第1章 14_乙女ゲームがエロゲになった?
そうして、テンション上がったっぽいリシャールは、シナリオ・スイッチによる疎外感――マサトの与り知らぬところで、はぷ、とヒロインの耳朶を食んだ。
(――オイッ! ちょ、待てやコラッ! マジで何してんのっ、リシャールッ!?)
わたわたとマサトが心で叫ぶのなんかお構いなしで、シナリオ・リシャールの愛しい(?)婚約者を求める衝動は止まらない。
リシャールは、そのまま、アンジェルの耳を食み食みしながら、
S・R:
「素晴らしい。これは、何という砂糖菓子だい?」
と、甘く囁く。
いや。こんふぃずりー、って! コレ、日本の乙女ゲームだろォがっ!?
さっきの「ガトー」や「フリュイ」もアレだが、ちょいちょい間にフランス語かませんなっ!
キザっつーか、イキってるっつーか。シャレオツ気取るバブル世代か何かか? お前は! 我ながら、めちゃウッゼー。ちゃんと日本語で言え! 日本語で!!
(とかって、前世、日本人なのに、転生チートで、なんか言語識別できちゃうマサトもイヤだわー。異世界なのに、なんで、ココ、こんなリアル地球の言語バリバリなん?)
アンジェルは、「ヤッ!」と赤面し、ビクビクッと身震いする。
「……それダメっ。リシュ様……ッ」
耳、弱いんかよ!?
S・R:
「可愛い。恥じらう君の声。もっともっと聞きたいな」
悪乗りしたリシャールは、さらに、れろ、とアンジェルの耳の裏を舐めた。耳の裏だけじゃない。耳介の凹凸も丹念に舌で舐って、また食むのを繰り返す。
「やんっ! や……っ、あ……、あぁン……!!」
アンジェルは全身を火照らせながら怯む。
うわぁ。ガチでメロメロになってるやん!
とはいえ、それだけでリシャールが満足するはずもなく、
S・R:
「君の身体は、本当に蜜のようだ。知っているかい?
揚羽蝶の雄の中には、己に好ましい花が咲く要所を記憶していて、特定のルートばかり辿るモノがいるのだけれど。
私も、早く君が好くなるポワンを覚えたいものだ。もっと私に悦がる愛らしい君の姿を見せておくれ」
とか、口走ってる。
いや、何だソレ。回りくどすぎて、もう、何求めてんのかさえ分からんわ。
しかして、リシャールは、アンジェルの白く細い首筋から鎖骨まで、ちゅ、ちゅ、と唇で辿って、牡丹を思わす淫らな痕を残す。
都度、アンジェルも「アッ♡」「アアッ♡」と、真赤になって、ビク、ビク、と、釣り上げられた魚ばりに躍りまくる。その子供っぽく「イヤイヤ」する反応は、まあ、カワイイんだけど――。
「あ……だめ……。ソレ、本当にダメ……ッ」
ちょっと、あざとすぎじゃね?
リシャールは恋人繋ぎで、トサと、アンジェルをソファの座面に押さえ込んだ。
S・R:
「Pourquoi es-tu si mignonne ?(=君はどうしてこんなに可愛いの?)」
なんて、アンゴラ・ウサギのように柔らかな桃色の髪に高い鼻をうずめ、
フーッと、わざと、敏感らしいアンジェルの耳に息を吹きかけた。
「あん……っ」
はー……。よーやるわ、こんなの。コイツ、まじでヤベェな。
-――ってか。コレもリシャールか! (ウワー。ヤダー……)
しかして、ヒロインもまた、
「……ひどい……イジワル……!! 恥ずかしいです……」
などと、目を潤ませ、淫靡に悶えるものの、ソワソワと、ドレスの襟とか自分でズラして(?)、なんかビミョーに露出度が増していた。
つーか、誘ってんじゃん!! (マジかー……)
アンジェルは、見つめているこっちまで熱くなってくるくらい、のぼせ顔になって、
「ドキドキが……、ドキドキが治まらないんです!」
と、涙ながらに訴えて、頓に、覆い被さるリシャールを、ぽふっと、自分の身体に押し付けた。
ワッ! 俺の顔面、このコの胸に埋まっちゃったよ。
「やっぱ、女のコのオッパイって柔らけーな」って、言いたいところだけど。
うん。コレ、がっつりコルセットの方だな。
それも、鯨髭で出来てる硬いヤツ。
もろに俺の歯茎と顎に当たったわ。地味に痛ってェ。
とはいえ、俺が密着するのは、際どい位置な訳で――。
S・R:
「……アンジェ」
「リシュ様……」
リシャールは、まもなく、アンジェルの両肩を抱き直して、おもむろに彼女と唇を重ねた。
アンジェルも、するりとリシャールの背に腕を回す。
淑女らしからぬ所作で、その手を、ちゃっかり俺のはだけた血だらけのシャツの間に滑り込ませた。
ゾワと刺激された俺は、「ヒッ!」と瞬時に意識がフッ飛んだ。
(何コレ!? このコ、聖女じゃなかったの? つーか、性女??)
童貞なマサトが衝撃受けたように、
「女は男が守るもの」「女は黙って男の後ろを3歩下がってついてこい」――
そういう男尊女卑がまかり通る社会で、折り目正しく育った王太子殿下には、こんな風に女子から攻められるのは、さぞや衝撃だったに違いない。
ヒロインは、そのまま、ナチュラルに俺の背筋の素肌をツツ……と、しなやかな指先でなぞってくる。
S・R:
「……アッ♡」
リシャールもなんかエロい(?)声で呻いてしまう。
S・R:
「ア、アンジェ……?」
そう首を傾げて動揺したから、俺は、てっきり、シナリオ・リシャールもドン引きして、天の声な俺と同調したのかと思った。――が、
「うふふ。さっきのお返しです♡」
と、アンジェルがはにかんでテヘペロした途端、ずっきゅん、と襲来したトキメキ(?)に、即座にマサトが脳ミソから締め出されたみたいになった。
たちまち、リシャールの目がとろんとして、「はあ」と甘い溜息を洩らし、ヒロインに見惚れた。――ので、やっぱり「あ。コレ、違ったわ」って思った。
つまりは、シナリオ的には「アンジェルに悩殺された」が、転生者の俺的には「何、このオンナ?」、みたいな??
だって、君、ガチでロールキャベツ系女子だよね。
あ。でも、乙女ゲームのヒロインって、そもそも、いろんな男とフラグ立てまくるから、最初から清楚系ビッチか――。
なんか放っといてもフラグ立っちまうメインヒーローな俺には、無意識に「ヒロインはオレのモノ」感でちゃって、よっぽどのことがない限り、他の攻略対象者とか、基本、スルーしちゃうから、完全、盲点だったわー。
でもさー、これって、社交的って言えば聞こえはいいけど、早い話が、ただの淫乱女ってことじゃん?
こんな女が未来の王太子妃、って。正直、アリなん?? (俺的にはナイわー)
「だけれど、わたし、カナシイ。もう、どうしたらイイか分からないの」
不意に、しんみりつぶやいたかと思いきや、ヒロインはめっちゃリシャールにスリスリしてきて、
「貴男を想うと、この胸が震えて、甘く疼いて、とっても、カラダが熱くなってくる。何もかも脱ぎ捨てて、ありのままのわたしを貴男に知って頂きたくなるの。だけれど、皆さん、ドレスは、貴婦人の勝負服だとおっしゃって。着飾ることばかりを重宝がられて。だから、今は、このドレスも、愛しい貴男とわたしを隔てる、ただの障害物にすぎなくて……っ」
って、恥じらうどころか、俺の素肌とかもろもろ、めっちゃサワサワぺたぺた、甘噛みしてくる。
(言ってるコトとやってるコトが違いすぎる……!)
天の声な俺はガーンッとなったが、ソレにガチで触発されたリシャールは、「ああ……アンジェ……っ!」って、すっかり舞い上がっていた。
そうして、アンジェルはというと、おぼこい感じを装いながら、ちゃっかり俺の腕を自分のドレスへ誘導する。
「ね? ほら。わたしの胸、とっても震えているでしょう?」
ぽろぽろ泣いて、リシャールの両手に、ふにっと自分の胸を触らせた。
(え。何やってんの、君)
S・R:
「ああ! なんと愛らしい。まるで小鳩のようだ」
(いや、コレ。絶対、小鳩なんて可愛いらしいモンじゃねーわ。つーか、女豹?)
「……アアッ! リシュ様の御手、すごく優しい。とっても落ち着きます……!! ですから、どうか、どうか、わたしのすべて……その尊い御手で暴いて、癒して。まるごと愛して欲しい――!!!」
陶酔してアンジェルが天を仰ぐと、こぼれんばかりの胸の谷間がおのずとちらついて、マサトが知覚するのとは別のところで、ドクンッと大きな動悸が鳴った。
なので、俺には、ソレが肉食女子の巧妙なオトシ技術に思えてしまった。
(うわぁ……。マジか)
ヒロインのうるうるキラキラおめめが、営業純真な凶器に思えてくる。
(てか、コレ、なんかリシャールに、自分のドレス、脱がさせようとしてない?
自分から脱いだら、はしたないし? これなら、事後に何か問題起こっても、俺にムリヤリ犯されたって言えるから? そうやって王太子に責任取らせて、絶対逃げられないよう、企んでる??)
そんな被害妄想が浮かぶくらい、マサトもまるっとメンタルやられかけていた。
果たして、痴女化したヒロインにあっさり篭絡されたリシャールは、
S・R:
「ああ、私も熱い! アンジェ……、アンジェ……、私のアンジェ……っ。君と触れ合う度に、この理性も消えて、いつしか獣のように君を求めてしまう!!」
と、アンジェルのドレスの胸元のリボンをしゅるりっと解いた。
それで、襟が一気に緩み、アンジェルは、シュミーズもコルセットも剥き出し、下着の肩がちょこっとずり落ちかけて、チラリズム的な、ものすごくエロい感じになった。
「あんっ……♡」
S・R:
「アンジェ……♡」
はあはあと息も上がって、リシャールは、さらに、しゅるとコルセットの紐を緩めた。すると、まもなく、ぽよんと自然な膨らみを取り戻した魅惑的なソレに、リシャールは、ポッと顔も真赤に、呆れるくらい釘付けになった。そうして、
S・R:
「アンジェ……、愛しいアンジェ……っ」
と、ソレにアホかといわんばかりにキスの雨を降らせた。
「あぁんっ! リシュ様……っ」
そんな風に、頬を薔薇色に染めたアンジェルが、またまた、絶妙に身悶えするもんだから、もはや収拾がつかなくなってくる。
(ヤ、ヤバい……!! このままだと、俺ら、マジでヤっちゃう流れじゃんっ)
どんどんあられもない感じにお互い脱げてくるのが分かってしまって、マサトは甚だパニクったが、むしろ、リシャールは、一層、アンジェルに首ったけになってしまっていた。
S・R:
「ああ……足りない。どれだけ接吻を重ねても足りないんだ! この想いがますます高まるほどに、我が身は情熱の炎に焼き尽くされてしまう。呼吸もできないほどに、切なくて、狂おしくて、いとおしい――。やはり、私は、君が欲しくて欲しくてたまらない。ああ……っ、可愛いアンジェ、私のアンジェ! 愛しているんだ、その身も心も、私に委ねておくれっ!!」
「ああっ……リシュ様……!!」
極めつけが、このクサすぎる芝居がかったセリフよ。
(だから、ソレ、いい加減、やめろや!! これじゃ、どっちも完全に盛りのついた犬じゃん! ますますタチが悪いわ!!)
そうして、熱に浮かされた聖女&王太子は、ほこほこと蒸気を立ち昇らせながら、洋画の官能シーンばりに、半裸でめっちゃ抱き合っていた。
かたや、天の声な俺は、明らかに「やらされてる」感があるのに、身体の感覚そのものはシナリオ・リシャールと共有してるから、このヒロインとのキャッキャウフフがVR以上にどちゃクソ生々しくて、官能トリップ以前にテンパってしまった。
(えっと? こんなR-18寸前のシーン、絶対、原作のゲームには無いと思うんだけど??)
てか、何なん? この、万民ウケ狙ったら、もろ爆死だったから、ニッチ層向けにジャンル軌道修正しました、な流れ。
S・R:
「好きだ……好きだ、アンジェ! 愛してる……っ
可愛い、可愛い……私の花嫁……、私の女神っ」
「あ……、あんっ♡ いけませんっ……殿下っ。アッ! あぁんっ……。
あああっ……ダイスキ……!! ダイスキ、リシュ様……っリシュ様……っ。
……わたしの王子様っ……!!」
接吻と呼吸の合間に、互いに告白と呼ばいを繰り返す。それこそ念仏のように愛を囁き続けて、貪る口づけ、際どい触れ合いに、一瞬にして燃え上がり、お互い「はあ」と熱く艶めかしい吐息を交わす。
(いや。こっ恥ずかしいわっ! ホントやめてくれっ!!)
そんな天の声化した俺の抗議が、この聖女&王太子に届くはずもなく――。
身体はまったく正直(?)とはいえ、劣情に支配されるがままに、未婚の10代男女が、不貞行為を禁じられた環境で、それぞれ好い所を探り合っているのは、もはや、常軌を逸していた。
しかして、矢庭に、私室の扉がキイと開く。
「王子。湯殿のお支度が整い――――」
言いかけて、クロードが戸口でギシッと固まった。
そりゃそうだ。幼馴染みが殺されて、あんなに号泣していた男が、もうケロッとして、別の女とイチャついてやがる。
リシャールもヒロインも、半裸で、あちこちキスマーク付けて、雄と雌のフェロモン駄々洩れさせて、もろもろ濡れまくって、もう「なんなら、このまま初夜いっちゃうんじゃね?」って、くらいの勢いで、乱れに乱れた状態だったから、ガチでヤバかった。
てか、クロードは、いつもノックして室内に入ってくるから、その音にも気がつかなかった俺って、マジで終わってる。めっちゃ、ダメダメじゃんっ!
「………………」
しばしの沈黙の後、1テンポ遅れて、アンジェルが「キャッ!?」と胸を両腕で隠した。
「モランさんっ!?」
天地がひっくり返ったみたいに動揺する。
(いや、俺も、君も、もう、ほぼほぼ見えちゃってるから!)
気まずさMAXでリシャールが声を発するより早く、クロードは、またもや虚無面になり、
「失礼致しました。出直して参ります。どうぞ、ごゆっくり」
と、何事もなかったかのように一礼して後退し、パタンと扉を閉じた。
(って! コラ!! 帰んなよ! 俺、シナリオに抵抗できないのにっ……!!)
マサトは、心中、泣き喚いて、無我夢中でクロードを引き留めようとしたが、あいにく、このリシャールに、精神伝達なんて特殊能力はなかった。というより、この『エトラリ』世界の魔法に、その手の類が無いというべきか――。
(いや、魔物や人外には、その手の能力あるかもな? 人間だって、単に俺が知らないだけで、魔法というか、超能力ってカテゴリで、そういう奴、いるかもしれないし)
とはいえ、親友である腹心に、こんなアホみたいな濡れ場、ガチで曝け出すなんてキツい。
流石にヘコみますわ。
ホント、何なん、これ? 俺、厄年なんっ??




