第44話 ドラゴンクエスト~幻の果物~②
長らく更新が滞ってしまい申し訳ございません。最終話まで投稿済みのため久しぶりに読んで頂けると幸いです。
前回までのあらすじ
エルフの里を襲うドラゴンの撃退を依頼されたキョウヤ、アン、フィーの3人はアトゥ(ドラゴン)が子供の病気を救うためエルフの秘薬を欲しがっていることを知る。
同じくドラゴンの討伐を依頼された勇者である長谷川たちに事情を説明して説得しようとするが突如長谷川が暴走。魔物は一匹残さず殺すと暴れだしたためキョウヤ達3人と残りの勇者パーティーで協力してなんとか長谷川を気絶させた。
その後聖女である飯田と協力してドラゴンの娘であるクローネを病気から救い、そのお礼としてキョウヤ達3人はしばらくアトゥに修業を付けてもらうことになった。
修業により力をつけていくキョウヤ達。しかしドラゴンとの生活は肉食が中心であり、偶には野菜が食べたくなったキョウヤ達は、アトゥの果物を取ってきてほしいという依頼を聞く代わりに山菜の知識を貰う約束をしたのであった。
「まず目的の果物だが霧桃という。最も我が勝手に名前を付けて呼んでいるだけだがな」
「霧桃って、普通の桃と違うんですか?」
名前に霧が入っているのだ。何か霧が関係しているのだろうが、一体どんな果物なのか。
「うむ、全く違うぞ。まず、実の色が薄紅色で、普通の桃より二回りほど大きい。だが何より特徴的なのは、その味よ……人の姿で初めて口にしたとき、その濃厚さと、体の芯に染みわたるような甘さに思わず涙が出たほどじゃ」
「そこまで……!」
「じゅるり。フィー、早く食べたい!」
さっきまで肉に夢中だったフィーがアトゥの食レポに目を輝かせる。しかし数百年生きるアトゥが泣くほどうまいとは。複数個取れたら是非とも味わってみたい。
「できれば味だけではなく、名前の由来も教えてもらえるか」
「おおすまんすまん。名前の由来は霧桃が生っている場所と採取条件じゃ。山の北東、谷底に霧が立ち込めた場所がある。ほんの数歩先すら見えぬし、足元もおぼつかない。その中のどこかに霧桃はある」
それはまた難儀な話だ。霧が立ち込めているということは風魔法を使って吹き飛ばせばよさそうだが、さっきの話ぶりからするとそこまで単純じゃなさそうだ。
「むう。霧はジメジメするから嫌い」
「私の魔法で吹き飛ばしてはダメですか?」
「それがこの桃の難しさよ。初めて霧桃を見つけた時は気まぐれで人化して散歩をしていたのだ。その味が忘れられず、数日後にまた食べたくなって今度は元の姿で飛んで行ったのじゃ。わざわざ歩くのは面倒での」
確かに谷底になっているなら人間の足ではかなり面倒だろう。中身はドラゴンなのだから実際の人間が行くよりは簡単だろうが、元の姿で行くのが一番楽なのは間違いない。
「その様子だと上手く行かなかったのか」
「その通り。翼で霧を晴らして霧桃を見つけた我は以前食べた味を思い出しながら食べた。しかしこれがなんということか。先日の天にも昇るような味とは比べられないほど不味かったのだ。その後も色々試してみたが、どうやら霧を晴らしてしまうと味が一気に落ちるらしくてのぉ。そうするとわざわざ歩き回って探すのも面倒でしばらく食べておらんのだ」
それはまた難儀な果物だ。しかしアトゥが俺たちに依頼するのもうなずける。俺は一度、深く息を吐き出した。
「霧に包まれて、姿も見えない中での探索か。これはいつもの冒険より厄介そうだな」
「でも、面白そうじゃないですか。霧を晴らすと味が落ちる桃なんて初めて聞きました」
アンが微笑みながら言う。霧の中を探索するという面倒くささよりも未知の果物への興味が勝ったらしい。その表情からは彼女らしい好奇心がうかがえた。
「フィー、鼻には自信ある。きっと見つける! そしたら一杯食べれる!!」
「じゃあ異論もないようだし準備して出発するか」
「無理はしないようにのぉ。もし道に迷ったら霧を晴らしてしまってもよい。味が戻るのに数か月はかかるじゃろうが」
アトゥは最後に気遣ってくれたがその様子はどう見ても霧を晴らさず霧桃を手に入れてほしそうだった。
――
俺たちは身支度を整え、山道を北東へと進んだ。山の空気は澄んでいるが、進むにつれて次第に湿度を帯びてきた。やがて、谷に差し掛かる手前で、明らかに周囲と違う、白くもやのかかった空間が広がっているのが分かった。
「……ここから先、かなり霧が濃いですね」
「ムゥ。何も見えない」
フィーが慎重に足を踏み出す。
歩き出してすぐ、俺たちはすっかり霧の中に飲み込まれた。隣にいるはずのアンやフィーの姿も、ぼんやりと輪郭が分かる程度。地面もぬかるみ始め、木の根や岩が見えにくい。
「油断するな。魔物や動物がいないとも限らない」
俺が声をかけると、それがフラグだったのかフィーが何かに気付く。
「……何かくる。こっち、近い!」
次の瞬間、低いうなり声が響き、灰色のオオカミが霧の中から飛び出した。フィーが素早く前に立ち、鋭い蹴りで一匹をはじき飛ばす。俺も剣を抜き、すぐ後ろに回り込んだ狼を切り伏せた。
だが、これで終わりではない。霧の奥からはさらに複数の足音。今度は魔物ではないただの鹿が突進してくる。おまけにそれに合わせるように後ろから猪型の魔物が突進してくる。
「アン、後ろから来る!」
俺が叫ぶと、アンがすかさず土魔法で地面を隆起。ただ壁を作るだけではなくカーブさせることで猪の進行方向をコントロールする。目の前に横っ腹をさらしたところを俺が仕留め、フィーは横から迫った狼を蹴り飛ばす。
一連の動きを見て俺たちが一筋縄でいかない敵だと理解したのか遠巻きに囲むように待機する魔物や動物たち。
「魔物だけならともかく動物までもあんなに連携を取るなんておかしいですね」
「ああ。おまけに気配からしてまだまだ控えてそうだぞ」
「フィー、まだまだ戦える!」
「それは頼もしいがこのままだとジリ貧だな……」
アンの魔法でまとめて吹き飛ばせないのが痛い。この霧の中だと五感も鈍るし、何より敵の気配をすべて察知するのが難しい。更に魔物や動物は何故か連携して襲ってくると来た。
「こんな面倒な敵がいるなら事前に言っておいて欲しいが」
「アトゥさんからしたらこの程度障害にもならないんじゃないですか」
俺が恨み言を漏らすとアンから鋭い意見が出る。確かにアトゥならこの程度虫を払うのと同じ感覚で蹴散らせるか。いずれにせよ何らかの対策を取らないと霧桃を持って帰るのは厳しいかもしれない。
「とにかくこいつらがおかしいのは確かだ。二人とも何か気づいたことは」
「魔物たちではないですがこの霧、魔力を含んでいます。これが彼らに何か影響を与えているのかもしれません」
「あいつら全員同じ方向から来た!」
魔力を含んだ霧に、不自然に同じ方向からくる魔物と動物。その方向に何かあるのは明らかだが果たして鬼が出るか蛇が出るか。
「フィー、どっちの方向から来たかはまだわかるか」
「……あっち。奥からニオイも強いし、敵もたくさん来る」
試しにフィーが指し示す方向に進んでいくとますます襲撃が激しくなる。単純に数が多くなったのではなく、明らかに俺たちの歩みを止めようとしている。試しにいくらか戻ってみると今度は勢いが弱くなる。
「どうもこの方向に来てほしくない何かがあるみたいですね」
「不自然に行動を共にする複数の動物と魔物。そいつらが来てほしくない方向。そっちに進むとこの事態の元凶がいるのが鉄板ではあるな」
俺の脳裏に、ダーウィンが来る!で見たアリとアカシアの共生関係の話が浮かんだ。アカシアの木は幹に蜜腺を持ち特定のアリを誘い寄せる。そのアリは蜜を食べる代わりに、外敵がくると集団で撃退する。つまり植物が動物を利用して自分を守らせているって仕組みだ。
「もしかしたら……この霧桃も同じかもしれない。誘因効果がある霧を出して魔物や動物を引き寄せ、実を守らせてるんじゃないか?」
「それなら……一番魔物が多くて激しく攻撃される方向に霧桃の木があるはずですね」
「よし、2人とも。危険だけどそっちに進むぞ。フィーお前の感覚が頼りだ。気合入れてくれ」
「任せて! フィー美味しい桃食べる!!」
俺たちは再びフィーの感覚に従い前進を始めた。しばらく進むと、敵の数も種類も増えていった。狼、鹿、イノシシだけではなく大量の群れで襲ってくるウサギや足に絡みつく蛇。かなりバラエティにとんだ面々だ。
一体一体は弱いが濃霧という不利な環境で徐々に体力が削られていく。やがて息を切らしながらも俺たちは明らかに空気の密度が違う場所にたどり着いた。霧はさらに濃くなり触れれば指先にしっとりまとわりつくほどだ。
「見てください。あそこに木があります」
アンが指をさす先、白いベールの向こうに、どっしりとした大木が浮かび上がった。枝にはいくつもの薄紅色の実――霧桃がまるで夢の中の幻のように揺れていた。
「着いたな……!」
「すごい……あんなに幻想的な果物は初めて見ました」
「フィー、お腹空いた……はやく食べたい!」
俺たちは慎重に大木へと歩み寄った。霧桃の実はただの果物ではないとは思えないほど独特の気配と魔力を感じさせていた。
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