表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/51

第45話 ドラゴンクエスト~幻の果物~③

 霧桃の大木を目前にして俺たちはしばし言葉を失った。かすむ視界の向こう白い霧に包まれた巨樹に無数の薄紅色の実が幻想的に揺れている。その瑞々しさと霧のベール越しでも伝わってくる濃厚な香りにしばらく目が離せなかった。


「……きれい」


 アンがぽつりとつぶやく。その横でフィーが大きく鼻を鳴らす。


「いいにおい……お腹、もっと空いた」


 花より団子と辞書で調べたらこの場面が出て来てもおかしくない。フィーは爪をきらめかせ今にも木に飛びつきそうだ。


「待て焦るなフィー。周囲を確認するぞ。採取中に襲われた面倒だ」


 俺は慎重に大木へと近づきながら周囲を観察した。木の根元は厚い霧に覆われていて地面との境界すら曖昧だ。まるで夢の中の世界だ。もう操っている奴らは品切れなのか、はたまた戦闘で木や実を傷つけられるのを恐れてか周囲に敵の気配はない。


「キョウヤ霧桃から霧と同じ魔力を感じます。実に宿っている魔力の方がずっと強いですが」


「つまりこの霧は霧桃が出しているのか。それなら魔物たちのおかしな行動には説明がつくな。自分を守らせようとしてたんだろう」


「取っていい? 取っていい?」


 どうやらフィーは待ちきれないらしい。しっぽをブンブンと振っており待ても限界そうだ。確かに下から見上げるだけでも今すぐ食べたくなる誘惑に駆られる。見る限り実は沢山ある。アトゥに持っていく分を考えてもここで味見しても平気だろう。


 俺は一番手が届きやすい位置の実を両手で優しく包み込む。ひんやりとした霧が指先にまとわりつき、ほんのりとした甘い香りが鼻をくすぐる。ゆっくりとひねると拍子抜けするほど簡単に枝から実が離れた。


「よし、とれたぞ。切り分けるからちょっと待ってな」


 懐から取り出したナイフでざっくり三等分してアンとフィーに分ける。掌に乗った霧桃はまるで氷菓子のようにヒンヤリしており表面がしっとりしている。


「いただきます……」


 アンが躊躇いがちにかじると、目を丸くして固まった。


「どうした、アン?」


 俺が尋ねると、彼女は無言で目を潤ませ、唇を震わせる。


「……こんなにおいしい果物初めてです。すごく濃厚な味わいなのに全然くどさを感じない。体が震えるくらい甘くて同時にさわやかな風味も感じます」


 アンの感想を聞いてフィーは自分の霧桃にかぶりつく。すると満面の笑みで尾をぱたぱたと振った。


「おいしい!!フィー、もっと食べたい!」


 俺も一口思い切ってかじる。途端に濃厚な果汁が口いっぱいに広がりほのかに香る霧のような後味が残る。確かにただ甘いだけではなく言葉にできない複雑で深い味わいがあった。同時に単純な味覚だけではなく、全身に魔力が染み込むような鮮烈な感覚もする。


「……これはすごいな。俺でもわかる。確かに今まで食ったどの果物よりうまい」 


 アンはまだうっとりしたまま、残りの霧桃を少しずつ大切そうに味わっている。フィーはもう二つ目に手を出しかけていた。


「ちょっと待て、フィー。ここで全部食べるわけにもいかない。採取の準備を始めよう」


「えー。アンだってもう一個食べてるよ」


 そう言われて振り返るとさっきまで持っていた分は食べてしまったのかアンが二個目をもぎ取って食べている。どうやら先ほどの俺の発言も聞こえていないらしく食べるのに夢中だ。まるで肉を前にしたフィーのようだ。

 逆にフィーは待てをされて不満そうではあるがまだ我慢出来そうだ。普段の2人と逆の反応をしている。


「そういえば霧桃自体にも魔力が含まれているって言ってたな。もしかしてそれが味に影響しているのか」


 俺は自分が抱いた疑問を確認するため3個目を取ろうとするアンを羽交い絞めにして落ち着かせる。


「うん、たぶんそうだと思う」


 フィーのくすぐり攻撃でようやく正気を取り戻したアンは先ほどまでの自分の様子を恥じらうように顔を赤くしてうなずいた。


「私はハーフエルフなので他の種族より魔力に敏感です。さっきの霧桃は味覚だけじゃなく体内の魔力にも干渉しているようです。桃の魔力が何か影響しているんだと思います」


「なるほど。だから魔力に敏感なエルフのアン、人族の俺、獣人のフィーの順番で夢中になったのか。……そういえば、アトゥが言ってたな。霧桃は周囲の霧を晴らすと味が落ちるって。仮にこの霧を桃自体が出しているなら、霧が晴れたりしたら新たにまた霧を生み出そうとするはずだ。その際に実の魔力を消費してしまうから味が落ちるんじゃないか」


「……その仮説あっているかもしれません。ドラゴンも魔力に敏感な種族です。」


 段々からくりが見えてきた。霧桃は自身の魔力を消費して霧を生み出す。この霧を吸った存在は霧桃を外敵から守るように操られる。もしかしたら熟した実を食べて種を広げる役割も担っているかもしれない。


 周囲から霧がなくなると霧桃は自身の身を守るために魔力を消費して再度霧を生み出す。なんとも面白い生態だ。俺たちが操られないのは魔力耐性の影響だろうか。振り返ってみると今まで襲ってきた奴らは基本的に弱い魔物や動物だ。恐らく一定以上の魔力耐性があると操れないのだろう。


「美味しいの霧のお陰。なら霧が沢山あればもっと美味しくなる?」


 フィーのその発言は極めて単純な思考ながら試してみる価値があるものだった。もし霧桃に出した霧の吸収能力なんかがあれば、実自体が持つ魔力はもっと上がるかもしれない。


「風魔法がなにかで濃い霧で実を覆えば出来そうだな。アン行けるか?」 


「はいそれくれないなら簡単です。試しに1つやってみますね」


 アンは静かに詠唱し、風の流れを操る。やわらかい風が渦を巻き、周囲に漂う霧がゆっくりと幹や実を包み込むように集められていく。目に見えて霧が濃くなり、やがてそれらは一番地面の近くにある実へと収束していく。


「上手くいけばこれで美味しくなるかも。しばらく待ってもう一度採ってみよう」


 しばらく木の下で息を潜めて待つ。その間にもフィーだけでなくアンも落ち着かないように木の周りをうろうろしている。


「そろそろいいでしょうか。」


 アンの合図で霧の中に手を突っ込み再び実を採る。よく観察すると魔法を使った直後は実が見えないほど濃かった霧が今は薄っすら見えるまでになっている。どうやら期待通り霧桃には出しすぎた霧を吸収する能力もあるようだ。


 採取した実にフラフラと引き寄せられるアン。通常時の実であの状態だったのだ。これをアンに食べさせるとおはだけしてしまうかもしれない。安全な場所ならともかく外でそれは困るのでアンの額に手を置いて動きを止めながらフィーに投げ渡す。実を受け取ったフィーはアンの羨ましそうな目線も気にせず大口をあけてかぶりつく。


「……凄い!さっきよりずっとあまい!お肉よりこっちがいい!」


 なんとお肉大臣のフィーがそれより上と言うとは。アンが食べていたら一体どうなっていのか。少なくともここで食べさせるのは少し怖い。

 俺たちは残りの実も丁寧に霧を集めてから収穫した。その後採れたての霧桃をバックに入れ慎重に山道を戻る。途中魔物の襲撃も何度かあったが既に採取済みということもあり霧が晴れるのを恐れる必要がないアンの魔法が炸裂してあっさい撃退できた。


 日が傾きはじめた頃ようやく元の洞窟に戻る。アトゥはクローネを尻尾に載せてお手玉のように空中になげてあやしていた。クローネが尻尾に落ちるたびに地面に衝撃が走り、遠くからでもその揺れが感じられるくらいだった。


「おお、帰ってきたか。どうじゃ霧桃は見つかったか?」


「はい。すごく美味しかったです」


 アンが笑顔で答えた。アトゥの顔が期待で輝く。


「おまけに、取り方を工夫したらもっと美味しくなったんですよ」


 俺が霧桃を差し出すとアトゥは興味津々で人の姿に変身し実を手に取る。


「ほう……確かに以前我が食べ物より魔力が格段に濃いな。これが味の秘訣か?」


 アトゥが一口かじると目を見開きしばらく固まった。


「……これは……我が昔食べたものより遥かに旨いぞ! 数百年生きて来たがこれほどうまい物はそうそう出会えん! いくらでも食べれてしまうわ」 


 アトゥは取ってきた実の半分近くを食べるとようやく落ち着き、アンから霧を集めて採る方法を教えてもらった。


「うむうむ……なるほど、魔力の濃度と霧の量か。よもやあの桃にそんな生態があるとは。よくぞ気づいたのう」


「私たちも貴重な体験が出来ました。色々な本を読んできたつもりですが、世の中にはまだまだ見つかってない不思議な存在があるんですね」


「いくら長生きしても新しい出会いというものは絶えぬものじゃ。それと……これほどの果実とその採取方法まで教えてくれたのじゃ。山菜の知識はもちろんだが追加報酬を何かやらねばならぬな。しかし一体何を渡せば見合うものか」


 多くの知識や財宝を持っているはずのアトゥが見合う対価をすぐには思いつかないほど悩む。どうやらクエストの追加報酬は豪華なものが期待できそうだ。 

キルタイムコミュニケーションでコミカライズ版を連載中です。下記のリンクから無料で読めるので是非読んでいってください。


https://kimicomi.com/series/4f10e89e24978

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ