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第2話 竜血

 小さなドラゴンは痛みに耐えながら、何者かに保護されていることを感じ取った。

 血液が抜けていく。これは良くないことだ。このままでは死んでしまう。地上最強の生物であるドラゴンは、血肉すべてが強力な霊薬だ。我が身を強化せんと欲して、あらゆる魔物が血の匂いに誘われて襲ってくるだろう。

 ゆえに、保護されたとて安易に「これで助かった」などとは思わなかった。死ぬなら己1人で死ねばいい。小さなドラゴンは己を保護しようとする者の手の中から逃れるべく、必死にもがいた。


「おい、暴れるな! 痛いかもしらんが治しにいく途中なんだぞ」


 暴れても逃れるほどのパワーは発揮できず、いっそう強く抱きしめられてしまう。

 どうやら諦めるしかなさそうだ。向けられた厚意に、背を向けるばかりが相手のためではない。傷を癒してもらってから今度は己がこの少年を庇護するという報い方もある。

 ならばひとまず身を委ねよう。今すぐの危険はなさそうだ。

 どうやらアレも、追いかけてくる様子はない。



 ◇



 祖父はちびドラゴンに回復魔法をかけた。


「クー!」


 ちびドラゴンはたちまち元気になり、翼を広げて元気に鳴いた。

 すると腹の虫もクーと鳴った。


「クー……」


 恥ずかしいのか申し訳ないのか、ちびドラゴンがうつむく。

 ベクターは祖父のすすめでドラゴンに餌を与えることにした。


「餌って……爺ちゃん、ドラゴンって何食べるの?

 角が生えるのは草食動物の特徴だけど、牙や爪もあるから肉食なのかな?」


「そうなのか? 牛、鹿、山羊……狼、熊、虎……ふむ。なるほど、角は草食動物ばかりじゃな。ベク坊は賢いのう。

 ……あれ? 鬼って草食なのかのぅ……? まあよいわ。

 ドラゴンが何を食べるかはわしにも分からんが、わからんときは色々試してみるのがよかろう」


「じゃあ、とりあえず肉と野菜を出してみようよ。どっちかには反応するんじゃない?」


 ちびドラゴンは両方食べた。

 満腹になったちびドラゴンは、ベクターのほうへ飛んで左肩に乗った。


「重いよ。こっちへ……おい、ちょっと……!」


 抱きかかえようとすると嫌がって逃げる様子がみられたが、左肩に留まろうとする様子もみられ、どうやらベクターの左肩を定位置と定めたようだ。


「ほっほっほっ。気に入られたようじゃな、ベク坊」


「もう……仕方ないなぁ」



 ◇



 家に帰って両親に報告すると、自分で世話するように言われたが、飼うことは許された。

 ただし、自分から出ていったり、親のドラゴンが迎えに来たときは、お別れすること。ベクターと両親は、そのように約束した。


「さて、それじゃあ、お前の名前はクーだ」


「クー!」


「よしよし、お前も気に入ったか、クー」


 クーと鳴くからクー。単純な名付けである。

 その日、夜中に目を覚ましたベクターは、トイレに向かった。下水道がないのでトイレは外にあり、小規模なポットン式――肥溜め直結型だ。

 ガラスがなくて木製の跳ね上げ式の窓は夜には閉じられ、照明器具の類はLEDや蛍光灯どころかランプやロウソクもない(消してから寝る)ので、普段は暗がりの中を注意深く進まねばならないが、今夜は月明かりが差し込み、とても明るく、見上げた夜空には満月が出ていた。


「……うん?」


 視線を感じて振り向くと、見たこともない美女が立っていた。

 じっとベクターを見ている。


 ――なんて綺麗な人だろう。


 声も出せずにいると美女が言った。


「ありがとう」


 何が?

 尋ねようとした矢先、雲が月を隠し、美女はスーッと幽霊のように消えてしまった。


「……今のは……?」


 周囲をキョロキョロ見回すと、思わぬものを見つけた。

 炎の明かりだ。かなり大きい。夜の闇にまぎれてハッキリ見えないが、あのあたりは……。


 ドオン!


 爆発音が轟く。火炎がいっそう大きくなり、周囲をはっきりと照らし出した。

 ベクターは父親のもとへ走った。


「父ちゃん! 爺ちゃんの家が火事だ!」


 飛び起きた父親が駆け出す。

 母親はベクターとともに残った。

 間もなく近所のおばさんが訪れた。


「ゴブリンの群が襲ってきたみたいだよ! 今あんたンとこの爺さんと旦那たちが戦ってる! 女子供は教会に避難して!」


 母親がベクターを抱えて走り出した。


「クーは!?」


「後にしなさい!」


 取るものもとりあえず、着の身着のままの避難だった。

 だが母親がベクターだけは抱えて逃げねばと思うように、ベクターはクーだけは連れて逃げねばという衝動に駆られていた。子供にだって「自分が保護者である」という感情は存在するものだ。

 だが中身は大人のベクターは、無理に母親の手の中から逃げ出そうとはしなかった。代わりに結界魔法を2発。


「……結界!」


 最初の1発は、何も防げない防御力ゼロのポンコツ性能だ。ただし、ゴム風船のようにぐんぐん拡大する。

 防ぐべき何かが結界に触れたが、防げずに通過した、という「情報」だけを拾っていく。


「……見つけた!」


 それによってクーの位置を探知したベクターは、次の結界でクーを包んだ。今度は強固に、何物も通さないように。

 ベクターの魔力量は、1日に結界4発が限度。それ以外のろくに使えない魔法は消耗もほとんどないが、結界はまともに使える分、消耗も大きい。

 今日は昼間に2度使って、少し眠ったので1発分が回復し、今また2度使ったので、残り1発である。

読んでくれてありがとうございます。

楽しんでいただけたら幸いです。

★とかブクマとか感想とか頂けると嬉しくて夜しか眠れなくなります。

(;`・д・´)押すなよ!? 絶対に押すなよ!?

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