第49話 エピローグ
長らく更新が滞ってしまい申し訳ございません。連続投稿をした関係でこちらは最新話です。前回更新の続きは第44話からになります。
ドン!という大きな衝撃音と共に俺の体が後ろに倒れる。なんとかぶつかる直前に後ろへ飛んだが痛みで悶絶していまいそうだ。しかし残念ながら自分の体を慰めている暇はない。
「やあ!」
猫のように俊敏に近づいてきた影が一瞬前まで転がっていた場所を穿つ。おい、組手だって忘れてないよな。地面が抉れてるんだが。
「フィーストップ! まいった!!」
「むぅ。キョウヤ気合が足りない。まだ戦える」
「もうちょっと……加減してくれ」
渋々拳を下したフィーを見て俺は地面に倒れこむ。時間にしたら10分もないだろう。しかしその短い時間で俺は体力が底を尽きるまで動き回っていた。
「キョウヤ水です」
「……ありがとう、アン」
「でも最初に比べたらだいぶ動けるようになってきましたね。身体操作もそろそろレベル3になるんじゃないですか」
アンの言葉にその気になってステータスを確認してみる。確かにこれだけ頑張っているのだ。そろそろレベルが上がってもバチは当たらないだろう。
四宮京也 男 16歳
ジョブ:なし
スキル:剣術 レベル1
:水魔法 レベル2
:炎魔法 レベル2
:素手 レベル2
:身体操作 レベル2
「残念ながらまだレベル2だな。そうそう簡単には上がらないか」
いやもしかしたらこの速度でさえ早いのかもしれない。なんせスキルはなくともドラゴンの生き血の効果は健在。自分の体が想像以上に動くのを感じる。……最もスキルを失う前とは比べられないが。
結局あの後作戦は見事に成功した。上手くいきすぎて語ることがないほどだ。魔王は疑うことなく俺の頭に触れ、直後に俺はアブソーブを発動。すかさずフィーが俺に罪人の実を食べさせたことで魔王スキルはこの世から完全に消滅した。俺の全てのスキルと共に。あとは幻惑魔法を解いたアトゥの転移魔法で一目散に退散した。
「さて次は魔導の時間ですね。魔力操作は形になってきましたし、次は何をしましょうか」
「ダメ、アン。キョウヤまだ私と戦う」
「ダメですよフィー。順番で教える約束じゃないですか」
俺の回想をよそにアンとフィーが時間割を廻ってバトルを始めている。あの夜の約束通りアンは勿論、フィーも毎日のように俺を鍛えてくれている。そのお陰で徐々に実力も身について来た。しかし2人には理想の俺のビルドがあるようで、度々こうしてぶつかっているのだ。
「だから! さっきまでがフィーの時間でここからは私の時間だって決めてたじゃないですか!」
「ダメ。決め事よりもっとキョウヤのこと考えないと。キョウヤ戦士なりたがっている」
「そんなことありません! キョウヤが目指すのは純粋な魔導師です!! 趣味で体を動かすのは止めませんが、本職はやっぱり魔導ですよ」
「違う。キョウヤ最強の戦士になる。素手でドラゴン倒す」
「それは男としてちょっと憧れるな」
素手でドラゴン退治。男の子なら誰もが惹かれるその夢に俺がポロリと漏らすと、それを聞いたフィーがグイっと勢いよく左腕に抱き着く。そしてフフン!と鼻をならしアンにドヤ顔をする。
「そんなことありません。キョウヤが目指したいのはえーと、漆黒の炎に抱かれて? 禁呪を腕に封じる闇の魔導士? です! なんせ寝言で言ってましたから間違いありません」
「グフッ! ……や、やめてくれアン。その術は俺に効く。やめてくれ」
それは俺の中学時代の黒歴史なんだ。そして男なら誰もが通る道でもある。ずっと昔に卒業してはいたが、異世界+魔法という世界で知らず知らずの内に俺の心を再び蝕んでいたらしい。
「とにかく次は私の時間です。フィーは離してください」
「やだ。キョウヤは私が育てる」
ギュッと俺の腕を胸に抱くフィーを見て対抗心を燃やしたのかアンも反対側の腕をつかみお互いに引っ張り合う。グッ! ヤバい、フィーは勿論今の俺ではアンの力にも耐えられない。このままでは二人が俺を仲良く半分こしてしまう。そんな公平さは今はいらない。
「アトゥ! 見てないで助けてくれ!」
「しかし家庭の問題じゃからのう。やはり家族で相談しあって決めるのがよかろう」
家族喧嘩に巻き込まれた警察のような言い草だが今この瞬間おれは生命の危機に瀕しているのだ。なんとかしてもらわないと困る。
すると何かいいことを思いついたのかポンと膝を打つアトゥ。
「二人ともがキョウヤのことを考えているのはわかった。ではこうしよう。二人でそのままキョウヤを引っ張り、勝った方を師匠とするがよい」
「わかった!」
「負けませんよ!」
2人はアトゥの言葉を聞いて更に強く引っ張り合う。どちらもまったく手を離す様子はない。おい! このまま俺の体が裂けたらどんな判決を下すつもりだ! 世の中創作みたいに都合よく行かないぞ!
いよいよ俺の手足に限界が来る、と思った瞬間俺たち3人を遊んでいると勘違いしたのかクローネが混ぜてほしそうに突っ込んできた。子供とはいえは軽自動車なみの大きさのドラゴンが、である。
「グヘッ!」
結果、3人まとめて交通事故にあったかのように吹っ飛ばされてしまう。しっかり腰を落として待ち構えたならともかく不意を突かれたら当然だ。俺たちが吹き飛んだのを見て興奮したのか、今度はアトゥに向かって突進をするクローネ。
「ヨシヨシ。クローネも強くなったのぉ」
流石ドラゴン。人化しているのでアトゥも吹き飛ばされるかと思ったが片手でクローネを止めるとそのまま首を抱えて撫で始めた。興奮していたクローネだが、母親の手が気持ちよかったのかそのまま寝息を立て始めた。
「クローネも寝たことだし昼餉にするかのぉ」
「賛成!」
「フィー、お肉!」
「ちゃんとバランスよく食べないと大きく……なんでもありません。私も今日はお肉にします」
食事と聞いてなんとか元気を絞り出し立ち上がる。一人でダメージを受けているアンは置いておき昨晩捌いておいたイノシシの肉を囲む。ちなみにアトゥは久しぶりに大量の肉が食べたいとドラゴン形態で飛んで行った。最近は俺たちに合わせて人化して食事をしていたから気分転換がしたいのだろう。
「キョウヤ本当に魔王のスキルを消し去ったことを報告しなくてよかったんですか? それこそ英雄になれますよ」
「英雄なんて柄じゃない……てのもあるが魔王のスキルを一時的にでも持ってたんだ。痛くもない腹を探られても困るしな」
魔王スキルは間違いなく消え去った。少なくともあれから数か月経った現在新たな魔王は出ていない。正確には魔王を名乗る魔族は存在するが、問答無用の命令権は持っていないとのこと。魔王スキルが存在したときは魔王を騙る存在なんていなかったとストールさんは言っていた。魔族や魔物はもう本物の魔王が現れないことをどこかで感じ取ったのかもしれない。
魔王が最早存在しないことは長谷川や国王、王女には伝えてないがストールさんには伝えてある。魔王から逃げていた当事者というのもあるが、命を救ってくれた恩人なのだ。もう逃げる必要はないと伝えた時のあの安心した顔は忘れられない。
「魔王いなくなったからキョウヤ帰る?」
「いや。少なくともしばらくは帰るつもりはない」
「そうですか。少し安心しました」
仮に帰ろうと思ってもその手段がない。王女は魔王の魔石が必要だと言っていたが元魔王はまだ生きている。それに、俺はまだこの世界を本当に生きていないと考えている。ラーニングを持っていたときは強力なスキルをいくつも保有していたこともあり、正直地球にいた頃より過ごしやすかった。
しかしなんの努力もせず手に入れた力で快適に過ごせたして、それでこの世界を肯定も否定もするのはダメな気がする。例えるならチート全開でゲームをプレイしてそのゲームの感想を言う感じだろうか。褒めるのも貶すのも間違っているだろう。
丁度よく持っていたスキルが全てなくなりこの世界で生まれた人間と同じ条件になったのだ。この状態で自力で頑張って、世界を見て回ってからでもその判断をするのは遅くないだろう。
「それに今更二人と離れる、というのも正直考えられないしな」
「ま、まったくキョウヤは寂しがりやですね。仕方ないから一緒にいてあげますよ」
「フィーも! 一緒にドラゴン倒す!!」
「それはだいぶ先の話になりそうだが、今後もよろしく頼む」
10年後、20年後俺がどこで何をしているのかはわからない。しかし少なくとも今この瞬間、この世界で2人と共に歩んでいきたい、そう考えていることだけは確かだった。
本作はこれにて完結です。もし数年前から続きを待ち望んでいた方がいらっしゃたら、長らくお待たせしていまい大変申し訳ございません。また、数年越しの更新にも関わらず最後まで読んで頂き本当にありがとうございます。
次回作として書きたいものはいくつかありはしますが、次投稿するときは完結まで(少なくとも切りがいいところまで)書いてから投稿したいと考えています。また機会があれば読んで頂けますと幸いです。
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