6_後始末
俺はレイスの消滅を見届けた後、暗くなっている自身の気分を切り替える。
そして現状とこれからの事について考えの整理を始めた。
まずは、この世界でも魔法やモンスターが存在していることが確認できた。
何かの間違いであって欲しいと祈っていたのだが現実は厳しかった。
そしてそれはああいった存在が隠蔽されているということも分かった。
アンデットは厄介事しか起こさないので、発生すれば必ず事件沙汰になるだろう。
これだけインターネットの情報網やスマホなどのカメラが大量にある現代で、そういった情報が一切表に出ていないのは、それだけ強大な何かが強固に隠蔽しているからだと思う。
現にこの世界で15年生きてきた俺でも、アンデットが存在するなど夢にも思わなかった。
2つ目はあの女子高生魔術師の発動した攻撃魔法についてだ。
魔法がこの世界にも存在していることは理解できたが、彼女の魔術の威力はとんでもないものだ。
俺の知っている限りだと中級魔術師の火球に匹敵する威力だろう。
彼女は15歳程度の年齢で、すでに熟練した魔術師なのだろうか?
それとも魔術で年をごまかしている若作りしているのか?
“昔”、俺が知り合った女魔術師は人族だったにもかかわらず、その年齢は200歳を越えていたし、容貌はどうみても20代後半ぐらいだった。
賢者魔術といわれる系統の魔術を極めると寿命を伸ばすことすら不可能ではなく、それにくらべて容貌を若返らせることなどは容易なことだったのだ。
しかしこの現代日本は戸籍制度があり、ある程度ならともかく大きく年齢をごまかすことは難しいはずだ。
大体いい年をした女性が高校生の制服を着て生活するのはつらいだろう(しかもよりによって似合わないギャル風)。
そこまでして高校生活を送る必要があるのだろうか?
まてまて、彼女の件はとりあえず置いておいてまずは浜川を癒さないといけない。
俺は倒れている浜川に向かって走り出す。
すると女子高生魔術師が戦闘の興奮が戻らないのか、真っ赤な顔をして俺について来た。
「あなたはいったい何者だ?どの組織に属しているのだ?」
「何者だといわれても同級生だ。所属組織は1年B組」
女性と会話をするのは苦手なため、端的にしか答えられない俺。
あれ?もしかしてクラスメートとして認識されてない?
もしそうなら非常に悲しいので、いじめまがいの質問はやめてもらいたいのだが・・・。
本当に泣くよ?俺。
「そ、そうではない!わかっていて惚けているのか?」
彼女は俺の返答に怒ったようだ。赤い顔のまま拗ねるような顔をして俺を睨んでいる。
拗ねた顔も非常に綺麗で可愛らしいとか反則だろう。
できればずっと見ていたいところだが、やるべきことがある。
彼女から視線をそらし、浜川の傍に座りこみ容体を確認する。
胸に大きな傷が複雑に入っていてここから出血しているようだが、傷は思ったよりは浅いな。
これなら問題はない。
俺は浜川の体に触れ、精神を集中する。
普段省いている魔法の詠唱も効果を安定させるために行う。
「死と豊穣を司る偉大なる女神よ
その大いなる慈悲をもって、今ここに御業を顕したまえ」
「癒し」
俺が触れている場所から白い光が広がり、浜川を包み込んでいく。
そして胸にある傷がみるみるふさがり、青白かった顔色も赤さを取り戻していく。
完全に傷がふさがったことを確認して俺は魔法を止める。
ふと見てみると隣で女子高生魔術師がぽかんと口を開けて俺を見ている。
美しい女性に見つめられるという人生初めての経験をした俺は、美人に見つめられるというのはこんなくすぐったい気持ちになるんだなぁと考えていたが、イケメントリオの寺崎がいないことに気が付いた。
「寺崎はどこだ?ここから逃げ切れたのか?」
「寺崎君は、もう・・・」
女子高生魔術師の表情が悲しげなものになり部屋の中央を指す。
彼女が指した方を見ると、崩れた社らしき物の陰に寺崎が倒れているのに気が付いた。
寺崎は血だまりの中に倒れていた。すぐに近寄り容体を確認する。
体をおこすと、顔からは血の気がなく、呼吸が非常に早くなっている。
また寺崎から出ている白いオーラが今にも消えそうになっていて危険な兆候だ。
これは癒しでは助からない。
「残念だが彼はもう・・・。流した血の量が多すぎた。自分の無力さが嫌になる」
彼女は目を潤ませながら寺崎を見つめている。
その言葉を聞きながら俺はあの魔法を行使できれば寺崎を救えるのではないかと考えていた。
あれはこの世界では行使した事はない上、他の魔法と違いかなり特殊なので発動しない可能性も十分にある。
それに出来れば手元に置いておきたい強力な札なのだ。
しかし救えるかもしれない者を見捨てるのは“昔”の俺が許してくれない。
俺は、“昔”の俺は今の俺とは違う人物であると割り切って今の人生を生きている。
俺は大地母神神官ではなく、一般的な日本人として今を生きているのだから。
だが長い間生きた“昔”の性格や経験は今の俺に影響を与えているし、“昔”の俺が許せないものは今の俺も許せないことがほとんどだ。
そういったことからも寺崎を見捨てることは出来ないのだ。
俺はあの魔法を行使することを決め、大地母神様とのリンクを再確認する。
“昔”の俺は人生のすべてをあのお方に仕えるために捧げた。
そして今になっても大地母神様と俺との繋がりはなぜか絶たれていない。
俺は慈悲深く、そして邪悪には容赦のないあの遠い地におわす偉大なる女神に、大いなる奇跡を希う。
「コエト デルマ エイア ヒルヌ
ガルト ミシア ジアジ ブヌエ
バガク フデワ クコオ ニシア
ソムチ アデシ エザジ オフス」
本来通常の神官魔法であれば会話で使用する言語で魔法を行使することができる。
しかしこの魔法は特殊なため、神々が使用している神階語で詠唱しなければならない。
神階語は解読できておらず、俺が唱えた呪文もどういう意味なのかわからない。
しかしこの魔法の名前だけは大地母神様の御神託によりわかっている。
この魔法を説明するときに大地母神様はこういったのだ。これは私の杖であると。
「大地母神の杖」
寺崎に黄色の光が集まりだし、光の中に大地母神様の聖印が浮かび上がると寺崎の体はまるで時間が巻き戻ったかのように傷が消え、顔色も赤みを帯び、苦しそうだった呼吸もゆっくりしたものになっていた。
魔法の行使に成功したことに安堵のため息をつきながら俺は座り込んだ。
一度に大量の魔力を消耗したので、立っているのが苦しくなったのだ。
大地母神様の上位系統に位置しているこの魔法は、対象者を1週間前の0時の状態を戻すことができる特殊で強力な魔法だ。
当然ながら制限があり、まず対象は生きている必要がある。
そしてこの魔法は、対象を1週間前の体に戻すことが目的なので、1週間前にすでにかかっていた病気、怪我が回復することはない。
そしてこの魔法は、大地母神様のご神託をもらい使用の許可を得る必要がある。一度使用すると次回の許可のご神託をいただくまでこの魔法の再使用ができなくなる。そして再使用ができるようになるまでの期間は、大地母神様のお考え次第だ。
ちなみに俺が“以前”、この魔法を行使した際は次回に使用できるようになるまで9年ほど掛かった。
女子高生魔術師は寺崎の体を触って容体を確認していたが、命に別条がないことがわかると安堵したのかその場に座り込み一筋の涙をこぼした。
(やはりイケメンとなればこんな美人に心配してもらえた上に泣いてもらえるんだ。机の中の藁人形の使用先は寺崎で決まりか?)
モテるイケメンリア充は痛い目にあえばいいよね?
俺はそんなことを考えながら、この洞窟と部屋を清める作業を始めた。




