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第3話 破壊

 前線で戦う村人たち。構成員は青年から壮年までの村の男衆だ。彼らにまともな武器はなく、クワや鎌、あるいは野菜を吊るす(玉ねぎみたいに風通しの良い場所に保管する工夫)ための棒といった農具を手にして戦う。

 そして防具はない。農作業の服装そのままだ。もしあったとて、装備している時間があるかというと、甚だ疑問であるが。

 とにかく、これが村人の精一杯である。だが冷静に考えると、戦闘集団としては、いささか武装がお粗末だと言わざるを得ない。


「うおおお!」


「畜生めえええ!」


「やってやる! やってるぞおおお!」


 相手はゴブリン20匹。

 1人の強盗にも立ち向かうのが難しい民間人にとって、絶望的な相手である。

 村人たちはヤケクソだった。やらなければやられる。家族を守ろうとする気持ちが、かろうじて逃げ出さずに戦う道を選ばせている。


「ファイヤーボール!」


 ちゅどーん!

 魔法が炸裂して、ゴブリンが数匹まとめて吹き飛んだ。


「わはははは! どんどん来い! まだまだ若いもんには負けん!」


 祖父は元冒険者として、村人たちの士気を保つために余裕を演出した。

 祖父は「戦意を失う」というのが最も恐ろしいことだと知っている。気力を失った者は、もはや体力や魔力の残量に関係なく、動けなくなってしまうのだ。「諦める」という字は「帝の言葉」と書く。それほど絶対的に作用してしまう。


「いよっ! さすが元冒険者!」


「引退しても強いなぁ!」


「俺たちも負けちゃいられねえ!」


 軽口を叩き、笑いながら、忙しく手を動かす村人たち。

 彼らだって分かっている。実際にはそれほど余裕はない。ゴブリンにナイフの一撃でも貰えば簡単に死んでしまう。だが、緊張をほぐそうとする祖父の意図を汲んで、あえて調子よく振る舞う。

 ほんのわずかな余裕が、ギリギリ保っている戦意をなんとか延長させていた。

 しかし状況はまるで逆――祖父の魔法が行き届かない所から順に、徐々に押し込まれ、神父の回復魔法が間に合わなくなっていく。



 ◇



「……そうだ! これがあった!」


 残りの魔力は結界1発分。

 どうすれば1発でゴブリンの群を殲滅できるか考えたベクター。良案を思いつき、実行するために前線へ出ようとするが、母親がそれを許さない。


「待ちなさい! どこへ行くつもりなの!?」


「ゴブリンの群を一掃する方法があるんだよ!」


「嘘おっしゃい! 危ないからここに居なさい!」


「嘘じゃないって! 空気を抜けば奴らはいっぺんに倒れるんだ!」


「何わけのわからない事いってるの!

 誰もがそんな簡単に英雄になれるわけじゃないのよ!?」


「違うから! 畜生め、教育水準の低さよ……!」


 息子を守ろうとする母親と、母親を含む村人全員を守ろうとする息子の言い合いは平行線。1発でゴブリンの群を殲滅できると言われても信じられないのは周囲の村人たちも同じで、しかし本当だったら助かるという希望も感じていたために、誰も何も言えなかった。


「ミーナ! ケビン!」


 そこへ青年が駆け込んできて、妻子を連れて行こうとする。

 どうしたのか尋ねる妻に対して、青年は言う。


「オーガが出た。勝ち目がないから逃げる」


 恐慌状態になる女子供たち。


「旦那はどうなったの!?」


 詰め寄る妻たちの中で、青年と母親はたまたま目が合う。


「あんたの旦那は死んだよ」


「嘘……!」


「行くぞ、ミーナ、ケビン!」


「嘘よ! 嘘よおおおおおおお!」


 顔を伏せて泣きわめく母親を捨て置き、ベクターは飛び出す。

 祖父がベクターを見つけて「来てはいかん」と警告するが、ベクターは構わず最後の結界を放つ。


「食らえ!」


 それは空気を遮断する結界で、魔物の群の中央で膨張していく。

 結界により空気が押し出され、内部は完全な真空になる。空気圧で結界には1平方メートルあたり10トンもの力がかかる。

 真空になって息を吸えなくなった魔物たちが混乱した直後、とてつもない衝撃が四方八方から襲ってきた。


 ――パチン!


 ベクターが指を鳴らして結界を解除する。

 抵抗になるものが何も無い真空の領域へ、一気に空気が流れ込んだ。それは暴風などという生易しいものではなく、破壊的な衝撃波だった。巨大な空気のハンマーが、四方八方から魔物の群を殴りつける。

 魔物たちは吹き飛び、砕け散り、地面もろとも爆散した。あとに残ったのは、無惨な肉片と、大きなクレーターだけである。この「惨場」に血痕はない。血液なんていう軽いものは、みんな吹き飛んでしまったからだ。



 ◇



「嘘だろ……!? ゴブリンもオーガも……すげえ!」


「死んだ? 本当に……? 畜生め、なんて坊主だ!」


「助かった! 生きてるぞ! 畜生、とんでもねえ! 英雄だぜ!」


 大戦果を上げたベクターに、前線の男たちが惜しみない賞賛を贈る。


「「ベクター! ベクター! ベクター!」」


 胴上げされながら凱旋したベクターを見て、母親は自分の咎に気づいた。

 もしさっさと行かせていたら旦那は死ななかったかもしれない。

 だが。だが、しかし。果たして未成年の我が子を戦場へ「どうぞ行ってその辣腕を奮ってきなさい」と送り出せる母親など、どこに居るのか。

 100%正しいことをした結果、100%間違った結果を招いた。いったい誰を恨めばいいのか分からない。ただ慟哭だけが心を締め付け、引き裂いていく。


「――っあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 気が狂ったような絶叫が、男たちの勝利の雄叫びをかき消した。

読んでくれてありがとうございます。

楽しんでいただけたら幸いです。

★とかブクマとか感想とか頂けると嬉しくて夜しか眠れなくなります。

(;`・д・´)押すなよ!? 絶対に押すなよ!?

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