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第13話 呪詛

 ロングホーン山の山頂に陣取ったまま、雪景色の中でベクターとクーはドラゴンを食べていた。結界による圧力鍋の再現で、ドラゴン肉のローストを作っては食べ、作っては食べ。シロナガスクジラに匹敵するサイズのドラゴンは、食べるのに時間がかかる。

 ドラゴンの血肉には、魔力や肉体を強化する効果がある。塗り薬でももう少し時間がかかるだろうに、血を浴びるだけで強化される即効性は、つまりそれだけ吸収が早いということ。食べても食べても満腹にならない。そして食べれば食べるほど魔力や肉体が強化されていく。

 そろそろベクターは「人間」の枠をはみ出していた。

 そのベクターは半分ほどドラゴンを平らげたところで「うーん」とうなりながら腕を組む。


「クー。お前、全然もとに戻らないねぇ」


「クー……」


 悩むベクターに、しょんぼり頭を垂れるクー。

 かつての最高位冒険者であり、ドラゴンに挑んで敗れ、呪われてちびドラゴンの姿になってしまったクー。その元凶たるドラゴンを倒したというのに、いくら待ってもクーの姿はもとに戻らなかった。

 倒した魔物の素材には、生前の魔力が宿って特別な効果を発揮するが、クーもそのような状態なのだ。ドラゴンを倒しても、その魔力はクーから抜けていかず、ちびドラゴンの姿のままなのだ。


「今度は解呪の方法を探さなきゃいけないのか」


 満月の美女を探す旅は、新しい段階に入った。

 倒したドラゴンの肉を食べながら、ベクターは解呪の方法を探す決意を固める。大変そうだし諦めようか、なんて選択肢は最初から無い。だが手間暇かけて死にかけたあげく呪いは解けなかったという徒労感に、ほんの一息、気合を入れ直す必要があった。

 目的を口にした瞬間、ベクターはすでに「やるかどうか」ではなく「どうやってやるか」に思考を切り替えている。


「しかし、どこから探したものか……なあ、クー?」


「クー……?」


 聞かれても分からないので、クーも首をかしげるばかりだ。

 困りながらも、やがてドラゴンを完食。シロナガスクジラほどもあった巨体は、すっかり骨と鱗だけになった。残った素材は、武具にでも加工するか、売ればいいだろう。

 強化された今の咬合力なら噛み砕いて食べられるが、食べても美味しくないので食べない。煮込んで出汁を取れば竜骨ラーメンとか作れるかもしれないが、今のベクターは金欠だ。ロック鳥の素材を売ったお金はダウンジャケットになって、そのダウンジャケットもドラゴンのブレスに燃やされて失った。

 他に得たものといえば人間用の剣を拾ったが、ベクターに剣術の心得はない。クーが執着を見せたのでクーの剣なのだろう。とはいえ、ちびドラゴンの姿では剣など握れない。いつかクーが人間の姿に戻ったときのため、ひとまず冒険者としてハッタリを効かせるためだけに腰へ差しておく。


「……食うものも食ったし、とりあえず素材を売りに行くか。

 ついでに冒険者ギルドに相談してみよう」


 分からない時は、誰かに聞く。

 この手に限る。

 ベクターは気圧と気温を保つ結界を維持したまま、クーとともにヘリコプターのように飛んで街へ戻るのだった。



 ◇



「てことで、ロングホーン山のドラゴンを討伐したら8年前に行方不明になった最高位冒険者がちびドラゴンになって俺の左肩にいたことが分かったんで、とりあえずドラゴンの骨と鱗を売りたいんだが」


「待って待って、待ってください。情報量が多い」


 受付嬢はこめかみに手を当てた。

 それから順番にひとつずつ説明したらもう1度ずつひっくり返るほど驚かれた。


「ドラゴンを単独討伐!? あの人がやって以来の快挙……えっ? あの人は討伐できてなかったんですか!?」


「あの人がドラゴンになってた!? それがこの……え? じゃあ私の言葉も理解していらっしゃる??? 筆談とか……ああ、ペンを持てないんですね。手の構造的に」


「ドラゴンの骨と鱗を売るぅ!? もったいないですよ! 武具に仕立てて……いっぱいある? ア、ソウデスカ……」


 ぷしゅー。

 とうとう受付嬢は頭から煙を出し始めた。


「てことで、支部長の私が直接話を聞こう」


「かくかくしかじかで」


「ええっ!? ドラゴンを単独討伐!?」


「そういうの、もういいから」


 未曾有の売上を叩き出すチャンスに、冒険者ギルドは総力を上げた。資金が足りずに八方手を尽くした末、なんとかドラゴンの骨と鱗を買い取り、あわせてドラゴン討伐の功績を称えてベクターをAランクに認定した。


「実力的にはSランクだが、今回は条件に合わない。Aランクで我慢してくれ」


 Sランクに認定するには国を救った実績と、国王からの推薦が必要だ。今回は王国を襲うドラゴンを討伐したという図式ではなく、単にドラゴンの巣を強襲したという図式なので、実績と推薦がない。


「Aランクで我慢……なんというパワーワード」


「クー……」


 ベクターもクーも、呆れて乾いた笑いが出てしまった。


「しかし、不可解ですね。

 冒険者ギルドは民間企業なのに、その内部の人事考課に国王の推薦が必要なんですか?」


 首をかしげるベクター。


「民間企業だからこそだ」


 支部長は語る。

 国家に対して中立を宣言する国際組織なんてものは、民間だろうと公立だろうと、この封建社会では認められない。よく言えば地域密着型。悪く言えば政治との癒着がある。

 同じ「冒険者ギルド」という組織でありながら、A国とB国の支部がそれぞれ戦争参加を要求されて冒険者同士で殺し合うなんて事も、可能性としてはあり得るのだという。ただし実際にそうなったら、国境封鎖が始まる前に冒険者たちはみんな逃げ出すだろう。

 疑問が解決したところで、ベクターは本題に戻る。


「ところで、ドラゴンの素材を加工できる職人はいますか?

 それと、クーの呪いを解く方法を知りたいんですが、心当たりはありますか?」


「この街にそこまで腕の立つ職人はいない。剣も魔法も通用しないドラゴンの鱗を、どうやって加工するんだ? 適当な大きさに切り分けるのだって不可能だろう。できるとしたら、ドワーフだろうな。人間にはない秘密の加工技術でなんとかしちまうかもしれん。

 呪いのほうも心当たりというほどのものはない。教会に相談したほうがいいだろう。まあ、それでもドラゴンの呪いなんて解けるかどうか分からんがな」


 ドワーフに心当たりはないので、とりあえず教会へ。


「神の奇跡に不可能はありません。神の奇跡とは、原因を無視して結果だけを与えるものだからです。神が『光あれ』とおっしゃったから、炎も雷もないところに日の光が生まれたのですよ。

 しかし神の奇跡が与えられるかどうかは、祈る人間次第です。残念ながら、私では手に負えませんが、本部の高位神官ならあるいは……」


 教会本部は外国にある。というより、教会本部がひとつの国なのだ。中立を宣言した民間組織――その不可能を実現した唯一の例外だ。国家として樹立しているので民間組織と呼んでいいのかは疑問だが。

 問題は距離だ。地球と違って飛行機も自動車もないこの世界で、外国という距離は事実上、到達不可能と言えるほどの障害だ。しかし、そこにも唯一の例外がある。ベクターの結界は、ヘリコプターのように空を高速で飛べる。


「だったら行くしかないな」


「クー!」


 次の目的地は決まった。

 クーも乗り気だ。

 道すがらドワーフの情報も得られるかもしれない。

読んでくれてありがとうございます。

楽しんでいただけたら幸いです。

★とかブクマとか感想とか頂けると嬉しくて夜しか眠れなくなります。

(;`・д・´)押すなよ!? 絶対に押すなよ!?

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