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第24話 日常

 呪いから魔力を分離する試みは失敗し、魔力は失われ、ついでにスミスの工房も吹き飛んだ。

 ベクターとクリスは、別のドラゴンを捕食することで魔力を強化しようと考え、工房を失ったスミスはそれに同行してドラゴンの財宝で工房を再建しようと強引に仲間になった。

 問題は「別のドラゴン」がどこにいるか?


「ドラゴン討伐の依頼ですか? 今は入っていませんが……いえ、目撃情報なども特には……」


 とりあえず最大の情報網を持つ冒険者ギルドに相談したが、ダメだった。

 依頼が入っていないばかりか目撃情報もないとなると、国内には居ないのだろう。


「よう、ベクター。ドラゴンを探してるのか? そういえば前に連れてたちびドラゴンが居ないな?」


 声をかけてきたのは「真鍮の蝙蝠」の4人だった。

 戦士・斥候・魔術師・神官の4人組で、相変わらず元気にやっているようだ。


「おお、また会ったな。元気そうで何よりだ。

 クーなら呪いが解けて、この通りだ。探してるのは別のドラゴンだよ。

 あと、こっちはダークドワーフのスミスだ」


「クリスよ。もう空は飛べないし、火も吐けないわ。今は剣士なの」


 クリス――ちびドラゴンだったクーに目をつけたのは「真鍮の蝙蝠」だった。空を飛べてベクターと意思の疎通もできているのを見て取った彼らは、クーに上空からの偵察を期待して街道周辺の魔物討伐という依頼に2人を誘った。

 だが今のクリスは人間で、空も飛べず、ブレスも吐けない。剣士としてAランクの実力を持っているが、人間に戻って日が浅く、8年間のブランクがある状態だ。


「スミスじゃ。顔を見せない無礼は勘弁してくれ。儂らダークドワーフが普段生活している地底と比べると、この地上は空気が薄くて寒すぎる上に眩しいのじゃ」


 フード付きロングコートにサングラスとマスク。完全に不審者である。だがロングコートには気圧耐性、サングラスには眩目耐性、マスクには低酸素耐性の呪いが付与されている。ちなみに「眩目げんもく」は眩しくて目がくらむことで、目眩めまいではない。

 ダークドワーフの地下帝国は、気圧が地上の3倍、気温は80度以上。それに溶岩しか光源がないので薄暗い。ダークドワーフの目はその環境に適応しているので暗くてもよく見え、松明やランプなどは必要ないし、後述の理由で禁止されている。

 地下帝国は溶岩の熱によって自然に換気されるが、その溶岩自体が酸素を消費する。毒ガスも出る。だが、それらの問題は木質化した巨大キノコが解決している。森林のように生えたあれらは、地上の植物が二酸化炭素を酸素に変えるように、毒ガスを吸い込んで酸素を吐き出す。松明やランプが禁止されているのは、燃料がそれしかないのに伐採したら酸素供給量が不足して死ぬからだ。


「そうか。呪いが解けたのか。おめでとう。

 ……俺達、不躾に撫でたりしてないよな? してたらごめん」


「してないから大丈夫よ」


「それならよかった。

 スミスさんもよろしく。ダークドワーフってのは普通のドワーフとは違うのか」


「違うぞ。ダークエルフとエルフくらい違う。

 まあ背が低くて筋肉質でヒゲが自慢なのは同じじゃがな」


「あと酒が好きなのもな」


「うむ。酒は生命の源じゃ」


 ベクターが茶化すも、スミスは真剣に言い切った。

 処置なし、と肩をすくめるしかない。


「それで? ドラゴンの情報でもあるのか?」


「詳しいことは知らん。

 でも酒場にいた吟遊詩人が、聞いたこと無いドラゴンの話を歌ってたぞ」


「マジか。よし行こう」


「初めて出会ったときから、あなた達にはずっと情報を貰ってばかりね」


「そうだな。今度、酒でも奢るよ」


「おい儂にも飲ませろ」


「スミスには贈ったばかりだろ」


「それはそれ、これはこれじゃ。

 せっかく地上に出てきたんじゃから、浴びるほど飲まねば損じゃ」


「どんだけ飲むつもりだよ……。

 じゃあ飲むのは止めないから、その代わりドラゴンの素材で新しい装備を作ってくれ」


「おお、任せておけ。腕によりをかけて作ってやるわい」


 言い合うベクターとスミス。

 それを微笑ましく見ているクリス。ベクターが孤独でないのはクリスにとって歓迎すべき状況だ。

 一方で「真鍮の蝙蝠」の4人は呆然としていた。


「なんちゅう会話だ……」


 ドラゴンの素材は、人間には加工できない。頑丈すぎるからだ。人間レベルの威力では剣も魔法も通じない相手なのだから当然である。

 ドワーフならあるいは……と「推測」するだけだ。しかし素材自体が希少なので、実際どうなのか確かめる手段がないし、倒せない相手の素材なんて議論する意味もない。

 そんなドラゴンの素材と加工を「ちょっと珍しいだけの素材」扱いする2人。


「これがAランクか……」

読んでくれてありがとうございます。

楽しんでいただけたら幸いです。

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