第2ラウンド開始のノリじゃん! 王太子のクセに、こういうフライングは、しちゃイカんでしょ!!)
まだ嫁でもない、好きでもない女子相手に、童貞な俺は、流石に、そこまで盛り上がれない。
というか、俺は、こういうことは、やっぱり本当に好きな相手と遂げたい。
そして、その相手は、まかり間違っても、こんな清楚系ビッチのヒロインなんかじゃないんだ。
(いやだぁーっ! こんな、めっちゃ中途半端なカンジで『卒業』だなんて。戻ってきてェーっ、クロードぉーっ!!)
そんな風に、俺は、心の中で、すごすごと去っていった侍従に助けを求めずにいられなかった。
なのに、このバカップルときたら――。
S・R:
「愛している」
「愛していますわ」
そんな熱言を囁き合いながら、ひたすら欲望のままに突っ走って、とどまることを知らない。
果たして、巨乳美少女とのイチャイチャ→エロまっしぐらなんて、普通に考えれば、或る意味、健全男子のドリーム全開だ。とはいえ――。
(望んでないのにやらされる、ってのは、流石になんか違う気がする。これが、仮に、結婚後なら、『そういうもの』だとして、諦めもつくんだけど)
状況的に見れば、「ただ、お世継ぎのためだけに見合い結婚をしていた昔の男女と、そう変わらないじゃないか」という人もあるかもしれない。けど、そういう人達は、最終的には、自分で覚悟を決めて、自分で動いている。
でも、今の俺は、自分の意志で動くことすら許されていない。
まさに、文字通り、操り人形なんだ。
だからこそ、こんなのは、吉夢でもなんでもなく、逆夢で、マサト的には、興味ない女子に襲われる悪夢すぎて、ドン引き以外の何物でもなかった。




