第48話 命を懸けた作戦
翌朝、俺はアトゥとフィーに対して昨夜思いついた案について話を切り出した。
「昨夜アンとも相談したんだがアブソーブと罪人の実をうまく使えば魔王を、正確には魔王スキルをこの世から消せるかもしれない」
俺の言葉にアトゥの目が細くなる。
「なるほど。お主が魔王からスキルを奪い、そのまま罪人の実を食らうということか?」
「そうだ。アブソーブは触れている相手からしかスキルを奪えない。アトゥなら魔王の元まで俺たちを連れて行けないか?」
「おお! キョウヤ凄い! それなら魔王も楽勝!」
俺の話を聞いて手を叩いて感心するフィーと反対にアトゥの表情は渋い。何かを悩むようにその視線をクローネに向ける。
「確かに我なら敵対せず魔王の居城まで行くことが出来る。だが万が一失敗すればお主らは勿論我の命はない。クローネを一人残して逝くわけにはいかん」
「アトゥ手伝って。私の報酬豪華にするって言った。お願い」
「アトゥさん私も報酬はいりません。どうか力を貸してください」
「むうぅ。その話を出されると弱いのぅ。しかし魔王への反逆はあまりにも……」
「でも魔王がいる限りアトゥさんやクローネさんはいつか強制的に戦いに駆り出されるかもしれません。魔王には魔物や魔族への命令権があるんですよね? アブソーブを持ったキョウヤがいる今なら未来への不安を失くせます」
アンが静かに言葉を添える。ドラゴンの寿命は人族よりずっと長い。その未来への不安は俺たちの比ではないだろう。
アトゥは腕を組み天を仰ぐようにすると沈黙した。しばらくそうしていると静かな空気に飽きたのかクローネとフィーが取っ組み合いを始めた。種族は違ってもお互いに仲がいいのががよく伝わってくる。今まで近くに母親くらいしかいなかったであろうクローネにとって、フィーは初めてできた友人なのかもしれない。
そんなクローネの様子を見て決心がついたのかアトゥが沈黙を破る。
「この世界でクローネが安心して生きるためなら賭けてみてもよい。ただし勝算が高い作成が練れた時だけじゃ」
「助かる。それで十分だ」
ファインプレーをしてくれたフィーの頭を撫でると、気持ちよかったのか喉を鳴らしながら胸に頭突きをしてくる。それを見たクローネも負けじと背中に頭を押し付けてくる。く、苦しい。今はまだ耐えられるが大きくなってからもやられたら本当に潰れてしまいそうだ。
クローネはアトゥが、フィーはアンが引き離して落ち着いた後いよいよ作戦の詳細を考える。大きく分けて問題は2つある。1つ目はどうやって魔王に触れるかだ。
「魔王は常に多くの護衛に囲まれてるし、本人も規格外の強さじゃぞ。正面から近づいて触るなんてのはまず無理じゃ」
「それはそうだよな。なら魔法で姿を隠して近づくとかか?」
「姿を隠すとなると透明化とかですか? あれは長時間は無理ですし、実力者ならちょっとした違和感で気づくらしいですよ」
ならダメか。パーティーに盗賊でもいればいいんだが、あいにく出来ることが戦闘に偏ってる。何か発想の転換が必要かもな。
「フィーたち狩りの時草とか木の振りする! だから魔物の振りするのは?」
「なるほど。姿を隠すのではなく見た目を誤魔化すんですね。幻影魔法を使えば見た目は変えれますし、透明化より違和感も小さくなります」
「しかし下っ端の魔物に化けても魔王には近づけんぞ。だからと言って幹部級に化けたら本物との差異でバレるかもしれん」
難しいな。化けることで魔王に近づけはするが、魔王や他の奴らと面識のない存在。突如現れた魔族の実力者とかか? スカウト目的で魔王からお声が……いやそれは時間が掛かりすぎるな。
「相手は魔族の親玉だもんな。そもそもそう簡単に会える相手でもない」
「魔族の親玉……わかった!」
俺の発言の直後フィーが勢いよく立ち上がる。
「獣人は赤ちゃん生まれたら族長に祝福してもらう。魔王は魔族の族長。クローネに祝福してって頼む!!」
「なるほど。種族の慣習を利用するのか。いい考えだがクローネを使うわけにはいかないだろう」
「待ってくださいキョウヤ。幻影魔法で私たちがクローネの振りをするのはどうですか? 3人いれば見た目と実態のギャップも誤魔化せます」
フィーの案をアンが補強することで一気に現実味を帯びてくる。確かにクローネなら親のアトゥと一緒に行くことで魔王に会うことができ、なおかつその挙動で偽物だとバレる可能性が低い存在だ。
「どうだアトゥ。魔王に産まれた娘を祝福するように頼んだらやってくれそうか」
「うーむ。ドラゴンには今フィーが話したような慣習はない……がないことを魔王は知らぬだろう。元々ドラゴンは群れたりしない。決まった行動様式もないしの。我が言えば魔王も無下にはしまい」
よし。ドラゴンのアトゥは魔王として取り込みたい戦力なのだろう。娘を形だけでも祝福すれば恩を感じるというならばやってもおかしくない。
これで残る問題は1つ。アトゥが魔王のスキル範囲内に入った途端に支配下に置かれて作戦を自白してしまう可能性だ。もし魔王の目の前でこれをやられたら一貫の終わりだ。
「アトゥは魔王の命令権が毎回言葉で命じる必要があるのか、それとも自動的に意志が支配されるのか知ってるか?」
「すまぬが我も分からぬ。魔王は自らのスキルの詳細を秘匿しておるからのぅ。しかし長い魔族の歴史において一度も反逆者が出ていないことを考えると自動発動の可能性も十分ありうる」
だとすると難易度が一気に上がるな。しかし相手を支配するスキルは日本で読んでいたラノベや漫画でもポピュラーな部類。あれらの作品ではどんな方法でスキルを打ち破っていただろうか。
「先にアトゥを魔法か何かで支配しておく……いや魔王のスキルが早い者勝ちが原因で無効になるとは考えづらい。それならスキル自体を無効化する……それが出来るならストールさんがやっているはず。後は何があったか……」
その瞬間俺の頭に閃きが走り思わず膝を叩く。支配、というわけではないがこの系統の能力に対してある種定番の回避方法があるではないか。
「アトゥ自身が嘘を本当だと思い込めばいいんじゃないか!? アトゥは本当に魔王にクローネを祝福してもらうつもりでいけばいいんだ。それなら仮に操られても自白しようがない」
「なるほど! どんなに腕のいい尋問官でも対象が本当だと思い込んでいることは嘘だと見抜きようがありません」
「それなら我が自分自身に幻惑魔法をかけるのはどうじゃ? 幻惑魔法は普通大きな実力差がないと掛からないから疑われることもないはずじゃ」
なるほど。ただでさえ掛かりづらい幻惑魔法にドラゴンのアトゥが掛かっているとは誰も思わないだろう。これで魔王に触れる手段と命令権の回避。2つの問題の解決法が見えた。
「どうだアトゥ。これなら100%とは行かないが十分挑戦に値すると思わないか」
「フィーたちなら出来る!」
「……成功率100%の作戦など望むべくもないか。そうじゃな今の作戦ならば我もクローネの未来に命を懸けよう」
それから数ヶ月俺たちは日夜特訓を重ねた。幸い時間的な制約はないのだ。限界まで各種魔法の練度を高め、状況ごとに応じた行動を決めた。失敗したら2度目はないどころか、残りの人生自体がなくなってしまう。どれだけ準備をしてもし足りないということはないだろう。
そして、決行の日が来た。
――
魔王の居城は俺が想像していより綺麗だった。もっと魔物や魔族が好き放題しているかと思ったが流石魔王のお膝元。ゴブリンですら紳士に見えるほどの統制っぷりだ。
アトゥは元のドラゴンの姿で威厳たっぷりに歩み俺たち三人はそのすぐ後ろをついて行っている。すでに幻影魔法でクローネへと姿を変えている。俺、フィー、アンの順番だ。
俺は当然頭役として魔王に触ってもらうため、フィーは俺がスキルを奪った直後に罪人の実を俺に食わせる係だ。万が一俺が魔王スキルを手に入れた直後に操られてもフィーがすかさず罪人の実を無理やりにでも食べさせる作戦だ。長谷川の様子を見る限り一瞬で乗っ取られる可能性は低いが保険というやつだ。
そしてアンは最後尾から幻影魔法に綻びがないか監視をしている。幻影魔法は繊細な魔法だ。おまけに周囲の魔族たちだけではなくアトゥ自身も自分の娘だと騙さなければならない。
親の目を誤魔化す。これがかなり難しく俺たち3人は徹底的にクローネの動きを研究した。ドラゴンの幼体について本を一冊書けるレベルの知識を持っていると言っても過言ではない。
緊張を和らげるため軽口の一つでも叩きたいところだがバレる可能性が1ミリでも上がることは出来ない。唇を湿らせてなんとか緊張に耐える。
ドラゴンのアトゥは魔王軍でも一目置かれているのか変に絡んでくる奴はない。事前に話を通していたこともあり何の障害もなく謁見の間の大扉まで来ることが出来た。この扉の向こうに魔王がいる。あの圧倒的な実力をしているアトゥでさえ勝てないと言わしめる実力者。胸の鼓動が限界まで早まり緊張が限界に近づく。
永遠にも思える時がたち扉の左右に控える魔族が部屋からの許可を受け扉を開き始める。ゴゴゴという重低音と共に徐々に扉が開いていき、俺たちはついに魔王と対面した。
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